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トラブルメーカー&トラブルシューター  作者: zzz
【始まりの案件】
7/9

第7話

 



 ――それは豪華でありながら物々しい武器が飾られたとある一室。



 黒革のソファーセットには大柄な男性と、それに比べれば小柄な姿が肩身狭そうに並んで座っていた。


 その対面には威圧感が物々しい一人の男性。

 捲られた腕には大きな傷跡。睨んでいるような目付きの悪い三白眼に頬には縦に切り裂かれた傷跡が目を引く。

 どう見ても盗賊や海賊の頭領に見える極悪人面の男だが、こう見えて由緒ある家の出で何より犯罪者とは真反対の地位に付いていた。


 男の名は《ザナド・ウェーバー》

 冒険者ギルド王都東支部――通称ギルド本部のギルド長を勤めており、そして数多ある冒険者ギルドを束ねる冒険者達の長。


 ザナドは対面に座る二人を見て腕を組む。


 そもそも、こうして二人を迎えているのはザナドが望んだことでは無かった。面倒事を押し付けやがって、と隣の建物に数分前に帰った男を思い出し内心舌打ちをする。


 応接セットの机の上には温かそうに湯気を立ち上らせる紅茶。



 それを手も付けずに微動だにしない二人を不躾な目で眺めながらザナドは数時間前の記憶を思い出す――事は商人ギルドのギルド長たる男に呼び出された事から始まった……。




 *



「おい、人をいきなり呼びつけてなんなんだよ」

「流石に今回の件は私の手には負えなくてね」

「ああ?お前がか?珍しい事もあるもんだな」



 突然の受付からの呼び出しにザナドが出向けば、そこには商人ギルド王都支部長である《ミズガルズ・フィーディー》が太々しい態度で応接室のソファに座っていた。


 お世辞にもスマートとは言えぬふくよかな体形に短い金の髪は後ろに撫で付けられ、口髭は上品に整えられており清潔感を感じられる。


 銀細工の芸術品もかくやと言わんばかりの見事な片眼鏡を片目に掛けていたが、それが魔道具である事を知っているのは実は少ない。

 黒の上下のスーツはぱりっと糊がきいており、その服を彩るボタンは金で出来ており見た目は裕福な紳士の商人といったところか。

 互いに長い付き合いの為、遠慮は無い。


 秘書の監視の元、苦手な書類仕事に飽き飽きしていた事もあり、ある意味ではナイスタイミングとは思っていたが、まさか想像以上の面倒事を運んで来るとは、ザナドはその時、思ってもみなかった。


