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トラブルメーカー&トラブルシューター  作者: zzz
【始まりの案件】
4/9

第4話

 



 エルザとイリアスの二人は入り口の警備員と別れ、一階フロアへと足を踏み入れた。


 入り口真っ正面には商人ギルドの印が描かれたタペストリーが掲げられ、その下にはカウンターが横に広がりそれぞれ個別に区切られた奥には受付嬢がカウンターごとに並んでいた。

 落ち着いた雰囲気の色彩で統一された内装は豪華ではあったが派手ではなく、洗練された調度品が見目を楽しませる。

 天井には繊細な細工で作られたシャンデリアが下げられ、キラキラと輝かしい光を反射していた。


 まるで高級宿のような美しさである。




 そんな商人ギルドでは一階を受付カウンター専用としておりフロアには順番待ち用の椅子が並べられている。

 上の階はそれぞれ商品販売専用のフロアとしており、特に冒険者用の武器や防具、旅支度用のコートや簡易テント、保存食などの諸々が揃うようになっていた。


 エルザとイリアスはそんな豪華な内装を横目で見つつカウンターへと進んだ。



「こんにちはー」

「こんにちは」


「はい。こんにちは。お久し振りですね、エルザちゃん、イリアスくん」



 丁度空いたカウンターに入ればそこには金髪碧眼の美女。しかしその髪の間から見える細長い耳は彼女が人では無い事を表していた。

 彼女はエルフと呼ばれる種族の一人。森の深奥に住まう亜人種だった。


「ミリーナさん久し振り〜」

「お久し振りです」


 ここ最近姿の見えなかった受付嬢にエルザとイリアスは笑顔を浮かべる。


「大体半年ぶりくらいかしら?」

「もうそんなに経ったんだ〜」

「時間が経つのは早いですね」


 しみじみと年寄り臭い事を言う二人にミリーナと呼ばれたエルフの美女はくすくすと笑みを零す。

 老若男女魅了する程美しい笑顔に周りの人間は目を奪われるが、そんな魅力的な笑みを前に変わらぬ態度の二人。


 相変わらずの仲の良さを半年振りに見たミリーナは無意識に安堵の息を吐いた。



「なんか二人を見ているとほっとするわ」

「そうかな?」

「そうですか?」

「ええ、イリアスくんは少し背が伸びたみたいね」



 長命種故に周りの人間とは違う時間を生きるミリーナ。親しい人間も置き去りにする長い時間はある種苦痛でしか無い。だが、唯一その成長を楽しみに見れる二人に彼女の笑顔が曇ることは無かった。



「二人共今日はどうしたの?」


 世間話も良いが、今は残念ながら仕事中。

 段々と混み始めたカウンターにミリーナは二人に尋ねた。



「今日は採取用の瓶が欲しくて」

「三階への入室許可を頂きたいのですが」



 商人ギルドでは高価な物も販売している。

 その為防犯の面で上の階に上がる為には許可が必要だった。



「じゃあ、三階のやつと……他にはいる?」

「取り敢えず大丈夫!」

「ありがとうございます」


 カウンターの下から取り出された一枚のカードを手渡す。


「じゃあ、カードはいつも通り回収ボックスに入れてね」

「はーい!」

「ではまた後で」



 じゃあね、と手を振るミリーナに挨拶を返しカウンターを離れる二人。

 しかし、何かに気付いたミリーナがエルザを名指しで呼び止めた時、エルザは――飛んだ。



「っとそうだ!エルザちゃん例の――」

「あああ!」


「きゃ!」

「!」


 ぴょんっと飛び上がりシュバっと音が立ちそうなほど素早い動きでカウンターに乗り上げミリーナの口を塞ぐエルザ。

 一瞬の瞬きの間に距離を詰められミリーナが小さな悲鳴を上げる。

 言葉を遮る為に上げた奇声に俄かに商人ギルドが静まり、注目を集めるがエルザにとってはそれ所ではなかった。



「い、イル!ちょ、ちょっと先に行っててくれる!?私もすぐ行くから!」

「?分かった」



 あわあわと無意識に両手をバタつかせイリアスに先に行くように伝えたエルザの顔色はお世辞にも良いとは言えない色だったが、それに疑問符を浮かべつつもイリアスは大人しくカウンターを離れ、とある機械へと向かった。



