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イカ焼きでしょ、ホットドッグに、あ、クレープもある。

ん? あれは……ヒィッ! トカゲ肉の串焼き!!

だめっ! 今のは見なかった事にするの! 

見間違い! 今のは私の見間違い!! ……ふぅ、念じ続ければなんとか記憶の彼方に追いやる事に成功した。

改めて見渡す美味しそうな露店がいっぱい立ち並ぶ朝のマーケット。右を向いても左を向いてもいい匂い。

「きゅあきゅあ!」

あ! あれ、美味しそう!

その中の一軒に、私はキラリと瞳を輝かせた。

「……あたしの財布を空っぽにするつもりかい? ……仕方ないね、お兄さんそれを二つおくれよ」

やったぁ~。

楽しいな、嬉しいな、それにとっても美味しそう。

「ほれ、溢すんでないよ?」

「きゅあ」

はーい。

おばあさんから受け取ったのはホカホカと湯気を立てるケバブ。

香ばしく焼き上がったそれは、サイラス様に食べさせてもらったお肉とよく似た匂いがした。もっともサイラス様の焼いたお肉は焦げ焦げで、食べられたのは焦げを除いたほんのちょっぴりだったけど。

ピタパンと一緒に齧り付く。じゅわっと溢れる肉汁と香るスパイス。

う、うっまぁ~!

サイラス様! 龍の国はもうすぐです! だけど今、とっても美味しいところなので、もうちょっと待ってて下さいね!

「……お嬢ちゃん、あんたちょっと太ったかい? 毎日見てるとアレだけどこうして改めて見ると……うむ! こりゃ太ったね!」

えっ!?

美味しいケバブを食べきって、名残惜しく両のおててをペロペロしてた。

そこにまさかの爆弾投下。

「きゅ、きゅああ!」

う、うそ!? 夢の中でもダイエットって必要なの!? 夢の中くらい食べても食べてもスレンダーなミラクルボディなんじゃないのー!?

「全く、阿呆なことお言いじゃないよ。お好み焼き、カツサンド、ワッフル、チョコバナナと、このケバブを食べる前にだってあれっだけ食ってるんだ。そりゃあ太りもするさ」

ぐすん。

だってさ、だってさ、どれもこれも美味しそうで、事実とっても美味しいんだもの。

見下ろすおなか。あれ?? 前は確か、でっぱったおなか越しにも前脚の先っちょが見えた。

……見えなくなってる。おかしいぞ? ちょっと深めに首を下げて、……やっぱり前脚は見えなかった。

ひ、ひぃぃぃぃぃぃっっ! ダ、ダイエット! ダイエットしないとサイラス様に会えないよ!

「おや? そのアップルパイが焼きたてなのかい? それじゃ折角だから一切れもらおうかね」

うん? 待てよ? おばあさんって、まるっきり私と同じだけ食べてるよね!?

ガバッと振り返ったおばあさんは、受け取ったアップルパイに大口で齧り付いていた。その腹回りは棒きれみたいに細っこかった。

……夢の中でも色々と不公平はあるんだね。

「いやぁ美味かった美味かった~。お嬢ちゃんもアップルパイを食うかい?」

項垂れたまま、ゆるゆると首を横に振った。

「きゅ」

おばあさん、口の横にパイのかすが付いてるよ。

「あら、やだよ」

おばあさんは満足気に口周りを拭う。そして再び物色を始めたおばあさんを残し、私は足早にマーケットを抜けた。

見ると目に毒。

しょんぼりと肩を落とし、マーケットの出口でおばあさんを待った。





人の国と龍の国の国境に設置された関所。

そこには長蛇の列が出来ていた。

一方で並ばずにスイスイと通過していく人もいた。

「きゅ?」

どうしてどうして? 並ばない人って狡くない?

「よくごらんよ? スイスイと通過していく奴らってのは皆、何か共通点がないかい?」

うん? 

おばあさんに言われ、ジーッと観察。

まず、颯爽と通り抜けてきた一人目はツヤッツヤの黒髪に深い碧の瞳をした美青年。

次に通り抜けてきた二人目はキラッキラの金髪に煌く深紅の瞳の美少年。

三人目はサラッサラの銀髪に透き通る水色の瞳の美貌の女性。

わあっ!

偶然にもこちらに首を巡らせた美女と視線がぶつかった。私を見て美女は目を瞠り、次の瞬間には薄く微笑んだ。しかし綺麗すぎる故にか、それは凍てつく氷のような微笑。私は背筋が凍った。

美女は直ぐに視線を外して行ってしまったけれど、私はしばらくバクバクと鼓動を刻んでいた。

ふ、ふぅぅぅ。綺麗すぎるって罪だぁ。

ちなみに行列に並ぶ人達は、……こぞって平平凡凡。

「……きゅ」

世知辛いね。だけど分かった。

人は行列を並んで待って、別嬪な龍の人達はスイスイと両国の行き来ができる。

一見では不平等に見える。けれど人と龍には見た目以上に身体能力に差があって、そうすれば必然的に龍の国が豊か。

龍の国に流れたい人は多く、入国には厳密な審査が必要になる。

……だけどあれ? おばあさんは龍なのに並ぶんだね。あ、私もか。

「ははっ。あたしゃ龍としちゃ古参過ぎるからね、身分を明かすと騒がしくっていけないのさ」

なるほど! 私も最初に目覚めた時の失礼な人達がこぞってお迎えに来たりしちゃ嫌だもんね。

ゴロ、ゴロゴロゴロ。キュルルルル~。

わ、わわわっ!

お腹ぐるぐるしてきちゃった! ト、トイレしたいっ!

「きゅーあっ、きゅーあっ!」

おばあさん私トイレ! ちょっと木陰でいたしてすぐ戻るから、このまま並んで待ってて!

「えっ!? ちょっ、お待ちよ……って、もういやしない。よっぽど切羽詰まっていたのかね。全く困った子だよ」

うえ~ん! お腹ぎゅるぎゅる!




いい感じの木陰でお花を摘んで、摘みまくって、私は意気揚々と木の陰から飛び出した。

おばあさん待たせちゃったな。

足早に列に向かって走った。行列はかなり進んでいた。

てってってっ。

あ、おばあさんあそこ。


ガシッ!


「ッッッ!?」

けれどなんとか見つけたおばあさんの元に辿り着く直前、私は乱暴に口を塞がれてそのまま意識を失ってしまった。




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