 フィーディーの対面の椅子には小奇麗な恰好の青年。その横には明らかに百戦錬磨の猛者とも言える風貌の男。

 ぱっと見は良いところの坊ちゃんとその護衛といったところか。


 ザナドは自分の見た目に驚いている様子が分かったがそれを無視してフィーディーを見据える。勿論、視線では面倒事は御免だと伝えながら。

 しかしそんな険しい視線もなんのその、フーディーは勝手知ったるギルドの応接室に自分こそが主だと言わんばかりに堂々と紅茶に舌鼓を打ちその香りに感嘆の息を吐く。


「いやぁ、やはりミリーナ嬢の淹れる紅茶は私の知る中でも一番美味しいと思うよ」

「あら、光栄ですわ」


 ころころとおかしそうに笑うエルフの受付嬢。部屋の隅に控えていた彼女はポットを乗せたワゴンを押しザナドと入れ違いに部屋を退出していった。



「さて、時間も余り無いので本題に入らせてもらうよ」

「はぁ、面倒くさい事しか感じねぇなぁ」



 ミリーナが居なくなったと同時に応接室に展開される結界。簡単な結界は部屋の中の音を遮断するためのもの。

 それが無事に張り終えた事を確認しザナドも席に着く。



「単刀直入に言えば、今これがギルドにはあるかい?」

「ああ?――んだコレ。ある筈ねぇだろ」


 さっと机を滑らせて渡された一枚の紙。

 一体何なのか、リスト形式に記された物の名前の羅列にザナドはその表情を呆れたものへと変えた。


 それは一般には、幻だの伝説だのと言われるはずの稀少中の稀少な薬草の名前ばかり。

 これの一つでもあれば巨万の富が築かれてもおかしくない。


 勿論、採取の場所、条件、全てが高難易度のもの。これを得るために過去、どれだけの命が失われたか。

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりのザナドに青年が席を立つ。



「そんな!これがどうしても必要なんです!」

「そう言われてもなぁ」


 知るか、と一蹴したい所だが……そういえば、とついさっき聞いた情報を思い出す。



「おい、フィーディー。お前王城に呼び出し受けたんだってな」

「ああ、そうだ」

「まさか……この件に関して、とか言わねぇよな?」

「おお、ザナド。君にしては頭を使ったね?」

「おい、馬鹿にしてんのか?」

「いやいや、君はどうしても息子君に比べれば脳筋だろ?」

「……否定はしねぇが」



 自他共に息子を溺愛しているザナド。

 自分が貶されているのは十分すぎるほど理解したが、それでも息子の事を出されると言葉が詰まる。


「そういえば、彼は今日どうしてるんだい?」

「ああ?アイツは今日は北の森に行くっつってたな」

「ほう、それはなんとも……タイミングが良いのか悪いのか」

「あ?」



 今朝、息子から告げられた予定を思い出しザナドは顔を顰める。まだ幼い息子をこんな面倒事に巻き込むのだけはしたく無い。

 だが、商人ギルド長が王城に呼び出された。という一大ニュースは至る所で話されている。


「たぶん、アイツの事だからさっさと向かってると思うぞ」

「そうだろうね」


 冒険者ギルド長が王城に呼び出しを受けることはまま、ある。

 それは魔物魔獣駆除や近隣の盗賊討伐、護衛依頼など、国に根付いている冒険者ギルドだからこそ国との情報の擦り合わせや互いの領分を侵さぬように線引きを明確にするためなど、理由には事欠かない。そして時には国から依頼が為されるために定期的にザナドは王城に召喚されている。


