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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
19/71

十九話 迷子


「シュウ起きてくれ!」

「……なんだ!」

 目覚めた瞬間、美人と美少女の顔が近いというのは、心臓に悪い。

 焦ってしまい、今がどういう現状なのか忘れそうになった。

「シュウさん。無事で良かった……」

 その一言で、正確に思い出した。 

 ルナとベラが近くなければすぐさま飛び起き確認したが、そんなことをすればどちらかに頭突きをしてしまう。

 そんな距離で二人は、気を失った俺を見つめていた。

 ぶつからないよう起き上がり、大事なことをルナに()いた。

「アーツとクレイズは無事か?」

 言いつつアーツとクレイズを捜すが、捜すまでもなかった。

「無事ですよ」

 ルナの言う通りなら、二人も気を失っているだけなのだろう。

 隣の木の根を枕に、アーツとクレイズは気を失っていた。おそらくベラが運んでくれたのだろう。

 無事でよかったが、二人にはすまないことをしてしまった。

 これでまず一番大事なことは確認できた。では次だ。

 先程まではいなかった人物を見据え、確認する。

「ベラがなんでここにいるんだ?」

 指摘され気まずそうに視線を外してから、ベラは答えた。

「……すまない。私が目を離したばかりに、フィオレ様が居なくなってしまった」

「フィオが!?」

 勢いよくベラの肩を掴む。

「シュウさん!」

 そんな俺の腕に、不安そうにルナがしがみついた。

 ルナは化物になった俺を一部始終見ていたのだ。ベラに掴み掛かる俺を、不安に思うのは当然だ。

「ごめんベラ。それからルナも。ベラを責めたって、意味ないのにな」

「何を言う。悪いのは私だ。責められるようなことをしたんだ」

「違う。悪いのはフィオだ。言いつけを守らないのが悪い」

 心配なことに変わりはないが、俺がとやかく言うことではない。言っていいのはルナだけだ。

「私を、責めないのか?」

「お前を責めたらフィオが見つかるのか? 違うだろ。早いとこ捜しに行こう。何があったか分かる範囲でいい。詳しく教えてくれ」

「……わかった」

 説明を始めるベラと、安堵(あんど)した表情のルナ。そして、視界の(すみ)で動いていた気がしたアーツ。

 振り返ったりはしない。アーツが俺に何かを仕掛けたとしても、受けとめる。俺がしたことを考えれば、殺されても文句は言えないから。

 ベラの話だと、俺とルナが屋敷を出たあとフィオは大人しくしていたらしい。

 俺のことを心配したり、お姉ちゃんが婚約したらどうなるのなどと、ベラに質問して過ごしていた。

 ベラも初めは俺たちを追いかけたりするのではと疑っていたが、大人しいフィオに安心し洗濯を始めたそうだ。

 洗濯しつつ、フィオと何気ない会話をしていたら、「よんでる」とフィオが言ったらしい。

 何のことですかと聞き返しても返事はなく。

 もしやと思い周囲を見渡したところ、すでにフィオは居なくなったあとだった。

「私はてっきりフィオレ様の能力を使って、シュウが呼んだと思っていたがやはり違うのだな」

 俺が否定すると、徐々にルナは慌て始めた。

「シュウさんじゃないんですね? ならフィオは、ならフィオはどこに? ……シュウさんべラさん! こんなことしていられません、急いで捜さないと!」

「落ち着いて下さいルナ様! 悪いのは(わたくし)です。フィオレ様は必ず見つけ出します。ですからどうか、ルナ様まで居なくならいで下さい」

「ベラの言う通りだ。まずは落ち着こう。そんなんじゃルナまで迷子になっちまう」

 でもと反論しかけ、ルナはやめた。

 大人二人に(さと)され、ルナは落ち着いてくれたようだ。

 慌てる気持ちは分かる。俺だって走り出してすぐに捜したいが、ここは森だ。俺が知ってる迷子の知識とは勝手が違いすぎる。

 迷子といったが、これはもう捜索だ。身体より頭を使わないといけない。

「なぁベラ。お前、フィオはここにいると思い込んで来たんだよな?」

「そう、だな。ルナ様に落ち着くように言ってはいるが、私もあの時は慌てていて、二人のところだと思い込んでいたな」

 なら決まりだ。

「十分だ。よし、二人とも屋敷に戻るぞ」

 指示した俺に、二人は納得していない様子だった。

「シュウさん! 屋敷に戻ってる(ひま)なんてありません! このまま三人で手分けして捜しましょう」

 訂正しよう。ルナは落ち着いてなどいない。

 痛くないよう、ルナの額にチョップをする。

「落ち着け。だからそれじゃあルナまで迷子になっちまうだろ。考えがあって言ってるんだ。安心してくれ」

 チョップされた額を(さす)りながら()いてくる。

「考え? 何かフィオを捜し出す方法があるんですか?」

「ある! っていうより当たり前のことだろ。足跡を追えばいい」

「足跡?」

 ルナの顔に明るさが戻った。

「急ぎましょう!」

 結局ルナは落ち着かない。

「待てってルナ。どうせなら人数は多い方が()い。アーツとクレイズ、それからネーボにも手伝ってもらおう」

 人捜しにおいて人海戦術は基本だと思う。なのに。

「それはだめです」

 ルナは落ち着いていないから間違ったことを口走っている、そう思ったが違かった。

「シュウさんがしたことを恨んで、二人は何かしてくるかも知れません。事情を話すのも時間が掛かりますし、今は三人で動きましょう」

