表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/28

1:如月由依の相談


「好きです、付き合ってください」


 日が傾き始める時間。

 誰もいない教室で、私はそう告げられた。

 相手は校内一の有名人。


「私はーー」


 グラウンドなどを使っているであろう運動部(所属の人たち)の声や吹奏楽部の音楽が聞こえてくる。


「君の気持ちに答えることはできません。ごめんなさい」


 勇気を出してくれたのかどうかは分からないが、相手が想っているのに、こちらが何とも想ってないというのは、どうなのか。

 私のことだから、罪悪感が湧かないわけがない。


「待っーー」


 私はそのまま、彼の制止を聞かずに、その場を後にした。

 冷たいと思われても構わない。

 だって、私は彼を振ったのだからーー


   ☆★☆   


「あ」

「あ」


 それは偶然だった。


「今、帰り?」

「ああ。そっちもか?」

「うん」


 ちょうど帰ってきたタイミングが一緒だったためか、こうやって話すのも懐かしく思えてしまう。


「何か、元気そうだな」

「そっちこそ」


 さて、どうしよう。

 ……というか、もう迷ってる暇なんて無いのだろうけど。


「あの、さ。少し、相談したいことがあるんだけど」

「電話じゃ……駄目そうだな」


 思わず、「あ、聞いてくれるんだ」と思ってしまう。

 お互いに会わなくなってから、まともに話すことが減ったとはいえ、表情から判断できている辺り、まだ幼馴染みとしての名残ーー繋がりはあるらしい。

 そのことに少し、嬉しく思ってしまった。


 葉月梓乃(はづき しの)

 それが、彼の名前であり、私の幼馴染みである。


「場所は……とりあえず、俺の部屋でいいか?」

「え、あ、うん……」


 梓乃の部屋に行くのも、久し振りである。


「あら、誰を連れてきたかと思えば、由依(ゆい)ちゃんだったのね」

「あ、お邪魔します」

「気にしなくて良いのよ」


 葉月家の玄関で靴を揃えていれば、私が来たことに気づいた小母(おば)さんがそう話しかけてきた。


「来ないのか?」

「あ、今行くよ」


 それでは、と小母さんに頭を下げて、先に階段を上がっていた梓乃の後を追い掛ける。


「梓乃ー、後で取りに来なさいよー」

「分かってるよ」


 そんなやり取りを聞いて、思わず笑ってしまう。


「何だよ」

「さっきのやり取り、久々に聞いた気がして」


 梓乃は何も返さなかったけど、「あ」と何か思い出したのか、「少し、ここで待っててくれ」と言われて、少しだけドアの前で待つことになった。

 待ってる間、中から凄い音がした気もするが。


「悪い、待たせたな」

「大丈夫だけど……途中、凄い音してたよね」

「やっぱり、聞こえてたか」


 そう話しながら、部屋へと入る。やはり、高校生にもなったからか、少しばかり部屋の中も変わるらしい(私も人のことは言えないが)。


「で、単刀直入に聞くけど、相談したいことって、何だ?」

「その前に、確認したいんだけど、梓乃はさ。彼女とか、居たりする……?」


 さすがに、内容が内容なだけに、彼女持ちに相談できるような内容ではないから、居ると返されると他を当たるしかないのだけど。


「居るように見えるか? この俺に」

「いや、意外と目立つタイプだから、もしかしたらと」


 そう言って誤魔化すが、中学の卒業アルバムの『高校生になったら、彼女出来そうな奴ランキング』なんてものに、名前があったぐらいだからなぁ(というか、『彼女出来そうな奴』って何だよ)。