 だが、話が商人ギルド長になればその比重は異なる。

 余程王城に招かれた客人などが我儘を言わない限り、商人ギルドの長が出向くことは無い。

 それが今回は呼び出しを受けた。その重大さを知る者は一体何があったのだ。と騒いでいるのだ。


「まぁ、ザナドの言う通り今回の件での呼び出しだよ。さて、改めてご紹介をしようか――」

「聞きたくねぇ」

「おい」


 人の言葉をぶった切って拒否する男についフィーディーの言葉も荒くなる。

 だが気を取り直してフィーディーは青年をザナドに紹介する。



「こちらにいらっしゃるのがベディヴィア帝国の第5皇子のセイ皇子。そのお隣がリグル・キラウエア卿だ」



 名を呼ばれたと同時に軽く会釈する青年――セイ皇子。日に焼けた褐色の肌に小麦色の髪、明るい緑色の瞳は少し不安に揺れていた。

 その隣の男性――キラウエア卿。ザナドに勝るとも劣らない強面の顔の眉間に皺を寄せこちらも軽く会釈をする。


 ベディヴィア帝国はゼルギア王国からは二つも国向こうの国であり国交はそう多くは無い。

 現在は帝位継承争いの真っ最中という情報もある。


 そんな国の王族が何故?そんな疑問が浮かぶが、ザナドは姿勢を正しても態度は崩さなかった。

 そもそもザナドは冒険者を束ねるギルドの頂点。その影響力は計り知れず、例え他国の王族と言えどその立場は対等でもあった。


 常に中立を保つ冒険者ギルド。どの争いにも手を貸さず、手を出さず。ただ救いを求める者だけには手を差し出す。

 戦争には加担する事は無い。だが戦争の被害に遭った人々には支援の手を差し出す。

 そんなギルドを束ねる頂点は例え王族だといえど頭を垂れる事はしない。


 それが、綿々と引き継がれてきた冒険者ギルドの長たる誇りであるし、何より中立を表す態度でもある。




「それで?」



 ザナドは二人の挨拶に軽く会釈するだけで返礼をしフーディーに話の続きを促す。



「まぁ、これは内密だけどどうやらお二人の大切なお方が病に倒れたらしいんだよ」

「ふーん、皇太子が呪いに掛けられたのか」



 そんなフーディーの言葉に何でもないようにザナドは真実を口にした。

 ガタッと席を立つ二人の客人を一瞥する。



「なっ、何で」

「何故知っている!?」


「ああ?そりゃあここがどこだか知って、言ってるんですかねぇ?」



 ザナドはふてぶてしく告げる。

 ここは冒険者ギルドの総本山。冒険者ギルド本部。

 世界各国の有りとあらゆる情報が集まり、依頼によってはその情報を得るため冒険者達に仕事を斡旋する場所。


 それに加え、先程のリストを見ただけでも何の為に必要な材料か位はフーディーに脳まで筋肉――脳筋と言われたザナドでも理解出来る。

 それを何故?と、鼻で二人を笑うザナドにフーディーは溜め息を吐いた。



「ザナド、折角濁したんだからそこはもう少し穏便にしてくれ」

「だとしても、このリストを見て分かる奴は分かる。今更だろ」

「だとしても、だ」



 やれやれと肩を落とすフーディー。



「それで?残念ながらこのリストに載ってる材料は残念ながら冒険者ギルドにも無い。探すとしても長期依頼とさせて頂くが?」

「っ、どれくらいの期間が掛かりますか?」

「早くて三年。それでもこの中の一つだけ、って感じですかね」



 冒険者は慈善事業者ではない。

 そこには確かな金銭と損得の思惑が混じり合う。

 依頼をすればそこに得を見出した人間が受けるだろう。しかし依頼の為に命を懸けて探したとしても幻と呼ばれる薬草を見付けられる者はその中の一握り。それが現実だ。

 逆にこのリストならば受ける人間が皆無の可能性の方が高い。

 王族からということを公表しても、だ。名指しで依頼を出しても受ける受けないは冒険者自身の選択に任せている。



 ザナドは一瞬脳裏に過った二人の子供を考えるが様々な理由と個人的な感情に却下を下す。



「そんな!そんな時間など無いんです!」

「それはそちらの都合。此方としてはこれを集めるなど不可能としか言えんな」


 必死な様子セイ皇子にザナドは現実を突き付ける。



 絶望の表情で椅子に倒れ込む彼を冷たく見据え、フーディーは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの表情。

