11:綾瀬瑠璃(たち)と予期せぬ事態
うわぁ、と思った。
私たち以外にも、来ているプレイヤーたちが居るのは分かっていたが、何故、選りにも選って、仲の悪いとされているパーティが一緒に居るのだ。
攻略組の一つで、騎士職主体で組まれているパーティ、『シュバリエ』(ファンタジーに出てくる騎士団系)。
同じく攻略組の一つで、やや攻撃担当が多めでありながらも、バランス型のパーティ『ヴァルハラ』(ファンタジーに出てくる冒険者系)。
仲の悪いところとして、あと一つあるのだが、今はいないので割愛するとして……ユーフィリア(由依)や篠月(梓乃)が顔を引きつらせているし、宵闇(牧瀬)は宵闇で、なるべくそちらを見ないようにしている。
「仲良し四人組じゃねぇか。相変わらず、四人で行動しているのか?」
「ええ、まぁ……」
ああ、気まずい。
「お前ら、そいつらと知り合いだったのか」
「まあ、いろいろありますから」
頑張れ。超頑張れ、篠月。他のパーティメンバーに対応しないといけないのは、リーダーの仕事だぞ?
さて、私はーー
「お久しぶり。お嬢さん。俺たちのチームに来る気になったかい?」
「あ、はは……お久しぶりです。今でも、そちらのチームに行くつもりはないので……」
と思ったら、ユーフィリアがシュバリエ所属の騎士から勧誘されていた。あそこ、魔導師の数が少ないし、ユーフィリアの持つスキルは欲しいんだろうなぁ。
「大変ねぇ。貴女たちも」
「貴女がそれを言いますか」
シュバリエ所属の天才軍師、レフィーリア。
彼女の立てる何千何万ともある作戦は、ほぼ百パーセントで当たる。
そしてーー現実での名前は、皆月叶。同級生、神原愛莉のサポーターである。
「彼女には言ったの?」
「一応ね。けど、思い込んでいるのか、信じなかったみたい」
「そう。けど、彼に関しては、あっさり方が付きそうだから、先に言っておくわ」
ゲームイベントをシナリオとして決められた時間通りに進めているからか、神原さんの方はまだ時間が掛かりそうなんだよなぁ。
とにもかくにも、どちらかが終われば、もう片方に意識を向けられる。
「それで、何でこんな所に立ち往生なんてしてたの? 貴女たちなら突破できたでしょ?」
「ああ、それなんだけど……」
レフィーリアが説明しようと口を開けば、ダンジョンの奥から悲鳴のような声やら音やらが聞こえてきた。
「え、何。今の音……」
『グルルル……』
音のしてきた方に目を向ければ、帰すのを忘れていた召喚獣が唸っていた。
「まさか、こっちに来るの? ここ、ログアウト可能ポイントだよね!?」
「ついに、このゲームもバグったか?」
一気に警戒心が高まり、剣士勢が抜剣や抜刀し、魔導師勢が杖を構え、詠唱を始める。
そしてーードアが破壊される。
「やっぱり、モンスターの類か!」
「アンデッド系なら光魔法で対応します!」
シュバリエとヴァルハラの魔導師たちが光魔法を放ったことで煙が起きるが、ユーフィリアが光魔法を放った様子はない。
「っ、あの子の魔導師としての能力を忘れてたわ。ユフィ、篠月、防壁!」
「ん」
「ったく!」
元々、防壁を展開する予定だったのだろう。ユーフィリアの防壁展開が早い。
「七宝?」
「ここに来るまでに、【鎧ゴースト】と遭遇済みだったからね。読みが外れていなければ、今の魔法は全て【鎧ゴースト】が防いだはずだよ」
煙が晴れるのと同時に、【鎧ゴースト】の鎧が見え始めたかと思えば、さっきの魔法が跳ね返される。
「っ、」
すぐさま防壁展開出来る人も防壁を展開するが、強度が低い。
「けど、【鎧ゴースト】を倒せば、跳ね返されることは無くなるってことだよな!」
「【鎧ゴースト】には物理的な技はほとんど通じません! けど、そのまま攻撃するつもりなら、鎧の無いところを狙って!」
けど、相手も自分の弱点を理解しているからか、そう簡単には倒されてくれない。
「っ、」
「七宝。一度、試すだけで良い。お前は俺たちだけに指示を出して見ろ」
「宵闇……?」
「闇討ちは、俺の得意分野だ」
言いたいことだけ言って、モンスターたちに向かっていく宵闇。
「そう、だったね」
人やモンスターに限らず、『暗殺』は『暗殺者』が得意中の得意とする戦闘方法だ。
それに、ユーフィリアたちだけに関しては、私が一番よく知っているじゃないか。
