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17:結月牧瀬と現れし者たち


「そうは思わないか? 『如月由依(イレギュラー)』」


 偶然ーーそう、偶然だが、由依と上郷の会話を聞いてしまった。

 そして、この場にはーーというか、俺の隣には、上郷の幼馴染みである科里香織(しなさと かおり)も居た。

 由依と上郷が一緒に居ると知り、最初は邪魔をしようとしていた科里も、二人の会話を聞いているうちに黙り込み、教室内から帰ろうとする雰囲気を感じ取ってからは、こちらも帰るために立ち上がろうとしていた。

 だが、廊下で立ち聞きをしていた俺たちに気付かれず、教室内へ現れた神谷の声に、俺は思わず科里と顔を見合わせることとなった。


「あれって、神谷、だよね?」

「つか、どうやって入ったんだ? 教室のどこかにずっと隠れていたとは思えないんだが」


 いくら意識を教室内に向けていたとしても、教室の前に居た俺たちが気付かないはずがないのだが。


「ーー……」


 でも、ひしひしと嫌な予感だけはしていた。


「その前にーーどうやって俺たちに気付かれずに、教室内に現れたのかを教えてもらいたいんだが……構わないか? 神谷」


 分からないことについては、単刀直入に聞いてみるに限る。

 そんな適当なことを言いながら姿を見せてみれば、隣に居た科里がぎょっとし、俺の後ろからそっと教室内へと顔を覗かせる。


「立ち聞きか?」

「制服姿じゃなく、確実に怪しまれる黒装束のお前よりは十分マシだと思うが?」


 正直、どっちもどっちだろうが、今は棚上げさせてもらう。


「牧瀬君?」

「香織?」


 二人揃ってようやく、こっちに気付く余裕が出来たらしい。


「そういえば、結月はあの(・・)『傍観者』の恋人だったか」


 それだけ言われれば、誰のことを言っているのかなんて、いやでも分かる。

 そして、由依も神谷が誰のことを言っているのかを理解したのか、表情が変わる。


「っ、だから、さっきから何言ってるんだよ! お前が言ってること、何も分かんないぞ!」


 上郷が神谷に噛みつくが、神谷は上郷の問いには答えない。

 そもそも何故、神谷は由依を『イレギュラー』、瑠璃を『傍観者』と呼んでいるのだろうか。


「神谷。俺も一つ聞いていいか?」

「何だ」

「由依が『イレギュラー』、瑠璃が『傍観者』なら、俺にもあるんじゃないのか?」


 もちろん、梓乃にも。


「ああ、あるぞ?」


 ニヤリと笑みを浮かべる神谷に、やっぱりな、と思う。

 ずっと四人で一緒に居るのだから、面々の違和感とかに気付かないはずがないし、何より『ダンクロ』が関係してそうだから、何とも言えない。


「結月牧瀬。お前はーー」

「ねぇ、神谷君」


 由依が、珍しく静かに遮る。


「これって、長くなる?」


 時間を確認してみれば、最終下校時刻ではないが、そろそろ帰らないといけない時間ではある。


「そうだな。全てはお前たちの返答次第、と言いたいところだがーーまずは、この教室から出られるといいな」


 さて、どうしたものか。

 俺と科里が入って以降、開いていたはずなのに、いつの間にか閉まっていた教室の扉を開けようにも開かないことは、由依が神谷と話している間に確認済みだ。

 由依と科里だけでも、どうにかして廊下に出してやりたいが、本当どうすればいいのやら。


「閉めたのは、あんたでしょ!? だったら早く出してよ! 私たち、無関係でしょ!?」

「無関係、か。一体、何を言ってるんだ? 関係してるから、開かないんだよ。それが分からないのか?」


 科里が噛みつくが、やはりというべきか効果は薄い。

 由依も由依で、不安そうにしながらも、時折こちらを見てきている。

 だだ、それぞれの手元にあるのは、カバンとその中に入っているものだ。これだけで簡単に脱出できるとは思えない。


「っ、」


 これで、『ダンクロ』的な世界だったら、もう少しどうにか出来たはずなのにーー……


「さあ、ここから脱出するために、頑張って頭を回転させるんだな」


 神谷がニヤリと口角を浮かべる。


「神谷君。もう一つ、確認させてくれないかな。もしこのまま最終下校時刻になったら、どうするつもりなのかな?」

「どうもしない。そのままで居るだけだ」

「夏とはいえ、外は暗くなるし、電気を点ければ先生たちが来る。その辺も抜かり無し、なのかな?」


 神谷の返答を特に気にした様子もなく、由依が次々と確認していく。

 ああ、けどーー由依が冷静になった(・・・・・・)か。


「まさか、閉じ込めておいて、その後のことまで考えてないとは言わないよね?」

「如月さん……?」


 自分が知る由依とは違うからか、上郷が怪訝そうな顔をする。


「私たちを閉じ込めた後にどうなるかぐらい、考えておくべきだったね」


 ああ、分かった。これは完全に由依による挑発だ。

 そして、何よりーー


「少なくとも、瑠璃は(・・・)そこまで考えてるから」


 理由は分からないが、何故かライバル視している瑠璃の名前を出せば、神谷は確実に怒ることも予想しきっている。


「っ、こっちが黙ってれば、好き放題言いやがって……!」


 神谷の右手に、魔法的な何かの光が集まっていく。

 一方の由依は、カバンを持って、片足を軽く引いている。


「科里。お前、すぐに廊下へ出られる用意をしておけ」

「命令しないで」


 それにしても、荷物を持ったまま、ずっと立ち聞きしていて良かったよ。

 逆に問題なのは、意外と遠い位置に居る上郷だな。神谷がどんな手を使おうとしているのかは分からないが、状況そのものがマズいってことは、十分(じゅうぶん)分かっている。


「由依、上郷!」


 ダメ元で声を掛けてみるが、二人がこちらに振り返るよりも、神谷の行動の方が少しばかり早かった。


「ハハッ、まさかこのタイミングで『変革者(イレギュラー)』を一掃できるとはな!」


 高笑いしながら、神谷は由依に光を放ち、


「如月さん!」


 反射的なのか、上郷が叫ぶが、神谷の放ったその光が由依に届くことは無かった。

 理由? そんなの決まっているし、説明するまでもない。だってーー


「ーーったく、いつ尻尾を出してくれるのかと警戒していた矢先にこれなんだから、本当に笑っちゃう」


 どんな状況下であろうと、どんなに不利であろうと、『そいつ』は幾多の策を考えてきていて。

 もし、この騒動(こと)も手の内の一つだと言うのなら、俺は怒りと称賛を『彼女』に与えよう。


「瑠、璃……?」


 だから、この件が終わったら、きちんと説明してくれるとありがたい。



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