27:綾瀬瑠璃は味の問題に思案し、殺人ウサギに恐怖する
ギルドで依頼を六人で行うことを受理してもらい、私たちは今【キラーラビットの討伐】という依頼を遂行するために、出現情報のあった森に来ていた。
「それにしても、キラーラビット一匹相手に、こんなに苦労するとは……」
「私としては、レベルが上がったから、まあ良いんだけどね」
「上がったって言っても、1~2レベだけだろうが」
溜め息混じりに夜営の準備をする宵闇(牧瀬)に、新キャラとしてレベルアップしたことで、どこか浮き足立っている歌月(由依)に、篠月(梓乃)が容赦なく突っ込む。
最初のうちは上がりまくってたけど、レベルが上がるにつれて必要となる経験値も増えるから、まだこの辺りでレベルアップしようとすると、レベルが上がる速度は緩やかになっていく。
「良いんだよ。最初は、こういうのの積み重ねなんだから」
「でも、結局はお前のスキルより、七宝の付与術に助けられたけどな」
「言わないでよー!」
歌月も分かってはいるのだろうが、レベルの低さや使えるスキル等の少なさから、レベルも高く、多彩なスキルを保有する『ユーフィリア』の時よりもやりづらいのだろう。
「皆さん、お食事が出来ましたよー」
歌月たちに声を掛けてきた二人ーー男の子のジェイドと、女の子のリーンが声を掛けてくる。
ちなみに、このダンクローー『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』では、一応料理や食事は出来るのだが、如何せん味が無い。
運営側は前々から『味』の問題に対し、上手く機能させ実装できるように調整中なのだが、味無しの料理の中にはHPとMPを回復させるものもあるから、プレイヤー側としては回復機能は残しておいてもらいたいものだ。
「やっぱり、このゲームって、料理の味がしないのがネックだよね。美味しそうな匂いはあるのに」
「回復素材としては優秀だとは思うんだけどな」
匂いは再現できるのに、味を再現できないのは何でだろう、と問う歌月に対し、篠月が唸る。
「「やっぱり、勿体無いよなぁ」」
歌月と篠月の言葉が、寸分の狂いもなく見事に重なる。
けどまあ、プレイヤーたちの多くが思っていることなので、早急にどうにかしたいところでもある。
ーーそれまでは、味無しの回復素材として利用させてもらうだけだけど。
食事という名の休憩により、ある程度の回復が済めば、任務続行である。
「お、何やらお出ましみたいだが、またキラーラビットか?」
前衛組が剣などを構え、後衛組が杖などを構える。
そして、現れたのはーー
「ちょっ、キラーラビットはキラーラビットでも……」
「【キラーラビット・キング】じゃねーか!」
篠月と宵闇が叫ぶ。
「うわー……」
「マジかぁ……」
一度経験済みな私と歌月はともかく、まだ初心者とも言えるジェイドとリーンはヤバい。
「っ、全員ーー」
篠月が指示するのと、キラーラビット・キングが飛び掛かるの、どちらが早かったのだろうか。
「逃げろーーーー!!!!」
篠月の叫びが、その場に響き渡った。
【キラーラビット・キング】。
キラーラビットよりやや大きいながらも、見た目に騙され、踏み潰される者多数。
そのため、正面から対峙するべからず。
そうダンクロ関連の掲示板でも注意喚起されるほどに、あいつは恐れられている。トラウマになりかけたならともかく、なったという者が出たとは聞いてないので、まだ良い方なのだろうが。
だからこそ、こいつを突破した者たちからは『初心者キラー』なんて呼ばれるのだ、あのウサギは。
そのため、掲示板などで情報を仕入れた初心者たちはキラーラビット・キングに遭遇しないようにしたり、遭遇した場合の対策をしていたりするのだが、可愛いからと何も知らずに近付けば、一気に初心者パーティが全滅させられるほどに、強かったりする。
