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トラブルメーカー&トラブルシューター  作者: zzz
【始まりの案件】
5/9

第5話

 




「ふーん、結構新作出てるんだ」



 止まらない二人の会話に苦笑を浮かべたエルザ。

 パッと見は分からないが、イリアスを知る者が見れば分かるほ程には生き生きとして話し合うイリアスに放置を決め、時間潰しに新しく開発された商品の棚を見回る。


 エルザ達が案内された場所は魔法を使用した商品が並ぶ場所らしく、ガラス張りの棚には値段が書かれたプライスカードと簡単な説明が付いていた。


 時間停止魔法が込められたバック、保温機能付きの箱、冷却魔法を刻まれたコップ、と様々な用途に沿った商品が所狭しと並ぶ。

 魔法や魔術を使える人間なら必要ないかもしれないがあったら楽だな、と思われる物が多かった。


 しかし魔法を込める、もしくは刻まれる物はどうしても高額になる。

 それに加え、魔法を込めた商品と魔法を刻んだ商品は似た性能はあってもその効能は大きく違っていた。


 魔法を込めた商品は魔法の力自体を宿している為、魔法が発動されたままの状態なのである。

 その為、込められた魔法が周囲の影響によっては不安定になりやすく、効能に回数制限や壊れやすいデメリットがあった。

 しかしその代わりに量産には向いている。


 その反対に魔法を刻んだ商品は魔法を術式と呼ばれる魔法自体を式に書き表しそれに魔力を込めることで魔法が発動する。


 その為、必要な時だけ魔法を発動させるので魔法自体安定していて、壊れにくいメリットがあった。

 だが魔法を刻むには特殊な技術と刻み付ける為にそれなりの魔法量が要求され、専門の職人が一つ一つ手作業で作るため量産が不可能だった。


 どちらにもメリット、デメリットがあり一概にどちらが良いとは言えないがそれでもどちらかというと魔法を刻まれた商品の方が高額になりやすいのである。




 そんな日進月歩で開発されている商品を眺めながらフロアを歩き回るエルザ。

 よく見ればフロアには他の客もちらほらと見え、その大半は同じ冒険者だと察せられた。


 流石に見るからに武器などを所持している者は居ないが、軽装備で仲間と、もしくは一人であーでもないこーでもないと財布と相談しながら商品を吟味するのを見てエルザも他に何か買っておこうか、とうろうろと歩き回る。


 しかし一つの棚を回り込もうとした瞬間、目の前に現れた影に驚き、肩が跳ねた。




「わっごめんなさい!」

「おっと、いやこちらも悪かった」



 ぼーっとしていて気配に気付かなかった。


 まだ五歳の子供であるエルザにとって大人の姿はどうしても大きい。見上げた目の前の影もまたすっぽりとエルザを覆ってしまう程だった。



 危うくぶつかりそうになり、慌てて謝るエルザに相手もまた謝罪の言葉を口にする。



 ――日に焼けた肌に険しい目付き。

 異国人なのか、見慣れぬ模様が描かれた衣服。今の季節では少し暑いのではないか?と思うが裾の長いコートを着込んだ体躯は大きく、そして厚みがあり、隙の無い気配に無駄の無い足運びは戦う者特有のそれだった。

 少し傷跡が見える顎に髭を蓄えた年配の男性に頭を下げるエルザ。


 しかし相手はどうして子供がここに?と言わんばかりに少し首を傾げていた。



「――おや?エルザじゃないか」

「あ、ドルさん」



 そんな棚の陰でお互い頭を下げるエルザと男性に掛かる声。

 男性の後ろから現れた商人ギルドの職員にエルザは挨拶を交わす。



「こんにちは!」

「おぅこんにちは。今日は一人か?」

「ううん、イルと一緒なんだけど……また始まって」

「うん?あぁ、今日はハウディがお前らの案内役か。アイツも始まると止まんねぇからな」




 ドルと呼ばれた茶髪に丸メガネの男性はエルザが目配せした新作商品棚の前に陣取る二人の姿に朗らかに笑った。

 ハウディと呼ばれる先ほどまでエルザ達を案内していた職員は話が盛り上がり興奮しているのか、少しばかり大きな声でイリアスに自分の作りたい商品を語っていた。それに相槌を打つイリアス。

