表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
44/71

 四十三話 赤大陸

 白隠(はくいん)と出会い三日目。俺たちは港を目指し移動を開始した。

 

 俺は歩きながら、アルテから教わったことを思い出していた。

 赤の大陸。

 通称赤大陸(せきたいりく)と呼ばれるこの大陸は、住まう人種のほとんどが人族(ひとぞく)なのだ。最も大きな大陸であり、それに相応(ふさわ)しいように人口も最多。国の首都に行けば、買い物一つするだけでアルテは嫌になったと語っていた。

 赤大陸に首都は三つあり、三大国家と呼ばれている。 

 三大国家一の大国、アーキ王国。古い国で自国の伝統と文化を重んじる。そのためなのか他人種差別(たじんしゅさべつ)(ひど)い国のようで、アルテもアーキ王国だけは行かなかった。

 次がシアット王国。マスケラが関わる国にして、ボーグを野放しにするよく分からない国だ。だが、アルテが言うには人族の中で最も素晴らしい王国だそうだ。

 最後にロンス王国。貿易で国益を(まかな)う商業が盛んな国。ただ、貿易の中には人身売買も含まれる。

 言葉一つ思い出すだけで少し、腹が立った。

「……シュウ。おいシュウ!」

「どうした白隠?」

「どうしたはこっちの台詞(せりふ)だ。何を怒っとる?」

「ああ、大丈夫。ちょっと思い出しただけさ」

 白隠。

 彼も俺と同じく、地球からこの世界へとやってきた。

 諸国行脚(しょこくあんぎゃ)で日本全国を巡り、富士の樹海だろうと構わず行脚(あんぎゃ)を続けた結果。気がつくとこの世界に居たらしい。

 白隠はこの世界に来てからもずっと、諸国行脚(しょこくあんぎゃ)を続けている。

 いつ頃から居るんだと()いてみたが、正確な年数は覚えていなかった。

「わしは雲水(うんすい)諸国行脚(しょこくあんぎゃ)こそわしの使命。国々を周り人々を救う。その前では年月(としつき)などつまらぬこと」

 と気にもしていなかった。

 話を聞いてると十年以上は経っていると思う。

 この世界に来た途端病気になり死にかけたそうで、俺と一致する点が多い。

 偶然通りかかった法術師(ほうじゅつし)のお(かげ)で、一命をとりとめたらしい。

 突然の転移も死にかけたことも、白隠の生き方を変える理由にならなかった。

 寧ろ助かったと、白隠は言い切る。

 日本での白隠に居場所は無く、この世界に来れた僥幸(ぎょうこう)に運命を感じた。そう、白隠は言い切った。

「導け」

 と言う声まで聞こえたとのことだ。

 

 そんな白隠と向かう港は、小さな漁村(ぎょそん)だ。

 白隠は一度立ち寄っているが、俺のために来た道を戻ってくれている。

 白隠はここ、赤大陸(せきたいりく)行脚(あんぎゃ)を続けていたらしいが。どうやら、俺よりも世間知らずのようだ。 

「なぁ白隠。なんで漁村なんだ?」

「漁村なら(ふね)が有るだろ?」

 間違ってはいない。

「待て白隠。漁村の船は小舟だ。俺が帰る場所、緑大陸(りょくたいりく)へは小舟じゃ渡れない」

「そうなのか? 歩いておったら大陸とて渡りきったものでな。舟とて同じだと思ってっおったが。そうか、駄目なのか……」

 急に怖くなってきた。

「アルテっていう物知(ものし)りじいさんが言うには、赤大陸と緑大陸(りょくたいりく)は、船で七日かけて行き来するもんなんだ。しかも海には海人(マー)族っていう人種がいて、入っちゃいけない海域が山ほどあるんだ。単独渡航(たんどくとこう)は無理だ」

「ほー。海人(マー)族」

「……ちなみになんだけどさ。目的地の漁村にはどのくらいで着くんだ?」

 白隠は、太陽の位置をちらりと確認してから答えた。

「この時間なら、明日の朝には着くだろう」

「……あんたすげぇわ」

 鍛えていた自分に感謝した。

 

 夕方になり俺たちは野営(やえい)の準備を始めた。といってもテントなどは無い。燃えそうな枯れ木を集め、火を起こすだけ。

 俺と白隠は対面に座り、準備していた干物を焼きながら、何気無い会話を楽しんだ。

「一つ、頼みごとをしても良いか」

「どうした? 急に改まって」

 焚き火に照らされた白隠は、疲れているように映った。

「なに。この世界に来てから頼みごとなどしたことが無くてな。少し、照れくさい」

「……恩人のあんたの頼みだ。聞かせてくれ」

「ぬしに余裕が出来たらでいい。わしの真似事(まねごと)をしてはくれんか?」

「俺に人助けをしろと?」

「わしも近頃は歳を感じてな。いつまで人助けを続けられるか不安に思っておった。そんな折りにぬしと出会えた。わしはこれも運命だと感じる。人の出会いは摩訶不思議(まかふしぎ)なものだ。会えん者には絶対会えん。会うべき者とは、必ず巡り会う。そういう風にできておる。だからどうだろう、真似事をしてはもらえぬだろうか?」

(がら)じゃない。それに……俺は人殺しだから」

 白隠は黙って火を見つめていた。

「……人殺し、か。ならなおさらだ。やはりぬしはわしの運命。間違いなく、出会うべくして出会ったのだ。殺したなら救え。それ以上に救え。ぬしに待ち人がいる以上無理にとは言わん。余暇(よか)でいい。時間が出来たらでいい。隣人でいいし家族でもいい。一人でも多くを救ってくれ」

