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悪魔と天使のモノローグ  作者: 無名凡才
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十一話 息子

 

 朝。目覚めて一番最初に目に映ったのは、板張りの天井。どこか懐かしさすら感じる天井だ。

 記憶上、真ん中にはなにがしかの電球は必ずあったが、この部屋には無い。

 上体を起こすと、またもやどこかで見たような記憶を呼び()まされる。

 俺に用意された六畳の(たたみ)部屋。北には寝ている布団をしまう押し入れがあり、他の三方は(ふすま)で仕切られている。

 日本的すぎて、ここが違う世界だと忘れそうになる。

 隣を見れば、日本ではないことを思い知らされる。

 翼の少女、フィオが気持ち良さそうに寝ているから。

 布団の中に潜り横向きで、(よだれ)少し()らしながら。

 天使じゃないと分かっても見た目は天使そのものだ。

 フィオを起こさないよう、座ったままシャツを脱ぎ身体を確認する。

 問題なく、昨晩の傷は完治していた。

 傷跡も残っていない。骨折した(あばら)も触ってみたが痛みすら感じなかった。

 魔法とは便利なものだ。

 便利なだけではないことは説明してもらったが、いまいちピンとこない。

 デメリットが魔法を使えない人間には分かりづらい。

「精神がすり減るって言われてもなぁ」

 ……最近、(ひと)り言が増えているような気がする。

 起こさぬようゆっくり立ち上がり、西側の襖を開け廊下に出た。

 広い屋敷だと思う。

 俺に用意された部屋と同じ部屋が、誰も使わない状態で他に五つもある。俺の部屋も合わせれば六つ、縦二列、横三列に並んだ間取りで造られている

 俺の部屋は一番奥の角部屋だ。何故(なぜ)こんな遠くの部屋なのだろうか。

 たぶん、村の住人から隠すためなのだろうけれど。

 角部屋なのでその分廊下も長い。

 廊下は狭く、外側は大きな戸板(といた)で仕切られていた。この戸板も襖のように、横へスライドさせて開けられる。

 玄関へ向かいながら、日差しを入れるため何ヵ所か戸板を開けて通った。

 玄関も戸板なのだが、厚さが違う。あと若干(じゃっかん)低い。少し頭を下げないとぶつかってしまう、昨日ぶつけたからよく分かる。

 気を付けようと思いながら玄関で片方の靴を履き、周りの靴と自分の靴が目に入り、動きを止めてしまった。

 自分の靴がかなり異質に思えたからだ。

 俺以外の靴は大小の違いはあれど、(わら)を編んでできた靴なのだ。藁を紐状(ひもじょう)にして靴のように編んである。

 そんな中一人、スニーカーだ。

 冷静になれば靴だけの話ではないのだが。育ちが育ちなので、外見に対する配慮(はいりょ)にはとことん(にぶ)い。

「ナイロン製の半袖シャツとジーパンってなぁ。おまけにスニーカーだし」

 誰も居ないのに、苦笑しながら一人で呟いていた。そろそろ独り言は止めよう。……出来ないと思うが。

 外に出て朝日を浴びる。そんなことがとても気持ちよかった。

 そのまま軽く走り、屋敷を一周することにした

 半周し北側に到着すると、森が待っていた。

 裏側がすぐ森?

