四十七話 つよくなりたい
あたしのせいでお兄ちゃんはいなくなった。
だからあたしは毎日海に行って、お兄ちゃんをまつことにきめた。
今日も朝ごはんを食べたら、行ってくる。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。……フィオ、やっぱり今日も行くの?」
「うん!」
お姉ちゃんはまちにいかないで、村でまつようになった。
さいしょは一人でまちに行くのをゆるしてもらえなくて、すごいけんかになった。
次の朝になったらゆるしてくれたけど、やくそくをいっぱい作られた。
だから今日も、お姉ちゃんはタイガをよぶ。
「タイガ、フィオをよろしくね」
あたしはタイガといっしょじゃないと、海にいけない。
「……一人でだっていけるのに」
「何か言った?」
「なんでもなーい! タイガ、ふせ」
タイガといっしょだと早いから、こう思うとむかむかはきえる。
「ホーディさんに迷惑掛けちゃだめだからね。あとシュウさんが帰ってきたら……」
「行って。タイガ」
ききたくないからいそいでタイガを走らせた。うしろでお姉ちゃんはおこってた。
タイガのせなかはあったかくて気持ちいい。びゅんびゅんとおっていく風も、気持ちいいしおもしろい。
あきたらタイガにくっついてる虫をとって、虫がいたところをかいてあげる。そうするとタイガはよろこぶ。
虫をとってるとすぐ、まちにつく。
もんばんとえいへいとあたしは、なかよしになった。
もんばんはあたしが来ると、タイガをたいせつにあずかってくれる。
「フィオレちゃん、毎日ご苦労様。早速で悪いんだけど、いつものやつお願いしてもいいかな?」
「いいよ。タイガ、お手」
もんばんはタイガの手が大好きだ。もんばんの手にのったタイガの手を、ずーっとさわってる。
えいへいはタイガがきらいみたいで、ちかよろうとしない。こんなにかわいいのに。
もんばんにタイガをまかせて、あたしはホーディのところに行く。
まちの中はあたしだけだと、人ぞくがたくさん見てくる。みんなへんな色で、気持ちわるい。
五回も来たから、今日はそんなに気持ちわるい色はすくなかった。けど、いやな色はいるからいそいでホーディの家に行った。
ホーディの家はまちの中で二ばん目に大きい。じっちゃんの家よりも大きい。
家の前にはいつもホーディが待っている。あいさつをしたら、あたしはすぐにみなとに行く。だけど、今日はホーディに止められた。
あたしがにげないように、かたをつかんでくる。
「今日は港に行かれることを許可出来ません」
「なんで!」
「昨日フィオレ様が帰られたあと、港で子どもに声を掛ける、怪しい人物が目撃されたのです。人拐いの可能性も高く。フィオレ様だけで行くのは、危のう御座います」
「……ひとさらいってわるいやつのことでしょ? それならあたし行きたい。行ってたたかいたい!」
「……フィオレ様?」
ホーディはびっくりしていた。
「わるいやつならやっつけてもいいでしょ? あたしだってたたかえるもん」
「いけません! フィオレ様の身に何かあれば、シュウ先生に合わせる顔がありません。今日ばかりは我輩の家でお待ち下さい。シュウ先生が来られても、ここならすぐにお迎えに行けますから」
「いや」
ホーディは困っていた。
……だれも、あたしの気持ちなんて分かってくれない。
「……フィオレ様。何故戦いたがるのですか?」
「あたしはつよくなりたいの!」
ホーディはあたまをかいて、同じことをきいてきた。
「どうして強くなりたいのですか? シュウ先生が戻られれば、強くなる必要も無いでしょうに?」
やっぱり、だれもわかってくれない。
「あたしはつよくなりたいの!!」
走ってにげても、ホーディはかんたんにあたしをつかまえる。だからお兄ちゃんがおしえてくれたとおり、男につかまったらこうしろ。をやった。
おもいっきり、けった。
きんてき。と、お兄ちゃんは言っていた。
ホーディがまるまってたから、あたしはいそいでにげた。
走ってまちをとおってると、せんたくものが有ったから、かりた。
人のいない道にいって、まっ白い布を体にまいて、つばさをかくして、へんそうした。
まちの人の色が、あかるい色にかわってた。へんそうはせいこうだった。
へんそうしたまま、みなとに行く。
ずっとへんそうしてうごいてたから、すっごくあつい。
がまんできないから、みなとでへんそうはやめた。
お兄ちゃんをさがして、わるい人もさがした。さがしてるとホーディがきたから、いそいでふねにかくれた。
あたしをよんでうごいてるから、ホーディはいなくなったのがすぐ分かった。ホーディのこえがとおくなって、かくれるのをやめた。
かくれるのをやめて、またお兄ちゃんとわるい人さがしにもどる。
お兄ちゃんが帰ってくるなら大きいふねらしい。
わるい人はいなかったから、あたしはうみがよく見える、ほそい道のさきですわってふねをまった。
お日さまが気持ちよくて、すこしうとうとしてた。
そうしたらホーディみたいなむきむきが、あたしにはなしをしてきた。
「お嬢ちゃん、何してるのかな?」
へんな色だった。
もも色と、はい色がまざった。へんな色。
