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トラブルメーカー&トラブルシューター  作者: zzz
【始まりの案件】
8/9

第8話

 




 風を切る――。



 びゅうびゅうと風の悲鳴を聞きながら足に力を込めて踏み切る。



 身体は宙を舞い、先へ、先へ、と進む。



 早く、早く、もっと速く、背後の影に追い付かれないようにエルザは王都の空を駆け抜ける――





 *



 ザナドがヴォルティスを放り出してどれくらいの時間が経ったのか。カチコチと時を刻む時計の音を聞きながらセイ皇子とキラウエア卿は落ち着かない様子でソファーに身を沈めていた。



 淹れ直して貰った紅茶からは香しい香りが漂うが、先程の光景を見た後だと手を付けるのもどうしてか幅かれる。



 だが、キラウエア卿は居住まいを正してザナドを見つめた。

 それはずっと胸にある疑問の答えが欲しくて。



「あの、すまないが一つ質問を良いだろうか?」

「ん?俺が答えられるものでしたらどうぞ?」



 組んでいた腕を解きテーブルのお茶菓子を取りながらザナドは答える。



「先程、貴殿に見せたカードについてなのだが」

「……それについては答えられます。だが、他言無用だと言うことは理解して欲しいですね」

「分かった」



 慎重に答えるザナドを見てキラウエア卿も真剣な表情で頷く。

 それに隣に座っていただけのセイ皇子も緊張感漂う空気に居住まいを正した。


「……正直、その名刺を渡された時は半信半疑だったのだが、貴殿の様子を鑑みるとそれはそこまで効力を持つのか?」

「疑問も最もでしょうね。これは基本的にこのゼルギア王国のみで発行しているものです。対象は我が冒険者ギルド本部の中でも高位の冒険者……ランクで言えばC級以上の冒険者のみに発行しています」

「なんとっ」



 キラウエア卿が驚きに絶句する。それもそうだろう。まだ若い、否幼いと言っても過言ではない少女のエルザが冒険者ギルドの総本山――冒険者ギルド本部の冒険者の中でも腕利きの精鋭中の精鋭と言っているとも過言ではないのだから。


 ――冒険者ギルド本部のランク分けは類を見ないほどに厳しいことで有名だ。

 他支部から本部に所属を移すとランクが下がることは至って普通のことで、他支部ではSランクの英雄と謳われる最高位ランクですら本部所属になればその実力によって格下のCやB級ランクに落される事など日常茶飯事だった。

 だが、それ故に完璧な実力主義のランク分けは本部所属というブランドを確固たるものにしているのだ。


 その中で告げられる情報。

 名刺の意味。

 それは幾度ともなく修羅場を潜り抜けたキラウエア卿を絶句させた。



「彼女は一体――?」


 何者だ?と言葉にならない問い掛けにザナドは肩を竦める。



「アイツ――エルザに関しては特例とはなっていますが実力はこちらも保証しますよ。たぶん商人ギルドのドルも言ったと思いますが……」

「確かに……」

「この名刺は渡した相手の後ろ盾を担う意味もあります。所持者によっては王族への謁見も可能です。後は……そうですねぇ、色々あり過ぎるので省きますが、大まかに説明すると依頼の融通は勿論、貴族等への口利き、機密情報の開示、所持者――この場合はエルザですが、彼女が使える権力、又は特典の利用ですね」

「そこまで……」


 後ろ盾の重要性は俺が言わずとも重々承知でしょう。とザナドは肩を竦める。

 貴族であればこそ。その意味は重く、理解は深まる。



「所持者が有名であればある程このカードの効力の幅は広がります。それ故に渡す相手の選別も厳しくなるので余り出回らず渡された相手もその意味をきちんと理解する相手ですので無闇矢鱈に情報を広める事も無いんですよ」

「成程」


 だからこそ希少性があり、情報も秘匿される。



「一応このカードは使い捨て、まぁ一回きりしか使えないものですがね」

「……彼女のランクは?」

「アイツには正式にランクは付いていません。だが、暫定とすれば今はC級上位かB級低位と言った所でしょうね」



 キラウエア卿は何度目かの絶句に口を閉じる。



 冒険者ギルド本部でのB級といえば他支部ではAやS級ランクでもおかしくない。

 そんな実力を有しているのがまだ幼い子供だというのが信じられない。



「冒険者ギルドは安全面などを考慮して登録は8歳からと規定されていますが、エルザともう一人は特例として我が国――ゼルギア王国国王からの推薦もあり登録はしています。しかしランク分けはしていないってのが現状です。我々冒険者は強さこそが何よりの証明です。正直そこに年齢は関係ないんですよ」



 だからこそ、実力を持つものは本部への所属を希望する。

 明確な実力のランク分けは、上を目指すものにとって自分の実力が分かる手段であり、力を誇示する者にとってはそのランクこそが自らの強さである証明だからだ。




 机に置かれたままのカードを見つめ何か考えているキラウエア卿を見ながら、ザナドはチラリと窓を横目で見た。

 猛スピードで本部に近付く気配を感じ、それが馴染み深いものであるのを理解し少しだけ笑みに口元を弛ませる。



「さて、どうやら本人が来たみたいですね」

「え?」

「む?」


 ソファーから立ち上がりヴォルティスを放り出した窓に近付く。


 少しだけ開けたままだった窓を全開にして横にずれたザナド。



 そして――部屋に一陣の風が入り込む。




 ヒュゥゥウ――――ダンっ!



「っ勝ったぁぁあ!!」



「「!?」」



 セイ皇子とキラウエア卿が驚きに瞠目する。



「イルに勝った!」

「っくそ!負けた……」


 肩で息をしながら窓を振り向くのは赤茶の髪を振り乱し空色の瞳を輝かせる少女――エルザだった。



 くそ、と悪態を吐くのは銀髪に片目を黒い眼帯で覆う少年――イリアス。

 窓枠に足を掛け部屋に入り込むがイリアスも息が切れており疲れたように座り込んだ。



「お前ら、ちゃんと扉から入って来いよ」

「ザナドさんに言われたくなぃー」

「はぁはぁ、同感」


 ザナドが年上らしく苦言を呈すがヴォルティスを窓から放り出したザナドには言われたくなかった。




「つーか、エルザに速さで勝てるはずねぇだろ」

「うるさい、ですよ」

「でも今日はマジで危なかったぁ」



 まだ幼いながらも冒険者として抜きん出た力を有するエルザは特に身体能力が高かった。

 駆ける速さは風の如く。その速さで勝てるのは数多いる冒険者の中でも片手で数えられるほどしかいない。



 全力疾走をしてきた二人はまだ整わぬ息を吐きながらザナドを見上げる。


 突然の乱入者に動く事も出来ず固まるセイ皇子とキラウエア卿。


 だが、その見覚えのある少女にセイ皇子の表情が変わった。



「キミは……」

「え?」



 それはセイ皇子がこの国に訪れたばかりの時。

 運悪く路地裏でごろつきに絡まれている時に、助けてくれた少女が目の前に居た……。





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