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12:結月牧瀬と『祝福』を受けし者


「ーーッツ!?」


 篠月(梓乃)がエフェクト無しでぶっ放したことにより、未だに残っている倒し終えていた【鎧ゴースト】たち以外のモンスターたちが吹き飛ばされる。

 シュバリエ・ヴァルハラ共に数人巻き込まれたみたいだが、死亡判定(レッド)ラインまでは行ってないのを見ると、大丈夫そうではある。

 篠月が排除したとはいえ、俺たちが処理しきれずに逃した分は、七宝(瑠璃)が再度狙撃して、粗方潰していた。


「ユーフィリア(由依)の魔法はまだかよ!?」

「あ、カウント出た!」


 天井部分に『30』というカウントが現れる。

 ユーフィリアが持つ魔法スキルの中では、最大威力を誇る魔法(スキル)の一つだ。


「大規模魔法が来る! 全員、あの数字がゼロになるまでに、それぞれ退避しろよ!?」

「じゃなきゃ、前のログアウト場所からやり直すことになるぞ!」


 篠月とともに警告する。

 カウントが『27』『26』と減っていく。秒数刻みだから、俺たちも悠長に警告している場合ではないのだが。


「篠月。俺を抱えて逃げられるか?」

「え、何。お前もぶっ放す気か?」

「一種の保険だよ」


 ユーフィリアの魔法で倒れないとは思わないが、もしそうなれば、すぐに反応できる奴がどれだけ居ることか。


 ーーだったら、致命傷を負わせておいて、ユーフィリアの魔法が(とど)めになるようにしておいた方が良いはずだ。


 七宝からは怒られそうだが。

 何より、使用することは伝えてある。


「ったく、ちゃんと連れ帰ってやるから、神殿や前回のログアウト場所での再会にならないようにしてくれよ」

「ああ。【ブレイジング・スキル】ーー」


 足下に展開された魔法陣から黒や紫の光や花びらが舞う。

 そもそも、【ブレイジング・スキル】は世界からの『祝福』により与えられたスキル。

 職業によって、使えるスキルが変化する。例えば、篠月なら剣戟系の、ユーフィリアなら魔法系のと言った具合に。

 そして、俺の職業は『盗賊(シーフ)』と『暗殺者(アサシン)』だ。


「ーー“絶世命斬(ぜっせいめいざん)”」


 『絶世』ーー()()つという、本来の意味とは違う意味だが、ほとんど瀕死状態に追い込んだ以上、ユーフィリアの魔法が当たれば、撃破完了となるだろう。

 カウントに目を向ければ、『10』『9』と十秒を切っていた。


「呑気に見ている馬鹿がどこにいる」


 篠月に(えり)を掴まれて、猛スピードでその場を離脱していくが、逃がすかと言わんばかりに、悪趣味な手が伸びてくる。

 でも、それもいつの間に併走していたのか、新たに召喚されていた七宝の召喚獣たちの攻撃と七宝の狙撃で、打ち消される。

 カウントは『6』『5』と、もう時間は無い。


「【ブレイジング・スキル】ーー」


 微かなユーフィリアの声が聞こえる。


 『3』


 まだ魔法の射程範囲内だ。


 『2』


 あと少し。七宝が叫んでいる。


 『1』


 届け、範囲外へ。


「ーー“祝福の(ブレイジング・)断罪者(ジャッジメント)”」


 魔法が発動され、ゴーストたちにへと下される。


「ーーッツ!?」

「ーーおわっ!」


 その爆風に吹き飛ばされ、七宝たちの所まで転がった。


「何とか、無事そうね。二人とも」

「間一髪だったね。待機状態になれば、もうどうにも出来ないから」

「いや、ユフィのせいじゃないから。……っつ。それよりもーー」


 篠月がそちらへ目を向けたことにより、俺たちも目を向ける。


「……」


 みんな分かっているからか、「やったか!?」とは聞かない。下手に言ってしまえば、復活フラグが立ちかねないからだ。

 そんなゴーストたちの様子を窺う中で、ユーフィリアが魔力ポーションを飲んでいた。

 そりゃ、あんなの放てば、魔力の大半が減るに決まっている。用心って意味もあるんだろうけど。


「……」

「……」

「……」

「……やっぱり、もう一発、打っとく?」

「止めておきなさい」


