五十五話 大会 貴婦人
「本当。乱闘だな、こりゃ」
二百数十名が、各自戦っている。
一対一だったり、二対一だったりと。ルールに違反していなければ何でもいいようだ。
俺としてはこんな乱戦なんかより、マリアさんが気になって仕方ない。
青葉の隣に初めからいたなら分かるが。満員の客席を掻き分け、わざわざ青葉の隣に行ったんだ。
偶然なわけが無い。
「余所見してんな!!」
……ふむ。それでもマリアさんが悪い人とは思えない。
青葉の隣に行ったが、何かをするわけでもなく、二人で別々に俺を見ている。
無理もない。接触しようとしたところで、青葉は共通語を覚えている最中で、まともな会話は出来ない。
マリアさんが何か目的が有って、青葉と接触したとしても意味はない。
「……やれやれ」
「こいつは兄貴の分!!」
……青葉がマリアさんに迷惑を掛けたら大変なので、直接マリアさんに、何のようか訊いてみよう。
「喰らいな!!」
……しかし遠い。
この会場、陸上の四百メートルトラック並みに広いんだ。俺がいるのはトラックの直線部分。青葉たちはここの向かい側だ。
真っ直ぐ突っ切ろうと思うが、問題なのは、中心部が激戦区であるということだ。
通り抜けるのに苦労はしそうだが、時間的には遠回りと変わらないだろう。
既に三人を仕留めたが……。激戦区はこの程度では済まない。
「おっ! …………ふぅ」
これで四人目。
仕留めた人数で競い合ってるわけではないが、なんとなく数えていた。
一人目は正面から突っ込んできたので、顎にピンポイントで左ジャブを合わせた。
二人目は右から。顔面にフックで殴り掛かって来たので、屈伸で躱し、アッパーで仕留めた。
三人目はまた正面。でかい奴が両手を組んで振り下ろして来た。逆に懐に飛び込み、膝で金的を食らわせた。
四人目はなかなか手強かった。小さい奴だったが、背後から音も無く近寄り、首を絞めてきた。
首元に腕を回され、裸絞めの形にまで持っていかれた。が、顎をギリギリ引いていた。
顎が盾となり、裸絞めは成立していない。
締めつけられたまま前方宙返りをして、背中から落下した。
体格差が無ければ、四人目は危なかった。
「よし! 行こう!」
激戦区の中央へ向かう。
即座に対応出来るよう、摺り足で。
……卑怯で申し訳無い、五人目は背後から腎臓を殴り、仕留めた。
崩れ落ちていく彼の向こうから、六人目が現れる。
五人目の対戦相手だった六人目は、苦悶の表情を浮かべ崩れていく、五人目に気を取られ無防備だった。
体重を乗せた、右ストレートで吹き飛ばした。
七人目。
七人目とは殴った反動で、偶然目があった。彼は飛び掛かろうと身を屈めていたが。俺と目が合ってしまったばかりに、驚ろきで硬直してしまった。
単なる幸運だが、運も実力のうち。不利な体勢を立て直し、腰の入った足刀蹴りで仕留めた。
落ち着く閑もない。
続け様に八、九、十人。
八人目。顔を狙ってきた攻撃を下に躱し、下への体重移動も乗せた正拳突きでの鳩尾。
九人目と十人目。対戦中の二人を同時攻略。側頭部への両手ストレート。
同身長の二人だから出来たことだ、高さがずれていれば、綺麗に倒れてはくれなかっただろう。
ようやく道が出来た。
摺り足をやめ駆け出し、直線上にいた十一人目を飛び膝で仕留め、激戦区を抜け出た。
追いかけてきた十二人目を、回し蹴りで地面に叩き付け、青葉とマリアさんの元に向かった。
青葉を見上げる、というのも不思議な光景だ。
「シュウ兄!! シュウ兄!!」
どうしたのだろう? 青葉は身を乗り出して、興奮していた。
「ぼぅはドキドキが止まらないよ! シュウ兄メチャクチャ格好いいんだもん! みんな一発で、どんどん倒しちゃうんだもん!」
「お、おう。ありがとな」
……参った。俺にはそれこそ、今日一のダメージである。
「あらあら。お嬢さんも元気なのね」
「マリアさん……」
青葉に気を取られ、失念していた。
柵から顔だけ出して、真下にいる俺に話しかけてきた。
「やっぱり親子だったのね。黒髪の黒眼なんて、滅多にお目にかかれないもの。見掛けた時には貴方の縁者だって、すぐ分かってしまったわ。」
マリアさんはゴージャスな扇子で、口元まで隠してしまった。元々仮面で目元が見えない分、表情が読めない。
「シュウ兄!!」
「分かってる」
振り向きざまに、顔面へと蹴り込まれる足を掴み、そのまま背負い投げた。
壁に叩き付けることになり、ちょっと可哀想なことをしたと思う。
「すまん」
十三人目に合掌した。
「本当に強いのね。でもそろそろ、淘汰された強者が残る頃よ? 私とお話しする余裕も、無くなるのではなくて?」
「では手短に……」
「そのほうがいいわよね。貴方、日本人? それとも中国人?」
「へ?」
マリアさんの問いは、英語だった。
「シュウ兄! さっきから何を話してるの! このおばさん誰なの!」
どう説明すればいいのか?
「あらあら。シュウニイさん? 後ろ」
人が考え事をしてる時に!
十四人目。向かってくる左拳を横に躱すと、本命の右ストレートが放たれた。
一直線に鼻を潰しに飛んできたので、額で受けた。
メギッ。と、奇っ怪な音が聞こえた。
失敗した。
十四人目の叫び声がうるさくて、会話しづらい。
追撃は出来ないから、黙らせるわけにもいかない。
取り合えず、重要なことだけを伝えておこう。
「青葉! 隣の人、地球人かも!」
「えっ! ほんと!?」
青葉の態度が急に変化し、マリアさんに笑顔を向けた。
「ナ、ナイストゥミートゥ?」
……どうしよう。胸がキュンとした。
「Nice to meet you too」
あ、通じた。
「シュウ兄!! どうしよう! ぼぅあと分かんないよ!」
やばい。胸が締め付けられる。
……駄目な子ほど可愛いって、こういうことだろうか?
「そこまで!!」
会場全体に響き渡る大声をきき、咄嗟に振り向くと、辺りには人の絨毯が出来上がっていた。
残っているのは宣言通り、十五人。
顔に強烈な傷が有る奴や、血塗れの奴。
息を切らしている奴や、大声を出して喜んでいるのもいる。
そして。
今まで何故気づけなかったのか。
三メートルに近い、巨人が本当にいた。
……嘘じゃなかったのか。
俺を含めたここの十五人と、王者を混ぜた十六人で、本戦のリーグ戦が行われる。