掲示板無しで攻略することなど出来ないほどに難易度は意外と高く、いくら高レベルプレイヤーであろうと、今でもあのウサギへの警戒心は高い。というか、そのせいで『二度と会いたくないフィールドボスランキング』の上位に入るのだろうが。
ーーまあ、そんなことはともかく。
「何でこっちに来てるのぉぉぉぉっ!?」
もうやだ。このウサギ。
「しかも、どこ行った前衛組ぃっ!!」
暗殺者でもある宵闇はともかく、篠月とジェイドが居ないのはヤバい。かなりヤバイ。
「それより、あれ、何なんですかっ!?」
「【キラーラビット・キング】のこと? キラーラビットの親玉にして、プレイヤーたちから付けられた呼び名は『初心者殺し』や『初心者キラー』、少し捻ってまんま当て字のもある『殺人兎王』が有名かな」
歌月がリーンにそう説明する。
「しょ、『初心者殺し』……」
「初心者全員が全員、殺られるわけじゃないから」
歌月さん。それ、フォローになってません。
「それよりも歌月っ、キャラチェンジ出来ないのっ!?」
「無茶言わないで! ユーフィリアの現在地、どこだと思ってんの!? そこから転移して、この森に入り直さないといけないんだから、どっちみち間に合わない!」
歌月が叫ぶようにして言う。ログアウトするにも、一度足を止めなきゃいけないし、尚且つどこかに隠れる必要もある。
「駄目です。もう限界です!」
「もう少しだから、頑張って!」
歌月がリーンを励ましつつ走っているが、無尽蔵の体力なんて無いのだから、いつかは限界が来る。
今は私の召喚獣たちーー素早さ優秀組ーーが【キラーラビット・キング】を牽制しているだろうが、私も彼らに付与魔法での援護を追加しているとはいえ、それでも時間稼ぎにしかならない。
「っ、」
考えろ、考えろ、考えろ。
ーー何か手はあるはずだ。
ーー【キラーラビット・キング】の特性を思い出せ。
「特、性……?」
そもそも、【キラーラビット・キング】は完全なる初心者ではなく、ややレベルの上がった初心者たちが足を運ぶフィールドに現れるモンスターだ。
つまり、少しでもレベルが上がったーー二桁となった初心者が倒せない訳じゃない(ダンクロはレベル10までが初心者扱い)。
何故なら、私たちにだって、倒せたのだから。
それが例え、職業やスキルが変わっていたのだとしても。
「歌月っ!」
「何!」
「【キラーラビット・キング】、どうにかできるかもっ!」
逃げるのに集中していたはずの歌月が振り返る。
「遅いよ、チームの軍師様」
「その分、ちゃんと働くわよ!」
歌月と共に足を止める。
「お二人とも何を!?」
私たちが足を止めたからか、リーンの足も止まったらしい。
「もちろん」
「【キラーラビット・キング】を」
「「倒すんだよ」」
リーンの目が見開かれる。
「え、でも、私たち後衛じゃないですか! 近接戦闘はーー……」
「不安になるのは分かるけど、七宝が考えなしにああいうことは言わないから」
そう告げる歌月の目は、私にどうすれば良いのかを尋ねているーー指示を待っているのだ。
低レベルながらも【吟遊詩人】である歌月が今使えるスキルの大半は強化と状態異常の誘発。
対して、【付与術師】である私は、レベルがレベルだから、どのスキルを使うにしても、もう選り取り見取りだ。
「メイン攻撃には私の召喚獣たち。そこに、私と歌月で出来るだけ補助する」
これは、一つの賭けであり、篠月たちが到着するまでの時間稼ぎだ。
「バグが起きるのは仕方がない。このゲームは人が作った物だからね」
けれど、それが良いバグならともかく、悪いバグなら対処しなければならない。
「その目で見とけ、殺人ウサギ。ここは、お前に与えられたフィールドじゃない。もし、それでも私たちに牙を剥くつもりなら、こっちもこっちで容赦しない。それが嫌なら、さっさと決められたフィールドにーー住処に戻ることだ」
とりあえず、宣言はした。
ここからどうするのかは、【キラーラビット・キング】の判断次第だ。




