6:如月由依と葉月梓乃の作戦開始
「ふぁ~あ」
「何か、眠そうだね」
今日も牧瀬君と一緒に登校である。
「結局、二時間ぐらいしか寝れてねぇからな」
ファンタジーVRMMO『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』ーー『白黒』を、食事とかの一時離脱もあれど、あのショッピングモールに行った後からやっていたので、睡眠時間が短くなったのも仕方がない。
私も、スキルの底上げが出来たから、文句は言えない。
「でも、授業中はなるべく寝ないようにしなよ? 確か今日、紺野先生の授業があったはずだから」
「マジか」
紺野先生は、寝てる人を指名することで有名な先生だ。
たとえ、彼の授業を乗り切ったとしても、自習の時間にあの先生が来たら、牧瀬君の落胆はさらに大きくなるだろう。
「あ。おはよう、如月さん」
「お、おはよう」
さて。今、私の目の前に居るのは、上郷君である。
瑠璃と牧瀬君発案の作戦開始日なのだが、この時点でもう、好感度下げられる気がしない。
「相変わらず、俺のことは眼中に無いんだな。上郷」
どうやら、彼で眠気が吹っ飛んだらしい。
「ああ、君は今日も一緒か。彼女さんは良いの? 浮気扱いされるよ?」
「よく知ってるな。だが、ご心配なく。あいつは由依のことを心配して、同じ学校にいる俺に頼んだんだからな」
瑠璃をキレさせたら質が悪いのは、私たちが良く知っている。
ただ、見えない火花が散っているように見えるのは、私の気のせいでしょうか。
「ああ、それよりも彼氏持ちになった由依に、あんまり手出ししない方が良いぞ」
盛大な嘘だけど、仕方がない。
振りや表向きそう思わせるためとはいえ、梓乃と付き合わなくてはいけないのは事実だし。
「え、そうなの?」
「あ、うん。まあ……」
梓乃と瑠璃には悪いけど、いきなり作戦変更である。
「……そっか。おめでとう」
「あ、ありがとう……」
でも、何だろう。
物凄く、物凄くーー
「由依?」
間違えた気がするのは、何故だろうか?
☆★☆
「梓乃くん!」
相も変わらず、朝から神原がやってくる。
「おはよう!」
「……ああ」
挨拶するだけなら、問題ない。
「おはよう、梓乃。朝っぱらから美少女二人に絡まれるとか、ギャルゲー主人公かっ」
「おはよう、瑠璃。美少女二人って、神原は一方的だし、お前は自分を美少女とか言ってて恥ずかしくないのか」
「いやぁ、今の私は気分が良いのさ。欲しいゲームの発売日が決まり、発表されたからね」
だから、いつもとはテンションとキャラが違うのか。
「そうか。それは良かったな」
「ただ、このままだと、金欠まっしぐらになるからね。バイトすることになったよ」
「じゃあ、申請しないとな」
「うん、後で行ってくるよ」
少しの間、『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』で課金するのを止めりゃ良いのに、とは思っても言わない。
言っても無駄だから。
「……綾瀬さん、バイトしてるの?」
「してるよー。私には、いろいろとお金がいるんですよ」
神原の質問に、にこにこしながら瑠璃が答える。
「あ、神原さん。後で申請書取りに行くから、そのこと会長に伝えておいてね」
「う、うん」
凄い。凄いぞ、瑠璃。
あの神原が、瑠璃のテンションや勢いに対して戸惑っているぞ。
「お前、次でいくつ掛け持ちになる?」
「えっと……」
指折りながら数え始める瑠璃。
「ヤバい。分かんないや」
「短期間募集とかで終わったところは、申請取り消してこい。下手したら、今回受理されんくなるかもしれんぞ」
「それは困る。ついでにやってくる」
「あと、あんまり掛け持ちすると、由依と牧瀬が心配するぞ?」
俺も内心では心配している。
そもそも、バイト三昧なこいつは、どうやって『ダンクロ』の時間を確保しているのかも疑問なのだが。
「それも嫌だなぁ」
「あと、もし倒れたら、牧瀬呼ぶからな?」
「そこは普通に家族とかでしょ!? 何故牧瀬を呼ぶん?」
さすがに、牧瀬を呼ぶのは止めてほしいらしい。
そりゃあ、瑠璃の性格からすると、弱った姿なんて見せたくないんだろうけど。
「う~……なら、梓乃が倒れたら、由依を呼んでやる」
「何でだよ」
作戦とは関係ないだろ。
「あの、綾瀬さん。もし、梓乃くんが倒れたら、私が介抱するから大丈夫だよ? だから、他校からわざわざ呼ぶ必要無いから……」
「うん、でもね? 貴女に看させるぐらいなら、私が看るよ。まあ、そんなこと無いかも知れないけどね」
こっちに目を向けた瑠璃が、にっこりと笑みを浮かべる。
何を企んでいるんだ?
そうこうしている間に、担任が教室にやってくる。
ああ、今日も騒がしくなりそうだ。




