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第八話 フェアリーズ・ガーデン開幕!

ついに開幕したベスト・オブ・メイド・コンテスト。記念すべきその第一日目で五味はどんな接客をしたのでしょうか? そしてそれが気が気でない園城は―― 

第八話 フェアリーズ・ガーデン開幕!

 いよいよ『ベスト・オブ・メイドコンテスト』の当日を迎えた。

 『ベスト・オブ・メイドコンテスト』の開始は、本日日曜日の十七時からだ。今日から二十二日間、特設会場『フェアリーズ・ガーデン』にて九名のメイドによってその人気が競われることになる。

 園城は皿を洗いながら、ちらりと時計を見た。

 今は二十一時。

 『フェアリーズ・ガーデン』の土日曜日の営業時間は二十二時までだから、今駆け込めばラストオーダーの二十一時半までには間に合う。と、そんな絵空事を思い描いて小さくため息を吐いた。

 今、園城は『ゴルディアス』のバイト中だ。バイトの終わる時間は二十二時。従って『フェアリーズ・ガーデン』に行くことは必然的に無理だということになる。

「園城くん、ずいぶんとそわそわしているねー」

 サーヤが口元に妙な笑みを浮かべてキッチンに首を突っ込んできた。園城はそれに対して不機嫌そうに言葉を返す。

「どーいう意味ですか、それ」

 そして苛立たしげに、がちゃがちゃと食器をぞんざいに扱った。

「コンテスト見に行きたいんでしょ? ごっちんを応援に行きたいんでしょ?」

「……五味は関係ないですよ。そりゃ、コンテストは気になりますが……。だからと言ってバイトサボってまで行きたいとは思いませんよ。これからまだ二十一日もあるんだし、いくらでもチャンスは」

「行って来ても良いよ」

「え?」

 がっちゃん、と手に持っていた皿を取り落としてしまった。あわてて皿を確認する。

 良かった。割れてもいないし、ヒビも入っていない。

 そして今度は、皿を水切り台にしっかりと置くと、改めてサーヤの顔を見返した。

「コンテスト初日の影響なのか、日曜日なのにお客さんの入りも悪いしさ。ホールに私がいなくてもなんとかなりそうだし、良かったら行って来なよ。今から行けばぎりぎり間に合――」

「ありがとうございまっす!」

「え?」

 思い切り頭を下げて、皿洗いを中断した。そして身を翻すと、脱兎のごとくいつもの更衣スペースである非常階段に駆け込む。その園城の有無を言わさぬ行動に、度肝を抜かれたサーヤだったが、しばらくして我に返るとふっと小さく笑った。

「なんだかんだ言って、心配なんだねー」


 『ゴルディアス』から『フェアリーズ・ガーデン』までは歩いて五分、走れば一分だ。当然のごとく走った。今の時刻は九時十五分。余裕でラストオーダーまで間に合う。そう皮算用した園城を待ち受けていたのは――

 ――会場のビルの一階にひしめき合う長蛇の列、列、列。

「な、なんだこりゃ」

 その列は一階のエレベータホールからつづら折りで続いており、ビルの外まで繋がっている。その行列をひたすら辿り、やっとのことで最後尾まで辿り着くと、そこにはなにやら人だかりが出来ていた。

 近づいて見ると『フェアリーズ・ガーデン』のスタッフジャンバーを着た男と、客らしき男とで口論になっている。

「ラストオーダー前なのに、なんで入れないんだよっ! 納得がいかねえよっ!」

「ですから、並んでいる方を消化するだけでもラストオーダーの時間は有に過ぎてしまうのです。本日はこちらの方で最後とさせて頂きます」

 興奮する男をなだめながら、スタッフは最後尾の男性を指し示した。

 うあ、マジかよ。

 園城は天を仰いだ。つまり、初日の『フェアリーズ・ガーデン』に入るチャンスを逃した、ということだ。

 さっかくサーヤさんがチャンスをくれたのに、それが無駄になってしまった。

 とたんに凄まじい疲労感と徒労感が園城を襲う。がっくりとその場に跪き、頭を垂れた。立ち上がる気力も湧いてこない。だが園城は跪きながらも、自分にこう言い聞かせていた。

