英雄と聖女
ネハは破落戸である。
死ぬまで破落戸であったのだから、蘇ってもまた破落戸でしかない。
但し、腕っ節は強く頭は弱い。
「ああ?」
手を握り、そして開く。
右で二回、左で三回。
脚を動かし、腕を回し、身体を捻り、頭を捻る。
小首を傾げようがその中身が無い頭からは何も絞り出せやしない。
それでも考える。
何故生き返ったのか、何て事には思考は及ばない。
ボロボロなったカーキ色の制服を着ている事にだって何等違和感を覚えないし、自分が五人もいる事に、まあ多少戸惑ったが直ぐに慣れて忘れた。
「なんだこりゃ?」
同調していた五人の動きがばらばらになるのに十四秒。
破落戸に協調性は無い。
「おお、お前等俺か。皆俺の顔してないけど」
破落戸に理屈は……本来は必要なのだが、まあネハだしね。
「ここは防衛してた集落……か」
疑問符は無い。断定してはいるが大きく間違っている。
「ああ?」
「んだお前」
破落戸が集まればそこに諍いが起きるのは当然の帰結である。
「あー、えー、取り敢えず注目」
そんなまとまりの無いネハ達の中に、ネハでは無い者が乱入する。
ギギである。
その昔アケヤ領の領主に聖女認定された男の、ギギである。
その身体はカーキ色の制服に包まれた女であった。
制服は幾つもの穴と解れがあり、ネハ達は欲情を乗せた視線をこぼれた乳房へと。
「……いや、俺男だからね?」
五つの頭の上に疑問符が浮かび、僅かばかりの混乱の後に五つの顔に納得の色が浮かんだ。
何をどう納得出来たと言うのか。
「お前等に仕事をお願いしたい」
見かねたダタフが口を挟む。
傍から見ればぼろぼろになったカーキ色の制服に身を包む者が七人。
その内公衆警察所属は二人。
「お前等は各領の防衛をして貰う」
簡単だろうと笑うダタフにネハ達は口々に依頼の詳細を問う。
それらは要約するのならば、暴れればいいのか? と言う問い掛けに収斂された。
ダタフは五人の浅慮な者達に肯定の言葉を返し、武器と道を提供した。
無骨な剣が十本、地面から生えた。
ネハ達の制服が簡素な鎧へと変化し、空間の裂け目が五つ生まれる。
「暴れて押し留めろ。外で繁栄した闇の生き物達を」
五人のネハ達の、十の瞳に情景が映る。
様々な形をした異形の生物が、連領連合に押し寄せる様が。
遠くに半透明の薄青が揺れ、霞の様に消えた。
広がる樹木の海。
見知らぬ生態系。
その中に、一点の染みの様に目立つ連領連合。
この期に及んでネハは理解した。
連領連合内で五歳未満の子供を保護していた謎の力場が消滅している事に。
連領連合内ではナースの群れが飛んでいる。
押し寄せる異形を押し留めようと奮闘している。
「混ざりたい」
誰かが呟いた願望は、暴れたいと同義である。
五人のネハが同時に剣を引き抜く。
二刀流等と言った洗練された技術は、ネハには無い。
「右手に暴力を」
誰かが言った。
「左手にも暴力を」
別の誰かが言った。
そして、全員が吠える様に笑った。
ネハは破落戸である。腕っ節の強い破落戸である。
暴力と共に生き、暴力と共に死に、そして暴力と共に生き返った。
生き返って尚暴力を両手に掴み、騒乱と闘争へと身を投げた。
それは傍から見たら、英雄と見える場合もある。
ギギは呆れ顔を取り繕う事も無く空間の裂け目へと消えて行った五人を見送った。
呆れてはいるが呆ける事は無く、その視線をダタフへと移す。
「で、俺は何をすればいいのかな?」
また助手でもすればいいのかと問い掛けるギギに、ダタフは否定を返した。
「お前は導いて貰う。この後の連領連合を」
ダタフはそう言うと、ネハ達が飛び込んだ空間の裂け目を閉じた。
「一般人を管理誘導するのは公衆警察の役目だろう?」
結局の所、ギギは死ぬ直前まで公衆警察の模範であり続け、生き返っても尚公衆警察の模範であり続けようとしていた。
「次は長そうだな」
ギギはそう言って遠い目をした。
その様は聖女とは程遠いが、職務に忠実なギギはその役割を全うするのに十分な能力を持っていた。