「え、エルザちゃん?」

「しーっ!ミリーナさんごめんなさい!イルには内緒なの!」



 内緒だと自分の口元に指を当て静かにとジェスチャーしながらもエルザの必死な様子についついミリーナは笑い声を上げる。



「フフッもしかしてイリアスくんへのプレゼント?」

「うっ!そ、そうなの……だからイルには内緒ね?」


 動揺を露わにする珍しいエルザの態度にミリーナは「可愛いなぁ」と内心零す。

 カァと頬を赤らめて照れくさそうなエルザはまさに恋する乙女だった。

 例え子供だと言えど人に恋をする感情に年齢は関係ないと思っているミリーナ。互いに想い合うその気持ちを知っているためイリアスとエルザの二人が微笑ましく思えミリーナは笑顔を浮かべる。



「だから珍しく注文付けての依頼だったのね?」

「……そうです」


 ニコニコと満面の笑顔のミリーナに羞恥心が限界を突破したのか下を向いて頷く。

 しかしその髪の間から見える耳と項が真っ赤に染まっているのが見えてミリーナの笑顔は益々深くなる。



「それなら良かった。どうやら期限には間に合いそうよ?」

「ほっほんと?」

「えぇ、今日のバザールに目当ての商人が来るみたいだから既に話も付けているわ」

「ありがとう!」


 手元の書類を見る限り様々な情報と照らし合わせてもエルザが商人ギルドに依頼した要件を満たしているのが分かる。

 それを伝えればエルザは嬉しそうに飛び跳ね破顔した。



「クスクス、随分探してたのね?」

「うん!やっぱりそれなりのあげたくて」

「イリアスくんは果報者ね」


 こんなに想われて、と続ければ照れながらもふにゃりとはにかんだ笑顔にミリーナの胸が撃ち抜かれる。



「あぁ!もう可愛い!エルザちゃん可愛い!」

「わっミリーナさん!?」


 今度はミリーナがカウンターを乗り越えエルザを抱き締める。

 ぐりぐりと頬を擦り合わせるミリーナからは幻覚のハートすら乱舞しているように見えた……。




「――あの、そろそろエルザが限界そうなので放してもらえませんか?」

「え?あ、あら!ごめんなさいエルザちゃん!」

「ごほっ、い、一瞬あの世のお爺ちゃんを見た気がする……」

「落ち着けエルザそれは幻覚だ」



 流石にどんどん顔色が赤から青、そして白に変わっていくエルザにイリアスから救いの手が差し伸べられる。

 結構危ない感じに首が締まっていたのか、やっと解放され咳込むエルザにそっとその背を摩った。

 やだぁと若干どこに照れる要素があったのか甚だ疑問だが照れたように頬を赤らめるミリーナを横目にエルザが見てはいけないものを見ていたのをイリアスがにべもなく否定する。



「なんか凄い背中を叩かれた感じが」

「気の所為だ」

「なんか『俺の所に来るのはまだ早ぇ!』って怒鳴られた気が」

「気の所為だ」

「気の所為?」

「ああ、幻聴幻覚だ」

「あんなリアルだったのに!?」

「気の所為だ」

「……そっか」

「そうだ」



 東洋で言われるあの世のこの世の狭間、三途の川のほとりでエルザを追い返した一人の老人を思い出し、訴えるエルザにイリアスは真顔で全てを否定する。うんうん唸る彼女にイリアスはその顔色が戻りつつあるのを見て気付かれぬように安堵の息を吐いた。

 幾ら受付嬢として非戦闘員のミリーナだが大昔は冒険者をしていたらしい。種族の特性でその能力は魔法特化ではあるが彼女の細腕は大の大人をも投げ飛ばせる程の馬鹿力を有する。



