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トラブルメーカー&トラブルシューター  作者: zzz
【始まりの案件】
3/9

第3話

 


 コンコンっ


「リム(じい)仕事だよ~」

「北の森の依頼が見たいんですが」



 カウンターを軽く叩いて声を掛ける。

 もぞもぞと身じろぐ姿は小さく、まだ五歳であるエルザよりも遥かに小さい身長に丸っこいフォルム。

 唯一色が抜けてしまった真っ白な髪と長い髭でその姿が随分と年を召した老人だということが分かる。


 彼はコロポックルと呼ばれる小人族の一種であり、高位冒険者用の依頼斡旋窓口業務を担っていた。

 しかし性格は気難しく気に入った人間にしか依頼を紹介しないという職員にしてはあるまじき事だが、それを許されているのも本部ならではであろう。

 それに彼の人を見る目は確かであり、依頼も決して本人の実力に不釣り合いなものは紹介しない。

 明確な目的が無いのならば彼に依頼を見繕ってもらうのがベストなのである。



「おぅん?うん?ゔーん?」

「起きてー」

「もうすぐで昼になってしまいますよ?」

「うん?飯か!」


 寝ぼけているのか言葉になってない声にエルザとイリアスが苦笑を浮かべる。

 しかもご飯の言葉に勢いよく起きる様は現金すぎると呆れと乾いた笑いが零れた。


 それに耳栓をしている筈なのにも関わらず聞こえているのをツッコむべきか。悩みどころである。



「ご飯はまだですよーお爺ちゃん」

「なんじゃ、まだなら起こすなガキンチョ」

「依頼を見繕ってほしいんですよ」



 折角起こしたのにも関わらず再びクッションに埋もれ寝入ろうとする姿に待ったを掛ける。


「うん?お前さんたちなら勝手に見てけ」

「適当すぎる〜」

「一応機密に関わる筈なんだけどなぁ」



 もぞもぞと枕であるクッションの下から取り出され無造作に投げ渡された本にイリアスが苦笑を浮かべる。

 深い色合いの緑色の装丁の大きめな本。



 それはこの王都周辺の詳しい地図と難易度の高い依頼がファイリングされている本だった。


 特に地図は国の機密事項にも分類される程に詳細に描かれている。

 幾つかの手書きの書き込みに加え、水脈、地脈、宝石や魔石と呼ばれる魔力を帯びた希少金属の鉱脈、山の高低差、崖や谷の詳しい情報。

 そして薬草などの群生地、魔物魔獣の分布などこれ程詳しい地図は世界中探しても無いだろう。

 通常販売されている地図はもっと大雑把に書かれ、ここまで詳しくは描いてはいない。


 冒険者ギルドが独自で調査し、保持しているこの地図の価値は計り知れないのである。

 欲しい者にとっては喉から手が出るほど、金銀財宝よりも遥かに価値のあるものだった。


 そんな貴重な本であり、機密扱いの本を無造作に見せていいのか?との疑問はさておき、イリアスは本を受け取って適当にページを捲る。

 エルザは再び眠り始めたリム爺の鼻提灯を突きながらイリアスの手元を覗き込んだ。



「どうする?なんか目ぼしいものあるかな〜」

「うーん無難な所だと討伐か、採取系だな。エルザはどっちが良い?」

「どっちでも良いよ〜」



 フロアの掲示板に貼り出されている依頼書の写しを眺めイリアスは眉間に皺を寄せた。


 これから向かうのは北の森と呼ばれる王都の北に広がる広大かつ危険な森だ。

 特に獣が魔力を帯びて変異した魔物。その魔物が知能を得た魔獣などが数多く生息し、他にも毒の沼や酸の湖、幻覚の霧など危険な場所も多い。

 しかしその反面、人の手が入らない事から希少な薬草や素材などの宝庫であり一攫千金を狙って森に挑む冒険者は少なくない。

 だが、生き残るのは果たしてその中の何割なのか…毎年少なくない犠牲を出しているのも事実。


 現在は現国王の方針もあり、北の森には幾つかの門が設置され奥に足を踏み入れるのは許可が必要だった。

 森の浅い場所なら兎も角、奥に進むにつれて魔物や魔獣の強さは跳ね上がる。

 無駄死にを防ぐ為にも、冒険者自身を守る為にも、許可はどうしても必要だった。

 許可証は冒険者ギルド本部のみで発行でき、その許可を受けるには厳しい試験がある。それ故に最奥への許可証を持っているのは冒険者ランク上位者が殆どだ。


