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16:綾瀬瑠璃と終幕への始まり


 彼は彼女に尋ねる。


「なぁ、神原。前から一度聞いてみたかったんだが」

「何かな。梓乃くん」


 彼ーー葉月梓乃から放たれる言葉を、今ある状況を何一つ疑う素振りすら見せず、彼女ーー神原愛莉は今か今かと次に放たれるであろう言葉を待っている。


「俺は何か……神原の癪に障るようなこと、したか?」

「え? してないよ。前にも言ったと思うけど、私は梓乃くんと友達になりたいし、好きだから、その……あわよくば付き合えればな、と」


 予想外の台詞だったのか、神原さんは不思議そうな顔をする。


「そうか。『友達』になってから、『恋人』になりたいと」

「うん……」


 やはりおかしいと思い始めているのか、神原さんもどこかこの状況に納得できていないような反応になってきている。


「お前がさ。前に俺を好きだと言ってきたとき、俺は言ったよな? 『あいつら』だけじゃなく、クラスの女子たちとも仲良くしろと」

「う、うん」

「あれから、クラスの奴らと話した時はあったか?」


 梓乃がずっと神原さんを見ていられるわけではないけど、少なくとも私は、彼女がクラスの女子と話しているのを見たことはない(私も話した記憶はほとんど無い)。


「それは……」

「あと、単刀直入に言わせてもらうが、神原。お前が恋愛感情以外のどんな目的で近付いてきたのかは知らないがーーもし仮に、俺をゲームのキャラクターか何かに見立てて接していたりするのだとすれば、俺はもう神原とは話せない」

「え……」


 うーむ……。特に部活をしているわけでもないのに、学校からの帰宅ラッシュを避けるために、少しだけ時間をずらして、尚且(なおか)つこっそり聞いててみれば、まさかの展開である。

 それにしても、梓乃も梓乃でばっさりと言ったものだが、下手したら今の台詞は中二病扱いされかねんぞ。

 さて、目を付けていた相手からの予想外の台詞に、我らがお姫様はどんな反応を示すのやら。


「っ、ゲームのキャラクターって、何を言っているのかな? それに、私は別に深い下心とかあったわけじゃないし、梓乃くんと話したかったのも本当だし……」

「下心に深いも浅いもあるのか」

「う……」


 うわぁ……我が友人ながら容赦ない。

 つか、お姫様よ。梓乃は半断定系で話したわけだが、その反応では当たりだと言っているようなものだぞ?


「それに、私は貴方のこと、貴方の秘密を知っているの。だから、良ければ相談に乗れたらって……」

「神原。その『秘密』って、何だ? 俺は何かを隠してるつもりは無いんだが」

「え……? でも……」


 そう、梓乃には一人で抱えるような秘密も闇も無い。

 もし、そんなのがあったとしても、幼馴染みである由依が気付いて、内容次第では私たちに相談するかを決めて、状況が酷くなる前にどうにかしているはずだ。

 互いが互い、フラグクラッシャーでもある二人だからこそ、無意識に未来(いま)へのフラグを破壊していたのだろう。


「神原がいくら俺と『友人以上』になりたいと思っても、俺は神原を『クラスメイト』としか思えない」

「っ、」


 それはーー梓乃が神原さんを、告白する前に完全に振った瞬間だった。


「……ん、で……」

「何で、か。俺にはまだ、やらないといけないことがあるし、それはお前に関係無いことだから」


 そう言った梓乃の脳裏には、きっと由依が居るはずだーーいや、由依だけじゃなく、私や牧瀬も一緒に居るのだろう。


「関係、無い……?」

「手伝ってくれようとしたことについては礼を言うが、こっちの事情が事情だし、何か遭っても遅いからな。だから、その点だけは分かってほしい」

「っ、分かったよ……」


 言葉では分かったとは言っているけど、これについても納得は出来てないらしい。


「っ、と」


 二人の会話を立ち聞きしていれば、スマホに何やらメールが届いた。


『問題視していた『彼』の方に、どうやら傍観者が現れたみたい』


 ーー(かなえ)からの、そんなメールだった。


「このタイミングとか、ふざけやがって……!」


 けれど、無視も出来ないし、せっかくの雰囲気をぶち壊したくはないけど、仕方がない。


「梓乃!」

「瑠璃……?」

「綾瀬さん……!?」


 いきなり私が飛び込んだことで、梓乃は予想していたようだが、私の様子に対しては不思議そうにしており、神原さんは神原さんで、私が居たことに本気で驚いたらしい。


「どうした?」

「急用。先帰る。あとーー」


 置きっぱなしにしていた物を回収し、神原さんを一瞥する。


「『主人公』だからって、何でも思い通りに行くとは思わないで。どんな世界であろうとーー理想(ゲーム)現実(リアル)も残酷なんだから」

「え……」

「それじゃあね」


 私の言葉で、さらに驚きに染まる神原さんを無視して、教室から出て行く。


「……頼むから、無事で居てよ。二人とも……!」


 たとえ、今居る世界が『ゲーム』であろうが『現実』であろうが、今の私にはどちらでも良い。

 だって私は、由依たちとみんなで楽しく過ごせられれば良いのだからーー



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