「ほら、用事が終わったなら行くぞ」

「あ!そうだった!じゃ、じゃあねミリーナさん!」



 イリアスの言葉にこうしちゃいられない!と言わんばかりにしゃがんでいた体勢から立ち上がり、カウンターから離れる二人。

 特にエルザはミリーナからの抱き着きという名の攻撃を警戒してかイリアスの背に隠れるように歩く。



「ごめんなさいねぇエルザちゃん。イリアスくんも、またね」



 そんな警戒されている様子に少し傷付くが、仕方ないと言わんばかりに肩を落とすミリーナも今度は大人しく見送る。


 そうして注目を浴びつつ二人が辿り着いたのは壁に設置されている一つの機械だった。


 魔力を原動力にして動く【自動昇降機】は背の高い建物が多いゼルギア王国には無くてはならない物だった。

 壁に埋め込む形で設置されている昇降機は全体的に金属で出来ており、中は大人が余裕で数十人は入れる程に広く天井も高い箱状のものが設置されている。

 外からも中が見れるようになっており、柵状の扉はよく見れば細かい彫金までされており、その細部までデザインに拘るのは流石商人ギルドか、と言っておく。

 丁度一階に降りていた昇降機の一台に二人は仲良く乗り込んだ。


 ガシャンと金属特有の音を立てて横にスライドする形で開く扉。

 一般的な昇降機ならばこの中に向かう階のボタンがあるのだがこの昇降機には無かった。

 その代わり、階のボタンがあるだろう場所には何かを差し込む口に赤と青のボタン。

 イリアスは慣れているのか悩む事なくミリーナから渡されたカードを差込口に突き刺し、光が点った青のボタンを押す。



 ガタガタっと一際強く揺れた昇降機だったがゆっくりと上へと上がる。






 ――商人ギルドでは、希少価値の高い武器や素材などを扱う為に防犯警備の面で目的の場所以外の階の入場を禁止していた。

 特にここゼルギア王国王都支部には他の支部には絶対持ち込まれないであろう素材が数多く存在し、宝石の原石等は勿論、買えば一国の国家予算並になる貴重な薬草、国宝並みの大粒な魔石など運良く盗めば人生二、三回は遊んで暮らせるような物があるのである。



 その為、厳重な警備の一環としてこの昇降機も特別なものとなっていた。

 ゼルギア王国には様々な人種や種族が集まる様に、その種族固有の魔法や魔術の知識や技もまた集まる。その技術のすいを集めて作り上げた魔導式自動昇降機が現在イリアスとエルザが乗っている昇降機だった。

 受付カウンターで渡されるカードに反応し、自動的にそのカードに合った階に動く昇降機。説明では簡単だがその技術は今の最先端を行く。他にも様々な機能もあるがそれは今は置いておこう。




「――エルザ、落ち着いたか?」

「う、うん。びっくりした~っていうか死ぬかと思った……」

「……そうか」



 はぁと珍しくため息を吐くエルザの頭を撫でる。

 ガラガラと車輪が回る音と共にエルザとイリアスを乗せた昇降機は順調に上に向かっていた。






 *





「――いらっしゃいませ。商人ギルド三階でございます」


「こんにちは~」

「こんにちは、お邪魔します」



 ガチャンっと音を立てて止まる昇降機。

 ガラガラと扉が開けば一人の職員が出迎えてくれた。



「これはこれは、こんにちは。二人が一緒に来てくれるのは久しぶりですね」


「そうかなぁ?」

「そういえば最近は討伐依頼が多かったですから」



 若草色の髪に茶色の瞳。柔和な笑顔を浮かべた男性職員の言葉に二人は首を傾げながらもそう返す。




「久しぶりに会えて嬉しいですよエルザさん、イリアス君」

「えへへ、ありがとう!」

「今日はお世話になります」




 ペコリと頭を下げる二人に職員も相好を崩す。

 商人ギルドではサービスの一環としてそれぞれの階ごとに常駐の職員がおり、利用客への商品の説明や相談を承っていた。

 三階は素材採取用や生活用品等の器材が集められているフロアだった。



 広いフロアに、所狭しと棚やショーケースが並んでいる。


 ざっと見るだけでも数千、数万点はあるだろう商品は確かに説明がなければ何がなんだが分からない物が多い。

 しかし木でできた器や何か動物の革で出来た袋。瓶は様々なサイズが並び、デザイン的な物から無骨なシンプルな物と見ているだけでも楽しめる。




「今日は何をご所望かな?」

「採取用の瓶ですね」

「特に光草藻(こうそうも)茂鋼虫(もこうちゅう)の触覚を入れるのが欲しいんだけど……」



 職員の言葉に何を入れるかも答えれば、相手は少し苦笑する様子を見せた。



「今回は北の最奥洞窟かい?」

「はい」

「お土産楽しみにしててね!」



 二人から告げられた素材は北の森にある最奥の洞窟にしかない。

 二人の行き先に思い至り職員は相変わらずだなぁと、内心乾いた笑いを浮かべた。


 特に扱いが難しい二つの素材は器も特殊なものが必要だった。



「じゃあこっちだね。今の所、これとこれがオススメかな」

「あれ?これって新作?」

「そう。密閉率も上がって遮光性も高いよ。光草藻ならばこれがベストかな。それとこっちは遮断性を極限まで高めた奴で、しかも蓋をしてこのボタンを押せば簡単に中を真空に出来る」