 不安になったらしいユーフィリアに、七宝が冷静に止める。


『グググ……またか。また邪魔をする気か。『祝福』を受けし者たちよ……』

「え、何?」


 喋ったことにも驚きだが、何よりその目はこちらをーー特にユーフィリアを捉えていた。


「『祝福』を受けし者たち……?」

「それに、また(・・)、って……」


 確かに俺たちは【ブレイジング・スキル】を持ってはいるが、取得方法がいまいちよく分かっていないのだ。

 若干の怯えを見せたユーフィリアたちの前に、篠月とともに立ちながら、声を発したであろうゴーストに目を向ける。


『こうして見つけた以上は、倒さなくてはぁぁぁぁ!!』

「ーーっ、」


 先程、逃げる俺たちに向かって放たれた悪趣味な手が、こちらに向かって伸ばされるがーー


「させるかよ!」


 篠月が悪趣味な手を切り裂いていく。


「つか、何でユフィなんだ?」

「理由は分からないけど、ユフィが一番強力な奴を放ったからじゃない?」

「それで、厄介そうなユーフィリアを先に排除しようとしているってか」

「えぇ……」


 やっぱりというべきか、奴はユーフィリアに目を向けている。


「七宝。なるべくユフィと一緒に居ろよ」

「分かってる」

「援護は?」

「魔法使えるならよろしく」


 篠月が指示していく。


「そっちの作戦は決まったみたいだけど、私たちはどうするべきかしら? 一緒に居るのに、こうも完全無視されてるのって、結構腹立つものね」


 七宝の隣に居た女性が聞いてくる。


「ぶっ倒す。その一択だけだよ。うちの魔導師様が狙われてるから、あんまり時間は掛けたくない」

「了解。じゃあ、こっちの立案に入るから、それまでは耐えなさい。それと、七宝。後で現実(リアル)の方でちょーっと話しましょうね」

「……なるべく手短にしてよ。こっちは宿題も残ってるんだから」

「何でゲーム(こっち)に来る前にやらなかったの」


 グサッと正論が突き刺さってきたが、どうやら七宝たちにも突き刺さったらしい。


「悪かったわねぇ! やってなくて!」

「七宝、口論してる場合じゃない!」


 バチィっと派手な音を立てて、ユーフィリアが結界で奴の手を防ぐ。


「宵闇」


 篠月が寄ってくる。


「負担を掛けるかもしれないが、少しの間、一人で二人を守っていてくれ」

「は? 何する気だよ」

「あいつの本体ごと(たた)っ切る」


 そんな篠月の目がユーフィリアに向いていたため、「ふぅん」と笑みを浮かべて返してやる。


「何だよ」

「いや、別に?」


 今はそのままで良い。少しずつ気付いていけばいいのだから。


「気をつけろよ」

「分かってる。つか、誰に言ってるんだよ」


 自分に身体強化系の魔法を掛け、篠月が突っ込んでいく。

 時折、篠月が処理しきれなかった分はユーフィリアが援護射撃の魔法で処理しているし、七宝は七宝で、俺と篠月に魔法付与による援護をしている。


「宵闇、右斜め後ろ!」

「……っ、」


 七宝の声に、右斜め後ろから来ていた手を切り刻む。


「ーーお前が」


 篠月の声が聞こえてくる。


「どんなに『祝福を受けし者』が嫌いだろうと、あいつを狙うのは間違っているぞ」

『一体、何をーー』

「使えるのは、あいつだけじゃないってことだよ」


 そう、俺だって使っていたのに、奴が目を付けたのはユーフィリアのみ。


「【ブレイジング・スキル】ーー“夢幻斬魔(むげんざんま)”」


 篠月の持っていた刀が七色に光り出す。

 篠月の【ブレイジング・スキル】、“夢幻斬魔”は、物理的に斬っていながらも、相手に切られたと錯覚させる剣戟系スキル。

 それが、切ることをメインとしている刀に()るものなら、効果はさらに増える……らしい。


『グググ……これだから……これだから『祝福』持ちはぁっ!!』

「お前が間違えたのは、同じ『祝福』持ちでも、俺たちを狙ったことだ」


 きっと角度の問題で、ユーフィリアと七宝からは分からないだろうが、篠月の目が怖いことになっている。口調もいつも通りだから、余計に怖い。


「“夢幻斬魔”のセカンド効果」


 ん? セカンド効果?


