表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
47/71

 四十六話 金銭

 目覚めると暴力がそこに有った。

 ――アンナが隣で寝ている。しかも、裸で。

 声が出そうになるのを押し殺し、ベッドから転がり落ちて急いで部屋を出た。

 ギリギリだ。

 俺は理性を振り絞り脱出した廊下で、壁にもたれながら頭の中をルナでいっぱいにした。

 ルナの泣き顔を想像しただけで、欲情は薄れる。

 (たぎ)りが収まるまで考え続けたせいで、愛娘(まなむすめ)に会いたくてしかたがない。ルナだけじゃなく、フィオにも。

 無理なことは分かっている。それでも会いたいと思ってしまう。

 壁に寄りかかりため息をついていると、(つるぎ)を持ったデュバルが部屋から出てきた。

「これはシュウ殿。お(はよ)うございますね。しかし、何故(なにゆえ)通路にいらっしゃるので?」

「よく分からないけど、部屋にアンナがいたから逃げてきた」

 デュバルはすぐに頭を下げ謝罪した。

「アンナは酒に酔うと人肌を求め、部屋に侵入してしまうのです。女人(にょにん)嫌いのシュウ殿には不快でしたでしょう。(まこと)に申し訳御座らん」

 女人嫌い? 勘違いなのだが、そういうことにしておいた。

「頭を上げてくれ。ところで、デュバルはこれから稽古(けいこ)でもするのか?」

「はい。よろしければシュウ殿も如何(いかが)でしょう?」

 気分を(まぎ)らわせるには、運動こそ最適だ。

 俺はデュバルに付いていき、宿舎の裏でデュバルと手合わせをした。

 この世界の住人は、素手での戦いが好きなようだ。

 デュバルは剣の使い手でありながら、何度も素手で挑んで来る。

 勝敗を分かりやすくするために、極力投げ技で対応していると、起き上がりながらデュバルが会話してきた。

流石(さすが)ですね。魔物を仕留めたその闘技(とうぎ)(それがし)では何をされているかも分かりません」

「ありがとよ。デュバルもなかなかいい線いってるよ」

 デュバルの(スタイル)は、掴むことも視野に入れたボクシングのようだった。不得手(ふえて)な格闘戦でありながら、的確に急所を攻め、重心を崩そうとしていた。

 あきらかに、誰かから習得(しゅうとく)した動きだ。もしやと思い()いてみた。

「もしかしてその格闘技術を教えたのも、マスケラさんなのか?」

「よくお分かりになられましたね。ですが、マスケラ様は運動が苦手であったそうで、あくまで伝えただけで御座います」

 本当に何者なのだろうか?