 安請け合いは出来ない。出来ないが。俺は。

「…………わかった」

「……良いのか?」

 要求してきた本人が驚きやがった。

「諸国行脚はしない。人を助けるために出向いたりもしない。でも、俺の眼が届くところで誰かが困っていたら、必ず努力する。救えるかどうかは、分からないけど」

 白隠は満面の笑みを浮かべていた。 

 

 坊さんと筋トレ魔の朝は早い。

 朝日が見えると俺たちは起き上がり、行動を開始する。

 読経(どきょう)と筋トレ。そのまんまだ。

 筋トレの一環(いっかん)として走っていたら、変な岩を見つけた。

 太陽を浴び、黒光りする岩が一つだけ有る。ごつごつしてるくせに、左右が対称的に整っている。 

 周りの岩と違い目立つのに、昨日見た覚えがない。

「……よし」

 思いっきり蹴った。

 高い音が鳴り。金属だと分かった。

「鉄、なのか?」

 色といい音といい、そうとしか思えない。

「今のはなんの音だ」

「白隠。この世界の鉄について何か知ってるか?」

「鉄? 鉄がどうかしたのか?」

 諸国行脚も大概(たいがい)にしてほしい。

「俺が居た緑大陸には鉄が無かったんだ。なのに赤大陸にはこんな状態で鉄があるんだ」

 白隠は鉄塊(てっかい)をまじまじと見つめ、急に押し倒した。

 倒れたところから砂ぼこりが舞い上がり、白隠は叫んだ。

「シュウ! 走れ!」

「は?」

 訳も分からず立ち尽くす俺に、白隠は再度叫んだ。

「いいから急げ!!」

 急ぎ野営地に戻った俺たちは岩かげに隠れた。そこでようやく、白隠は何が起きたかを話してくれた。

「……動きおった」

「何が?」

「あの岩だ。動いただけではない。動いた瞬間、わしは寒気がした。……あれは、魔物(まもの)だ」

「魔物?」

 これは白隠が目的地である漁村(ぎょそん)に立ち寄った際に、聞いた話だ。あのボロ小屋が出来た因縁(いんねん)の話。

 二十年ほど前、漁村を魔物が襲った。魔物はこれまでも十年単位で現れ、人々を殺していたそうだが。目的は分からず生態も分かっていない。分かっていることは。

 金属の身体だったということ。

 家族を襲われた村人の一人が、復讐(ふくしゅう)のためにあの小屋を作り、生涯(しょうがい)を終えた。これがあの小屋が出来た由来だった。

 そんな場所で、俺は助けられていた。

「あの鉄塊(てっかい)が魔物なのか?」

「おそらくな」

 俺は岩かげから顔を出し、周囲を観察した。

「何もないぞ」

 問題ないと判断し岩かげから出る。無論、油断はしない。

「む、確かに」

 白隠も出てきて周囲を見回していた。

「先入観で早とちりしたんじゃないのか?」

 白隠は腕組をしながら(うな)っていた。

 

 後ろを警戒しながら移動し、目的地である漁村が見えた。

「結局、なんともなかったな」

 白隠は恥ずかしかったのか、ぴしゃりと自分の頭を叩いていた。

 漁村は随分とアンバランスだった。

 素人が建てたとしか思えないあばら屋と、領主の家だろうか? 二軒の立派な洋風建築が有った。

 洋風建築はまるで、異国の地に設置された教会のようだ。

 片側は海で反対は赤土(あかつち)の荒野。いくらかは畑になっているが、開墾(かんこん)中であることは(いな)めない。

 などと、思っていると。

 海から奇妙な音が聞こえだした。

 重装備の兵士が迫ってくるような、ガシャガシャという音が鳴り響く。

「……シュウ。聞こえているか?」

「ああ。聞こえてる」

 俺と白隠が見つめる海岸から、奴は登ってきた。

 重そうな身体をした怪物が、海岸から姿を現した。

 怪物。一応は人型(ひとがた)をしているが、全身を鉄のような金属で(おお)っている。だからだろう、金属の外骨格(がいこっかく)に見え、昆虫や甲殻類(こうかくるい)と思ったほうがしっくりくる。

 俺が率直に思ったイメージだと、黒い人型のような(かに)だ。

 身長は二メートル十数センチ。下半身は細いが上半身はデカイ、特に腕が。だから蟹だ。

 顔がよく分からない。口元はマスクみたいなもので隠れているが、マスクが口なのかも知れない。鼻は無く、目は黒い真珠のようだ。

 その黒い真珠は別々に動き、片目ずつ、俺と白隠を捉えている。

 本能が逃げろと、強く訴えていた。

「逃げるぞ白隠!」

 俺の提案に白隠も頷いた。

 なのに。

「わしの頼みごと、忘れるなよ」

 白隠は奴に向かって走りだした。

「わしが引き付ける! ぬしは村へ行け!」

 白隠は俺に指示を出すために、奴から眼を()らした。

「馬鹿野郎! 敵から眼を()らすな!!」

 奴の口から小刻みに空気が漏れだし、音を鳴らしていた。その音が俺には、笑い声に聞こえた。

 奴のデカイ手が、白隠の手を掴んだ。

「ぬかった!」

 奴は軽々と片手で白隠を持ち上げ、もう一方の手で、白隠の両脚を掴んだ。

 奴は頭上に持ち上げた白隠を。

 布のように引きちぎった。

 胴体を真っ二つにされる寸前、白隠は俺を見ながら、満足そうに笑っていた。

 俺は彼の名を叫びながら、見ていることしか出来なかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