 光草藻(こうそうも)は文字通り光を発する草であり、藻でもある。

 見た目は水辺に育つ草同然だが、本体は根元に広がる藻の部分で、藻が光と空気中の微量な魔力を吸収し、草の部分で発光するものだ。そして採取したそばから光は霧散し、一瞬にして腐れる。

 だがもしきちんとした手順で採取し、光を宿した状態ならばとある病気に対する特効薬だった。採取の注意点は手早くする事は勿論、保存の状態で空気に触れないようにする事。そして光を当てないと同時に中の光を逃さない事にあった。


 茂鋼虫(もこうちゅう)は鋼の体を持つ虫である。

 直径20センチの虫としては大きい楕円形の平べったい体を持ち、背中には鉱物を背負う特殊な虫であり、その背中の鉱物の中に卵を産み育てる。体が鋼なので殺す事は困難を極め、性質も獰猛で雑食。一度下手に怒らせて喰い殺された人間もいる程だ。

 その為採取場所は一番取りやすい触覚であり、素材としては錬金術の媒体に使われる。

 しかし採取後の保存には細心の注意が必要であり、血は空気と触れると気化し毒ガスとなり、その臭いに本体や他の個体が気付けば地の果てでも追い掛けられる。

 それに加え茂鋼虫は心臓というものが存在しない為、触覚からでも復活が可能で空気中に含まれる微量の魔力を吸収して体を作り上げる。


 昔、無事に触覚を採取した冒険者が保存を誤り、持ち込んだ買い取りカウンターで触覚から成長した茂鋼虫に襲われる事件もあった。その為保存には魔力の遮断と一切空気に触れないようにする必要があった。



 勧められた瓶はどちらの条件もクリアしている。しかも新作となれば使い心地も聞きたいのだろう。



「個別でも大丈夫だけど、まとめて買うかい?」



 おまけするよ。と付け加える職員にエルザは隣のイリアスを見た。

 無言で瓶を品定めするイリアス。基本的にこういった器材を持つのはイリアスの為、決定権はイリアスにある。



「どうする?」

「良いんじゃないか?それに正直、感想も聞きたいんですよね?」

「まぁね?流石に物が物だし、値段もはるから」



 前半はエルザに後半は職員に、イリアスが返す。

 コンコンと瓶底を叩き厚さと強度を確認しながら見つめるのは瓶に掛けられた魔法式だった。



「コストを下げたいならこれ少し余計な術式多いように思えますね」

「え!ちょ、ちょっと待ってくれ!今メモとるから!」



 イリアスの発言に慌ててメモを取り出す職員。


 商品ギルドでは独自に商品の開発販売も行っていた。

 お抱えの職人が手掛けた品物に魔術師が魔法を掛けて商品化するのである。しかし如何せん魔法を掛けた商品は素材もさることながら魔法を掛ける為の技術や人件費などに商品の開発コストが高い為、販売金額も自然と高額になってしまうのが頭の痛い問題だった。

 幸い、余りお金に困っていない高ランク冒険者が御用達の分そこまで問題視はされていないが、需要に対して安く出来ない商品が多く、開発コストを抑える為に担当者は日々頭を悩ませていた。


 魔術師としても一流と呼ばれる腕前のイリアスのアドバイスに職員は仕事も放り出し、メモと相談に勤しむのは仕方のない事だった。



 そんな二人を眺め、魔法をろくに扱えないエルザは蚊帳の外で溜め息を吐く。


 イリアス自身、物作りが趣味の為に職員の気持ちも理解出来るのだろう。時間も無いのに積極的に改善点や代案などを話すイリアスを見てエルザは呆れて良いのか、怒れば良いのか少しの間悩むのだった……。











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