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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
39/71

 三十九話 誘拐


 春。

 といっても、まだ気温は低く。日差しがなければ寒くてかなわない。

 そんな寒さの中、アルテとベラ、バリエノとロッサは帰ってきた。

 村長と族長。全員が(そろ)ったということで、すぐに会議が開かれた。会議といっても内容のほとんどは報告しあうだけで、すぐに終わった。

 本国に帰った村人の大半は戻ってくるとか、王国は変わりないとか、俺には(あま)り関係なかった。

 話自体は面白く、記憶にしっかり残っている。

 エルバ村は王国より南に位置し赤道に近い、なのに王国のほうが暖かいようだ。それも一年中。気温が変わらない、みたいに言っていた。

 確認したかったが俺以外は誰も疑問を持たず、話が次々と進んでしまい、帰ってからルナに確認した。

「私も王国には行ったことは無いんです。生まれも育ちもここですから、でも森の中は奥に行けばいくほど、温度も気候も一定になっていくんですよ」

「一定?」

「はい。気温とか天気とかです、あと人口も変わらないなんて聞いたこともあります。人口はさすがに冗談だと思いますけどね。何でも、世界の始まりの地、だからだそうですよ」

 こうしたルナ先生の補習授業はちょくちょく開催される。

 最近ではフィオも話に参加しだし、フィオも分かることだと自慢気に説明したりもする。

 (おり)から出て始まったエルバ村での生活も、春を迎え一年経()ったことになる。ルナとフィオも着実(ちゃくじつ)に成長している。

 不安は何も無い。エルバ村の脅威は消えたのだ。

 アーツがボーグに面会し、手土産(てみやげ)披露(ひろう)したところボーグは壊れてしまったらしい。

 それこそ、俺がいる限りは二度と攻め入らないだろう、とアーツが言い切るくらいに。

 試しに出向いてやろうかと思っていた矢先に、街から使者が訪れた。

 食事を終えた昼下がりのことだ。俺はフィオと目的も無く散歩をしていた。

 突然、筋肉達磨(きんにだるま)ことホーディが、アーツに案内され俺の前に現れた。

 貴族が着ていそう立派で動きづらそうな格好をして、隣には秘書のような見たこともない美人も連れていた。

「シュウ先生! こちらに()られましたか」

 奴は警戒する俺に対して、深々と頭を下げ握手を求めながら可笑(おか)しなことを口にしていた。

 ホーディの後ろでアーツは苦笑いをするばかり。

「何をしに来たんだ」

 握手もせず目的を問いただした。

「これは失礼致しました。我輩(わがはい)和平(わへい)の使者として、ボーグ殿から正式に依頼され参上(さんじょう)致した次第です」

 再度握手を求められたので、応じながら続けた。

「それは分かった。で、何で俺を捜して先生なんて言ってるんだよ?」

 眼を輝かせて熱く語りだした。

 曰く、一撃で自分の意識を奪う技術。迷いのない判断力。けれど、命までは奪わない慈愛の精神。と()め殺しにやってきたようだ。

 最終的には弟子にしてくれとまで言ってきたので、全力で拒否した。

 なのに、フィオが話をややこしくしてしまった。

「お兄ちゃんのでしは、あたしがさいしょって決まってるの! あんたなんかじゃないの!」

「なんと! それは失礼致しました」

 ホーディはフィオの言うことを真剣に受け止めてしまい、疑いもなく確認してきた。

「……そうだな。だから娘が大人になるまで弟子はとらない。分かったら帰ってくれ」

 適当に誤魔化(ごまか)し、事なきを得た。

「……了解致しました。今回は引き下がります。明日(あす)、またお願いに参上します。我輩は明日までこの村に居りますので、気が変わったらいつでも村の入り口へお越し下さい」

 アーツに連れられ村の中へと消えてくれた。

「お兄ちゃん! さっきの本当!」

 終わってはいなかった。瞳を輝かせ、フィオは期待の眼差しを向けてくる。

「ごめんなフィオ。さっきのはホーディを追っ払うための嘘だ。俺は弟子なんてとらない、フィオは武術(こんなもの)を習う必要無いよ」

 俺は、フィオの気持ちを踏みにじってしまった。

「……お兄ちゃん、ひどいよ」

「へ?」

「あたしの気持ち、ぜんぜん分かってない」

 肩を震わせながらフィオは(にら)む。 

「フィオ?」

「お兄ちゃんのバカ!」

 フィオは全力で走り出した。

「待ってくれフィオ!」

 俺の制止も聞かず、どんどん速度を上げていく。

「くそっ!」

 人目も気にせず全力疾走で追いかけ、あと少しでフィオに追い付いたのに、森に入ってしまった。

「フィオ! 俺が悪かった!」

 俺の言葉は届いたのか、届かなかったのか。

 フィオは樹上へと飛び上がり、姿を消してしまった。

「ああもうっ!」

 一時間は捜し続けたが、フィオは見つからなかった。

 最悪の事態を考え、行動を変えた。

 まず、ルナに事情を説明するため、家に戻った。

 途中、森の中は俺より村の住人のほうが頼りになると思い、森の捜索をベラに依頼した。

「馬鹿者!」

 怒りながらもベラは、すぐに森へと向かってくれた。

 家に帰り、ルナに事情を説明すると一緒に付いてきてしまった。

「すれ違いになったらどうするんだ? ルナは家で待っててくれ」

「大丈夫です。タイガ!」

 今回は草原の方から現れた。

「フィオが来たら捕まえてね」

 タイガは小さく吠え、庭でお座りをした。 

 タイガに捜させたほうが良いと思い、ルナに聞いてみたが、タイガはフィオとのかくれんぼに勝てないらしい。

 二人で森へと向かう途中、ホーディとすれ違った。

「おや? シュウ先生いかが致しました?」 

「取り込み中だ」

 素っ気ない態度で、ホーディを通り越したからだろう。心配そうにアーツが聞いてきた。

「何か有ったのかい?」

「まぁ、ね。人手は足りてるから、アーツはそいつらの接待を頑張って……」

 秘書が居なかった。

「おいホーディ。一緒にいた美人は何処(どこ)に行った?」

 ホーディだけではなくアーツまで、可怪(おか)しなことを言い出した。

「誰のことですかな?」

 嫌な予感がした。

「お前の隣にいただろ! とぼけるのもいい加減しろ!」 

「我輩は一人で来ました。他に仲間は()りません」

 ホーディの胸ぐらを掴む俺を、アーツが止めた。

「どうしたんだシュウ! ホーディ殿は間違ったことは言ってない!」

 全身から汗が吹き出した。

 直感は告げる。説明より、行動をしろと。

 口笛を吹き、走り出した。

「シュウさん!」

 走り出した俺に、ルナがしがみついてきた。

 俺が叱るより早く、ルナが喋りだした。

「シュウさんを信じます! 絶対に着いていきます!」

 俺の思考も行動も、ルナは分かってやっていた。

 迷ってる(ひま)はなかった。

 冬の間に特訓し、乗れるようになった愛馬が草原で待っていた。

 赤い毛並みの一角馬(ユニコーン)だ。  

 愛馬に(また)がり、ルナを引き上げる。

「しっかり掴まってろよ!」

 下手に置いていったら無茶をする。ルナはそういう()だ。

 腰にしがみつくルナの感触に、離す気配は微塵(みじん)もない。

 愛馬赤飛(せきと)の腹を蹴り、勢いよく走り出した。

 予想通りだった。走っている最中、同じように馬を走らせた痕跡を見つけた。

 港街シャイタンへ、迷わず馬を走らせた。


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