「ふふっ」
言ってくれるじゃないか。我が恋人は。
「篠月、ユフィ。やるよ!」
「ああ!」
「いつも通りの無茶振りでも、どうにかするから、ちゃんと指示してよ。チームの軍師様?」
外れることのない作戦なら、私にだって立てたことはあるんだから。
今もシュバリエとヴァルハラの面々が【鎧ゴースト】を相手に戦っているし、宵闇も分身スキルで捌きまくっている。
「篠月、ユフィ」
二人の持っていた剣と杖に振れれば、光り出す。
「私は『付与術師』であり『召喚師』だから。援護は任せて」
「ああ」
だって、四人でなら何とかなるし、今までもどうにかなってきたから。
ゴースト系に強い召喚獣たちーー光属性の技が使えたりする召喚獣たちや、アンデッド系を主に召喚する。
「今まで、私が喚ばなかった分、好きなだけ暴れてきなさい」
自由行動を許可すれば、すぐに行動に移す召喚獣たち。
「二人も」
「行ってくる」
二人に促せば、篠月が飛び出して行き、ユーフィリアが私の隣に立つ。
「それじゃ、私たちもお仕事しなきゃ」
笑みを向けてきたユーフィリアに頷いて抜剣し、魔法を発動していく。そういうスキルを持ってないわけじゃ無いからね。
「【鎧ゴースト】が全滅したぞ!」
そんな声が上がる。
さて、問題は【鎧ゴースト】たちが守っていた奴ら。
「……なぁ、七宝」
「三人揃って、何かな」
篠月、宵闇が戻ってきて、ユーフィリアが目線で何かを言いたそうにしている。
「あれ、撃って良いかな?」
「こっちもその確認に来たんだが」
「アレ、かぁ」
今の私たちにしてみれば、諸刃の剣にして切り札的なもの。
「普通の技じゃ、絶対に倒せない」
「まあ、使えば確実に噂にはなるだろうがな」
「……はは。けど、一斉発動は避けて。術者への反動を考えると、みんなを回収するとき大変だから」
「だよな。反動を考えると……回収役は俺か」
そう話し合えば、後は早い。
篠月と宵闇が装備を変更し、詠唱に時間が掛かるユーフィリアが詠唱を開始する。
「カウントが見えたら、あそこに居る人たちに避難するように言って」
「ああ」
「俺のさ、ユフィが放つ前に一度放っておくわ」
「だったら、その前に避難させないと駄目だろ。お前の、仮にも広範囲系の技だろうが」
ギャーギャー騒ぎながら、モンスターたちの方へと戻っていく。
「作戦は決まった?」
「広範囲系の大技二発ぶっ放す」
「それじゃ、みんな避難させなきゃ」
こっちに来たレフィーリアとそう話す。
随分ざっくりとした説明なのに、あっさりと了承された。
「何。私たちが何をしようと、そっちの作戦に何の支障もないと?」
「まさか。『広範囲系の大技』としか説明されてないのに、威力とかガン無視で作戦も何もないでしょ」
「そりゃそうだ」
その威力を知っているのは私たちだけで、彼女たちは知らないのだから。
ガシャン、と二丁の銃を取り出す。
どれだけファンタジーファンタジー言っていても、この世界に存在している上に、こうして使えるのだから、使わない手はない。
【鎧ゴースト】以外の、邪魔し、漏れ出たゴーストを狙撃していく。
この、【銃撃系スキル】、本来取得するつもりはなかったのだが、さすがに遠距離系の攻撃手段が無いのはなぁ、と思って取得した(遠距離攻撃は魔法があるだろ、とは言わないでほしい)。今こうして役に立っているのだから、文句を言われる筋合いは無いはずだ。
「見て、存分に驚くといいよ」
前方で爆発が起きる。
篠月の奴、エフェクト無しでやりやがったな。
けど、そのお陰で、ゴースト勢が一掃された。
「堅いわね。相手も貴女の召喚獣たちも」
「瞬殺されないように育てましたから」
でも、魔力とか尽きそうだ。
いくら自由に暴れていいとは言ったが、HPもMPも尽き掛けるまで暴れろとは言っていない。自分で分かっているのだろうに、何故、加減しなかったのだろうか。それだけ、嬉しかったのか?
「ご苦労様」
そう言って、送還する。HPとMPが完全に尽きてしまわれては、送還することも出来ない。
この部屋の天井部分を見てみる。ユーフィリアの展開した魔法陣が出たままだ。
せめて、ユーフィリアの魔法で終わってくれると助かるのだが、果たして上手く行ってくれるだろうか。




