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25/28

25:如月由依の懸念事項は


 七宝(瑠璃)が宵闇(牧瀬君)に呼び寄せられている間に、篠月(梓乃)が困った顔をしながら、こちらを見ていた。


「なぁ、歌月。さっきは瑠璃と一緒になって、からかいすぎた。だから、少しでもいいから、俺と話をしないか?」

「……別に、怒っては無いから」


 そう言って、目を向ければ、「そうか」と返してくる。

 ちょっとした、小さな意趣返しのつもりだったのだ。


「もし、そうだったとしても、きちんと謝っておく。学校の方でちょっと面倒なことがあってな。それで、七宝と一緒に八つ当たりした。そのことについては、お前が許してくれたとしても変わらないことだしな」

「……真面目だなぁ」


 親しき仲にも礼儀有り、なんて言葉もあるけど、気にすることないのに。


「面倒掛けるけど、サポートは頼むよ」

「確かに、レベルアップの手伝いはするけど、サポートを頼むって言うのは、俺の台詞だろ?」

「確かに、そう言われればそうか」


 そう言い合いながらも、七宝たちに目を向けるけど、向こうは向こうで、まだ時間が掛かりそうな雰囲気だ。


「先に行くか?」

「そうだねぇ」


 ゲームとはいえ、二人っきりになれる時間があっても良いと思うんだ。

 ただ、町の特性上、二人が他のプレイヤーたちに、新人だと間違えられなきゃ良いけど。


「それで、これからどうする? 何か食べるか?」

「そうだなぁ。現時点で歌月のアイテムボックスは初期装備しか無いから、装備強化もしたいところだけど。ひとまず歌月としての所持金額を上げようかな。無いと困るけど、有っても困ることはないだろうし」

「じゃあ……目的地はギルドか」


 そのまま二人して、ギルドに向かって歩き出す。


「……」

「……」

「……」

「……そういや」


 少しの間黙っていたのだが、篠月が口を開く。


「何?」

「ん? 何だ?」

「いや、何か言おうとしたのは、そっちでしょ?」

「……あー。多分、中途半端に声が出たのかもしれん」


 気にするな、とは言われたけど、声を掛けようとして止めるっていうのは、気になるから止めてほしい。


「まあ、言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってよ?」


 いくら幼馴染みとはいえ、分からないことはあるんだから。


「ああ。お前もな」

「そうだね」


 そんなことを話していれば、ギルドに到着である。

 そのまま出入り口を通って、多くの依頼が張り出されたリクエストボードの前まで移動する。


「……うん、ゲーム開始時には『優しい』と思ったけど、高レベルプレイヤーとなった今、改めて見てみると、『低い』って、思っちゃったよ」

「まあ、『最初の町』だしなぁ」


 さて、どれにしようか。

 篠月(たち)が居る以上、多少モンスターが現れる依頼(クエスト)でも良いとは思うのだが、肝心な私が不意打ちなどで瞬殺されても意味無いので、よく吟味する。


「少しでもレベルを上げたければ、危険を承知でモンスター討伐に行くか。それとも、地道に薬草採取に向かうか……」


 原点回帰も良いと思うんだ。


「そういや、歌月の武器は何なんだ? 初期装備と一緒にあっただろ」

「ああ、それなら杖と弓だよ。職業が『吟遊詩人(バード)』と『治癒士(ヒーラー)』だから、杖は分かるけど、弓ってね……」


 でも、それを聞いて何を思ったのか、篠月が何やら考え始める。

 そんな時だった。


「あのぉ……」


 恐る恐るといった様子で声を掛けられたので、そちらに目を向ければ、中学生ぐらいの男女がそこに居た。


「あのっ、駄目だとは思ったんですが、お二人の会話が聞こえて来ちゃって……」

「それで、お二人さえ良ければ、私たちと一緒にクエストに行きませんか? 私たち、剣士と魔導師ではあるんだけど、後方支援が薄いのか、ちょっとでも強いモンスターと遭遇すると倒されちゃって」

