二十八話 会議
一週間。たったの七日がとても長く感じた。
世界が変われば当然なのだろうか? そう考えれば寧ろ、長いのではなく早いのだろうか。
どっちでもいいか。
「起きよう」
珍しく、隣には誰もいない。いや違う、何かいる。
毛むくじゃらの何かが、足元に。
掛け布団をめくり、正体を確かめた。
「お前か」
森獣こと、虎。こいつは名前が付いたので、今はタイガと呼ばれている。
フィオが地球での森獣の名前を訊いてきて、気に入った結果、タイガになった。
飼って大丈夫なのか不安だったが、本国では何頭か飼育しているとアルテが言っていた。
フィオなら心も通じるということで、なおさら問題ないそうだ。
確かに人懐っこく子どものうちは問題ないのだろうけど、大きくなれば二メートルになる虎だ。心配ぐらいする。
布団を取られてもなお眠っているタイガは、乳離れはしてるのに、眠ったまま母乳を飲む夢を見ているようだ。前肢の小さな肉球を懸命に動かしながら、口を動かしている。
……可愛い。
人を襲わないことを、切に願う。
タイガをしばらく眺めていると、ご主人様がやってきた。
勢いよく襖を開け、俺を目掛け走り。
「とばなかったよ」
と、嬉しそうにアピールをしていたので、きちんと褒めた。
あの日のあと、フィオとは約束通りたっぷりと時間を取った。ルナを元に戻すためとはいえ、蔑ろにしたことは間違いない。蔑ろにした分を取り戻すためにも、フィオのやりたいことをするつもりだったが。
まさか、武術を教えてと言い出すとは思わなかった。
女の子には不要だ。と断ったが食い下がるのでやむ無く、筋トレだけ教えることにした。
そのうち、飽きてくれるだろう。
朝食をいただきに、フィオとタイガを引き連れ居間に向かう。
居間の襖を開けると、丁度よくルナとベラが朝御飯を並べていたところだった。
「おはよう二人とも」
挨拶に対して、二人の反応は真逆だった。
「お、おはようございます」
と、恥ずかしそうに挨拶を返すルナに対して。
冷たい一瞥をくれ、会釈だけで返すベラ。
ルナと混浴して以来、二人ともずっとこの調子だ。
「ベラ、まだ怒ってんのか?」
確かに軽率な行為だったと認めるが、事故みたいなものなんだからもう許してほしい。
本人は許してくれていることだし。
「まだ怒ってるとも。ルナ様の件は分かる。だが、何故翌日にフィオレ様とも混浴をしたんだ」
事実である。
「それもかよ。それだって、フィオにお願いされたからやったことだろ?」
ルナばかりずるい。ということでフィオにお願いされたから入っただけ。
ちなみに元に戻ったルナとフィオの仲は、とても良好だ。
「つまり、貴様は望まれたなら誰とでも混浴するのか!? アルテ様とも、私ともか!?」
「まぁ……、するんじゃないか。たぶん」
「なっ!? 痴れ者め!!」
ベラは顔を真っ赤にさせながら、俺を居間から追い出した。
女心は分からない。
朝食を食い損ね、仕方なく蔵で筋トレをしようと玄関に向かった。
丁度、靴を履き終わったタイミングでアルテがやってきた。
「居間におらんと思ったら、ここじゃったか」
アルテの服装は普段と違った。上着が追加されているだけなのに、かなりきらびやかだ。
戦にでも出るかのような、陣羽織を着ただけなのに。
「どうしたアルテ、立派な格好をして?」
「なに、大事な会議でな。気合いを入れたまでじゃよ」
「会議?」
「うむ。お主も出るんじゃぞ?」
「は?」
このじっ様はたまに、とんでもないことを平気でぬかす。
「聞いてないぞ。そんなの」
「言っとらんからの。なぁに大したことはない。いずれにしろ避けては通れん道じゃ。何せお主は既にエルバ村の、人族族長じゃからな」
……食えない。アルテは食えない人物だ。
拒否権はなかった。
そのまま外へと向かい、連行されている。
屋敷から出るのは、これが初めてなのに。まさか心の準備も出来ていないまま、連れ出されるとは思ってもみなかった。
そんなことを思い歩くうちに、屋敷と村の境界に到達してしまった。
大きくて立派な門構えだ。
材料の大半は木材だが、屋根には瓦が使われている。出入り口は門の中にある、小さな門。でかい門も開くのだろうが、普通はこちらなのだろう。
日本と一緒なのも、次第に慣れきてしまった。
腰を曲げ小さな門をくぐり抜け、初めてエルバ村を目にした。
自然との調和がとれていて美しく、懐かしいとさえ感じる村だ。
門を出た直後に見えたのは、日本の田園風景そのものだった。
「これが、エルバ村か」
独り言のつもりで喋ったのだが、アルテに拾われてしまった。
「違うのぅ。ここはその一区画、エルフの地区じゃよ」
「エルフの、地区?」
それからアルテは目的地を目指しながら、村の概要を説明し案内してくれた。
村は三つの地区に別れている。
それぞれの種族ごとに三つ。
違いは建物を見れば、一目瞭然だった。
エルフ地区は村の西に位置し、和風。対して翼人地区は東に位置し洋風、と言えばいいのだろうか。正直に思った感想を口にすれば、巣箱だ。
地上に置かれた、鳥の巣箱にしか見えない。
使用されているのは木材だけだし、何より三角屋根の近くに設置された、丸い戸板の窓が巣箱を連想させる。それが綺麗に、大きさも高さも揃って一軒ずつ建っている。樹上に住んでいたからだろうか。
最後は南に位置するホビット地区。
家は土で造られていた。
土だが見た目は、まさにかまくら。雪で作るかまくらそっくりだ。
ホビット族は土を生業としていて、土に囲まれた生活が最も落ち着くそうだ。
しかし、ホビット族の地区は狭い。
家は四つだけ。ホビット族はエルバ村に十二人しかいないから狭くても仕方ない。
人口のこともついでに、案内されながら教わっていた。
村の人工は百十四人。
エルフが最も多く五十八人。残るは四十四人の翼人族とホビットの十二人で、百十四人となる。
俺を含まない状態なので、俺を含めば百十五人。これが村の総人口だ。
説明が終わるタイミングで、村の中央に位置する会議場へ到着した。
不思議なことに、会議場に到着するまで誰とも会わなかった。が、不思議でもなんでもなかった。皆この時季この時間は農作業をしている、それだけのことだった。
「では行こうか」
会議場のドアを開け、アルテを先頭に会議場に入る。
白く、屋敷の蔵を大きくしたような会議場に。
中には既に三人の人物が待っていた。
一人はアーツ。残る二人は翼を生やした五十代前半の男と、百三十センチ未満の身長をした、六十代の男だ。
村長と族長の全員が揃い、会議は始まった。




