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3:葉月梓乃の問題


 由依から相談された次の日ーー同時刻……から数分前。


梓乃(しの)くん!」


 呼ばれたので振り返れば、緩いウェーブの茶髪を持つ女子が居た。


「……神原か」

「もうっ! 愛莉で良いって、言ってるでしょ?」


 頬を膨らませる彼女ーー神原愛莉(かんばら あいり)はクラスメイトなのだが、許可した覚えもないのに(彼女以外なら許可云々は関係なくなるのだが)、勝手に下の名前で呼んでくるし、逆に今みたいに自分のことを下の名前で呼べと言ってくる。


『実はねーーわたし、梓乃くんの秘密、知ってるの。だから、わたしに話して、解決方法を一緒に探さない?』


 それを聞いたとき、冗談抜きで「秘密って、何のことだ?」と思ってしまった。

 「この女、電波? ストーカー?」とも思ったから、女子の意見として瑠璃に話してみたら、何が面白かったのか、大笑いしていた。


『けど、梓乃の話からすると、まるでーー転生ヒロインみたいだね。または、ヒロイン気取りのお姫様、って所?』


 瑠璃が言ったのは、それだけ。意味が分からなかったが、それだけである。

 それに、何も知らずに出会ったりすれば、彼女の容姿上、庇護欲が湧くのだろうが、俺の場合、そんなことは無かった。近くに似たようなタイプーー由依が居たからかもしれないが(それでもまだ、由依の方がマシである)。


「ねぇ、今度の休みなんだけど……」

「悪いが、今度の休みは予定があるから、お前と過ごすのは無理だ」

「え……」


 先約済み。これは事実だから、嘘はついてない。

 というか、誰かと過ごせと言うのなら、由依たち三人を選ぶ。絶対、何かあっても誰か一人は繋がるから。


「それって、綾瀬さんも一緒……?」


 神原が言った『綾瀬さん』とは、『綾瀬瑠璃』のことで、由依の親友兼牧瀬の彼女のことだ。


「一緒だろうが、一緒じゃなかろうが、お前には関係ないだろ」

「か、関係あるよ! ……そ、そうだ! 綾瀬さんが行くなら、わたしも一緒に行っても良いよね?」


 いきなり何を言い出すかと思えば……


「どこに行くかも分からないのに、か?」

「う……」


 神原が黙り込む。


「っ、わたしっ! 梓乃くんのこと好きだから、もっと仲良くなりたいし、よく知りたいの!」

「好きだから……?」


 他の奴らから好きだと言われておいて、嬉しそうにしていた奴が、俺のことが『好き(・・)』ーー?

 その程度で、あっさり傾くと思われているのなら、俺も嘗められたものである。

 瑠璃が言っていたが、まさに『ヒロイン気取りのお姫様』だ。


「だったら、あいつらだけじゃなく、クラスの女子たちとも仲良くするんだな。じゃなきゃ、俺がお前に傾くなんてことーー絶対に無い」


 ばっさり切り捨てる。


「な、なんで、そんなこと……」

「今までのお前に対して、一切、恋愛感情すら持って無いからだ。他の奴らをモブ扱いしているような時点で、お前に対する好感度はゼロを通り越して、マイナスだがな」

「っ、」

「あーあ、今にも泣きそうじゃん。神原さん」


 今にも泣き出しそうな彼女に、棒読みだが、どこからか声がした。


「瑠璃」


 名前を呼べば、彼女は肩を竦める。


「あのね、神原さん」


 瑠璃が笑顔で話し掛ける。

 笑顔の時は、主に何かを企んでいるときだ。


「これは、さすがに知らないと思うし、可哀想だから特別に教えてあげるけどーー梓乃にはちゃんと、好きな子が居るから」

「え……?」

「は?」

「でも、困ったことに自覚が無いんだわ」


 本当に困ったと言いたげに、そう告げる瑠璃だが、一体、何を言ってるんだろうか?


「何で、そんなこと……まさか、綾瀬さんも梓乃くんのことを?」


 あ、これはマズい。


「面白いこと、言うね。つか、何で同じ高校になったってだけで、そう判断されないといけないわけ? つか、私にも他校生だけど彼氏ぐらい居ますから。だから、梓乃を彼氏にするなんてことは絶対に無いし、有り得ない」


 “絶対に無い”と“有り得ない”、か。瑠璃の奴、見事に言い切ったな。

 まあ、牧瀬一筋な瑠璃が、他の奴に惚れるとも思えないが……あ、瑠璃が彼氏持ちだと知った男共が落ち込んでいる。


 ーー牧瀬。あんまり、こっちの高校の近くに寄るなよ。俺は、大切な友人を失いたくない。


 そんな友人の『もしかしたら』に対して、無事を願いつつ、瑠璃たちの方に意識を戻す。


「あと、私たち(・・)を納得させないと、梓乃(こいつ)の彼女とは認めない」

「ちょっと待て。お前は、俺の親か」

「残念、セカンド幼馴染みだ」


 いや、間違っては無いけども。


「まあ、そういうわけだから、諦めろとは言わないけど……女子たちの敵意を無くすのに頑張るんだね。幼馴染みを全校生徒からの(・・・)敵に回したくはないから」


 全校生徒『()』ではなく、全校生徒『からの(・・・)』敵か。


「あと、分かっているのか、いないのかは知らないけど、どれだけの女子が今の貴女に味方するのかな?」


 今の神原は、奴ら以外はほぼ孤立無援。

 仲良くなれるとしたら、この状況を把握していながらも首を突っ込んできた瑠璃ぐらいだろうが、こいつは牧瀬と由依、俺の誰か一人に何かあると、すぐにすっ飛んで来るが、仮に友人になったとして、神原がピンチでも駆けつけることはしないだろう(または、遅く駆けつける)。

 これだけでも、瑠璃の優先順位ってものが、よく分かる。


「瑠璃」

「ん、そろそろ止めとくよ。あとね、神原さん」


 瑠璃は言う。


「梓乃の好きなタイプ、今の貴女じゃ、なることすら出来ないから」


 そう言うと、瑠璃は去っていくのだが。


「……タイプじゃない?」

「神原?」

「だから、ずっと、名前で呼んでくれなかったの?」


 あれ、嫌な予感が。


「おい、神原。そういう問題じゃ……」

「そっか、こんなとこに落とし穴があるとは思わなかったなぁ」


 どうやら、由依の悩み相談以外に、内容追加は決定事項らしい。





 そう思ったのが、数日前。


「何か、梓乃の方も大変だったんだね。そんな時に、私が相談したりして……何か、ごめん」

「つか、二人は悪くないだろ。むしろ、向こうからどんどん来るわけで」


 牧瀬が溜め息を吐いてるのを見ると、どうやら、由依側にも何かあったらしい。


「そうなんだよね。一応、策は考えてきてないことはないけど、効果もそうだし、相手がどう出るか」

「策?」


 そこで、笑みを浮かべるのが瑠璃だけではなく、牧瀬も浮かべていることに嫌な予感がした。

 その点については由依も一緒なのか、顔が引きつっている。

 そして、瑠璃が言ってきた。


「ーー二人とも、付き合っちゃえ」



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