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22/28

22:綾瀬瑠璃は逃亡する


「綾瀬さん、見つけた!」


 そんな声が聞こえてきたとき、頭が一気に冷静になった。

 引っ張られた頬なんて、もうどうでも良いぐらいに、私は彼女ーー神原さんに捕まりたくないがために、その場から走り出していた。


「ちょっーー」


 『傍観者』の身体能力を()めるなよ? いつ如何(いか)なる時も『傍観』という任務を遂行する。そのための技術や能力なら、遠慮なく取得し、その都度(つど)生かしてきたのだから。

 けれど、相手は『主人公(ヒロイン)』である。それも、『転生者』という『イレギュラー』であり、自身が主人公であると理解しているタイプの。

 厄介なこと、この上ない。


「さて、どうしたものか」


 あの時は由依たちの危機に気を取られて、まともな判断が出来なかったが、あの時のあれ(・・)は、今となれば悪手(あくしゅ)だと分かる。

 おかげで、どういう意味なのかを知りたいであろう彼女に、現在進行形で追い掛けられているのだが。


 ラノベとかの物語によくある、傍観や観察していたらその対象者に見つかりました、的な事は今の所は無いが、今となっては、それはもう時間の問題な気がしてきている。


「うーむ……」


 下手に手出しすれば、こちらの首を絞めかねない。

 だから、私としては、神原さんが根負けしてくれるまで待ってるしかない。





 ーーそう思っていた時が、私にもありました。


「やあ、綾瀬さんって居るかな?」


 神原さんがやってくださりやがった。

 では、何を。

 私を捕まえるのに一人じゃ無理だからって、援軍を呼んだのだ。

 その気持ちは分かる。

 だから、そこは妥協しても良かったのだが、その『援軍』というのが問題だったーー『攻略対象者』という援軍で無ければ。


 校内の人気者でもある彼らも捜し始めれば、彼らが誰かを捜しているという噂は瞬時に広まった。

 捜している相手が女子生徒(わたし)だと分かったときは、同性のクラスメイトたちも興味や嫉妬心などからか、見つけたら彼らに引き渡すついでに自分のことを覚えてもらおうと画策してる人たちもいた。おおぅ。


 けどさ。捜索対象である私は『作戦担当』にして『参謀』なんですよ。自分の身は自分で守ります。


「そういや、瑠璃。お前を捜す奴らにも、一応のルールはあるらしいぞ」

「何ですと?」


 梓乃が教えてくれたのは、私が完全に帰宅したと分かれば、その日の捜索は終わりとのこと。特に興味が無い人を中心に、部活、塾や予備校、家の都合があるという人もいるので、帰宅する人もそれなりにいるし、自動的に解散するとのこと。


「あと、お前の名前は出されていない」


 神原さんが伏せてくれているのか、攻略対象者たちが伏せてくれているのかは分からないが、それでも思ってしまうのは、彼らの影響力の強さ。いくら私が『傍観者』とはいえ、正直に言って、今まで関わらずにいて本当に良かった。


「けどまあ、油断大敵だぞ。逃げ切ったと思ったら、その背後に実は……って」

「うへぇ、冗談でも()めてよ」


 本当になりそうじゃないか。つかもう、フラグが立ってしまった……?

 けど、私は興味を持たれて、ちょっかいを出されたとしても構わない。だって、私には牧瀬が居るから。


「おうおう、今こうして恋人が大変だって言うのに、牧瀬は幸せもんだな」

「梓乃は遠回しに、牧瀬(親友)をディスらなーい」


 慣れたような態度の梓乃にそう返す。


(むし)ろ梓乃は、相手が由依でも良いから、早く彼女を作れ」


 いや、私と牧瀬的には、由依が梓乃の彼女になることが理想なんだけども。ーーなんて考えていたものだから、避けられなかった。


「うるせぇ。リア充はその口、閉じろ」

「痛い痛い痛い。ギブギブギブ」


 がっしりと、頭にアイアンクローである。顔を避けてくれているのは有り難いが、痛い。超痛い。

 本当、梓乃と一緒に居るときの私はこういう役回りだが、幼少時や小学校からの付き合いでなかったら、おそらくこんな事はされなかっただろうし、してもらえなかっただろう。


「四人一緒か、梓乃と由依、私と牧瀬のペアで分かれていたらどうなってたかな?」


 梓乃のアイアンクローから解放されたのだが、ふと気になったので聞いてみる。何か似たようなことを、前にも話したような気がするが。


「お前ら二人だけが一緒だと、バカップル並みに拍車が掛かってただろうな。どちらの高校だったとしても、四人一緒ならーーいろいろ出来ただろうし、もっと楽しかっただろうな」


 多分、梓乃は今、『四人一緒の高校に通っていたら』っていう、『もしも』を想像したのかもしれない。


「そうだね。分岐した平行世界があるなら、さっき言ったことがある可能性もあるかもね」


 この世界の『観測者』である私は、平行世界とはいえ、他の世界のことは知らないけどもーーそういうことを想像するのは、自由だろうから。


「さて、と。そろそろ捜しに来そうだし、私は逃亡させてもらいますね」


 そう言って、そのまま梓乃と分かれて、別の場所に移動する。


「彼らに捕まっても厄介、逆に捕まりに行っても厄介とは……」


 前門の虎、後門の狼とはこのことか。

 けれど、私としても、やっぱり捕まるわけにも行かないからーーさて、根比べと行こうか。



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