幕間 恋敵
ぼぅはシュウ兄に、話せるところから話し出した。
あの日ぼぅたちは、二人で一緒に崖から飛び降りた。
若葉は脱出するためで、ぼぅは諦めるため。
最後に若葉は、ぼぅの名前を叫んでいた。
怖くて目を閉じていたから、何で叫んでいたかは分からない。
ぼぅが目を覚ました時、若葉はどこにもいなかった。
とうとう一人になっちゃったってわかったから、ぼぅは泣くことしか出来なかった。
泣いているぼぅの身体は、どんどんどんどん、可怪しくなっていった。
泣いているぼぅを、カタコトの日本語を話す人が助けてくれた。
服を脱がせて身体中に針を刺して、ぼぅ看病をして、治してくれた。
ロンって言ってたし、針を使う人だし、多分中国人なんだと思う。
そのロンさんに連れられて、孤児院みたいなところに入れられた。
ロンさんも、こっちの言葉は知らないみたいだった。メモ帳みたいなのを見ながら話して、ぼぅを入れていった。
孤児院みたいなところは、学校だった。
学校からは言葉を覚え始めたころに、追い出された。
ぼぅは何も出来ないしほとんど喋れないから、働くことも出来なかった。
毎日食べるのに必死だった。
貰ったり盗んだり、草を食べたり。
どうして頑張ってるか分からなかったんだけど、あの時のぼぅは生きたかった。
けれどぼぅは、どんどん痩せていった。
どんどん痩せて、動けなくなるまで痩せた。
あの時と同じようになるまで。
ぼぅはぼぅを食べようとした、鳥を食べた。
犬も食べたし、鼠も食べたし、いろんなものを食べた。
何を食べたかなんて、全部は覚えてない。
だから、何人食べたかも覚えてない。
ぼぅが生き物を食べる時は、限界までお腹が空いた時だけ。
限界までお腹が空くと、皆襲ってくる。
ぼぅの匂い、フェロモンに引き寄せられて。
施設の人が言ってた。
ぼぅと若葉には普通じゃない能力があるって。ぼぅたち以外も、施設の子どもは皆そうだって。普通の子どもは、あの施設には居ないって。
ぼぅたちの能力は消化吸収力が異常なのと、フェロモンだ。
この能力が有るから、ぼぅたちを施設は買い取った。
ぼぅたちの村は変だった。
双子は禁忌だって言って、ぼぅたちは生まれる前から売られていた。
五歳になるまでは村にいたけど、お父さんとお母さんが誰かも知らない。
そんな変な村だった。
たったこれだけをシュウ兄に伝えるまで、ぼぅは二日も掛かった。
シュウ兄が操る馬の上や、ベッドの上。話せる時間はたくさんあったのに、二日も掛かった。
シュウ兄はずっと待ってた。
ぼぅが話すまでずっと、待ってくれた。
ぼぅはシュウ兄を嘘つき呼ばわりして、シュウ兄のことを。
食べたのに……。
なのにシュウ兄は優しい。
可怪しい。優しさもここまで来ると可怪しい。
昔からそうだった。
施設の誰よりも、シュウ兄は可怪しかった。
シュウ兄は出会ったころから、違っていた。
身体能力も、学習能力も、年齢も。一緒に育ったぼぅたちとは、全部が違かった。
施設の人たちの扱いだって、シュウ兄だけは違った。
なのに、優しかった。
殴ったり倒したり殺したりを教える場所で、若葉以外で優しくしてくれるのはシュウ兄だけ。
だから、シュウ兄は一番可怪しい。
このままだといつか、優しさが原因死んでしまうんじゃないかって、そう思えるくらい。
だからぼぅは、シュウ兄を守ることにした。
どこかで、そう言われたような気もするし……。
シュウ兄に言ったら断られるから言わない。だけどぼぅは決めた。
シュウ兄がぼぅを守るように、ぼぅもシュウ兄を守る。
今は魔法くらいでしか、シュウ兄を守れないけど……。ぼぅはまだ成長出来るから、成長してシュウ兄を守る。絶対に。
そうしたらシュウ兄だって、ぼぅを認めてくれるはずだから。
今は、一緒に居られるだけで我慢する。
シュウ兄には他に、大切な人が待っているから。
婚約者の、ルナさんが。
シュウ兄はルナさんを理由に、ぼぅを抱こうとはしない。フェロモンだって効かないくらい、シュウ兄の意思は強い。
だからルナさんに会うまでは、一緒にいるだけで我慢する。
ルナさんに会って、ぼぅは勝ってみせる。
こんなぼぅを愛してくれる人は、シュウ兄しか居ない。
シュウ兄にそこまで想われてるルナさんにだって、ぼぅは負けてなんかやらない。
シュウ兄は、ぼぅのものだ。