 だが、冷静にそのやり取りを見つめていたキラウエア卿が懐から取り出した一枚の名刺を見てザナドの表情は一変した。



「これを……」

「ああ?それは……どこでこれをっ!」



 手渡された名刺を見てザナドの雰囲気が変わる。

 ビリっと肌を刺す空気。それは殺気と怒気が混じり合ったものだった。


 眦を吊り上げキラウエア卿を見据えるザナドにフーディーは少しだけ強張った表情で告げる。



「彼女本人が渡したそうだよ。ドムが見ていた」

「あんの馬鹿がっ」



 商人ギルドの職員の名前にザナドが吐き捨てる。


 それは商人ギルドで出逢った少女――エルザがキラウエア卿に渡した名刺だった。

 その意味と考えにザナドは頭を抱えたい気持ちにかられる。だが、そうならばこれは失礼だとザナドは殺気を消した。



「はぁ、――失礼をした。今までの態度と発言、詫びよう」



 深い溜め息を吐き、がらりと変わるザナドの態度。

 ふてぶてしかった態度は正され、ザナドは冒険者としてではなく、その長としての威厳をもって二人に頭を下げた。



 その変わりように信じられないと眼を丸くする二人を横目にザナドはフーディーを睨む。



「お前、これを知ってたな?」

「だからこそ、私もここに来たんだよ」



 でなければ、自分の所でこの話は断っていた。とフーディーは告げる。



 その名刺の意味。その名刺を渡した意味を知っているからこそ。ドムから話を聞いてフーディーは二人をここ、冒険者ギルド本部へと連れて来た。



「ったく、アイツにも困ったもんだ。何でこうも厄介事を引き寄せるかねぇ」

「あの子があの子だからこそじゃないかい?」



 違いない、とザナドとフーディーは同じ思いに仕方なさそうに息を吐く。



「貴殿が、これの意味を知っているとは思いませんが……これを出されちゃこの話、断るわけにもいかない」

「えっ、ならば!」

「ええ、貴殿の依頼。確かに冒険者ギルドが責任を持って承けましょう」



 喜色を浮かべるセイ皇子にザナドが重く言葉を吐く。

 その手にはいつの間に握られた一つのベル。澄んだ音を立てて鳴らされたベルにフーディーは重い腰を上げた。



「さて、これからは私の領分では無いのでこれにて」

「後で覚えとけよ」

「おお、怖い怖い。ではあの子達に宜しくな。また余った素材があったら高く買い取ると伝えておいてくれ」



 ザナドの言葉に恐ろしいと肩を竦めるフーディーは手早く荷物を纏める。


「あ、あの!有り難う御座いました」

「いえいえ、殿下のお力になれたのならば光栄ですとも。それでは、私はこれにて。御前失礼させて頂きます」



 王族でありながら低姿勢のセイ皇子にフーディーは頭を下げて部屋を出ていく。

 それと入れ替えに部屋へと入る一人の若い男。



「失礼します!お呼びですか本部長」

「おう!来たかヴォルティス」



 ヴォルティスと呼ばれた一人の青年。

 誰もが平凡と言うような至って普通の青年は冒険者ギルド職員の制服に身を包み、ザナド達の前に現れた。



 誰?と首を傾げる客人を横目にザナドはよっこらしょ、と年寄りくさいことを言いながら席を立つ。

 それに怪訝な表情を浮かべる青年。


 だが、嫌な予感がしたのか少しだけ引きつった表情で後退りをするが、背後は部屋のドア。

 しかもつい先程、閉まったばかり。



「ほ、本部長?」

「ヴォルティス、お前にお願いというか、命令なんだがなぁ」

「あ、あの、何でこっち来るんですか?何でそんな笑顔なんですか!?」

「ちょっくら、エルザとイリアスを捕まえて来い」

「え、無理――」



 追い詰められた獲物のように怯える青年の襟首を掴む。


 そしてザナドは青年の言葉を無視して彼を――窓から放り投げた。




「えええぇぇぇえ!!!!!」




 開いた窓から青年の悲鳴が聞こえる。



「は?」

「え?えぇ!!?」



 キラウエア卿とセイ皇子が目撃した暴挙に席を立った。

 慌てて窓へと駆け寄るセイ皇子。その隣に並んだザナドは階下に向かって叫んだ。



「あいつらならたぶんもう北門にいるだろうから、時間との勝負だぞ!」

「だからって窓から放り投げる奴がいますか!!」



 本部長の馬鹿ぁぁあ!!と叫び声を上げながらギルドから北に向けて駆けていく一つの影。



「あ、あれは……」

「獣人だったのか」



 焦げ茶の髪と同色の耳。風を切る尻尾もまた同じ色の犬の顔。

 ヴォルティス青年は犬の獣人だった。しかも冒険者ギルド職員の中では足の早さはピカ一。それだけ逃げ足が早いとも揶揄されるが本人はその逃げ足を誇りに思っていた。――まさかそのせいでこんな厄介事を頼まれるとは思いもしなかったが。


 ヴォルティスを外に投げた本人のザナドは良い仕事をした。と言わんばかりに晴れやかな表情。



 窓からその姿を見ていた二人はポカンとした表情を隠すこと無く唖然と小さくなっていく姿を見送った。




「さて、あいつが件の依頼を受ける奴らを呼んでくるのでそれまでお待ち下さい」



 そう言ってザナドは二人を席へと促したのだった。






 そして冒頭の場面へと時間は戻る――
















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