 熊とか襲ってこないのだろうか? 立ち止まり、森の遠くを覗いてみても危険な気配はなかった。まち

 なんというか、森自体に神聖さを感じる。違うな、どちらかといえば(おそ)れに近い。

 森の木々の品種はおそらくブナとか杉だ。

 家の周りに意図的に植えられた木々の防風林と違い、森の木々はそのどれもが太い。

 日本でいえば御神木(ごしんぼく)くらいの太さの木が、そこらじゅうに生えている。

 写真でしか知らないが屋久島(やくしま)とか、こんな感じなのかも知れない。

 家の裏から西側へ出ると石造りの井戸があった。

 井戸には木で作られた屋根と、屋根にぶら下がり木製の滑車(かっしゃ)が備え付けられていた。

 この家のものはほとんど木製である。

 滑車は使わず、井戸のそばに置いてあった縄付きの(おけ)を放り込んだ。

 縄を揺らし桶に水を汲み引き上げる。

 引っ張り上げ見てみると、澄みきった水なので飲むことにした。

 口を着けないよう、桶のまま垂らすように飲む。

 冷えてて、変な味もしない美味(おい)しい水だった。

 続いてしゃがみ、桶の水を後頭部からかけた。火照った身体には丁度よくとても気持ちよかった。

 犬のように顔を振り、髪をかきあげていると。

「んっ?」

 上のほうから物音がした。

 屋敷から少し離れ、どこから聞こえるのかを探し玄関に着いた。

 音は玄関の上にある窓からだった。タイミング良く窓の板が押し上げられ、ルナが顔を出した。

「あっ。おはようございますシュウさん。フィオを知りませんか?」

 翼があるせいでなんとなく、鳩時計を連想してしまった。

「あっ、ああ。おはよう。フィオなら俺の部屋で寝てるぞ」

 もうっ、と一言残してルナは見えなくなった。俺の部屋に向かったのだろう。

 フィオは嫌がるだろうが微笑ましい姉妹喧嘩だ。止めないほうがいい。

 地下牢へ向かうため東にある、石造りの蔵にやってきた。

 蔵の中に入り農具が目に止まった。改めて見ると(くわ)にしろ(すき)にしろ、何かが可怪(おか)しい。

 錆びだろうか。金属部分の色が日本のものと違っていた。

 触って確かめてみると、青い錆びだと判明し銅なのだと分かった。

 ふと思い出す。俺を切ったあの男の剣も銅製だった。

 ……鉄が無い?

 これまで見てきた物の中に金属はあった、けれど鉄だけは確かに無かった。

 この村に存在しないだけか、はたまた鉄そのものが存在しないのか。

 おそらく、前者だろう。俺を切った男の血液は赤かったし、俺の血を見ても誰も驚いていない。

 鉄分があるのは確かなのだ。 

「お?」

 辺りを見回していると、隅に(ほこり)をかぶった弓があった。

 シンプルな弓。

 飾りは何もなく、木と何かの繊維だけの(つる)で出来ていた。エルフの定番武器であり、俺の苦手な飛び道具だ。

 何に使うのだろう。

 戦争か、狩猟か。弓といえば二択しか思い浮かばない。

 武器として使われた時を考え、対策だけは考えておこうと決めた時だった。

「何をしている!」

 と怒鳴られた。

 開きっぱなしの蔵の入り口にはベラがいた。

 女というのは怖い。昨日と違い、ルナと同じ衣装をきていた。それだけなのに昨日より、綺麗になっていた。

「……シュウ、か」

 俺は何故(なぜ)か両手を挙げていた。悪いことは何一つしていないのに。

「何をしているんだ貴様」

「鍛えようと思って地下牢に行こうとしてたんだ。そしたら弓が珍しくて、つい」

「珍しいものなのか?」

「俺の故郷じゃ珍しい。競技用で少しあるくらいかな」

「ふーん」

 聞いておいてその態度はどうかと思う。思うが、様子が違った。

「それより、傷は治ったか?」

 意外だった。昨日のベラからは想像できない態度。その一言がどれだけ言いづらいのか、身体をくねらせ若干もじもじしながら聞いてきた。

「あ、ああ。便利なもんだな。魔法一発で治るんだから、安心して無茶ができる」

「あれはアルテ様だから可能なのだ。これからもシュウには戦いが待っているのだから、あまり無茶はするな」

 別人なのではなかろうか。念のため確認してみた。

「あのー、ベラさん?」

「……ベラでいい」

「はい?」

「ベラでいいと言っている!」

 間違いはなさそうだが。

「だから(わたし)も、貴様のことはシュウと呼ぶ。構わないな!?」

「お好きにどうぞ」

 頷き、ベラは蔵から出ていった。

 なんだったのだろうか。

 

 トレーニングを終え蔵を出ると、いい臭いが充満していた。

 香ばしくも懐かしい、味噌の臭いだ。

 食事にありつこうと玄関に向かい靴を脱ごうとして、気づいた。

 一足(そく)増えている、と。

 来訪者? 

 それは不味い。

 靴を脱ぐため片足立ちで止まっていたら、体勢をそのままに、声を掛けられた。

「お。君が噂の御仁(ごじん)か」

 穏やかで(しぶ)い声だった。

 片方の靴のかかとを潰して二本足で立ち、声の(ぬし)に顔を向けた。

「あれ?」

 三十代半(なか)ばくらいの年齢をした、金の長髪で長耳(ながみみ)の、まさにエルフだ。

 しかも目元がアルテに似ている。普段は隠れていてわかりづらいが、少しタレ目の大きな瞳。

 目元だけではなく雰囲気や口調も、アルテに似ていた。

 そんなことを考え俺が黙秘していたせいで、相手に気を遣わせてしまったようだ。

「えっと。あれ、何も聞かされていないのかい?」

 問いに対して素直に返事をしながら、ベラが俺を訪ねたことを思い出していた。

「ベラが伝え忘れるなんて珍しい。それほど君には、人を惹きつける何かがあるのかな?」

 出会って早々に冗談を言われている。見た目上、真面目そうなイメージがあったけれど付き合いやすそうな人だ。

「まさか。ベラだって失敗(ミス)の一つくらいするでしょうに」

 俺の返答に対して、付き合いやすそうなこの人は嬉しそうに笑っていた。

「父上から聞かされていた通りだ。順番が前後してすまないが、ボクはアーツ。村長アルテの息子だよ」

 (どお)りで似ているわけだ。

 知られているとは思うが、俺も名乗るとアーツが手を差し出したので握手を()わした。

 厚い手の皮だ。握力も強く、頼りになりそうな手だった。 

  

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