五十四話 大会 予選
港町カロッドを出発して九日目、ようやく首都シアットにたどり着いた。
「おっきぃー……。シュウ兄、王国ってすごいね!」
「すごい。すごいけど……」
シアット王国首都シアットには、王様がいる。
となるともちろん、検問がある。
つまり、青葉が見上げて感想を述べたこれは、……城門ということになる。
左右の城壁は広すぎて、どこまで続いてるのか、検討もつかない。
高さも十メートルは有るだろう。
絶影に乗ってる俺たちはまだいいが、歩きの人たちは城壁と人以外、何も見えないはずだ……。
大勢の人による長蛇の列が、三百メートルは続いている。
並んでいる人たちも様々だ。九日間の旅で、他の町では見掛けもしなかった、翼人族やエルフもいた。
「あれが翼人族……。よし、負けてない」
青葉はテンションが高い。
いつもは俺の背中に張り付いて乗るのに、列に並んでからは前に移動した。
青葉はあの日以来、まともな食事を取り戻した。
食べられるものを少量から食べ始め、今ではすっかり通常食だ。
赤大陸は小麦が主食だから、青葉の食事は主に、ハンバーガーだった。
元気になって嬉しい。嬉しいのだが……。
元気過ぎる。
まったく……。自分の事ながら、贅沢な悩みである。
「うわぁーー!!」
「すげぇな……」
検問をクリアし、城壁の中へ入った途端、どこもかしこも人で溢れかえっていた。
城壁内だというのに広い。広すぎる。
向かい側の城壁なんて、霞んで見える。
……王城もまた、でかい。
入ったばかりですぐ分かってしまう。丘の上にでも建っているんじゃなかろうか?
青く、円筒の屋根をした塔。それが何本も見える。一本一本ならなんでもない煉瓦の塔なのだが、塔は全てが繋がっていて城になっている。
一番高いところだと、二十メートルはあるんじゃないか?
城を中心に高い建物が集まり、また城壁が見える。
たぶん、二つ目の城壁からは貴族でも住んでいるのだろう。
中心へ向かう通路は、どこも人だかりが出来ていた。
横道に入ったところで、人だかりは減少するだけ。どこも通るので一苦労だ。
挙げ句、馬に乗っていたら馬から降りるよう、巡回の兵士に注意されてしまった。
ついでなので、兵士たちに闘技大会のことを聞いてみると、今日が開催日だそうだ。
人だかりの原因は、闘技大会だった。
「出場希望かい? なら急いだほうがいい。受け付けはもうすぐ終わる。ここをまっすぐ行けば闘技場があるから、急ぎな」
馬を降ろされたり急かされたり、どうしろというのか?
「シュウ兄。絶影はぼぅが預けるから、シュウ兄は行って」
青葉を一人にしていいものだろうか、と。眉をひそめた瞬間、腕を噛みつかれた。
「いだいいだい!」
「なにやってるんだよシュウ兄! ルナちゃんのことも考えなよ! ぼぅだってこのくらい出来る! 早く行って!」
思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう青葉!」
全力で人混みを縫うように走り、一目で闘技場と分かる、ここにたどり着いた。
「まんまじゃねーか!」
古代ローマの円形闘技場コロッセウム。似ているなどではない。そのものだった。
崩れてんじゃねぇの? と疑いたくなるような外観。何個あるんだよと突っ込みたくなるような入り口の多さ。
周辺の石畳に至るまで、コロッセウムそのものだ。
大声を上げて突っ込みをしたお蔭で、周囲の人が離れ、簡単に受け付けを探せた。
「……出場希望、ですかぁ」
受け付けの男は、殴りたくなる男だった。
カールした長い口髭を弄りながら、俺のことを見下していた。
「君じゃ勝てないと思いますよぉ。今回の選手には三メートルの巨人もいるんです。仮にそうじゃなくても、君じゃ予選すら勝てない。やめておいたほうが無難ですよぉ」
……こいつが真摯な態度で言ったなら、巨人の話も信じよう。
あきらかにこいつは。面倒だから受け付けをしたく無いんだ!
