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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
20/71

二十話 痕跡


「危ないからルナは残れ」

「そうです。私たちにお任せ下さい」

 でも。と言ったところで聞いてもらえなかった。

 二人は私を置いてフィオを捜しにいった。 

 心ではわかっている。

 私が一緒に行っても、何も出来ないもの。

 わかっていても、辛い。

 私はお姉ちゃんなのに、フィオのために何も出来ない。フィオのためだけに頑張ってきたのに……。

 私は一人、居間にいる。

 おじい様の屋敷に誰もいない。そんなことは今までなかった。

 一人でいると、自分の無力さを痛感してしまう。

 (すご)いのはやはりフィオだ。

 フィオがいるから、おじい様は外出を控える。

 フィオがいるだけで、ベラさんは喜ぶ。

 フィオがいたから、シュウさんはここにいる。

 全部、フィオの力。

 ……シュウさんは私を助けると言った。何を勘違いしているのだろう? 私はお姉ちゃんとして、フィオを守っているだけ。

 母様が最期に言ったように。

 フィオは特殊な子。私は言いつけ通り、フィオを最優先にしているだけ。

 母様は正しい。

 フィオはこんなにすごい。

 なのに、私は……。

 いけない。しっかりしないと。  

 他のことを考えよう。

 そうして思い出したのは、決闘での出来事。シュウさんの変貌(へんぼう)だ。

 今思い出しても怖かった。

 無事でよかった。いつものシュウさんに戻ってくれて、本当によかった。

 戻っていなかったら、シュウさんは殺されていた。

 アーツ長は変貌したシュウさんが倒れるまでは意識があった。 シュウさんが自分で自分を殴り、倒れるのを見届けてから、続けて意識を失った。

 私がわけも分からずおろおろしてると、ベラさんはやって来た。

「ベラさん! ……良かった」

「ルナ様これは一体? シュウとアーツが倒れているのは何故(なぜ)なのですか?」

 ベラさんは焦っているように感じた。

 あの……と、しどろもどろしている私をよそに、アーツ長が意識を取り戻した。

「ベラか? すまないが……治してくれると助かる?」

 (かす)れた声で喋るアーツ長を見ながら、ベラさんは少し躊躇(ちゅうちょ)していた。

「アーツ。貴様がシュウを裏切ったのか?」

 私はびっくりした。

「シュウの傷は矢傷だ。貴様が関わらぬ限り、武器の使用は出来まい。そう考えるのが自然だろ?」

 近づき、仰向(あおむ)けに倒れるアーツ長を見おろしながら、冷たい眼差しでベラさんは言った。

「ぷっ」

 アーツ長は笑った。掠れた声で、()き込みながら。

「はー……。人族嫌いの上、大の男嫌いのベラにここまで信頼されてるなんて」

 アーツ長の呟きを聞き、ベラさんは少し赤くなっていた。

「貴様、死にたいのか?」

「怖い怖い。ルナちゃん、ベラに言ってくれないか? ボクは敵じゃないって」

 二人が私を見つめてくる。

「そう、なのですか?」

 ベラさんの瞳を見つめ答えた。

「はい。本当です。話すと長くなるんですけど、どうしますか?」

 もちろん説明を求められるかと思ったけど、何かを思い出したようにベラさんは否定した。

 否定し、アーツ長シュウさんの順番で魔法を唱え怪我を治癒させた。

 怪我が治ったアーツ長が、クレイズに魔法をかけて治した。

 その間にベラさんは、私に申し訳なさそうに語りだした。

「はっきりと申し上げます。フィオレ様が行方不明です。申し訳ありません」

「えっ?」

 片膝を突き、私より身を小さくしベラさんは謝っていた。

 私はその時、身体からいろんなものが抜け出るような、そんな感覚に襲われていた。

「お二人のもとに向かったと思っていたのですが、それも違うようで……(わたくし)が不甲斐ないばかりに」

 喋っている途中だけれど、私は質問した。

「何か分かることは、手掛かりとか無いんですか?」

「はい。フィオレ様は居なくなる前。呼んでると(つぶや)かれていましたので、もしかしたらですがシュウは何か知っているかと」

 抜け出る感覚が止まった。

「シュウさんが?」

 こくりとベラさんは頷いた。

「事情は分かったが彼が正気とは限らない」

 アーツ長が横やりをいれてくる。

「ルナちゃん。ボクの言う通りにしてもらえるかい?」

 正気とは限らない。その一言は大きかった。

「はい」

 アーツ長の作戦はこうだ。

 シュウさんをベラさんが起こし私が正気かどうかの判断をし、アーツ長は気を失ったふりをして正気でなかった場合、シュウさんに矢を射かける。

