5:綾瀬瑠璃と結月牧瀬の作戦Ⅱ
「あー、今日は楽しかった」
「良い気晴らしにはなったな」
「……」
「……」
そりゃそうだろ。
あと、文句を言わせてもらえるのなら、何で恋人であるはずの俺たちより、いちゃついたり、恋人らしいのかを説明してほしい。
あれか。俺たちは何も言ってないが、『作戦はもう始まってる』的なあれか。
「牧瀬。私、嘗めてたよ。恋人経験なら私たちの方が長いのに、あの二人は付き合ってないのに、雰囲気は完全に恋人同士とか!」
「落ち着け! それは俺も思ったけど! とにかく、まずは落ち着け!」
涙目になって、「もしかして、作戦すらいらなかったんじゃ……」とまで言い出した瑠璃を宥めるのは大変だった。
途中で、「いや、お前も落ち着けよ」っていう声も聞こえた気がするが、あれは何だったのだろうか?
「それで、この後どうするの? 『白黒』に集まる?」
由依が聞いてくる。
ちなみに、『白黒』とはファンタジーVRMMO『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』のことであり、略し方は多々あれど、その一つがタイトルから『シロクロ』とも取れるので、今の由依のように『白黒』と呼ぶ人もいる(他にも『ダンクロ』とか呼ぶ人もいるが)。
「あ~、どうしよう。欲しいアイテムあるんだけどなぁ」
「俺もあるんだよなぁ。しかも、フレンド登録済みの生産職組に聞いたら、『材料足りない』『狩ってこい』『レッツ、採取!』って、親指立てられたんだぞ……」
「そのノリ、多分、あの三姉妹だよね? 何でそこに行ったし」
言わないでくれ。それに、あの三人は生産職としてのレベルが高いんだよ。
「今は確か、攻略組に対する期間限定イベント二つと、生産職組に対する素材調達イベントがあるんだよね。……ログイン、する?」
由依が顔色を窺うようにして聞いてくる。
ちなみに、攻略組の期間限定イベントの一つが、モンスター討伐時に落とされるアイテムの中に、レアアイテムがあるというものだ。
「もちろん!」
「イベント攻略も……」
「するに決まってるでしょ?」
結局、いつも通りってことか。
「じゃあ、集合は……八時から九時の間で良い?」
「どうせ明日も休みだから、二、三時間攻略に割いたとしても問題ないしな」
そう話し合った後は、とりあえず、作戦もゲームも、これからのことは状況次第だという事で、家が隣同士のためか、一緒に帰って行く梓乃と由依を瑠璃と二人で見送る。
「瑠璃」
「ん?」
「じゃあ、私たちも」と帰ろうとしていた瑠璃を呼び止める。
「どうしたの?」
「話は戻るが、正直、この状況をどうみてる?」
「どうって……」
肩を竦めて、瑠璃は言う。
「最初に話を聞いたとき、質の悪い連中が出てきたなぁ、って所だったんだけどね」
「じゃあ、今は?」
「“主人公”系たちに、『ざまぁ』してやりたいかな。まぁーー奴ら相手に、干渉はさせないよ。障害があれば燃える、なんてことはあるみたいだけど、あの二人の性格上、諦めはしなくても本気じゃなければ、無理して越えようとはしないだろうし」
ああ、本当に彼女は、よく見ていると思う。
「俺たちがもし、あの二人みたいな状況になったら、どうする?」
「さっきから、聞いてきてばかりいるけど……まあ、いいや。大丈夫だよ。私は牧瀬一筋だもん」
確実に不意打ちだったのだが……よくもまぁ、照れもせずに言ってくれる。
「あ。もしかして、照れてる? 照れてる?」
「うっせぇっ!」
瑠璃に指摘されたからか、余計に照れ隠しみたいになってしまう。
そんな俺に、今度は瑠璃がニヤニヤしながら、聞いてくる。
「牧瀬は? どうなの?」
「お前が見捨てない限り、問題ねぇよ」
「見捨てないよ。けど、そこはさぁ。『俺も瑠璃一筋だ』って、返してくれないの?」
「返してやっても良いが、言わせたみたいだって、落ち込むだろ」
前にもあったから、覚えてるぞ。
「けどまぁ……このまま、どこかに寄っていくか? 暗くなるまで、まだ時間あるしな」
「え、良いの?」
「ほら、さっさと行くぞ」
いつもなら、俺たちも帰るために分かれている時間帯なのだが、夏も近いからか、日も次第に長くなってきている。
「ちょっ、待ってよ……!」
先に歩き出せば、慌てて瑠璃が追いついてくるのだが、隣に並んだ彼女が嬉しそうに、笑みを浮かべている。
「作戦、上手く行くと良いなぁ」
「そうだな」
そのまま手を繋いで、街中を歩いていく。
俺たちが考えた作戦が上手く行くのかは、良くも悪くも俺たちにも掛かっている。
『作戦』というよりは、『心配』とか『不安』みたいですよね……