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2:如月由依と結月牧瀬の困惑


 梓乃に相談した日の翌日。


「よぉ、由依」

「あ、牧瀬君」


 タイミング良く通学路で会う。


「おはよう。でも、どうしたの? いつもは、もうちょっと遅いじゃん」

「あー、昨日メールしてきただろ?」

「うん」

「瑠璃だけじゃなく、梓乃からも『今週中ぐらい、由依と一緒に登校してやれ』って来てさ」


 なるほどね。


「何か、ごめんね。牧瀬君のペースってものもあるのに」

「気にするな。むしろ、お前に何か遭ったら瑠璃だけでなく、事情を知った梓乃も怖い」


 それは……うん、申し訳ない。

 そのまま二人で、昇降口に向かう。


「あ。おはよう、如月さん」

「……お、おはよう」

「……」


 事情を知ってるために一緒に登校しているからか、私の隣には牧瀬君が居るのだが、(多分)気づいていながら、あっさり無視したぞ、この男。


「じゃあ、せっかくだし、一緒に教室まで行こうか。如月さん」


 笑顔を浮かべてはいるけど、牧瀬君の事は、やっぱり無視するらしい。


「あ、私は良いよ。牧瀬君と一緒に行くし」


 いくら同じクラスとはいえ、一緒に行くのは拒否したい。

 これ以上、巻き込みたくはないけど、どっちかと一緒に行かないといけないなら、牧瀬君とが良い。

 最初、同じ高校になってしまったとはいえ、何か瑠璃に申し訳なかったが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「そんなこと言わずに、ほら」

「いや、本当に……」

上郷(かみさと)。お前、由依に拒否されてること、分かってるか? このままだと、マジで嫌われるぞ?」


 牧瀬君がそう言うが、残念なことに効果がない。

 上郷光幸(かみさと みつゆき)

 彼こそが、私に告白してきた人物であり、ある意味ストーカーな人である。


「『幼馴染み』というだけで、一緒に居られる君には関係無いだろ。僕は如月さんと仲良くなりたいだけだし」

「こっちは『幼馴染み』だからこそ良く知ってるし、ストーカー紛いなことしておいて、由依が本当に困ってるって、分かってるのか?」


 あ、これ、ヤバいやつだ。

 あと、瑠璃。ごめん。


「牧瀬君。ほら、行くよ。まともに相手してたら、一緒に遅刻するから」

「ああ、そうだったな」


 牧瀬君の手を引いて、一足先に教室に向かう。

 ここまで来ておいて、遅刻とか嫌だし。


「それにしても……このこと知ったら、瑠璃に怒られるんだろうなぁ」

「何か、本当にごめん。こうするしか無かったから……」


 だから、繋いだ手を見るのは止めてほしい。


「けど、いつ以来だ? 俺たちが手を繋いだの」

「中学で一回あったのは覚えてるよ」


 主にくじ引きによる組み合わせだったけど。

 そう話している間にも、教室に着いたので手を離す。


「いやぁ。それにしても、綾瀬さんには是非、この場に居てほしかったわねぇ」

「黙れ、元・新聞部」

「今でも、新聞部だけど?」

「えーっと、紅林(くればやし)さん?」


 聞こえてきた声に、目聡く気づいた牧瀬君が即座に突っ込み、あっさり返す彼女は、何しに来たのだろうか?


