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魔王ト俺ガ、要らない世界  作者: 津軽 毅然
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俺ト魔王ガ、要らない世界5

いきなりだが、みんなは理不尽、不条理という言葉が当てはまる事態に陥った経験があるだろうか。

僕はと言えば生前はもちろん、今現在戸籍上死んだ後もだ。

死んだ次の日に、世界情勢が一変しているなんておかしいだろ。普通に考えてもあり得ることじゃない。

被害妄想だとしても、いくら何でも偶然が重なりすぎだと思う。

もし僕以外の人間が死んだためにこうなったのなら、誰か「そうだ。」の一言でいい、言ってくれ。

生前の僕はちょっと考え過ぎな、頭のイタい子だったかもしれない(今も)。

それでも信じがたいのだ。この状況が、今こうしてる間にも進行していき、僕の知らぬ存ぜぬ方向に進んでいくことが、………何より、怖いのだ。

本来ならば死者は一定の条件、もしくは強い念、感情でもない限り二度と現世に干渉することはできないという。だが僕の今の状況と言ったら、余裕のよっちゃん現世に干渉し、人々に視認され、誰かの思考の分岐点になっているのだろう。

だけどそれは本当にただ、それだけで他人に言わせれば「だからどうした。」の世界なのだ。

ここまで考えるだけで本当に頭が痛い。

先程の衝撃から一遍、我現在電車で移動中なり。

(んで、さっきのは一体何だったんだ?)

突然なんだ。デリカシーの欠片もない聞き方だ。自分で察しろというやつが聞くんじゃない。

(…質問を変えよう。何が起こったんだ?)

なるほど。結論ではなく理由・原因を聞いてきた訳か。いいだろう、お答えしよう。

「僕が死んだときの話をしよう」

(はあ、どれぐらい遡るんだ?一年かそれとも十年か?)

「そんな前じゃねえよ。大体二ヶ月と十日ぐらい前の話だ」

(意外と最近なんだな。ということはこの体は死んだときのままってことか?)

「そういうことになるな。まあ聞いてくれよ」

(手短にたのむぜ。長い話は苦手だ)

あれは九月の終わり、大学のゼミの休みを利用して僕はリア充ライフを送っていた。

そして忘れもしない命日は紫音、彼女との久々のデートの日だった。

(待て、お前が彼女持ちってのが早速嘘っぽいんだが?)

うるさい黙って聞け。

僕たちはアパートからバスで大型ショッピングモールの多くが集まる都会に来ていた。念入りに二人で立てた計画通りに進んだデートだったんだ。

僕たちはとても満足していた。だけど、一つだけ計画にないことが起きたんだ。

(殺された。………ん、だな)

ああ、そうだ。黒づくめを着た男?女?かは分からないがそいつが紫音の方に刃物をもって駆けて来たんだ。

人間ピンチになると「火事場のばかぢから」っていうのか、意外と体が自然に動いて咄嗟に彼女を庇ったんだ。

「そして、………後の展開はご想像に任せるよ」

(なるほどな。そして刺殺されたと…)

「まあ、そういうことだ。逆にクォーツベルト、だったか?お前は一体何なんだ?何であんな可笑しな空間で漂ってたんだ?」

いい加減に聞いておきたかったことをぶつけてみる。

(俺のことか?多分お前には信じられないだろうし後々にな。それよりどこまで乗るんだ?)

またはぐらかされた。まあ、あとで教えるというならそれでいいだろう。

ここで簡単に引き下がってしまうのは僕の悪い癖なのかもしれないがそれでいいだろう。

「乗換駅までだ。この路線最大の入れ替えと乗換を司る駅までな」

(一々面倒な言い方をするな。鬱陶しい。要するにそこで乗り換えるんだな)

「そうそう、そうですよ」

(まあいい。話が変わって悪いが俺の方の話も聞いてくれるか?)

ここまで相手のことばかり聞いてきてようやく自分の話をするか。

「別にいいよ。ちょうどそれを聞き返したかったところだし。話のネタが尽きてきたものあるしな」

(すまんなここまでお前のことを聞いてばかりで)

「それはいいからとっとと話せ」

取り敢えず最初に言っておくが信じるかどうかはお任せするぜ。

俺は「魔王」でした。

「は?魔王?魔王ってあの魔王か?」

お前がどの魔王のことを言っているかは知らんが、ともかく俺は「魔王」だったんだ。

「『だった』ってことは今はもう違うってことか」

そうだ。だったんだ。俺の後に誰が就いたかは分からんが俺は確かに「大魔王様」だった。

だが、それをよく思わないやつもいっぱいいたんだ。

「神」や「神話」は俺が魔王であること、冥界の主にして悪魔たちの統率者であることを嫌った。

そしてある日、「神」の名の下に十字軍が冥界に、俺の根城である魔王城に殴りこんできやがった。

奴らの目的は「神の障害となる悪魔の討伐」。

俺は国民を守るだけで精一杯だった。それでも一向に十字軍の勢力は衰えることを知らなかった。

天使や堕天使、魔術師、聖職者といった奴らに俺は従えてきた四天王共々敗れ去った。

そして俺たちはこの人間界に逃れ、それぞれ身を隠して生きることを選んだんだ。

だが、残党狩りに見つかって人間の魔術師共に体と魂を別々に封印されたんだ。

そして、…………あの次元の狭間でお前と会ったんだ。

「なるほど、だからあの空間から抜け出せても僕と一心同体のままだったんだな」

(察しがよくて助かるぜ。まあそういうこった)

ここまでの説明を聞くと、「魔王だった」はともかくとして人間ではないことは理解できる。その証拠にあの「ばかぢから」だ。あんな芸当は人間では到底できない。墓石なんて小型クレーンでやっと持ち上がるレベルの重さの代物を「体を貸せ」の一言で動かし、何事もなかったかのように元に戻すなど人間では到底出来るはずがないのだ。

とすればこれまでの流れは嘘ではないことが確信になる。こいつの置かれてる状況下がかすかに理解できるが、まだ完璧ではない。

「そういやさっき『従えてた四天王』って言ってたけど、そいつらはどうなったんだ?」

(俺と同じく封印されたって言ってたな。なんでも俺が封印されるより前に見つかったらしい)

「誰情報だよそれ」

(俺を封印した集団の頭角っぽい奴がニヤニヤしながら自慢げに語ってたんだ。これが本当かどうかは信じがたくも奴らの自信ありげな顔を見るに恐らく信憑性は高いだろうな)

となるとその魔術師たちはなんと「魔王」、そして「魔王の四天王」を封印したことになる。それはとんでもないことでもある。

「魔王」と言えばいろんな物語において最強のラスボスやその力で世界を征服しようとしたり、はたまたその天才的頭脳をもって世界を変えようとしたりするような、その手で全世界を掌握するほどの存在だ。

例えこいつが、それらとは違いたいしたことのない「魔王」だったとしても「王」ということは何者かの上に立つ存在であったことに間違いはないだろう。

その上、その「魔王」に従事していたとなれば「四天王」とはそれなりの手練れであることが予想できる。

しかしその「四天王」までもが負けたとなると相手は相当に腕の立つ奴らなのか、もしくは相手にしきれないほどの大集団の二択だろう。

どちらにせよ僕はそんな集団とは極力出くわしたくはない。

それこそ命がいくつあっても足りないぐらいだ。

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