19:如月由依は、葉月梓乃たちとともに話を聞くⅠ
週末ーー今週の土曜日。私たちはとある場所に居た。
というのも、瑠璃から口止めも兼ねての事情を聞くためなのだが、「別に誰かに聞かれた所で、何かの設定とかオタクとかの集まりに思わせられるから、場所はどこでも良いよね」という困るのはそっちだろうに、どこか開き直ったような瑠璃の言葉で、それなら、と場所の提案したのは私だった。
「みんな、いらっしゃい」
「あ、由乃さん」
笑顔で声を掛けてきたのは、我が姉・由乃である。
この場所ーーファミレスの従業員であるお姉ちゃんは、今では違うが、それでも私とよく似ているため、時折間違えられる。
そんなお姉ちゃんの居るこの場所を選んだのは、こちらに向かっているだろう上郷君(たち)に、以前会ったのは私じゃなく、お姉ちゃんであることを教えるためだ。
「それにしても、本当に仲が良いよねぇ」
「……お姉ちゃん。注文、聞かなくていいの?」
羨ましいわぁ、と言いそうなお姉ちゃんに注文のことを聞けば、表情が仕事モードに切り替わる。
「それでは、お客様。ご注文をどうぞ」
「それじゃ……」
最初の注文を終え、お姉ちゃんが奥に伝えに行くのを見送る。
「そういや、この並びで良いのか? 瑠璃と牧瀬は隣同士でも良かっただろ」
「良いの良いの。それに、あと二人来るのに合コンとかと間違えられる方が嫌だし」
「ん? それは、梓乃と牧瀬君が隣同士の場合でしょ? 合コンみたいに見せたくないのなら、私と梓乃が隣同士でも大丈夫じゃない?」
今は私と牧瀬君、梓乃と瑠璃のペアが向かい合っている状態なんだけど、そんな私の言葉に瑠璃は固まり、そっと目を逸らす。
「まあ、それもそうなんだけど……あと二人をどこに座らせるかを考えたら、説明する私は真ん中の方が良いんじゃないかと」
「自分で逃げ道塞ぐんだな」
「だって、仕方ないじゃん! 私、あの二人の事よく知らないし、それなら彼らと同じ学校生である由依か牧瀬にフォローしてもらわないと駄目だって、思っちゃったんだから!」
「あーうん、そうだな。俺たちに分かりやすく説明するために頑張ってたんだから、席順まで気が回らなかったんだよな。うん」
今にも暴れ出しそうな瑠璃を、彼女の正面に居た牧瀬君が宥めに行く。
「で、だ。由依や牧瀬から大体のあらましは聞いたが、本当に使えるのか?」
「異能のこと? 使えるよ。今でも余裕で」
さすがの瑠璃も、人目が多いファミレス内では、一瞬でも使うことが出来ないらしい。
そんな話をしていれば、上郷君と科里さんがやってくる。
「えっと……」
「あ、上郷君は牧瀬君の、科里さんは瑠璃の隣に座ってくれるかな」
どうやって座ろうか迷っているらしい二人に、そう促す。
もし、上郷君を瑠璃の隣に、科里さんを牧瀬君の隣に座らせたら、私たちの居心地が悪くなりそうだからだ。
「とりあえず、自己紹介からしていこうか」
……何で、私が仕切ってるんだろう。
梓乃に目配せすれば、俺からかと言いたそうな目を返される。
「葉月梓乃だ。まあ、こっち三人とは幼馴染みだ」
「葉月? 葉月って、あの時に名前が出てた?」
げっ、忘れてた。
思わず、牧瀬君と見合ってしまう。
「あの時?」
「……あ、あー! あの時か」
梓乃の事情を問うような眼差しに、牧瀬君が思い出したような声を上げるけど、わざとらしいよ。
「二人とも、忘れてるみたいだから、追及は後回し。で、次は私か」
瑠璃がこほん、と小さく咳払いして名乗る。
「綾瀬瑠璃です。二人とはこの前会ったから、顔は覚えてるよね?」
「あ、はい」
瑠璃のことを知らない人は、大体最初は丁寧に話す。
それでもまあ、彼女の本性を知る私たちからすれば、そんな必要は無いんだけどなぁ、と思うんだけど。
「こっちの二人については、みんな知ってるからしなくて良いとして……」
次は上郷君たちの番である。
「えっと、上郷光幸です。如月さんたちとは同じ高校で同級生です」
「科里香織です。光幸の幼馴染みで、同じ高校よ」
こうして、私たちを除くそれぞれの名乗りが終われば、話題は集まった切っ掛けでもある『本題』へと移行する。
「お待たせしました」
けれど、そんな簡単に行くはずもなく。
「……? どうかした?」
注文の品を持ってきたお姉ちゃんを見た上郷君の目は驚きに染まったまま見開かれ、お姉ちゃんはお姉ちゃんで不思議そうにしていて。
科里さんも驚いてはいるけど、上郷君の様子に何かを理解したようで。
「えーっと……由依?」
お姉ちゃんから困ったように呼び掛けられたことで、上郷君たちの目がこちらを向く。
だから、私は二人に言うしかない。
「名札から分かるとは思いますが、私の姉です」
と。