 それを見て仕方ないと言わんばかりに二人は苦笑を浮かべる。



「イルも物作りの話は好きだから」

「あーそういやアイツも物作るんだっけか」

「そうそう」



 まったく、と言わんばかりに呆れた表情のエルザ。


 それに軽く笑っていたドルだが、何かに気付いたのは様に目を見開きエルザの両肩をガシッと掴む。



「エルザ……良いところに来た」

「へ?」


「申し訳御座いませんキラウエア様、少しだけ宜しいですか?」

「ああ、構わんとも」



 いきなり何?と首を傾げるエルザを横目にドルは自分が案内をしていた男性に許可を取り、エルザを連れて男性から少し離れた。



「なぁ?」

「うん?」

「ダメ元なんだが、お前ら水蜜草(みなみつそう)とか持ってねぇ?」



 こそっとエルザに尋ねるドル。

 しかし地声が大きめなドルの声は密やかにされても普通に聞こえた。



「おい君……」



 そんなドルを咎める声が男性から上がり、少し罰の悪そうな表情を浮かべるドル。



「申し訳御座いません。しかし実はこの子は冒険者でして、もしかしたら持ってるかもしれませんので」



 ご容赦を、とドルは男性に頭を下げた。

 男性はドルの発言に目を丸くする。しかし流石に信じられないのか疑いの表情でエルザを見下ろす。




「しかし、あれは幻と呼ばれる物だぞ?しかもこんな子供が……」

「確かにそうですが、この子は本部所属でして、実力は我がギルドが保証致します」



 嘘偽りを決して許さない商人ギルドが、その職員が、実力を保証するとの言葉に男性は動揺に少し目を揺らした。


 幻とさえ言われる貴重な薬草。

 それをこんな子供が?信じられないと騒ぐ理性に、もしかしたら……と期待がせめぎ合い、険しい表情になる。


 突然の問い掛けに目を丸くしたエルザだが、問い掛けの内容とドルと男性の会話に察したのかおもむろに腰に下げた鞄を漁り始めた。



「うーん、水蜜草は今、旬じゃないし……生と乾燥、どっちが欲しいの?」

「生だ」

「確かこの前卸したのが最後だった気がするけど……」



 素材ストックの在庫と商人ギルドに買取りをしてもらった事を思い出しながら持っている鞄の中を漁る。

 物作りが趣味のイリアスお手製のカバンは時間停止と空間拡張魔法が刻まれており、その鞄は正直商人ギルドで売られている物より高性能だった。


 鞄の中に手を突っ込みひっくり返しながらも探す目当ての素材。だが、持っていたのは目当ての薬草の乾燥したものだけだった。



「ごめんなさい。乾燥のものしか持ってないや」

「そっ!……そうか……いや、いきなり悪かったな」



 水蜜草は草を構成する成分が約98%水分で出来ており、見た目も草の形をした薄い膜で水を包み込んだ様な美しいものだった。そして生のものと乾燥したものとではその用途と薬効が大きく異なるのが特徴である。


