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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
30/71

 三十話 村人


 夏が終わろうとしている。

 秋になり収穫が終われば、決闘が待っている。

 俺の役目である決闘が。

「シュウさん? フィオを知りませんか?」

「……庭にいるよ」

 筋トレ前に、気合いを入れようとしていたのだが。

 いつだって二人を見ると気が緩んでしまう。

 あっという間の月日だった。


 アーツとの戦いを終え屋敷に戻り、屋敷の住人たちと最後の食卓迎えよう、そう思っていた。

 だから夕食を済ませたあと、アルテから順番に感謝を伝えるために、一人ずつ挨拶していった。

「お世話になりましたアルテ様、ご恩は一生忘れません」

 と、気持ちを込めて丁寧に言っていたのに。

「何だか気持ち悪い。これからは、ルナとフィオレを(よろ)しく頼むぞ」

 聞き間違いかと思う返答が返ってきた。

 俺にとっては形式上でも、ルナとフィオにしてみれば俺こそが家族なんだと、改めて教えられた。

 二人の意思を確かめるために、最後の日にして初めて、二人の部屋を(おと)ずれた。

 屋根裏部屋、と言えばいいのだろうか。梯子(はしご)で登る(さま)といい、部屋といいどちらかと言えばロフト、と言ったほうが良さそうだ。

 大きさは子ども部屋それだ。真っ直ぐに立つと頭をぶつけ、手を伸ばして寝転がると壁に触れそうな、小さな部屋。

 二人は布団の上に、俺は床に座り話し合った。

「俺と一緒で本当にいいのか?」

 俺の第一声に対し、威嚇(いかく)するかのようにルナは翼を広げ怒っていた。

 ルナを見て、フィオも翼を広げていた。タイガがじゃれついたので、フィオはすぐに翼を折りたたんだ。

「……シュウさん。お風呂での言葉は嘘だったんですか」

 一発で仕留められた。

 涙目でそんなことを言われ、反論出来るはずがない。

 あとの時間はルナの機嫌を取り戻すために、弁解をしただけだった。

 翌朝には、三人と一匹で屋敷をあとにした。

 屋敷を出ると、フィオが少し挙動不審になった。どうしたのか尋ね。思い出した。

「いやな色は、見たくないなぁって」

 フィオの能力。フィオは人の心を色として()てしまうのだった。

 不安になっていたところを、珍しく村人がすれ違った。

 エルフという人種は、性別を問わず美形が多い。髪も男女ともに長く、顔だけみると一目で判別できない程だ。

 ネーボという例外はいるが。

 ちなみにすれ違った人は男性だった。

 彼は、俺をじろじろと見ながら話し掛けてきた。

「あんた、人族だよな?」

「そうだけど、何か?」

 答えた途端に、態度が豹変(ひょうへん)した。

「あっ! 勘違いしないくださいよ。噂とだいぶ違かったんで、つい」  

 噂?  

「敬語はいい。それより噂って? どんな?」 

 彼は若干(じゃっかん)躊躇(ためら)いながら、教えてくれた。

「ネーボを上回る強さと、ベラを骨抜きにした人族。と噂されてましたよ。ですからもっと大きくて乱暴そうな印象でしたが、我々とそう変わらなくて安心しました」

 噂というものの怖さを思い知った。

 俺がベラを骨抜きに? 別れの時だって俺よりも、ルナとフィオとの別れを惜しむだけだった、あのベラを?

 事実無根だ。

 念のため他にもあるか聞いてみたが、似たようなものばかりだった。

 クレイズを懲らしめたとか、アルテに一目おかれる存在だとか、子どもために生きてる奴などと。合ってるような合っていないような、そんなものばかりだった。

 訂正しようか迷ったが。

「ま、噂は噂だ。あんたはいい奴だ。二人の様子を見てれば分かるよ。今後ともよろしくな」

 その一言と、彼の態度で噂などどうでもよくなった。

 こうもあっさり受け入れられるとは。

 彼は仕事の途中だったので、早々と行ってしまった。

 いなくなったあと、フィオに確認してみた。

「フィオ、さっきの人はどうだ? 変な色に見えたか?」

「ううん、ふつうだったよ。だいじょうぶみたい」

 エルフは元々ルナとフィオの味方に近い、フィオの能力の克服には丁度良い形だった。

 問題は翼人族だ。彼らの中には、ルナとフィオを恨んでいる人たちさえいる。

 自分たちが誓約で縛られた理由を、エルバさんのせいにしてルナとフィオを恨んでいる。

 戦争を回避するために戦った英雄を(おとし)め、その遺族に恨みをぶつけるなど、気に食わない。

 恨むくらいなら、戦争に応じていればよかっただろうに。

 ルナはそんな翼人族に対しても、彼らの元へ帰りたがっていたそうだが、今はどうなのだろう?

「ルナ。一緒に住んでくれるのはありがたいんだけど、ルナはまだ翼人族の元へ戻りたいのか?」

「あれ? おじい様から何も聞いてないんですか?」

 このパターンにも慣れてきた。

「私もフィオも、シュウさんの家族です。とっくに人族として扱われてます。だからそんなのはもう、気にしてないです」

 満面の笑みで言われ、アルテに言いたい小言も吹き飛んでいった。

 エルフ地区を抜け南のホビット地区に入ると、一軒だけ違う建物があった。

 俺がロッサに()かれ言った通りの、和風(エルフ)式の家が。

 一日で建てた?