 『フェアリーズ・ガーデン』はまだ初日。これから開催期間中に行ける機会はいくらでもある。もともと、今日はバイトで無理だと、諦めていたのだ。本来の予定に戻っただけだ。何もがっかりする必要はない。

 そう自分を納得させ、気力を振り絞って立ち上がり、踵を返して立ち去ろうとすると、

「ふざけんじゃねえよ!」

 と激高した声が園城の背後で響き渡った。

「そこの一人で終わり? その真後ろに並んだ俺は入れない? たった三十センチも離れていない距離で終わりってなんだよ! どうして俺が入れないんだよ! 一人くらい入れろよ!」

 身勝手な論理がそこでは繰り広げられていた。

 園城は顔を顰める。その客の論理をスタッフが受け入れないのは明らかだ。そこでその客を受け入れてしまうと、その後ろの客も、更にその後ろの客も、という終わりのない連鎖になってしまい、収拾が付かなくなってしまうのは目に見えているからだ。

 まじまじとその自己中心的な男を観察する。

 見覚えがある。

 どこかのメイドカフェの常連だったはずだ。言葉を交わしたことはないが、そのメイドカフェで何度か顔を合わせている。恐らく向こうも園城のことに見覚えがあるに違いない。

「どけよ! さっさと入れろよ!」

 男はそう言ってスタッフの肩を小突いた。スタッフの顔にさすがに不快感が充満して来ている。そろそろ限界だろう。園城も同じメイドカフェファンとしてこれ以上の狼藉を許すわけにはいかなかった。

「おい、その辺にしておこうぜ」

 園城は男の肩を押さえる。男は振り返って園城の顔を見ると「あ」と呟いた。やはり園城の顔は見知っているらしい。

「あんたが初日の『フェアリーズ・ガーデン』に入りたいという気持ちはよーく分かるし、オキニのメイドさんに投票したいと気持ちもよーく分かる。だがな、こんな騒ぎを起こして、入店してもきっと楽しくないし、それにあんたのオキニのメイドさんも嬉しくはないと思うんだ」

「あ、う」

 男は園城の目を見ると何も言い返せなかった。男は知っているのだ。園城が自分と同じくらい、いや、自分以上にメイドカフェが好きだということを。それだけに園城の言葉は説得力があったのだ。

「『フェアリーズ・ガーデン』はまだ始まったばかりだ。これからも何度も来店するチャンスはある。同じメイドファン同士フェアに行こうぜ。『ご主人様は紳士たれ』だ」

 そこまで言い諭された男は、園城に何も言い返すことが出来ず、不意に顔を背け足早にその場から立ち去った。その様子を見ていた、周りの群衆からは同時に「おおー!」というどよめきが上がる。

「おいおい、あれマスターだぜ」「え? 嘘。キング?」「凄ぇよ。俺、今、名言聞いちまったよ『ご主人様は紳士たれ』だってさ!」「さすがはマスターだ!」「俺、呟いちゃおう!」

 スタッフは心の底から感謝しているようで、園城に何度も何度も頭を下げる。そんな状況に逆に居心地が悪くなった園城は「いや、別にたいしたことしてないから!」とだけ呟いて足早にその場から立ち去った。そして去り際に不意に会場のビルを見上げた。その二階の窓から煌々とした灯りが漏れている。

 あそこで五味が働いている――

 五味の接客レベルから考えて、苦戦していることが予想される。出来れば客として行って、少しでもアドバイスをしてやりたかったが、それもまた次回送りとなりそうだ。

 まあいい。後でメールでも送っておこう。

 そう考えて身を翻し、帰途の道につこうとした園城だったが、はたと、とある事実に気がついた。考えたら、五味のメアドも携帯電話の番号も知らないのだ。連絡の取りようもないのである。

