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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
35/71

 三十五話 謝罪

 

 自分の意思ではなく、身体が上下に揺さぶられる。

 意識がある状態で輸送されるのって結構、不快かも知れない。


 ボーグの死体は見つけられなかった、と。

 ネーボの肩に(かつ)がれている俺に、ベラが教えてくれた。

 傷は治してもらえたのだが惨状(さんじょう)()の当たりにしたアーツに、念のためと後ろ手に縛り上げられ、こうなった。

 ベラは止めてくれたが、俺自身が許可を出した。

 そうしないと人格の説明をしなければいけないから。

 アーツの生真面目(きまじめ)には困ったものだ。

 前を歩くクレイズは終始(しゅうし)感動したとかうるさいし、ネーボはずっと(だんま)りだ。

 ベラは久々に可愛くなり、隣で歩きながら俺に話かけてくれる。

 アーツは浄化をするために、凄惨(せいさん)なあの現場に残っている。

 浄化? と思ったが、ベラが気を()かせ教えてくれた。

 魔法で死体を埋葬(まいそう)し大地への還元(かんげん)を早め、土地も亡くなった人々の魂も癒す、ということらしい。

 ベラは村の現状も語ってくれた。

 村の様子は慌ただしく戦争の準備も終わっていない。だから四人で行動したそうだ。

 村人たちとは違いルナとフィオは立派だったと、嬉しそうにベラは語る。俺は必ず帰ってくると言い、普段通りに(つと)めようとしていたそうだ。

 帰ったら二人の望むままに甘えさせてあげよう。

 報告を聞きしばらくすると、浄化を終えたアーツが合流し、クレイズに伝令を命じた。命じられたクレイズは嬉々(きき)として村へ駆けていった。

 アーツが合流したことで、俺の拘束(こうそく)も解除された。

 どうでもいいが、クレイズとネーボは俺の仕打ちに対して疑問を持たないのだろうか?

 クレイズは特に。

 縄の跡がくっきり残った手首を(さす)り、心の中で突っ込んでいると。

「シュウ族長。満足してくれましたか?」

 ネーボの低い声で不可思議な質問をされた。

 下手に否定も出来ないので、話を合わせておいた。   

 

 村に戻ると歓声(かんせい)が巻き起こった。

 クレイズのせいだ。

 村の通路は人で埋め尽くされ、通るだけでも一苦労だった。

 早く帰りたいのに。

 アルテへの報告やら村人への演説やら、色々やらされてしまい、

家に帰るのは夜になった。

 玄関の戸板を開けると、そこにはフィオがいた。

 言葉を発する(ひま)さえも無く、胸に飛び込まれた。

 抱き止め、思った。一日会わなかっただけなのに、大きくなったな、と。

 戸板の音を聞きつけ、とたとたと足音が続く。

 走ってきたルナが裸足(はだし)のまま抱きついてきた。そのまま脇腹に顔を(うず)め、何も喋らなかった。

 フィオを片手で支え、二人の翼の生え際辺りをポンポンとたたき。

「ただいま」

 と言ったのだが。

 泣きじゃくる二人に返事は、難しいようだった。

 

 翌朝。

 起きたいのだが、愛娘(まなむすめ)たちはまだ寝ていた。

 隣で。左にルナ、右にフィオ。

 昨晩はかなり怒られた。二百人と戦ったよ、とか言うものじゃない。

 しかし、サンドイッチ状態では起きるのも難しい。二人とも俺の着物を掴んで寝ているから、なお難しい。

 ……、二度寝していた。

 外出してみると、村は騒々(そうぞう)しいままだった。

 それもそのはず。彼らを縛る境界が消え、本国に帰れるようになったのだから。住人の半分が帰ろうとしていて、戻ってくるかも分からない。

「あれ?」

 すぐさま家に戻り、怒られるのを覚悟で本国に帰るのか()いてみた。

 長寿である森の民なら、祖父母(そふぼ)くらい生きていると思ったから。

 そうでも無かった。

「いません」

 (そく)、話を切り上げたが。

「シュウさん? ここが私たちの(うち)、ですよね?」

 笑顔で怒られた。


 二日目。

 村に行けば視線を感じ、人に会えば口々に感謝の言葉を浴びせられる。

 嬉しい限りだ。

 中には小さい子どもたちも居て、怖がりながらも必死になってあるものを差し出した。

 五歳くらいの長耳のお姉ちゃんと、その弟君(おとうとくん)