「ん? ああ、朝っぱらからご苦労様、ってね。あと、ネタ提供に感謝」

「うるせーよ。俺たちを賭けの対象にしやがって」

「大金賭けてないから良いでしょ?」


 紅林さんが開き直ったように言う。


 ちなみに、賭け(というよりはアンケートに近い)と言っても、三つある。

 1、私が上郷君から逃げきれるかどうか。

 2、上郷君が私を捕まえられるかどうか。

 3、思わぬ第三者が参戦してくるか否か。


 最後の『3』に関して、『第三者』が牧瀬君のことだと思われているが、同じ中学出身者たちは違うらしい。


「私たち、同じ中学出身者からしてみれば、葉月君に参加して貰いたいところね」

「聞いて喜べ、紅林。梓乃はもう巻き込まれたぞ」


 それを聞いた紅林さんが、振り返る。


「それはつまり……?」

「結月! 葉月の参戦ってマジか!?」

「え、何? どういうこと?」


 梓乃が巻き込まれた(・・・・・・)ことに喜ぶ事情を知る同じ中学出身者たちと、戸惑う高校から知り合った人たちの反応の差が酷い。

 それにしても、朝から元気な奴らである(人数に関しては、半分が登校済みである)。


「これは何の騒ぎかな、如月さん」


 上郷君が教室に来たらしい。


「あのね。単に、君のライバルが増えるって話」


 紅林さんが何の問題もなさげに、あっさり告げる。


「ライバル……?」


 そこで牧瀬君を見る辺り、上郷君が彼をどう思っているのか、丸分かりである。

 肝心の彼は、彼女持ちだというのに。


「俺じゃねーよ?」

「もしかして、さっき言ってた『葉月』って奴のことか?」


 やっぱり、聞いてたんだ。


「君よりは、本命に近いんじゃないかな?」


 紅林さん、容赦ない。

 あと、本人の前で言うことでもないと思うんだ。


「本命……」

「何より、本人が否定しないもんねぇ」


 あ、今後のためにも否定した方が良かったのか。

 けど、梓乃が相手かぁ。そういえば、そういう対象としては考えたこと、無かったなぁ。


「……」

「あら、意外と満更でもなさそうね」

「んー……まあ、気にしたことは無かったんだけどね」

「由依。可哀想だから、あいつには言うなよ?」


 言わないよ?


「お前らー、そろそろ始めるから席に着けよー」


 教室に来た先生の言葉に、みんなが席に着き始める。


「如月さん」

「ん?」

「また後でね」


 また後で(・・・・)、か。


「由依。打ち合わせしたいから、昼休みには早めに抜けろよ」

「ん、分かった」


 牧瀬君に言われ、頷く。

 とりあえず、こちらで決められることは、決めておかないとね。


   ☆★☆   


『こいつは、如月由依。同じクラスだから、名前ぐらいは知ってるだろうが、まあ、六歳からの付き合いだから……幼馴染みって奴だな』

『よろしくね』


 如月由依という少女とは、葉月梓乃を通じて知り合った。


『私、綾瀬瑠璃。瑠璃でいーよ。由依とは親友なの。だから、由依を泣かせるなよ? 男共』


 綾瀬瑠璃という少女とは、由依を通じて知り合った。


 小学校から始まった付き合いが、こんなに長くなった『きっかけ』は、クラスが同じになったことと由依と梓乃が幼馴染みだったことだろう。

 何だかんだでリーダー的役割になる梓乃に、作戦を立てたりするのが得意な瑠璃。天然混じりの由依は、俺と一緒に呆れたり、暴走しがちな二人を止めるのが主だった。

 あれから変わったことがあるとすれば、俺と瑠璃が付き合っているということだが、報告したときは梓乃と由依も「おめでとう」と祝福してくれた。


 それなのに、通う高校はバラバラになった。

 苦労人同士を一緒にする奴がどこにいる。

 梓乃と瑠璃の場合、おそらく苦労するのは瑠璃で、俺と由依の場合は俺が苦労する。意外な発見だが、こんなことで似たくなかった。


「牧瀬君?」

「……ああ、うん。頑張ったんだな」


 名前を呼ばれたので振り向けば、ボロボロの由依が居た。

 どこを通ってきたんだ、と聞きたくなるぐらいのボロボロ感である。


「頑張ったよ。念のために、庭園とお嬢様方の間を突っ切ってきたから」

「うわぁ……」


 『庭園』と言っても中庭なのだが、いろんな花があることから、『中庭』より『庭園』と呼ばれるようになったんだとか。

 ちなみに、由依が言った『お嬢様方』とは、上郷のことが好きな女子たちのことである。

 それにしても、『庭園』と『お嬢様方』がいくら上郷を警戒してのことだろうと、もう少し手はあっただろうに。


「じゃあ、時間も無いし、話し合いだが……ッツ!?」

「どうしたの?」

「いや、ちょっとゾクって来ただけだ。それよりも、どうする。このまま伝えるか?」

「んー、その方が良いかも。まあ、私たちで案を出しても良いけど、作戦立案に関しては、やっぱり瑠璃には(かな)わないし」


 否定はしない。

 だが、瑠璃にも限界はあるし、彼女の(そば)で見ていた俺や由依に、作戦立案が出来なくもないのだが。


「けど、この状況は変えたいなぁ」

「だな」


 そのまま、二人で外を見る。

 まずは、週末の話し合いからだ。



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