23:綾瀬瑠璃が逃亡途中に見たものは
ーー根比べ。
確かに、神原さんと生徒会と根比べをするとは言ったが、これはどうしたものか。
「あんたさ。ちょっと自分がちやほやされてるからって、役員の皆さんを顎で使ってるんじゃないわよ!」
「そうよ! 自分が頼めば、何でも聞いてもらえると思ったら、大間違いよ!?」
「私はそんな……」
「あんたにそのつもりが無くても、私たちにはそう見えてるのよ!」
みんなが私を捜している間に、どさくさに紛れて、詰め寄る彼女たちは神原さんをこの場に連れてきたらしい。
さて、こういう場合、どうすることが正解なのか。
彼女たちの言い分は間違ってはないが、人があまり来ないようなこの場所に連れてきたのはマズい。
下手したら、彼女たちが隠れて神原さんを虐めているようにも見えるし、もしこの場に役員たちが来れば、いじめの主犯にもされかねない。
けれど、下手に助けに行って、神原さんに捕まりたくもない。
「ありゃ、完全に捕まっちゃってるねぇ」
隣から声がしてそちらを見れば、にっこりと笑顔を向けられた。
な ん で 居 る ?
「……助けないの?」
「そっちこそ。寧ろ、ずっと見ていた君が助けるべきなんじゃないの?」
どうやら、ヤバいと思える状況になるまでは、見守るつもりらしい。
つか、私がずっと見ていたことを知っているってことは、こいつもずっと見ていたってことだよな?
「見ていたのなら、そっちも一緒でしょ」
「まあね」
否定しないのか。
「それに、私が助けるよりも、君が助けた方が彼女の好感度も上がると思うけど?」
神原さんを振り向かせたいのなら、私よりも隣にいる奴が行くべきである。
「そりゃあ、会長や副会長たちには負けたくないけどさ」
そこで一度、言葉は切られる。
「ようやく見つけたのに、捜し人である君に逃げられても困るんだよねぇ。綾瀬瑠璃さん」
やっぱ、そっちが目的か。
「生徒会書記の君に知ってもらえているとは意外だね。来栖輝君」
「へぇ、明らかに興味なさそうな雰囲気を出していながら、こっちのこと知ってるんだ」
意外そうな顔をしているところ悪いが、お前の校内に於ける知名度を嘗めるなよ?
「完全にではないけど、興味ないのは事実だよ。でも、否でも情報は入ってくるし、神原さんが君たち役員の誰とくっつこうが構わないけどーー」
奴に目を向ける。
「私の友人を、君たちの騒動に巻き込ませるな。誰でも良いから、あの子の手綱を握っておけ」
『友人』というのは梓乃の事だ。
鬼ごっこが終わった後に、また梓乃の元に突っ込まれても困る。
目を見開いて、驚きを露わにする来栖書記は放っておいて、その場から去った彼女たちを見届ければ、もうこの場所に用は無い。
呆然状態の神原さんは、こいつがどうにかしてくれるだろうし。
ある程度、奴らから離れれば、いつものメンバーに『少し遅れる』と連絡しておく。
ファンタジーVRMMORPG『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』ーーダンクロで会おうって、待ち合わせしてるからね。
「さて、と」
何を思ったにせよ、彼ら(というか、主に来栖書記)が教室に来られても困るので、手を考えなければならない。
「ゲームみたいにセーブもリセットも出来ない以上、覚悟するか」
牧瀬たちの顔を思い浮かべれば、どんなことでもどうにか出来そうだ。
「前門の虎、後門の狼なんて上等。私は『綾瀬瑠璃』なんだから、何があっても大丈夫。何とかなる」
だからーー
「何か用?」
まずは、こそこそと隠れている人たちの相手をしなくては。




