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サイラス様は唐揚げ串をはむはむと頬張る私をそれはそれは愛おしい瞳で見つめていた。
へへっ。シャカシャカして食べるポテトもあるんだ。
ぱくっ。
うんまぁ! 私これ、だーい好き!
しかもだよ、この後はデザートにプリンまで控えてるんだからもう、涙がちょちょ切れちゃうよ。
サイラス様はにっこにこに微笑んで、もしゃもしゃと頬張る私から一瞬だって視線を外さない。ちょっとだけ落ち着かない気もするけれど、美味しい物は美味しい。
私は唐揚げ串につくね串、フランクフルトにナゲット、ポテト、を綺麗に完食し、プリンも三個食べて食事を終えた。
「きゅぁ~」
美味しかったぁ~。
食べ終えて、満腹のお腹を抱えて丸まる私の頭をサイラス様が撫でる。
ふふふっ。サイラス様の大きなおててで撫でられるのが大好き。スリスリとサイラス様に頭を寄せてもっともっとと強請って見せる。
「ももかは撫でられるのが好きなようだな」
ふふふ。確かにサイラス様のナデナデは大好き。だけど優しくて頼もしいサイラス様自身がもっと大好き。
「きゅっ!」
あ、やんっ!
ナデナデは大好きだけど、満腹てんてんのお腹は撫でちゃいやぁよ。
ころりんっとサイラス様に背中を向けた。
「……ぽってりお腹とて可愛いのだが残念だ」
うん? 今のはちょっと聞き捨てならないぞ?
「さて、我もいつまでもこうしていたいのは山々だが、ももか、陽が高く暖かい内に体を洗ってしまおう」
あ、そっか。お日様が少し斜めってきたもんね。
人化したサイラス様に私の声は届かない。だけどサイラス様の声はちゃんと分かる。
「きゅあぁ」
なにからなにまで、ほんと頭が下がります。だけどやっぱり自分じゃ背中が洗えないから、お願いします。
幼体の私はほんとうに一から十まで、生活の全てをサイラス様に頼ってる。とは言え、サイラス様がそれを面倒に思っている節はまるでなく、それがせめてもの救いだった。
はっきり言って、トカゲの体じゃ何にも出来ない。背中が痒くたって掻く事だって出来ない。
幼体から成体になれば人化が出来るらしいのだけど、それならいつ私は成体になれるのかと問えば、サイラス様は目を泳がせた。
そもそも歴代の龍王妃は皆、幼体でも人化が出来たらしい。
人化が出来ないほんものの幼体(?)で生まれた事自体が初めてで、私の成長に関してはまるっきりの未知数だそうだ。もっとも、私はそもそもの色(属性)からして、謎のままでもある。
とほほ……。
「さて、石鹸だが……フレッシュミントとフラワーブーケと二種類あるぞ? ももかはどちらの香りが好みぞ?」
「きゅあ!」
ミントー!
かぷっとフレッシュミントの石鹸に噛みついて、ぺっぺっ! 石鹸ってマズいよぉ~。
「はははっ! ももかは可愛いな」
サイラス様の大きな手が私の頭をナデナデする。その手つきはとっても優しくて、見上げたサイラス様の水色の瞳はとっても優しく私を見下ろしている。
ころころ。……トカゲって、気持ちがいいと喉が鳴るらしい。これはサイラス様に気持ちいいナデナデをされて発見した。
サイラス様は私とフレッシュミントの石鹸をヒョイっと持ち上げると、川底が透けて見える澄みきった清流に向かった。
とっても澄んでいるから、ここはさっきみたいに鏡代わりにもしてる。日本では絶対に見られないとーっても、とーっても綺麗な川だ。
「きゅあぁ、きゅーあっ」
きゃははははっ! くすぐったい、くすぐったいの!
「これももか、大人しくするんだ。きちんと洗えぬだろう?」
サイラス様は丁寧に私の体中を洗う。それはもう、あんなところやこんなところも容赦がない。
だけど慣れって恐いよね。最初は綺麗すぎるサイラス様の美貌に慄いた。だけど今は、恐い位のキレッキレの美貌も優しく温かく感じてる。
「ほれももか、水を掛けるぞ?」
サイラス様への想いは、今はもう空想への憧れなんかじゃない。共に過ごす中で知るその人と成りに、私はサイラス様という一人の男性に恋い焦がれてる。
私がぎゅっと目を瞑るのを確認して、サイラス様が上からザッパーンっと水を掛ける。
ぶるぶるぶるっっと首を振らせて水気を払う。
ふふんっ、サッパリしたんだぁ!
「きゅあっ」
ひと鳴きお礼に嘶いて、私は大空に飛び立った。ピコピコと翼をはためかせ、よたよたの速度で浮上する。
さて、おもちゃみたいに頼りない翼だけど、せっかくあるんだ。あるならば、どこまでだって飛んでいくという野望を実現されるために、飛行練習をするんだ。
わしっ!!
えっ!?
「ももかだーめーだ。きちんと体を拭いてから、だ!」
きゃんっ!
飛び立った筈の私は、いとも簡単にサイラス様に尾っぽを掴まれて地上に逆戻りした。そして柔らかな布でわしわしと全身を拭われた。
「きゅあきゅぁ」
くすぐったい、くすぐったーい!
「じっとするんだ」
そんな事言ったって、くすぐったいものはくすぐったいのー!