10:葉月梓乃は考える
ユーフィリアーー由依が、話してみると決めたのを聞いて、俺はどうするべきなのかと考える。
「ユフィ(由依)にそんな忠告するほど、彼女たちは好きなんだね。彼のこと」
瑠璃に話してみればそう返されたし、牧瀬に関しては眉間に皺を寄せていた。
「それぐらいなら、言えば良かったのに」
「同じ学校だから、言いにくかったんでしょ」
とある作業中の由依を一瞥した瑠璃の言う通り、牧瀬が何かするとは思わないが、単に心配を掛けたくなかったんだろう。
「さて、我らが騎士様はどうする?」
「どうするもこうするも、何も無いだろ」
おい、何だ。二人揃って、納得出来てなさそうな顔は。
「文句が大有りみたいだな」
「べっつにー?」
「何も無いよなぁ?」
こいつら……。
「けどまぁ、ユーフィリアが何を言うつもりかは分からんが、一応こっちで用心はしておくよ」
「頼りにしてますよ? 盗賊殿」
牧瀬の言葉に、瑠璃がニヤリとしながら返す。
「篠月(梓乃)。修復終わったよ」
「ああ、悪い」
生産職をサブにしている由依は、このチームでは重宝している。
「それにしてもさぁ。やっぱり、この先『治癒士』が居ないのはキツいよね」
「俺たち、バランスが良いっちゃ良いんだがなぁ」
そう、前衛後衛という役割から見れば、バランスは良いのだがーーこのチーム、回復担当が居ないのだ。
「なら、私がサブキャラで『治癒士』と『罠師』取得して来ようか?」
「『治癒士』はともかく、『罠師』は止めてくれ。盗賊として罠系はほとんど取得済みだから、多分被る」
「となると、『地図士』も駄目だよね。みんな“マッピング”出来るし」
「う~ん……」とみんなで唸る。
ちなみに、『地図士』が『地図師』でないのは、『ダンクロ』の設定に因るもので、『とある国の“空白の時代”』を舞台としているだけに、『専門の技術を持った人』っていうよりも、『特別な資格のある人』っていう方が世界観的にも近いのではないか、と瑠璃は言っていた。
「サポート系なら、七宝(瑠璃)が持ってるしね」
自分で言っておきながら、落ち込んでるし。
「……吟遊詩人、か?」
「あぁ、あったわね」
「吟遊詩人……歌かぁ」
「ほとんどが【歌系スキル】みたいだもんね」
この前聞いた、と瑠璃が言う。
「じゃあ、『治癒士』と『吟遊詩人』?」
「だな」
由依の確認に、頷いておく。
「見た目は決めたけど、種族はどうしようか」
「人間かハーフエルフで良くね? 個人的なイメージだが」
「っていうか、『治癒士』って、神官のイメージなんだけど、そこんとこどうなの?」
「聖なる光で医療行為ってか?」
「そうそう」
まあ、そういうのはファンタジー系のゲームや物語によるイメージがあるから、固定されてるところもあるのだろうが。
「……思い切って、『神』にしてみる?」
「えっ!? あの、『神』という名前でありながら、制約がありすぎるせいで、多くのプレイヤーたちには引かれ、M系プレイヤーたちが選ぶという……あの『神』を選ぶというの!?」
由依の(おそらく冗談であろう)言葉に、瑠璃が衝撃を受けたかのような反応を示す。
それにしても、そうか。これから先、俺が職業で『神』を選ぶことは無さそうだ。
「……ちなみに、得られるスキルは万能系だから泣ける」
「万能系スキルを取るか、制限回避を取るか、かぁ」
「つか、『ダンクロ』の運営ってさ。上げておいて、容赦なく落とすんだよなぁ」
全員で溜め息を吐く。
「とりあえず、ダンジョンに向かうか」
「そうだね……」
とにかく、この話を一旦止めたかった。
☆★☆
「宵闇(牧瀬)ー。どうだー?」
「んー、どっかのパーティが通ったっぽいけど……う~ん?」
牧瀬にしては珍しく、どうにも納得できない、しっくり来ない部分があるらしい。
「うちの子たちも、首を傾げているから、宵闇が間違ってるわけじゃないからね?」
召喚獣を召喚した瑠璃が、召喚獣たちの反応を見ながら、牧瀬を擁護する。
「PK、か」
「可能性は無くはないが、もしPKだったら、七宝の召喚獣たちが敵意を示すだろ」
「……」
それなのに、そんな様子もない。
つまり、そういうことだろう。
「とりあえず、行ける所まで行ってみよう」
「どっかのパーティが居たなら、居たで良いしね」
「あ、念のために装備を変えておくよ」
ユーフィリアが手にしていた杖を変えるのを見ながら、俺も着ているジャケットの裏側とかに短剣を装備していく。無いよりはマシだからな。
「二人とも、準備は良い?」
「うん」
「ああ」
そのまま四人で、ぼんやりと明かりの灯っているダンジョン内を進んでいく。
「……」
「……」
「……」
「……」
時折、悲鳴らしきものが聞こえてきていても、無視である。
「……さすが、幽界洞窟フィールド。容赦なく、ゴースト系も出てくるよね」
幽界洞窟フィールド。
『名も無きダンジョンと空白のクロニクル』に登場するフィールドの一つであり、墓地付近にある影響からか、ダンジョン化した……という設定らしい。
まあ、簡単に言えば、『お化け屋敷』のようなものである。
「あのさ。鎧ゴーストとか、意味あるの?」
「つか、物理なのか特殊なのか、どっちなのよ」
鎧を着たゴーストを前にした女性陣の言葉である。
「普通は女って、こういうのビビりそうな気がするんだが」
「ゲームですから」
「慣れましたから」
「あ、そう……」
牧瀬の疑問へ返ってきた答えに、苦笑いする。
「それより、篠月。手伝ってよ。私たちの浄化魔法だけじゃ、対処しきれないんだから」
「はいはい」
『魔導師』ですからね。
そして、相も変わらず聞こえてくる悲鳴。
「さて、浄化完了したところで、だ」
「ログアウト出来る所、探さないとね」
時間を確認すれば、十時になろうとしていた。
「けど、どうするんだ? 戻るにしても、また時間が掛かるぞ?」
「こうなったら、次のポイントまで行くしかないよね」
そうと決まれば、移動開始である。
「そういえば、今言うことじゃないんだけど、篠月さ。化学の宿題、終わった?」
「……まだだな」
つか、宿題があること自体、頭から飛んでいたわけだが。
「宵闇。こっちは数学があったよねぇ!?」
「生物と英語も、な」
……由依は、数学と英語が駄目だからなぁ。
「教えて下さい。というか、明日写させて下さい。切実に」
「自分でやろうとは思わないのか」
「数学だけは、どうにもならないんだよぉっ!!」
由依が頭を抱えたまま、唸り出す。
「ユフィ。今はとりあえず、ログアウトポイントを目指すぞ」
「……うん」
そのまま四人で歩く速度を上げる。
途中、何度かモンスターとも遭遇したけど、何とかログアウト出来る所に辿り着いたかと思えばーー
「お?」
「あ」
今度は、知り合いと遭遇しました。
ちなみに、『ダンクロ』の『吟遊詩人』には【歌系スキル】だけではなく、【状態異常誘発系スキル】もある模様。
逆に、七宝(瑠璃)の職業である『付与術師』にも【状態異常誘発系スキル】が無くもないけど、上がりやすいかどうかで言うと、微妙な所である。