 まともな意見だ。俺が二人にしたことを考えれば最悪、俺を捕らえようとするかも知れない。そうでなくとも、今いる三人より捜す人数が減るかも知れない。

 ……気のせいでなければ、先程の行動を見る限りアーツは俺を見定めている。化物なのか、俺なのかを。

 真意は分からない。ただの憶測でしかないのだから。だから今は、ルナを信じよう。 

 横たわる二人に頭を下げ、行動を開始した。

「急ごう。だからごめんルナ」

 きゃっ、とルナは歳相応の悲鳴をあげた。

 そんな俺の行動を見て、目を白黒させていたベラに言う。

「ベラ急げ。置いていくぞ」

 返事を聞く前に走り出した。

「シュウさん、少し恥ずかしいです」

 腕のなか、いわゆるお姫様抱っこ状態でルナは言う。

 ルナは俺の顔を見つめているかも知れないが、俺は前を向いたまま返答する。

「悪いな。急いでたし、言っておきたいこともあってな」

「言っておきたいこと?」

 速めのマラソンレベルで走りながら、言葉を続ける。

「助けてくれてありがとう。アーツを殺さずに済んだのは、ルナのお(かげ)だ」

「そんな! ……私は、何もしてません」

「そんなことないさ。ルナじゃなきゃ止められなかった。あいつはそういう奴だ」

「あいつ? ですか」

「まぁ、別人格だからな……。とにかく助かったよ。けどな! あんなことは二度としないでくれ! 今回は上手くいったからいいが、今度は止まるかどうか分からない。俺はルナを殺すなんて死んでもごめんだ」

「シュウさん……」

 ルナは何かを言いかけていたが、第三者が入ってきてしまった。

「シュウ遅いぞ」

 ベラだった。

 横に並んだベラを少しだけ観察すると、俺と戦った時とはまた違った走法だ。

 小刻みに素早く動く脚さばき。その走法は漫画などで読んだ、忍者のよう。

「お前すごいな」

「何がだ?」

「いや、何でもない」

「? それより、二人で何の話をしていたんだ?」

 言葉に詰まってしまった。

 ベラはどこまであの出来事を知っているのか、分からないから。

 俺が言葉に詰まっていると。

「シュウさんは勝手な人だって、お説教をしてたところなんです」

「ルナ?」

「シュウさんは黙って!」

 怒鳴りながらもルナは、自身を支える俺の手を握った。

 任せて下さい、とでも言うように。

「シュウさんは勝手だって、ベラさんもそう思いませんか?」

「……そう、ですね。ルナ様の仰る通りです。今だってこうして、ルナ様を勝手に抱き抱えて走ってらっしゃいますし」

「そうなんです。いくら婚約したからって、シュウさん勝手なんです」

 誤魔化(ごまか)すためとはいえ、あまり気分はよくない。

 もしかしたら、ルナの本心も含まれているのではなかろうか。

 ルナの配慮(はいりょ)で、ベラはあの出来事を知らないのだと分かった。

 知らないでベラは回復魔法をかけてくれたのだろう。ルナに頼まれれば、ベラは断らないだろうしな。

 アーツはどうやって誤魔化したのだろう。いや、よそう。フィオの件が終わるまでは忘れよう。

 走り続け、十分くらい経っただろうか。

 行きとは段違いで、屋敷に戻ってきた。

「情けないなシュウ」

「うるさい。お前が(すご)すぎんだよ」

 息を切らす俺に対して、ベラは数滴の汗が見えるだけだった。

「シュウさん。ありがとうございました」

 ルナは丁寧にお辞儀までしてお礼を言ってくれた。

「どういたしまして。……よし! ベラ。洗濯はどこでしてた?」

 呼吸は完全には整っていないが、関係ない。フィオの痕跡(こんせき)をみつけなければならない。

 わかった、とベラが案内してくれたのは屋敷の西側にある井戸だ。

「今日は洗濯をするのが遅かったからな。日差しも良いし、井戸のそばで洗っていたんだ」

「ここが始点か……フィオはどこに?」

「私のすぐそばにいた」

 井戸を一周しても分からない。足跡がある。ありすぎる。

「どうだ?」

「うーん……なぁベラ。なんでフィオの行き先が森だと思った?」

 ふむ、とベラは唇を細い指で隠し、少し顔を斜めにして考え込んでいた。

「……そうだ。私がフィオレ様を見失う前に、フィオレ様は森を凝視していらした」

「森を? どこを向いてた?」

「あっちだ。案内しよう」

 着いたのは屋敷の東側。蔵の影になる位置だ。

「ここだとさっきの位置から見えないだろ?」

「視線がゆっくり動いていたんだ。初めは井戸の正面、だんだんと屋敷を見つめだしたから失念(しつねん)していた。今思えば、あれは一連の動作としか思えない」

「なるほど、疑って悪かった。だったらこの辺りにフィオの痕跡があるはずだ」

「ありました」

「……早いな」

 それもそのはずだ。俺とベラが問答している間、ルナはずっと捜していたのだ。

「この足跡はフィオです。間違いありません」

 確かに間違いない。屋敷で誰よりも小さいのはフィオだから。

「まっすぐ森の奥に進んでるな。このまま行くとどうなるんだ?」

「このまま……だめ! 絶対だめです! ベラさん! シュウさん! 急いで下さい!」

 見るからに慌て出すルナと、余裕が消えて出会った頃のようなベラ。今にも攻撃されそうだが、矛先は俺ではない。おそらくベラは自身に対して怒っているのだろう。

 二人の様子を見れば、不味(まず)い状況だということは分かった。

「何があるんだ。教えろ二人とも」

 だからこそ詳しく話して欲しい。

「この奥は、森獣(しんじゅう)の領域なんだ」 

「森獣?」

  

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