 そんな許可証を特例として所持している二人は数ある依頼内容を吟味する。


「グーホンベアの牙に、うわ〜アルマカイ鳥の尾羽?……錬金術の媒体かな?」

「こっちは金陵草の若木にマイマイツムリの毒腺か、随分とぶっそうなの揃えるな」



 二人が眺める依頼書は四枚。全てが北の森の採取系依頼と呼ばれる薬草や薬の原料となる素材の採取だった。



「それに、えーっとブルガスタイガーの群れ討伐、グワインドドック五匹討伐、イコリスリスの分布調査ってこの前やったばっかじゃん!」

「また群れが分裂したんだろ?それに――へぇ、ジャイアントベアが出たんだな。討伐対象って事は死人が出たって事か」

「うんにゃ、しかも一つのパーティーが食い散らかされて酷い有様だったらしいぞ?」


 二人の会話にナチュラルに入る一つの声。

 いつの間にか起きていたリム爺が目元のアイマスクをずらして二人を見上げる。



「殺られたのは北支部のB級の星3つでな?どうやら運悪く休眠前の奴に浅い所で出会ったらしく救援信号に駆け付けたA級が死体見て吐いたらしいぞ?(はらわた)が全部喰われて戦士も魔術師も狩人も全て等しく同じ殺され方じゃて。体真っ二つの手足バラバラ、首は木の枝に刺さっていたらしい。まるで何かの証明のようにな?」



 くつり、喉の奥で笑うリム爺。

 酷い殺され方を嘲笑うその笑みはまるで殺された者を愚かだと言わんばかりに口元は歪み、目は愉悦を描く。



「はてさて、人の味を覚えた熊は一体どうするのかのぅ?しかも喰った獲物の欠片を残し、飾るその思考――ただの獣にしては随分と美的センスに溢れておるじゃぁのぅ?」


「――リム爺、それって私達に討伐して来いって暗に言ってるよね?」

「俺達は奥洞窟に行くんで討伐場所とは反対方向ですし、日帰りは無理ですよね?」


 エルザとイリアスは未成年であり、その実力が大人顔負けだとしてもまだ幼い子供だ。

 それ故に二人の保護者は泊まりでの依頼を基本的に禁止していた。

 必ず日帰りで出来る物を。そう言い聞かせられている二人には(くだん)のジャイアントベアの出没場所に行く事さえ難しい。


 それ故に断る二人にリム爺は笑みを深めた。



「なぁにワシは別にそんな事言っておらんぞ?ただそういうことがあったという事というだけじゃて」

「リム爺のそーいうところ好きじゃないわ~」

「同感」



 狡猾でずる賢いリム爺はちょっとした言葉に誘導の意思が見て取れるのが嫌な所である。

 自分はそういうことをしろと言ってない。と言っておきながら、明確な言葉にせずとも人を誘導するその手腕はまだ若い二人にとっては若さゆえの潔癖さをもって好きではないと口にする。



「まぁお前さんたちならこの辺が妥当じゃのぅ」


 そんな若い気持ちも理解しているのかリム爺は言及を避け、二人が見る本から何枚かの紙を提示した。


「うーん、ヌベグスル鉱石の採取と光草藻の採取かぁ」

「その他には茂鋼虫の触覚に光る泉の水採取、なら確かに妥当ですね」

「じゃろ?」


 リム爺に提示された依頼は二人の実力を考えればとても簡単だったが採取場所と二人の元々の目的地、北の森の最奥にある洞窟を考えれば距離的にも確かに無理のない所だった。



「んじゃこの4つじゃな?」

「お願いします」

「4つか〜、イルは採取用のやつ持ってきてる?」

「一応、でも補充していくか」

「賛成!」



 本から四枚の紙を剥がしリム爺に渡す。


 採取系依頼にはその素材に合った器が必要だ。物によっては採取後すぐに空気に触れないようにする必要のある物も存在し、瓶や袋、魔法の掛かった器などそれぞれ手間と荷物が増える。

 予想以上にあった採取物に手持ちの物が足りるかとエルザはイリアスに問い掛けた。


 そんな二人を横目で見つつ、もぞもぞとリム爺がクッションの下から取り出したのは一枚の誓約書。


「ほれ、お前さん達ならば要らぬかもしれんが一応規定だからのぅ」

「はーい」

「分かってます」



 それは北の森に入る際に必ず書く自己責任を認める誓約書だった。


 例え高位の冒険者でも、絶対の安全という保障は無い。その為、もし何かしらの事故、もしくは非常事態があった際に基本的には自己責任で全て処理し、冒険者ギルドに責任を問いません。というものを了承する誓約書に二人は自分達の名前を署名した。



