六十八話 図書館
レナの襲来から三年。
黒妃を退散させた俺は、マスケラ邸での生活を厳命されていた。
黒妃に一人の人族が勝った。燃やされ死にかけた俺が、王族や貴族の間でそう噂されたのが原因だ。
勝った者は誰だと、王族や貴族たちは俺を求め探し始めた。
マリアさん曰く。王族や貴族が俺を登用した場合、緑大陸に帰れなくなるらしい。
王は人格者ではあるが、熱烈な決闘支持者でもある。
強者を求めるは王国の常。登用されれば国から出れなくなるらしい。
だから俺は厳命に従い、マスケラ邸での生活を送っている。
ここの主。マスケラ自身がいればどうにでも出来たそうだが、残念ながら彼は今緑大陸にいる。
初めて聞かされた時は驚かされたものだ。お互いが入れ違うように大陸を移動しているのだから。
ちなみにマスケラが死んだという話は歳を偽るための作り話だった。
マスケラは青葉と同じく三年に一歳しか歳をとらない。そのためマスケラはマスケラジュニアという息子をでっちあげ、歳を誤魔化すために国民に向け大芝居を打った。
俺も見事に騙されていた。
しかも実際に息子はいて、不在のマスケラに代わり大公補佐をしているからややこしい。
全ては国民に不安を抱かせないため、王と協力し仕組んだことだった。
三年という年月は人を変えるには十分な時間である。
俺以外は。
「シュウ様~」
「シュウ! シュウ! シュウ!」
「……変態主人……」
「どうしたサンマリア? 今日のトレーニングは終わっただろ?」
サンマリア改め、マリア四天王の三人がやってきた。
「あ、あの……マリア様がですね~」
二十歳になって大きくなったが、変わらず弱気なレイマリア。性格に対して身体は著しく成長してしまい、ボンスッボンのナイスバディな女性に育ってしまった。キュッではない。
「午後は仕事しなくていいってマリア様が言ってくれたぞ。だから遊びに行こうぜシュウ」
十九歳となりサンマリア最後の十代のローマリア。今は狙ったかのように三人とも同じ身長になってしまい、ちびという持ち味が減った。残る個性は軽いくせっ毛くらいか。身体は……。まぁ、その、少女らしい身体のままである。キュッキュッキュッといったところか……。
「……自分は嫌だけど……ローとレイと青葉がいるから……、自分も行くよ変態主人……」
二十一歳になったが……、一番変わらないリトマリア。生きてるのか? と思うくらい変わっていない。リト曰く、毎日伸びた髪も爪も手入れするから変わらないように見えるだけだそうだ。
身体はポンキュッポン。
三人とも髪の長さを揃え、同じ服を着ている。
黒いワンピースにフリルのついた白いエプロンとカチューシャ。メイドのイメージ通りの格好だ。
髪の毛の色が茶、青、黄と個性的過ぎるけれど。
本当に血が繋がっていないのか? と疑いたくなるほど、似てきている。
「ん? 青葉も行くのか?」
「そりゃそうだろうシュウ。青葉も合わせてあたしたちは四天王なんだからな!」
そうなのだ。この三年で青葉はマリアさんの養女になった。しかも一番遅れて養女になった青葉が、マリア四天王のリーダーである。
「リト、レイ、ロー。お待たせ!」
噂をすればなんとやら、走ってきた青葉が息を切らしてやってきた。
三年に一歳しかとらないせいで、見た目はあまり成長していないが、それでも青葉は変わった。
この三年、マリアさんは青葉にずっと説明し続けていた。
青葉の二つの疑問に対して。
何故俺は人殺しをしたのか? 何故笑いながら、残酷なことが出来るのか?
俺が青葉に言っても言い訳にしか聞こえなかったであろうことを、マリアさんはこんこんと説明してくれていたんだ。
前のように、とはならないがマリアさんの説得で青葉は俺を許し、依頼を共にこなすようにまで仲直りをした。
「……変態主人ニヤニヤしないで下さい……」
「ほんとだ? シュウ兄どうしたの?」
日だまりのような彼女たちに見惚れ、笑っていたようだ。
「……何でもない。それで、どこに行くんだ?」
「シュウ様はどこか行きたいところはないんですか~?」
「そうだそうだ! こういう時は男が決めるもんだろ?」
「……どこでもいいのか?」
「……図書館?」
彫刻が施された石柱が並び立つ、立派な入り口をした国立図書館前へとやってきた。
「休日に図書館はやっぱりダメか?」
「なんであたしだけに聞くんだよ!」
「他の三人は不満そうじゃないからな」
「裏切り者め!」
リトマリアにいったては嬉しそうですらある。
「でもどうして図書館なんですか~?」
「んー、ちょっと歴史を調べたくてな」
「歴史? 歴史なんて調べてどうするのシュウ兄?」
「歴史なんてって……。いいか青葉、歴史を理解するのは重要なんだぞ。この国に住んでる人たちを理解することにもなるし、俺たちとの差異も分かるようになるんだぞ?」
「……主人は稀に正論を言うから困る……。とにかく早く行こう……」
「引っ張るなよリト」
リトマリアが俺を引っ張り、とりあえず図書館で決まってしまった。
「なんで皆楽しそうなんだよー!」
さすがに国立図書館はすごい。
本だけでなく絵画や彫刻も多数展示され、美術館も兼ねている。
入る前はぶーぶー文句をたれたていたローも、入ってしまえば絵本コーナーにお熱だった。
レイにいたっては『おそうじ大作戦』というタイトルから始まり、とにかく家事に関わる本を漁っている。
青葉は小説を読んでいるようだ。
俺も青葉もこの世界の共通言語を覚え、もはや読み書きにも支障はない。
そして何故か分からないが、リトは俺にべったりだ。
普段は俺を罵倒してばかりなのに、今日はどうしたことか懇切丁寧に図書館を説明してくれたり、お薦めの本を紹介してくれる。
そんなリトが案内してくれたことで、目的の本に出会えた。
『神と四人の始人』
地球で言うところの天地創造にあたる神話だ。
もっと早く来たかったがレナの件で安易に外出できず、三年も掛かってしまった。
そもそも歴史を調べたくなったのはレナが原因なんだけれど……。
血迷ったわけでもなんでもなく、俺はレナを救いたいと思っている。
だからマリアさんにも相談せず、マスケラ邸で可能な限りレナの過去を一人で調べていた。
調べれば調べるほど、世界の起源に迫っていき。最終的に救う手立てなど無いと分かったが諦めたくは無かった。
それで神話にまで行き着いてしまった。
読み終わったところで答えは変わらない。それどころかレナが求める魔法は、神話にさえ存在しないと分かった。
反魂魔法。それこそがレナが追い求める魔法だった。




