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28/28

28:結月牧瀬は一刻も早く駆け付け、この騒動を終わらせたい


 ぜーはー、と息を切らしなから、必死に足を動かしていく。

 【キラーラビット・キング】の出現から、篠月(梓乃(しの))の叫びに似たような逃亡宣言で一斉に逃げ出したのはいい。だが、よりによって、こんな分かれ方をするなんて、予想外もいいところである。


「っ、」


 前衛と後衛、男と女で見事に分かれてしまったわけだが、運が悪いのか、【キラーラビット・キング】は後衛チームの方を追い掛けて行ってしまったらしい。


「……」


 自分たちが誘ったせいでこんなことになったのだと思っているのかは分からないが、ジェイドがやや(うつむ)きがちに篠月に並走している。

 俺たちとしては、こっちが一緒に行くと決めたから気にしなくても良いのだが、今そう声を掛けたところで気を使わせたとか思われても困る。


「篠月」

「ああ、先に行け」


 名前だけ呼べば、内容まで察してくれたのか、先行する許可が出る。それに「悪い」と返しながらも、そのまま振り替えることもなく、スキルを使って、後衛組が居そうな場所を捜していく。

 歌月(由依)のキャラが、まだ手の打ちようがあるであろう『ユーフィリア』ならともかく、まだレベルの低い『歌月』である以上、早急に見つけないと面倒なことになりかねない。


「くそっ、どこだよ」


 せめて、戦闘の光だとか見えれば話は違うんだろうが、どこかに隠れて、あのウサギ(・・・・・)に見つからないようにしているのかもしれない。


 ~♪


「何だ……?」


 声のような、歌のようなものが聞こえてきたので、そちらに少しずつ近づいていけば、聞こえてくる声が大きくなるにつれて誰のものなのか、聞き取れるようになってくる。


「この声……!」


 近づきながらも様子を見てみれば、やはり思った通りで、後衛組が【キラーラビット・キング】と戦闘中だった。

 攻撃しているのは七宝(瑠璃)の召喚獣たちで、そこに三人が付与なり、【キラーラビット・キング】を状態異常にしたりしているのだろう。

 だが、いつからそうしてるのか、召喚獣たちも疲弊しているようで、攻撃力が落ちてるのかキリがない。


 ーー【キラーラビット・キング】の方は、HPもまだ残ってるな。


 だったら、手助けするしかないだろう。


『ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 【キラーラビット・キング】の鳴き声なのかどうかは分からないが、高音の音がその場に響き渡る。


「っ、」


 さすがに召喚獣たちも耐えられないのか、一時的に動きが止まり、俺も止まりそうになるその足を懸命に動かすものの、今の音の効果か、七宝たちの掛けた状態異常が解けたらしい。


「状態異常解除とか……また一から掛け直しとかっ!」


 解けた状態異常を再度掛け直す三人に対し、【キラーラビット・キング】が何度もやらないとばかりに、その爪を三人へと向ける。


「ーーいつまでも、お前相手に時間を割くわけには行かねぇんだよ」


 【キラーラビット・キング】の爪が振り下ろされようとしたタイミングで、飛び蹴りを食らわせる。


宵闇(よいやみ)!」

「宵闇君!」

「悪い、少し探してて遅くなった」


 どこか嬉しそうな女性陣にそう謝りつつ、【キラーラビット・キング】に目を向ける。


「篠月たちは?」

「俺は先行してきただけだから、多分もう少ししたら来る」


 正直、前衛が俺一人でどれだけ出来るのか分からないが、やるしかないだろう。


「でもこれで、何とかなりそうね」


 それでも、俺という前衛がいるのといないのとでは違うのだろう。七宝がニヤリと笑みを浮かべる。


 ーーああ、これは。


 今まで、使えなかった手が使えるようになったのを喜んでやがる。


「篠月たちが来るまでは、出来る限り持ちこたえてやる。でも、そう期待するなよ」


 『裏方を表に立たせるとか、どれだけ人材不足なんだよ』と言いたいが、どうせ七宝のことだから、俺がそれっぽいことを思ってることを分かっているんだろう。


「もちろん」

「私も死んだら経験値なくなるから、死ぬ気で頑張るよ」


 気持ちを切り替えたらしい七宝に、言ってることが若干矛盾してるように聞こえなくもない歌月。その事に、リーンが苦笑いしている。


「それじゃ、やるか」


 そう言いながら、【キラーラビット・キング】に目を向ける。

 だからーー俺も何とか持ちこたえさせるから、絶対に間に合えよ。篠月、ジェイド。


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