『セカンド効果って、何も()ェ……ア?』

「……」


 奴は何かに気付いたらしいが、篠月は口を開かない。

 そりゃそうだ。だって、奴はもうーー


「“夢幻斬魔”のもう一つの効果は、『魔を絶つ』効果。篠月に“夢幻斬魔”を使わせた時点で、こちらの勝ちは決定事項だったんだよ」


 シュバリエとヴァルハラから力を借りる前に、篠月は決めてしまった。

 けれど、そんな前まで出てきたユーフィリアの説明に納得してしまう自分が居る。


『グググ……こうなったら……』


 諦め悪くユーフィリアに手を伸ばそうとするが、それは届かずに奴は消滅していく。


「……」

「……」

「……」

「……」


 完全に消滅したのを見届ければ、篠月がその場に座り込む。


「大丈夫か?」

「大丈夫に見えるか?」

「格好良かったよ、ヒーロー」

「茶化すな。あと、お前は付与だけで、残りはほとんど何もしてないだろうが」

「酷いなぁ」


 労う俺に対し、からかいに行く七宝はやっぱり七宝である。


「ご苦労様」

「ああ」

「ちょっとー、ユフィにはちゃんと返すとか、私の扱いが雑になってない?」


 不服そうな七宝の言葉に、三人で顔を見合わせーー


「いつもと変わらなくない?」

「何を今更」

「……」

「宵闇は何か言ってぇっ!」


 何か言えと言われてもなぁ……。


「はいはい。そっちの問題が片付いたなら、こっちの問題が残ってるからさ」

「……」


 七宝の隣に居た女性の言葉に、どうしたものか、と思う。

 彼女が聞きたいのは、【ブレイジング・スキル】のことだろう。


「……【ブレイジング・スキル】については、こっちもよく分かってないから、話せることは少ないですよ?」

「そうなの?」

「そうよ。取得方法もよく分かってない上に、消耗も結構あるし」


 女性陣がそう返す。


「スキルの効果次第では、神殿送りだから、確実に仕留めるつもりじゃないと使えない」

「そっか。つまり、諸刃の剣ってわけか」


 使いどころを間違えれば、一気にこちらが不利になる。


「まあ、そういうわけで、効果確認とかもほいほい出来るものじゃないのよ」

「確認段階で死亡判定が出ると反応しにくいもんね」


 ちなみに、俺たち四人の中で、死亡判定が出る【ブレイジング・スキル】持ちは篠月とユーフィリアの二人(つまり、【ブレイジング・スキル】を二つ持っていることになる)。


「それで、ログアウト出来るのかな?」

「問題ないと思うよ。シュバリエ(うち)とヴァルハラの何人かが行ったり来たりしてるから」


 それじゃあ、と七宝がこちらに目を向けてくる。


「かなり遅くなったけど、私たちもログアウトしますか」

「そうだね」


 その後は、シュバリエ・ヴァルハラ双方に挨拶して、ログアウトしていく。





「あー、疲れた」


 目を開けて、装置(ギア)を外す。


「宿題、しないとなぁ」


 しかも、由依に数学のプリントを見せないといけない可能性を考えると、最低でも数学の方は終わらせておく必要がある。


「……よし、やるか」


 少し休んで、宿題のプリントを取り出す。

 時折、梓乃や瑠璃から化学教えろとメールが来たが、残念。メールや通信アプリだと変換や文字数という限界があります。


『今、数学やってるんだけど、問3の解き方を教えてください。公式に当てはめてはいるけど、何故だか数字が合いません』

「……由依さーん……」


 問3って……プリントを見てみるけど、使う公式はともかく、数字が合わないって、どういうことだよ。その点についてだけは、聞きたいのはこっちなのだが。

 とりあえずーー


『こっちは瑠璃たちに化学教えなきゃなんないから、数学は梓乃に聞け』


 梓乃に丸投げしておく。

 家が隣同士なら、お互いにどうにかしろ。

 返事がないから、梓乃に聞いたんだと思ったら、『牧瀬テメェ、何俺に丸投げしてるんだ』って、梓乃からメールが来た。素直に言っちゃったのか、由依は。


「……梓乃か?」


 勉強以外ならメールだとキリがないので、電話に切り替える。


『何で丸投げしやがった』

「俺、お前たちに化学教えてるんだけど、由依の数学まで何で聞かれなきゃなんない。つか、数学に関しては、お前の方が成績上だろうが」


 こっちはまだ、英語と生物も残ってんだよ!


「つーわけで、まだやらなきゃなんない宿題があるから、そろそろ切るわ」

『あ、おい……』


 電話を切れば、溜め息が出た。


『数学諦めて、英語と生物を先に終わらせちゃいます』


 由依からそんなメールが来ていた。

 そうか、諦めたのか。


「……明日までに終わるかなぁ」


 終わると良いなぁ。




ファンタジーVRMMO『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』サイドの話はこれで終わりです(一時的ですが)。次回から現実リアルサイドに戻ります。


あと、【ブレイジング・スキル】についてですが、『祝福』は英語で『blessing』と書くみたいなんですが、作者は英語が苦手なので、スキル名を『ブレジング』にしようか迷っていたのですが、今作ではあえて『ブレイジング』にしています。

そもそもの(スペルの)読み方が間違っているというのなら、ご指摘ください。


あと、由依・梓乃組と瑠璃・牧瀬組で本名とプレイヤー名の並び順(や呼び方)が違いましたが、あれはどちらが見やすいのか分からなかったので、こちらもあえて分けました。



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