24:結月牧瀬は銀髪エルフ(如月由依)と会話する
目の前にいる銀髪エルフに、不思議そうな顔をされる。
というのも、彼女はファンタジーVRMMORPG『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』ーーダンクロにて、俺たちのチームにいない回復職を取得するために、キャラクターメイキングで別キャラとして追加(プレイヤー一人につき三つまで作成可能)した由依ではあるのだが、キャラクター自体がレベル1であるが故に『最初の町』に彼女は居たのである。
レベルが2にならない限り、いくら『ユーフィリア』としてのレベルが高い由依とはいえ、他の町に行けないのである。
で、だ。
「ユーフィリア、か?」
「うん」
あっさり頷かれた。
ちなみに、職業のメインは『吟遊詩人』、サブで『治癒士』にしたらしく、当分の間は集中的にレベルアップする予定だと言う。
「読み方は『歌月』で良いんだよな?」
「うん。まあ、元々『ユーフィリア』だけのつもりだったから、こっちの名前を決めるのが大変だったけどね」
「ま、分かりやすくて良いんじゃないか?」
とりあえず、じっとしているわけにもいかないので、移動を開始する。
「それで、他の二人はどうしたの?」
「篠月と七宝の二人なら、まだ来てない。つか、遅れるってメールが来た」
「あー、じゃあ私は見てないかもなぁ。メイキングだけで意外と時間掛かってたし」
まあ、納得してもらえたようで何よりである。
どうやら、由依が『ユーフィリア』と『歌月』というキャラクターを作ったことで、前者がメインキャラクター、後者がサブキャラクター扱いになったらしい。
「一人でモンスターを倒せるぐらいにはなりたいけど、『吟遊詩人』も『治癒士』も後衛職だし、魔導師系みたいに魔法攻撃も出来ないみたいだからなぁ。今は宵闇が一緒だから良いようなものだけど」
このキャラとして慣れるまでは厳しそうだ、と由依は言う。
「まあ、一人で戦えるようになることについては同意するが、最終的に物理で倒そうとするのだけは止めろよ?」
「んー、でも『ユーフィリア』では、やったことないから大丈夫じゃない?」
「なら良いがな」
まあ、由依……歌月がそう言うなら、大丈夫だろう。
問題はそこじゃない! とかツッコまれそうでもあるが。
「でもでも、宵闇の言葉は頭の片隅にでも残しておいた方が良いわよ。新人さん?」
聞き慣れた声がしたので振り返ってみれば、やっぱりというべきか、七宝たちが居た。
「私、新人じゃないんだけど。分かってて言ってるでしょ」
歌月がジト目で言う。
歌月と合流したとき、俺が七宝たちに歌月の見た目だけは伝えておいたし、俺自身も一緒だったから、すぐに見つけられたんだろう。
「それにしても、本当に銀髪エルフなんだな」
「金髪でも良かったんだけど、そうなるとみんなが捜すのに苦労するでしょ?」
自身の銀髪を手に持った歌月が、そう聞いてくる。
確かに、銀髪エルフよりは金髪エルフの方が多いと言えば多い。
「それで、これからどうするの?」
「当分の間は、歌月のレベルアップに付き合えば良いだろ」
「うん、それは良いんだけど……読み方って『歌月』なの? 『歌月』じゃなくって?」
あ、やっぱりそこが気になったか。
「宵闇も聞いてきたけど、どっちでも良いよ。呼びやすい方で」
漢字変換する時は『かげつ』で変換できたから、宵闇にはそれで良いって言ったけどね、と歌月は付け加えて言う。
「むー、時々居るよね。読み方に困る人」
「まあ、困らせたくて付けたわけじゃないんだろうが、本人がどう言うかで、俺たちもちゃんと呼べることがあるからな」
あまり追い詰めてやるなよ、幼馴染み組。
「……もう、『歌月』でいいよ」
歌月の諦めが早かったーーつか、早すぎた?ーーというべきか、七宝たちの粘り勝ちというべきか。
この二人にからかわれた歌月には、同意せざるを得ないのだが。
おい、そこの二人。嬉しそうに(謎の)ハイタッチするな。歌月が地面に『の』の字を書き始めてるから!
「……どうせ、また聞かれるさ。振り仮名無いし」
「いや、俺たちが呼んでれば、知り合いやフレンドメンバーはちゃんと呼んでくれるだろうし、間違うことは減るんじゃね?」
「でも、間違えて覚えられたら、それはそれでショックだし。みんなにどっちでも良いとは言ったけど、自分が呼ばれているんだと反応できなければ意味が無い。そんな名前にしたのは自分なのにねぇ」
あははー、と空笑いした後、どんよりと落ち込む歌月。
「……」
何て声を掛ければいいのか分からないが、とりあえず、だ。
「楽しそうなところ悪いが、歌月がガチで落ち込んでるし、もし励ますつもりなら、お前らでどうにかしろよ?」
あと、俺は手を貸すつもりはない。歌月自身が二人にやり返している可能性もあるし、俺は一応声を掛けた。
「……」
「……」
二人が互いの顔を見合わせる。
つか、今の俺の立場って、普通は歌月の幼馴染みである篠月がするもんじゃないのか?
まあ、それは後でも良いんだがーー
「歌月。レベルアップ、しに行こうか」
七宝よ。それはいかん。
今、歌月が見て見ぬ振りをしたぞ。
「歌月。後で少し話そう。リアルの方で」
おや……?
「私に話すことは無い」
篠月のお誘いをばっさりと切る歌月。
いや、反応したといえば、反応はしたのだが。
「やーい、振られてやんのー」
「七宝。お前は少し黙ろうか」
今、七宝に口を挟ませると話が進まないから、ちょっと、と歌月たちと距離を取る。
「何かあったのか?」
「何も無いけど、どうして?」
七宝が、質問を質問で返してきた。
「何か無い限り、お前が歌月をあんな風になるまで弄らんだろうが」
どちらかといえば、七宝は歌月が好きで可愛がっている節があるからか、甘やかしたり駄目なものは駄目だと言ったことはあったとしても、ここまで極端なことをすることは無かった。
「さあ、キリキリ吐け」
「宵闇が優しくなーい……」
文句なら好きなだけ言えば良い。だがなーー
「俺にも話せん内容か?」
「あー、うー……」
目をあちこちに向ける七宝。
これは……学校の方で何かあったな?