 アーツ長は狩りの名手だ。その上、村一番の弓の使い手。変貌したシュウさんでも、(かわ)すのは難しい。

 私の合図一つで、シュウさんは死んでしまうかも知れなかった。

 思い返しただけでも、ぞっとする。

 あの時の私はどうかしていた。シュウさんを信じきれなかった。

 こんなにフィオのために頑張ってくれているのに。

 やっぱり、私はだめなお姉ちゃんなんだ。

 私は一人で落ち込み、このままではいけないと思い決断した。

 二人の跡を追う、と。



「先程よりは速いな」

「まぁ、ルナがいないからな」

 と言っても。ベラが俺に合わせ並走している事実は変わらない。

 脚を頻繁(ひんぱん)に動かして走り、森の木々を余裕で(かわ)す。そんなベラに疲れた様子はない。

 対して俺は大股で走るため、木々を避ける際に無駄な動きが多い。さらに喋りながら走っているため、俺は少し疲れている。 

 走りに関してはベラが上だ。

森獣(しんじゅう)の確認なんだが、地表にいれば大丈夫なんだな?」

「ああ。森獣は好んで人を襲わん。もし襲うとしたら、縄張りを犯した時だ」

「森獣は縄張り意識が強いからだよな?」

「そうだ。そして樹上こそが森獣の縄張りだ」 

 (ゆえ)に、翼人族にとっては天敵なのだ。森の中での翼人族の住まいは、樹上だから。

「フィオが跳んだりしなければ、危険はないんだな?」

「そのはずだ」

 会話をしながら走り続け、十数分経過した頃だろうか。

 真っ直ぐ痕跡を残し続けていた足跡が曲がり、消えていた。

 脚を止め息を切らしながら、地面を中心に辺りを見回す。何かを見つけるより先に、足の感覚が足跡が消えた理由を教えてくれた。

 地面の感覚が変わっていた。固さが増し、踏みかためられているような固さだ。

 下ばかり見ていて、ベラが教えてくれなければ気づかなかった。

「シュウ。ここは一体、なんなんだ」

 言われるまま、ベラが指さす方を見た。

 森の木々たちが破壊されていた。

 幹の一部だけを、(えぐ)り取ったような跡。

 巨大な力で、根こそぎ倒されている木々。

 砕かれた岩。

 俺が真っ先に頭に浮かんだのは、機械。

「シュウ! これを見てくれ!」

 浮かんだ考えを頭の(すみ)に追いやり、破壊された木々を通り越しベラのもとへ。

 ベラが俺に見せたかったものは、大量の血痕だった。

 地面に叩きつけ、飛び散ったかのような。大量の血痕。

 唾を飲み込んだ。

 血の量を考えればフィオではない。フィオの体格より遥かに多い。

 けれど、フィオはこの辺りのどこかにいるかも知れない。そう思うと、鳥肌が立った。

「シュウ? 大丈夫か?」

「……大丈夫だ。ベラは?」

「私は大丈夫だ。分からなすぎて、冷静になってしまったよ。シュウは何か思い当たるようだな」

 首を振った。

 思い当たる節はあるが、そんなことはあり得ない。

「俺の世界での情報と重なっただけだ。仮に、俺が考える通りだとしても足りないものだらけだ」

 重機を使ったなら履帯(きゃたぴら)の跡が残る。そんなものはどこにもない。

 有るのはところどころにある、大きな足跡。

 四十センチはある。

 人ではない、と思う。こういう種族がいるのなら、話は別だ。

 指先が(とが)り、足の裏に鎧を重ねたような段がある。そんな種族がいるのだろうか。

 土の沈み具合を考えれば、かなり重い。

 俺の倍は沈んでいる。

 先程土の固さが変わったのは、こいつが踏み固めたからだと思う。

 動きまわり、踏み固められた土。大量の血痕。破壊の跡。

 間違いない。ここでこいつは何かと争っていた。

「シュウ、これを」

 絶妙なタイミングでベラが、争っていた者の断片を持ってきた。

 毛だ。迷彩柄の模様をした、可怪(おか)しな毛だった。

「これは森獣(しんじゅう)の毛なんだ」

 報告したあと。ベラは息を荒げ、俺の腕を掴んだ。

「あり得ない。この森に森獣より強いものはいない。……ここには、化物がいるのか!?」

 ベラが怯えるなんて思ってもみなかった。

 それほどに可怪しなことが起きている。けれど。

「例えそうだとしても俺たちには関係ない。ベラ落ち着け、森獣の死骸はない。つまりこいつは、森獣をどこかに持っていったんだ。なんの目的かは分からないが、森獣が餌だとしたらかなり持つだろ? しばらくは大丈夫だ」

 説明を聞き、ベラは徐々に落ち着きを取り戻した。

「早いとこフィオを捜そう。こんなところに長居はごめんだ」

 ベラがそっと俺の腕を放した頃に。

『おにいちゃん?』   

 と、頭に文字を浮かんだ。

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