「なるほどねぇ」


 それで、援護射撃を期待できそうな私たちに声を掛けた、ってわけか。

 私的には引き受けても良いけど、チーム(うち)騎士様(リーダー)はどう言ってくるかね。


「ーーもし、騙しやすそうだから、っていう理由で声を掛けたなら止めとけ」


 あ、やっと意識をこっちに向けたか。

 あと、ちゃんと話を聞いてくれていたようで、こちらとしては助かるんだけど、もう少し違う言い方をしようよ。


「もし、そうじゃなかったとしても、同じクエストを受けるんだ。どんな理由であろうと報酬配分はきちんとしてくれよ。こっちはパーティ持ちなんだからな」


 いや、間違ってはないんだけど、肩を組むようにして手を置くのだけは止めてほしい。


「ごめんね。以前(まえ)に似たようなことがあって、警戒してるだけだから」

「は、はぁ……」


 べりっと肩にあった手を剥がし、笑顔で言えば、二人には困惑したような顔をされる。


「それでね、君たちが受けた依頼の確認をしても良いかな?」

「あ、はい」


 依頼(クエスト)の画面が、こちらに向かって展開される。

 内容としては、初心者用の討伐クエストではあるのだが……


「……【キラーラビットの討伐】か。でも、【キラーラビット】って、この辺で出たっけ?」

「俺の記憶が正しければ、次か次の街近郊辺りで出るはずなんだがなぁ」


 肝心の討伐対象が問題だった。

 アップデートやメンテナンスで変更されたならまだしも、最近はされていないし、通知も無い。そこについては『ユーフィリア』として、確認済みだ。

 新人さんのみへの通知というのもあるが、『歌月』の方にもそれらしき通知はない。


「考えられるとすれば……バグ?」


 私たちには、それぐらいしか思い浮かばないが、七宝たちなら何か気付いてくれるだろうか。


「それは無いかな。ダンクロ(ここ)の運営は、一度プレイヤーから何らかの報告があれば確認し、すぐに対処するから」

「来たのか」


 七宝の言葉に、篠月がそう返す。


「で、この子たちは?」


 いきなり現れ、声を掛けたことで、二人が驚いているのを余所に、七宝が聞いてくる。


「どのクエスト受けようか迷ってたら、一緒に受けないかって、声を掛けられたんだよね」


 だって、事実だから、嘘は言ってない。


「内容は?」

「【キラーラビットの討伐】」

「ああ……」


 だから、そんな話をしていたのか、と宵闇が納得したらしい。


「それで、どうするつもりだ? 今回はお前のレベルアップが目的なんだから、お前が決めろよ」

「そうよねぇ。今日はどれだけ上げられるのかは分からないけど、上げられるところギリギリまで、丸々費やすつもりだったし」


 あ、決定権丸投げですか。


「でも……うん、そうだね。一緒に行こうか。現状は見ておきたいし」

「そうと決まれば、受付に行かないとな。合同で受けることにしたんだし」


 準備運動みたいな動きをする篠月と七宝に、誘ってきた二人が顔を見合わせ、申し訳無さそうにする。


「こちらから頼んだこととはいえ……良いんですか?」

「良いも何も、本日の行動決定権を持つこの子が決めたんだから、私たちには文句ないよ」


 いつから存在してたんですかね、その決定権。


「あと、このゲームの先輩たちが引き受けて、サポートしてやるんだ。やるからには、依頼達成を目指すぞ」

「は、はい!」


 ……大丈夫かなぁ。このメンバーで。


「……」


 とにもかくにも、私は自分の出来る範囲で、全力でサポートさせてもらおう。




次回から、あの後瑠璃に何があったのか、ダンクロでの合流前までのことを、梓乃視点で(何回かに分けて)お送りします。


この後は、おそらく今回のように時系列がややこしいことになることは無いと思います。……多分。



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