「……お兄ちゃんをまってるの」
へんじをしたら、へんな色はしゃがんで、もっとはなしをしてきた。
「お兄ちゃんは船乗りなのかい?」
「ちがう。でもふねでかえって来る」
「そうなんだ。ここで待ってるのも大変じゃないかい? おじさんの家はすぐそこだから、おじさんの家で待ってたらいい」
もも色がこくなった。
「いい。あたしここでまってる」
「美味しいお菓子もあるよ?」
「おかし!?」
あたしがよろこぶとへんな色のおじさんは、ぜんぶもも色になった。
「お菓子が好きなのかい? いくらでも買ってあげるから、早く行こう」
へんな色のおじさんは、手のひらをむけてきた。
行きたいけど、お姉ちゃんとのやくそくがある。
おかしであたしをよぶ人は、わるい人だからタイガをよぶこと。って。
でも、あたしはタイガをよばない。
よばないで――きいた。
「おじさんはひとさらいなの?」
「……あ?」
色が、――黒くなってた。
わるい人がいたらたたかうつもりだった、だったけど、こわくておもったとおりにできない。
「タイッ……」
タイガをよぼうとしたけどできなかった。へんな色が、あたしにだきついて、口もおさえてきた。
せなかと口をすごい力でおしてきて、すごくいたい。
「だめだよお嬢ちゃん。誰か呼ばれたらおじさん困っちゃうから。大丈夫、お菓子はちゃんと上げるし、痛いことだって少ししかしないからね」
この人ぞくは、ぜんぶが気持ちわるいから。
お姉ちゃんとタイガ。そしてお兄ちゃんに、――たすけてって、おもった。
そうおもうあたしを、あたしはいやだった。
あたしはいつも守られてばっかり。
あたしはお姉ちゃんがすき。いつもあたしのためにがんばっている。
あたしはタイガがすき。いつもあたしのそばにいるし、あたしのいうことをきいてくれる。
あたしは、お兄ちゃんがだいすき。お兄ちゃんはおかしいくらい、あたしとお姉ちゃんがだいすきなの。
お兄ちゃんはいつだって、あたしたちのためだけをおもってた。
お兄ちゃんはしぬことをかんえがえても、あたしとお姉ちゃんをまもろうとしていた。
だからあたしは、――つよくなりたい!
つよくなって、お兄ちゃんといっしょにいたい!
お兄ちゃんとは、もうぜったいにはなれない。そうじぶんにせいやくしたのに。
なのに。
あたしはへんな色にまけている。
たすけてほしいっておもっている。
そっちほうがいたかった。
「お嬢ちゃん泣かないでくれるかい。でないとおじさん、お仕置きしないといけないから」
あたしはなにもできない。
こえはでないし、足はとどかない。
みなとのとおいところだから、だれもいない。
へんな色はどんどん黒から、もも色にもどっていた。
なにをしようとしてるか分からないけど、すごくいや。
あたしはむりやりじめんにねかされたら、空がきゅうにくらくなった。
あたしはまちのほうを見てたから、分からなかった。
海からおっきくて、見たことないふねが来ていた。
「ずっと見てたよー。そこのロリ○ン。死にたくないならさー。その子を解放しなよー」
ふねの上から。へんなお面がへんなどうぐで、おおごえを出していた。
へんな色はにげていったけど、へんなお面がおおごえでしゃべってたから、走ってきたホーディにとばされうごかなくなった。
ホーディはあせがすごかった。
あせがすごいのに、あたしを見つけて走ってきたから、よけた。
「ぬうっ!」
ころびそうだったけど、ホーディはころんでなかった。
「フィオレ様! ご無事ですか!」
あたしは怒られるとおもってたけど、ホーディはお兄ちゃんみたいに、あたしをしんぱいしてくれた。
「……ごめんなさい。ホーディ……」
あやまったら、なみだがでてきた。
ホーディはないてるあたしのあたまをなでてくれた。
ふねから下りてきた、へんなお面がちかづいてるのもしらないで。
へんなお面はあたしにしゃべらないでって、お面にゆびをあてていた。
まっ白なふくとにじみたいにたくさんの色をした、お兄ちゃんとすこし、にた人だった。
「ホーディ君!」
うしろからお面がおどろかせたから、ホーディは海におちた。水から出てきたホーディは、まだびっくりしてた。
「マスケラ様!」
へんなお面はマスケラってなまえだった。
ホーディはみなとに上がってきて、マスケラにおじぎをしていた。
「出迎えもせず申し訳御座いません!」
「んー。いいよ別にそういうの。それよりこの子翼人族なんだよね? もしかしてホーディ君の報告にあった、エルバ村の子かい?」
「はっ。その通りです」
お面でかおは見えないけど、き色だからマスケラはよろこんでるみたい。
「おじちゃん。おもしろいね」
人ぞくでき色なんて、見たことなかった。
「君のほうが面白いよ。僕にそんなことを言った子どもは初めてだ。よし! お友達になろう!」
マスケラはあたしのたかさまでしゃがんで、手をだしてきた。へんな色と同じことをしてるのに、気持ちよさそうだからお友達になった。
「ありがとうマイフレンド。ところで、マイフレンド。アルテは生きてるかい? 僕はアルテに会いにやってきた。六十年前の、約束を果たしにね」
マスケラはむずかしいことを言っていた。