胸ぐらを掴みたい衝動に襲われ、周囲の状況を確認したら貴婦人と目が合った。しかもその人は、こちらに近寄って来た。
お城に住んでいそうな白いドレスを来た、変な貴婦人様だ。
仮面舞踏会でも開かれるのだろうか? 目元にきらびやかな仮面を付けていた。
「貴方、出場者ね? 急がないと、始まりますよ」
仮面に気取られ、分からなかった。
声を聞き、よく見てみれば、おばあさんだった。
「もし? 分かりますか?」
「あ……。すいません。ちょっと見とれてました」
「お上手ね」
六十くらいだろうか? 不思議な魅力に、毒気が抜かれてしまっていた。
「出場したいんですけど。こいつが……」
親指を髭カールに向けた途端、髭カールは手を擦りながら、貴婦人に説明しだした。
「いやぁー。彼では危ないので出場しないほうがいいと、薦めていたんですよぉ。マリア様からも言ってもらえませんかぁ」
髭カールの対応を見る限り、このマリアさんという貴婦人は、かなりの大物のようだ。
なのにマリアさんは、髭カールと違い、話が通じそうだ。
「そうなの? 出場、やめてしまうの?」
「いいえ。出ますよ」
「あら! なら決まりね。……受け付けさん。越権行為ではなくて? 闘技大会は、全人種が平等に出場出来る、ということこそが理念ですよ? 貴方にそこの席は荷が重いのではなくて?」
髭カールは平謝りしていた。
「はい。これが出場用紙よ。共通語でなくて大丈夫。名前だけ書いて、お急ぎなさいな。すぐに予選が始まるわよ?」
「良いんですか?」
「こちらの不手際ですもの。貴方だけ、特別よ」
お言葉に甘え、名前を書いた書類をマリアさんに渡し、列を作っている入場口へと走った。
背後でマリアさんが、何かを呟いていたが聞き取れなかった。
「この字、漢字だわ……」
俺が入場口に並び、エントリーは終了したようだ。
兵士による説明が行われ、大会の流れが分かった。
まず最初に、リーグ戦へ上がるための乱戦が行われるそうだ。
何人いるかは分からないが、十五人になるまで全員で戦い合う。
武器は禁止、行動不能者への攻撃も禁止。
大事なルールはこれくらいだ。
しかし。兵士の説明なんかより、目の前の現実のほうが、どんな乱戦になるかを物語っている。
俺は、並んだのが最後で本当に良かった。
入場口の門は閉ざされていて、門の付近は人で埋め尽くされ、すし詰め状態になっている。
……何人いるんだよこれ?
この入り口だけで、五十人以上いるだろ?
コロッセウムはたしか、入り口四つなかったっけ?
……だとしたら、二百人以上いる?
思わず、ため息をついていた。
「あん? やる気がねぇなら帰りな」
隣のプロレスラー、もといパン一男。その男が俺のため息を聞き、突っ掛かってきた。
「やる気はあるさ……。ただ、またかよって思っただけさ……」
俺の返答にパン一は、キョドっていた。
それが開始の合図のように、門が開かれた。
前の連中は勇ましく走り出した。全員が揃うまでは始まらないのにだ。
「行こうぜ」
残された俺はパン一を誘い、門を通過した。
門の外には二百人以上の選手と、何万もの観客が待っていた。
見渡す限り人、人、人。人!
円形闘技場は満員。どの席も空いてなどいなかったが、最前列には青葉の姿があった。
「シュウ兄ーー!!」
大きく両腕を振って応援している。
まったく、隣のおじさんの迷惑も考えて欲しい。と、誤魔化そうとしたところで、無理だった。
青葉の声援が嬉しくて、笑顔で手を振り返した。
会場に、アナウンスが流れる。
「ご会場の紳士淑女の皆様、これより……。第四百六十六回、闘技大会を開催致します」
声の主は四層に別れた壇上の、三層目にいる男だった。
男の真上の四層目は、王様が来そうな豪奢な場所だが、今日は不在のようだ。
マイクやスピーカーが無いことを考えると、男の声のでかさは魔術なのだろう。
実際、次のトークまでの間が長い。
アナウンサーの長話に会場が飽きだしたところで、カウントダウンが始まった。
「五」
選手の表情はどいつも、ギラギラしていた。
「四」
青葉に視線を合わせ、頷く。
「三」
あれ?
「二」
青葉の隣に。
「一」
マリアさんが居る?
「ファイト!!」
全選手が一斉に、殴り合いを開始した。