 そして含有水分の透明度も高いため滅多に見つからない貴重な薬草でその育つ条件も生息地も謎に包まれている。

 そんな薬草を乾燥したものでも持っている方が凄いのにしゅんとしょげた様子のエルザにドルは内心、持ってんのかよ!と突っ込みたくて仕方がなかった。


 小さな瓶に保存され、青い液体に浸かった薬草。

 何とか取り出した水蜜草だが、薬草は液体に浸かっているのにも関わらず茶褐色で枯れているかの様子。

 しかし、これが乾燥している証だった。



「これは……」

「水蜜草の乾燥した物です。これで良ければお譲りできるんですけど……」



 まさか実物を見れるとは思わなかった男性が驚愕の表情でエルザの手の中の瓶を凝視する。


 乾燥されていてもその貴重さは決して損なわれることは無い。

 とぷんっと瓶の中の液体がとろりとした質感で揺れる。この青い液体こそ水蜜草が含んでいた水分であり、残った茶褐色の部分が茎だった。



 もしこれを買おうとしたら幾らになるのか……。

 金塊をいくつも積んでやっと買えるだろうその幻の薬草に男性は固まる。


 しかも『売る』のではなく『譲る』と言うエルザにその稀少性を訴えたくもある。

 男性にとっては喉から手が出るほど欲しくて堪らないものだが……彼が本当に欲しているのは残念ながら乾燥したものではない。



「いや、生のものでなければ意味がないのだよ」

「そう、なんですか……ごめんなさい」



 気にしないでくれと、首を振り力なく笑う男性にエルザの心が痛む。



「えっと、半年前くらいに生の物を売ったはずなんですけど……」

「お前……本物の水蜜草の生ものが売れ残るはずないだろ」



 チロっと見上げたドルに深い溜め息を吐かれた。


 確かに半年前ぐらいに水蜜草がエルザから持ち込まれ買い取りをしたが、薬や霊薬の媒体となる薬草がそう売れ残るはずもなく。入手困難な貴重な薬草は医者や錬金術師などに金の糸目を付けずに速攻で買われていったのである。


 実は男性もその水蜜草の話を聞いて遠路はるばる故郷からこのゼルギア王国まで訪れたのだが、結果は薄々予想していた通りに既に薬草は無かった。


 しかし諦め切れない一心で、再び持ち込まれるのを待っていたのだ。

 今日も今日とて持ち込みを待つ傍ら、旅で消耗した物を補充しに来たのだが……乾燥したものといえど水蜜草とある意味で、奇跡の出逢いに薬草の存在があった事を喜べば良いのか、天にもう諦めろと言われている様でもあり絶望すれば良いのか、分からない。



 薬草が入った小瓶を見つめ焦燥感と絶望感に苛まれ感情がどん底に落ちていく。


 だが、



「一つ、良いかい?」

「はい」

「君はその薬草をどこで見つけたんだい?」


 エルザの前に跪き目線を合わせる。

 鬼気迫る様子にも見える男性にエルザは一瞬、ドルに目配せした。


 エルザを子供だからと侮ること無く、貴重な薬草を偽物だと疑わず信じた男性の好感度は高い。

 その上、きちんと目を合わせようと真摯な姿勢を取る男性にエルザは力になりたいと思った。


 しかしおいそれと簡単には教えられない情報。それを告げても良いかと許可を取る意味でドルを見たエルザにドルは僅かに頷き肯定する。彼ならば信じるに値すると。



「北の森の奥に。ですが、既に採取時期は過ぎてしまったので次に手に入るのは数十年後だと……」

「そうか……」



 本来ならば教えることの出来ない情報。

 幻と言われていても場所を教えてしまえば乱獲される恐れがあるのだ。

 北の森に入れる者は少ないが皆無ではないし、それに森に入る場所も王国の門以外からでも入ることはできる。

 森を守るために秘密にしている情報は多く、水蜜草の情報もそうだ。

 だが、それでも告げるエルザ。



 国や冒険者ギルドの機密にさえ抵触するかもしれない情報だというのはエルザ自身理解している。

 しかし、『助けを求めるものには救いの手を』そう理念を掲げた初代国王の信念を曲げるつもりは無い。

 そうして助けられた者の子孫として、今度は助ける側に。ゼルギア王国民はそういう(こころざし)が根付いている。



 だからこそ、教えた情報。

 だか水蜜草の旬は秋から冬に掛けて、成長し採取できるまでの期間は数十年単位で長い時間がかかる。

 それが一般には知られていない水蜜草の生態だった。



 男性はエルザが教えてくれた情報に俯く。



「……ありがとう」


 だが、再び上げた顔は何かを決めた決意の表情。



「あの、もしも……もしも何かするのであれば冒険者ギルドで私の名を出して下さい」



 それに余りいい予感はしなかったエルザが懐から一枚のカードを取り出す。

 何の変哲もない名刺。白い紙にはエルザの名前のみ。それに所属も何も書いていなかった。


 手渡された名刺に首を傾げながらも受け取る男性。


「この国のみですが、もし冒険者ギルドで依頼を出す時に職員に見せれば悪いようにはならないと思うので」


 冒険者ギルド職員や限られた人間のみが分かるその名刺の意味。


 ドルが驚いた表情をしていたがエルザもまた覚悟を決めてその名刺を渡した。



「有難く貰っておこう」


 男性は名刺を大事に懐に仕舞い踵を返す。


 それを見送り、エルザは少しだけ溜め息を吐いた。


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