 当たり前だ。

 五味と園城は自他共に認める犬猿の仲だった。互いにメアドを交換する機会があった訳がない。

 明日、学校で話を訊くしかねえな。

 園城はもう一度会場のビルを振り仰ぐと、足早に秋榛原を後にした。


 翌日。結局、何か悶々として一睡も出来なかった園城は、自分でも経験したことのないくらいの早い時間に起き、体育会系の部活が朝練のために登校するのと同じくらいの時間帯に学校に到着した。一睡もしていないせいか、身体が物凄くだるい。だが、頭の中が冴え渡っている。

 教室で居眠りでもしようかと思ったが、何かもやもやして、目を瞑っても眠れそうにない。園城は自分の隣の席を見る。未だ空席のその場所は五味の席。

 五味は結局、どうだったんだろう。ちゃんとやれたんだろうか。それともやっぱりダメダメだったんだろうか。他のメイドはどんな感じだったんだろう。訊きたい。早く話を訊きたい! イライラが募る。貧乏揺すりが止まらない。携帯電話の時計を見ても、信じられないくらいに時間が進んでいない。

 だが、いつもならまだ布団の中の時間帯だ。五味の登校時間もおそらくはまだ三十分は後だ。待ちきれない。気を紛らわす意味で何かしていよう。

 そう考えた園城はおもむろにカバンから教科書を取りだした。いつもはしたことがない、予習なんてものをしてみようかと、思ったのである。

 珍しい。

 自分でもそう思う。これがいわゆる早起き三文の得というやつか。そう自分の中でひとりごちながら、教科書を広げると、園城は――

「あ、あれ?」

 園城は教科書を開いて、机の上に突っ伏していた。周りには、人の気配がある。聞き慣れた教室内のざわめき。いつの間にか、クラスメイトたちは全員登校していたようだ。やれやれと頭を小さく振って、辺りを見渡すと何か雰囲気がおかしい。これから一日が始まる緊張感というか、倦怠感というか、始業前のあの独特の雰囲気が感じられない。今感じられるのはどちらかというと、授業を乗り越えた安堵感というか、脱力感というか。

 園城はクラスメイトたちが机の上に思い思いに広げる弁当箱を目の端で捉えながら、隣の五味の席を盗み見ようとして――

 いや、ちょっと待て。弁当箱だと?

「お、おい! 今は何時だっ!」

「なんだよ、いきなり! おどろかすなよっ!」

 突然、話しかけられた小山は今まさに口の中に入れようと思っていた竜田揚げを取りこぼす。

「どうしてくれんだよ、ウチの姉ちゃんの渾身の竜田揚げをっ! 姉ちゃんが弁当作ってくれるなんて、そうそうな」

「そんなことはどうでもいいんだよ! 今は何の時間だっ!」

「……あ? つーか、お前、見て分からんのかよ」

 小山は床に落とした竜田揚げを「三秒ルール三秒ルール」と言いながら口の中に放り込む。

「今は昼休みに決まっている」

 その言葉を受けて衝撃を受けた。

「嘘だろ……。俺は朝から昼休みまで爆睡していたってことか」

「凄かったぜぃ。英語の清原が怒鳴っても、お前ぴくりとも起きなかったからな。一瞬、死んでいるのかと心配したよ」

「英語の清原からも……。ああ、間違いなく内申点がさっ引かれているな、俺。……じゃなくて。そうだ、五味はどうした!」

 五味の机を見ると、脇にカバンはぶら下がっているし、机の中には教科書が入っている。登校してきていることだけは間違いない。ただ、本人がいない。昼休みだから、どこかに食べに行ったか。それとも……。

「昼休みが始まると同時に弁当持って、どこかにふらふらと出て行ったぜ。そう言えば今日はずいぶんと元気がなかったな。何か知っているのか?」

 それだけ訊くと園城はダッシュで教室から廊下へと躍り出た。五味が弁当を食べる所なんてだいたい限られている。無駄に広い学食か、裏庭。それに中庭だ。その中でも中庭は五味をよく見かける目撃スポットの一つだ。