 家の前ではニヤニヤしながらロッサたち、ホビット族が待っていた。

「どうかなシュウ殿。立派なものでしょう?」

 ねじり鉢巻をして胴着を着たロッサ。ホビット族もそうだ、彼らの格好は大工だ。

「ありがとうございます棟梁」

「とうりょう? 何かはわかりませんが、褒め言葉として受けっとっておきましょう。さあ、どうぞ中へ」

 ルナとフィオにもお礼を言われ、ロッサたちは上機嫌になっていた。

 家は中も広く立派だった。アルテの屋敷は木材が主流だったが、この家は土が主流だ。

 (かわら)屋根に始まり、土壁が多く見られる。さすがに柱と床は木材だったが、随所(ずいしょ)に土が使われている。

 八畳の居間、庭、台所、風呂場、(かわや)、六畳の二部屋と。

 アルテの屋敷に比べれば小さいが、三人で暮らすには十分だった。

「シュウ殿には決闘が待ってますからな、せめてもの贈り物です」

 それだけ言い残し、ロッサたちは帰ってしまった。

 ホビット族も問題なく、俺達を受け入れてくれた。

 ロッサたちが帰り、アルテの屋敷から持ってきた荷物を降ろす。

 荷物に俺の物は何もない。ルナとフィオの私物と、食糧だけだ。

 フィオは早速、庭でタイガとはしゃいでいた。

 俺とルナとで荷物を片付けていると、ルナ用の風呂敷から俺のシャツが出てきた。

 てっきり無くなったと思い、諦めていたのに。

 見つけたところでどうしようもないくらい、ボロボロだったが。

 前も後ろも爪で引き裂かれ、直しようがない。ジーパンも見つけ、こちらは大丈夫そうだった。

 というよりも、ジーパンは直されていた。

 森の中を疾走しいくらか破けたりした箇所が、縫われ直されている。

 一つ疑問が浮かぶ、なんで返してくれなかったか。

 シャツは分かる。これは捨てるしかない。ジーパンは返してくれてもいいのに、そうしている間にルナが戻ってきた。

 俺が質問するより早く、ルナは慌てて説明しだした。

 俺の推理と同じく、ジーパンは返すつもりでしたと、タイミングがなかっただけでしたと。

 説明を聞き、シャツを捨てるため破こうとすると怒りだした。

「シュウさん! だめ! だめですってば!」

 腕にしがみつき、破る邪魔をしてきた。

「駄目って、なんで? 直せないってルナが言ったんだぞ?」

「……私が、欲しいんです」

「欲しいのか。これが?」

 頬を赤く染めながら、ルナは頷いた。

 ナイロン製だからだろうか、研究でもするのかも知れない。

「生地のせいか? 確かにこっちにはなさそうだもんな」

「……そうです! こんな生地滅多にないから私、調べてみたくなったんです!」

「お、おう。調べるのはいいけど、食べたりするなよ」

「食べたりなんてしないです! 臭いを嗅ぐだけです!」

 ルナが臭いフェチだと知った。

 極限まで頬を染め、泣きそうになりながら出ていったので、詳しいことは未だに聞けていない。

 家に居れなくなったので、一人で東へ向かった。

 翼人族の住む地区に。

 時刻は昼時、翼人族の何人かと出会ったが、何もなかった。

 出会った人たちも普通だ。俺を見て喧嘩にでもなるかとも思ったが、そんなことは起きもしない。

 お(かげ)で彼らのことも分かった。

 彼らの特徴である翼は、大きさも色も一人一人違い様々だ。

 クレイズとバリエノは同じ茶色をしていたことから、家族同士だと似るのかも知れない。

 彼らは髪が短い、翼に当たらない長さにしか伸ばさないようだ。

 そうなると、現時点のルナの髪は長すぎるわけだが。俺のせいだろうか?

 翼人族の反応を見て帰るつもりだったがクレイズに出会い、そうもいかなくなった。

「クレイズ」

 呼んだはみたが、続きの言葉は出てこない。

 互いに殺そうとしたとはいえ、謝るべきだと思い近寄ると。

「あんときはすいやせんした!」

 と、謝られた。

 文化の違いとは不思議なものだ。

 クレイズはこてんぱんにやられたことで、俺に対して憧れを抱いたらしい。

「オレと親父がねった策が、全部ねじ伏せられられこの人すげえと思ったんです。しかも、助けてまでもらいましたし。それでオレ、分かったんす。シュウさんみたいなのが、男なんだなって」

 眼を輝かせ、クレイズは可笑(おか)しなことを口走っていた。

 ただ、そのクレイズが起点となり翼人族の中に、人族交流派が増えたのも事実だった。

 世の中なにが起こるか分からない。

 そんなこんなで波乱もなく、村人たちとも打ち解け平穏な時を過ごしていた。

 ルナとフィオの成長を見届けるだけの、充実した幸福な日々を。

 

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