「『意外と』って、どういう意味だ。『意外と』って。……まぁ、お前の言い分には他にも突っ込んでやりたいところだが……」


 梓乃が(おもむろ)に立ち上がると、ドアを思いっきり開ける。


「逃げては……無いか。とりあえず、一回下に行ってくるから」

「あ、うん」


 梓乃が、後で取りに来るように言われていたのは、私も聞いていたから、部屋を出ていく彼を見送る。

 それにしても、ドアを思いっきり開けたのを見ると、小母さんに立ち聞きされてると思ったんだなぁ。


『好きです、付き合ってください』

「……」


 今のうちに、言うべきことを纏めようと、今までの経緯を思い出してみるが、どこをどうすればああなるのか、分からない。


「……やっぱり、分からない……」

「何が分からないんだ?」

「っ、びっくりしたぁ」


 戻ってきたことに気づかなかった。

 そんな私の反応を特に責めることもなく、梓乃が対面に座る。


「で、さっきの呟きと相談がどう関係するんだ?」


 どうやら、何か関係してることまで、お見通しらしい。


「その……」


 私たちの間にある机の上に置かれた、梓乃が持ってきたお菓子と飲み物(ジュース)を見つつ、話を再開させる。


「うちの学校にね。注目を集めるっていうか、まあ、どちらかといえばの範囲でね、イケメンの男子が居るんだけど」

「何だ。自慢か」

「違うよ。その男子がさ。何を思ったのか、私に告白してきた」

「やっぱり、自慢か。しかも、イケメンとは」

「だから、違うって。どちらかといえばの範囲だって、言ったじゃん」


 親友の牧瀬君からも話は聞いてるはずなのだが。

 ちなみに、私と梓乃は通っている高校が違う。

 私の親友、綾瀬瑠璃(あやせ るり)と梓乃の親友、結月牧瀬(ゆづき まきせ)君は恋人同士なのだが、どういうわけか、私と牧瀬君、梓乃と瑠璃の組み合わせで高校が同じなのだ。

 そして、それが発覚したときに、「由依に変な虫付けないようにしといてよ。こっちは、梓乃の奴に虫が付かないようにしとくから」と瑠璃が牧瀬君に、私たち(本人)が居る目の前で言っていたから、今でもよく覚えている。

 だけどね、瑠璃さん。貴女の心配するべき所はそこじゃないと思うのは、私の気のせいかな。


 閑話休題。


「分かりやすく言うけどさ。梓乃は、美人の隣に、片思いだろうが両思いだろうが、並ぼうと思う?」

「思わないな。思いの度合いとその人の影響次第だが、遠慮するだろうな」

「つまり、そういうことなんだよ。それに、彼ってタイプじゃないんだよ……」


 学校中の女子たちを敵に回してまで、あんなにキラキラした人の隣を歩く勇気が私には無い。


「お前に好きなタイプがあったことについては驚きだが、好きになったら、タイプなんか関係ないだろ」

「それは、そうなんだけど……」

「で、肝心の返事はどうした」

「……断った。好きでもないのに、付き合うとか出来ないし」


 でも、問題はそこからだった。


「何でだろうね。「如月さんに、僕のことを知ってほしいから」って、一緒に居る時間が増えたんだよ? 牧瀬君と話してるときも割って入ってくるし、お陰で女子たちには睨まれるし……」


 だから、同じ中学出身者からは「頑張れ」って言いたげな目をされるんだよね。牧瀬君には、同情的な視線が多いけど。


「あー、あれはそういうことだったのか」


 やっぱり、連絡はあったんだ。


「だからさ、梓乃にアイディアぐらい貰おうかと。そのアイディアでも駄目なら、彼の前で恋人の振りでもしてもらおうかと」


 だが、『恋人の振り』は最終手段だと思っているんだけど。


「そう、あっさり言うけどな。つか、もう恋人の振りそのままで良いじゃねーか」

「それだと、最後まで梓乃に迷惑が掛かるじゃん」


 相談したのも、『恋人の振り』という最終手段を言ったのも私だけど、やっぱり梓乃を完全に巻き込むわけには行かない。


「でも、お前は困ってるんだろ? だったら、牧瀬と瑠璃も巻き込んで、作戦会議するぞ」

「え、あの二人も巻き込むの?」

「この四人でなら、何とかなる。違うか?」


 一緒に居るようになってから、四人でなら、大体のことは解決できた。


「そう、だね」

「だったら、次の休みに集まるぞ」

「うん」


 そして、瑠璃と牧瀬君に『次の休みに、話したいことがある』とメールを送れば、すぐに『了解』や『OK』と返ってくる。


「休みまでは牧瀬と二人で、何とか頑張れよ」

「うん、頑張るよ」


 そう話して、葉月家を出る。


 みんな協力してくれる。

 だからーーきっと、大丈夫。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