 二人が差し出したのは、花。

 花なんて似合わないのだが、幼い子どもに差し出され断れるはずもない。

 受け取るとそれだけで、笑っていた。

 幸せだった。

 幸せだったのに、彼と出くわした。

「……バリエノ」

 彼は人目も(はばか)らず、頭を下げてきた。

「ワタシが間違いだったと認めよう。勝つな、と言ったことはワタシの(あやま)りだった」

 拳を(にぎ)り締めバリエノに歩みより、周りには聞かれないように(ささや)いた。

 子どもたちが居なければ大声で怒鳴(どな)りたかった。

「俺に頭を下げるな」

 怪訝(けげん)な顔で俺を見つめる。

「俺に? なら誰に?」

「決まってるだろ? ルナとフィオにだ」

 無表情な顔つきは変わらないが、ため息をついていた。

「……承知した」

 バリエノを帰宅させ、俺は二人を連れに戻った。

 帰るとルナはすぐに出迎えてくれたが。

「ただいま。あれ? フィオは?」

「遊びに行っちゃいました」

「……そうか、ならしばらくは帰らないな」

 どうしたものか。

 重要なのはルナとはいえ、フィオも居てくれた方が嬉しい。

 バリエノが謝罪する。こんな機会は二度と無いかも知れない。

 ……仕方ない。 

「ルナ、よく聞いてくれ」

 そう言い、エルバが死んだ理由とバリエノの関係を説明し。

 真相を知ったルナとともにバリエノの元へ向かった。

 族長でありながらバリエノの家は、一族より少し大きい程度(ていど)だった。

 ドアの玄関、その扉の前で彼は待っていた。

「フィオレはどうした? ルナだけでいいのか?」

 家の敷地に入るなりこれだ。

「出掛けてる。ルナだけで構わない」

「……あとで文句は言ってくれるなよ?」

「言わないから安心しろ」

 俺とバリエノの口喧嘩に、ルナがおそるおそる割って入ってきた。 

「あの、バリエノ様。シュウさんが言っていたことは、本当なんですか?」

 ルナが動き出した以上、俺は見守ることに徹した。

「事実だ。ワタシはあの日、エルバに勝つなと進言(しんげん)したよ」

 後退(あとずさ)りしていくルナの背中をそっと支えた。

 萎縮(いしゅく)した心を表すように、翼も小さく折り(たた)まれていく。

「勘違いしてくれるなよ? 進言はしたが選択したのは他でもないエルバ自身だ。とはいえワタシにも責任があることは認める。だからこうしてエルバの意思を継いでいるのだ」

「父様の、意思?」

「……村のために被害を最小限に(おさ)えることだ。でなければ、エルバが死んだ意味が無くなる。村を守る。そのためなら例え本人の娘だろうと利用した。なにせエルバが願ったのは、一人も死なせないことだったからな」

 無表情だったバリエノの顔に少しずつだが、熱が(こも)っていく。

「ワタシだって、エルバには生きていて欲しかった。エルバならやれる。そう信じたからこそ、勝つなと進言したのだ」    

 ルナを支えている手から、感触が消えた。

「……それが本当なら、私、許します」

 許す?

「恨んでるかどうかは()かないで下さい。でも許します」

 肩を震わせ、拳を強く握りしめながら、懸命にルナは喋っていた。

 俺はそんなルナに、眼を奪われてしまった。 

 萎縮していた翼が、今では白く輝いて見える程に。

「世の中に無駄はないんです」

「……エルバの口癖か」

 ぼそりと、バリエノが呟いていた。

「はい。昔の私には、理解出来ませんでした」

 くるりと、ルナは俺に向き直り手を(にぎ)ってきた。

「今ならシュウさんに出会った今なら、分かるんです。父様も母様も(うしな)って本当に辛かった。でもそうじゃなかったら、そうならなかったら……。シュウさんには出逢(であ)えなかった」

 それは俺にとって、反則といっていい程に強く、頭の中で響き続けた。

 ……無駄はない、か。ルナはやはり、凄い子だ。

「そうか。そう、思えるか」

 バリエノは眠るように眼を閉じ、ゆっくりと開いた。

「……今まで村のためとはいえ苦労をかけた。すまなかったな」

 謝罪の言葉を受け取り、俺は満足していた。

 そのあともしばらく、バリエノとルナは話し合っていた。

 話し合いを終え、俺とルナは手を繋ぎ帰路についた。

 それが災厄(さいやく)を招くとも知らずに。

「シュウさん?」

 何度も振り返る俺に、ルナが声を掛けてきた。

「何でもない」

 昨日からだった。外出中は必ず、視線がつきまとうのだ。

 

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