「しかし。折角(せっかく)習った技術もシュウ殿の前では形無(かたな)しです。こうもポンポン投げられては、ジュニア様に笑われてしまいます」

「ジュニア?」

「はい。今は亡き、マスケラ様のご子息です」

「子どもがいたのか!?」

 冷静に考えれば当たり前のことだった。俺が出会ったどの人族(ひとぞく)も、地球人となんら変わらないだから。

 結婚し子どもを産んでも不思議はないのだ。

 ――俺には考えられないことだが。

「ではシュウ殿。もうひとさし」

「あ? ああ。提案なんだけどさ。剣を使ってもらってもいいか?」

「はい?」

「デュバルは剣士だろ? 剣がない剣士に勝っても意味が無いからな」

 侮辱(ぶじょく)をするつもりはなかった。無かったのだが。侮辱に聞こえたのだろう。

(それがし)の闘技では、物足りないと(おっしゃ)られるか……。いいでしょう。お相手致す」

 機嫌を(そこ)ねたデュバルは剣を抜き、物騒なことを告げてくる。

「切らぬ所存(しょぞん)では御座いますが、手元が狂った場合はご容赦(ようしゃ)下され!」

 いい終えると同時に、デュバルは両刃の剣で突いてきた。

 切る切らないの問題ではない。刺さる。

 刺突(しとつ)は厄介なんだ。刃の向きに注意しなければ、(かわ)したところで切られてしまう。

 刃が横なら下に、縦なら左右に躱す。これを繰り返し反撃の準備をする。

 するのだが。間合いが遠く反撃が難しい。

 だから、剣を掴んだ。

「なっ!」

 驚いた隙をつき、蹴り足をデュバルの目の前で止めた。

「そこまで!」

 知らず知らずのうちに熱くなっていたらしい。ケイオスとアンナが来ていることに気づかなかった。

 ケイオスが動き出すより早く、彼女が怒りながら向かって来た。

「二人とも何を考えているのですか!」

 怒るアンナを見て、ケイオスは止まった。

「特にシュウ様! なんて戦い方ですか! 怪我をしたらどうするんですか! 法術師は多くないのですよ! って聞いてます!」

 朝の出来事が脳裏をよぎってしまい、俺はアンナを見れなかった。

「まったく! 手だってこんなに怪我(けが)してるじゃないですか! デュバル! シュウ様の治療(ちりょう)分はあなたに面倒みてもらうわよ!」

「待ってくれアンナ、この傷はデュバルじゃない。俺自身が馬鹿をしてつくった傷なんだ。デュバルは悪くない」

「えっ?」

 アンナは俺の手を取り、傷の状態を確認しだした。

「ちょっ!」

 手を引っ張ってみたが、がっちり握られていて離れなかった。

「暴れないで下さい。まったく、無茶し過ぎです。治療致しますので、大人しくしていて下さい」

 アンナは呪文を唱え、傷を治してくれた。

 真面目なアンナを見たお(かげ)で、色欲は色褪(いろあ)せていった。

「……呪文は一緒なんだな」

「森の民とですか?」

「ああ」

「それはおそらく。意図的に共通語の呪文しか使わなかったか、詠唱者(えいしょうしゃ)神言(しんごん)伝授(でんじゅ)されていなかったかの、どちらかでしょう。」

 嬉しい知らせだった。

 少なくともルナだけは、俺に嘘をついていないと分かったから。

 嬉しく思っていた俺に、非情(ひじょう)な現実が待っていた。

「ではシュウ様。お代のお支払いを?」

「……お代?」

「なんーて冗談です。シュウ様が法術を頼りに戦っているようでしたので、戒めるつもりで言ってみたのですが……。シュウ様? どうか致しましたか?」

 驚いたまま固まった俺を、三人は不安げに見つめていた。

 そりゃあ動けなくもなる。

 金銭など、一円たりとも所持(しょじ)していないのだから。

 

「そうでしたか。ですが心配には及びません」

 ケイオスは小さくも頑丈そうな小袋を金庫から取りだし、俺の手に握らせた。

 数分前。俺は三人に無一文であることと、緑大陸(りょくたいりく)の生活に貨幣(かへい)が存在していなかったことを告げた。

 ケイオスがそれは丁度良かったと、俺を自室に案内し今に至る。

「これは?」

「我が国の貨幣(かへい)です。中をご確認下さい」

 俺は中を見る前に突き返した。

「もらう理由が無い。この貨幣の価値は知らないが、これは税金だろ? 誰かが苦労した金を、金が無いくらいで貰えない」

 ケイオスは驚いたあと、嬉しそうに理由(わけ)を話し出した。

「これはシュウ殿が倒した魔物の報酬(ほうしゅう)です。魔物は討伐(とうばつ)対象であると同時に、貴重な鉄でもあります。ご安心してお受け取り下さい」

「鉄が、貴重?」

「左様です。鉄は魔物からしかとれない、貴重な金属です。しかもシュウ殿は鉄のほとんどを(そこ)なっておりません。正直に申せば、これでも少し足りないくらいです」

 受け取らない理由は無く、俺は突き出した手をゆっくり戻した。

「ありがとうケイオス。大事に使わせてもらうよ」

 おそるおそる中を確認してみた。

 中には銀貨が一枚と銅貨が一枚。残りは二十枚の金貨だ。

 (がく)は知らないが、大金だということだけは分かった。

 貨幣の価値を知らない俺に、ケイオスはおおまかな説明をしてくれた。

 銅貨=百円。

 銀貨=千円。

 金貨=一万円。

 といったところだ。

「大事なのは交渉です。シュウ殿は文字をご存知(ぞんじ)無いのですから、せめて数字だけでも知っておいて下さい」

 ぼったくる商人がいるようで、ケイオスは丁寧(ていねい)に説明してくれたのだが。

 数字は、日本と同じだった。

 世の中には識字率(しきじりつ)というものがあり、日本ではあり得ないことだが、世界では喋れても書けない人が大勢いる。俺は喋れるが書けない設定のため、驚くわけにはいかなかった。

 数字を教えてくれたケイオスに礼を言い。出発の準備に取りかかった。

 といっても、荷物は彼らが用意した衣服と通行証だけ。

 準備を終えた俺は、最後に村の人たちに挨拶をし、もう一つの洋風建築を訪れた。そこは法術師のアンナが、病院の代わりとして使う施術院(せじゅついん)だった。

 アンナに別れを告げると、法術を頼らないよう散々注意された。

 途中で骨折をした村人が訪れたため、アンナとはそこでお別れになってしまった。

 ケイオスとデュバルが待つ村の入り口へ行くと、可怪(おか)しな馬がいた。

 身体は通常の馬なのだが、顔だけは(たか)。訂正しよう、鳴き声も鷹だ。

 二人が言うにはこの馬はヒポという種類らしく、帰巣本能(きそうほんのう)が高いらしい。なので、俺が目的地である港町カロッドに乗って行っても、自力で戻って来るらしい。

 ヒポを乗りこなせるか不安だったが、赤飛(せきと)より乗りやすかった。

 二人に礼を言い、俺はリンガをあとにした。


 ヒポは速く、暗くなる前に港町のカロッドに辿(たど)り着いた。

 カロッドはシャイタンによく似た町並みで、石と煉瓦が目立つ造りをしている。シャイタンより遥かに、規模も建築物も大きい。

 ヒポから降り軽く尻を叩くと、ヒポは来た道を戻っていった。

 町に入ろうとすると門番に止められたが、ケイオスからもらった通行証を見せれば問題なかった。

 町中には案内板やら、至るところに文字があるがやはり俺には読めなかった。

 道行く人に港を教えてもらい、早速(さっそく)緑大陸に帰るつもりだったが。

 ――駄目だった。

 乗船所(じょうせんじょ)で話を聞き、唖然(あぜん)とした。

「兄ちゃん。緑大陸への渡航は七日も掛けて行くんだ。しかも兄ちゃん以外に行きたい奴は居ない。最低でも金貨百枚は無いと話にならないよ」

 金欠(きんけつ)

 そんな理由で、俺は帰ることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