「いつも通り連名で構いませんか?」

「構わん。それと一応ギルド長には伝えておくぞ?」

「了解です。出発は――」

「ご飯食べてから行くからその後に!」

「――だそうです。」

「了解じゃ」



 二人の名前が記された紙を仕舞い、リム爺は二枚の赤い紙を渡す。



「後はこっちで処理するでな、もし何かあればいつも通りカードで呼び出すのだけ念頭に置いとくんじゃぞ〜」

「はーい!」

「ありがとうございます」



 手渡された紙を貰い二人はリム爺のカウンターから離れる。

 背中に掛かる言葉に返事をした二人が次に向かうのは本部近くにある商人ギルド。









 *



 冒険者ギルド本部の隣に並ぶ細長い六階建ての建物。入口には商人を表す金貨と秤の紋章を掲げたギルドに二人は進んだ。


 商人ギルドはその名の通り、国内外を問わず店を開く商人が設立した商人組合、通称《商人ギルド》である。

 どんな店でも商人ギルドには加入必須であり、逆に未加入の商人は違反者として厳しい罰が与えられる。

 その他にも様々な規約や規定があるがそれはまず置いといて、商人ギルドでは冒険者が討伐又は採取した素材などを高く買取るシステム。そして冒険者専用の武器防具なども販売をしていた。

 他の町などでは冒険者ギルド自体で行っている取り組みだが、ここ王都では買取販売を明確な線引きの上でそれぞれのギルドで行っていた。多少の移動の手間はあるがそれでも適正な買取、商品の質などはやはり商人ギルドであって段違いに高い。


 ギルドに入ると中は防犯の為に二重扉になっており、二つ目の扉には物々しい居て立ちの武装した警備員が扉の両脇に立っていた。


「お、イリアスにエルザか。買い物か?」

「ちーすっ相変わらず仲良いなーお前ら」


「こんにちは、お疲れ様です」

「お疲れ〜」



 商人ギルド所属の傭兵である二人の男。

 エルザとイリアスはその実力もあり、顔が広く特に戦いを生業とする者達には有名だった。

 その為どこに行っても顔見知りが殆どでここでも二人には気軽な声が掛かる。


「今日はギルド長はいないぞー」

「城に呼ばれてるらしくてな」


「今日は違うから大丈夫〜」

「商人ギルド長が呼ばれるのは珍しいですね」



 何気無い世間話だが、冒険者ギルド長が呼ばれるならば兎も角、商人自体ではなく商人ギルド長が城に召喚されるのは滅多に無い。

 二人が告げた情報にイリアスは意外だという表情を隠さなかった。



「何でも王城に来たお偉いさんがどうしても欲しいものがあるって話だったかな?」

「面倒事の予感しかしねぇよなぁ」


「同感〜」

「嫌な話を聞きました」


 警備員二人の言葉に同意する。

 何かを所望し商人ギルド長が呼ばれたという事は希少素材や薬草だろうと想像が付く。

 基本的にある程度の希少素材などでも本部所属の冒険者が任務以外の片手間に採取し、商人ギルドに買取を頼む為そうそう品切れになる事は無い。

 しかしそれでもギルド長を呼ぶ程ならば……扱いの難しい希少中の希少素材だという事は簡単に予想が付いた。そうなると種類によっては冒険者ギルドに特別依頼として来る訳で、採取系に強い冒険者の顔を思い浮かべイリアスとエルザは顔を顰める。



「……早めに行くか」

「賛成ー」


 現在冒険者本部にいるメンバーの中でもイリアスとエルザ以外は基本護衛や討伐任務に向いている者達が大半。

「王城に来たお偉いさん」がどんな人物かは知らないが、それでももし冒険者ギルドに依頼となれば必然的にイリアスとエルザの二人に紹介されるだろう。


 昼食を食べてから町を発つつもりだったが、早めの方が良さそうだと二人の心は一致した。



「じゃあ、私達行くね〜」

「情報ありがとうございます」


「おう、気を付けろよー」

「頑張れ」


 気休めな励ましの言葉に二人は苦笑を浮かべるしか出来なかった。




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