 足早に廊下を駆け抜けると、一気に階段を下りきった。そしてその階段を左手に曲がって少し行くと中庭だ。廊下からガラス越しに中庭を覗き込み、五味の姿を探した。それはすぐに見つかった。五味は中庭の端のベンチでぼうっとしながら弁当を突いている。端から見ても落ち込んでいるのはまるわかりだ。そんな五味の姿を確認した園城は、手近にある扉を開けた。中庭にはコの字になっていて、その三方のどこからでも入って行ける。

「おい、五味」

「うひゃああっ!」

 突然話しかけられた五味は、びくっと身体を震わせて、飛び上がった。そして今まさに箸で掴みかけていた竜田揚げを取り落とす。

「ああっ! 珍しく母が作ってくれた竜田揚げがっ!」

「……なんだ、今日は竜田揚げデーかなんかなのか?」

 さすがに五味は砂まみれになったそれを口の中に放り込むことはせず、それをティッシュで取り上げて、弁当箱のフタに置く。そして改めて園城の存在を確認すると、あわてて視線を逸らした。そんな五味の様子を見て、園城は小さく息を吐いた。

「なあ、昨日はどうだったんだ?」

「……」

 その問いに五味は無言で恨みがましい視線を向ける。園城は五味の隣に座り、次の言葉を待った。視線を足下に落として黙りこくる五味を見て、この質問は少し配慮が足りなかったかな、と思い直した。五味と他のメイドのレベルを考えれば、相当辛い思いをしたのは間違いないだろう。それを分かっていながら「昨日はどうだった?」という質問はあまりに心がない。

「ごめん。変な事訊いた」と謝って立ち去ろうとした、その時、

「……分かっているんだろう? お前の予想通りだ」

 五味は苦しそうに言葉をぼつぼつとひねり出す。

「……正直、ここまでレベルが違うとは思わなかった。……さすが各店舗の選りすぐりのメイドたちだ。同じ舞台に立っていることすらおこがましい。私は自分で自分がいたたまれない」

 園城は何も言葉が挟めなかった。

 五味は傷ついている。相当なダメージを受けている。だが、そんな五味をコンテスト(戦場)に送り出したのは、自分たちなのだ。責任の一端は自分にもある。

「『フェアリーズ・ガーデン』が閉店してから、担当スタッフによりその日の集計がされる。来店したお客が一票づつお気に入りのメイドに入れた票が開票されるんだ。本来なら翌日に公表されるんだが、メイドたちには当日に教えて貰える。ちなみに昨日の私の得票数は」

 ごくりと唾を飲み込んでその言葉を待った。

「『0(ゼロ)』だ」

 五味は自嘲気味にその言葉を吐き捨てた。

「まあ、当然と言えば当然だ。あんななっていない接客で得票していたら逆に、しっかり接客している他のメイドたちに申し訳がない。だが、な。『0』なんだ。『0』」

 五味の瞳から透明な液体が、つつと流れたことに園城は気がつく。

「何の評価もされない。それは、存在すらしていないと言われているのも同然だ。ある程度は覚悟していたし、予想はしていた。でもこれほどまでに堪えるものだとは思わなかった」

 そう言ってがっくりと肩を落とした。俯いているせいで表情が見えない。だがときおり思い出したように、その顔から液体が地表に落ちることだけは分かる。

 なんと声を掛けたら良いのだろう。慰めの言葉だろうか。激励の言葉だろうか。

 ……でも、そのどれも五味には届かない……気がする。

 そもそも普段の園城と五味はそんな言葉を掛け合うような仲ではない。そんな関係の園城が五味に声を掛けても、そのどれもが嘘になる。いくつもの言葉が園城の頭の中に生まれては消えていく。そしてそれらはどれも身体の外に出て行くことはなかった。園城は自分の無力さを実感して、俯いた。

 その時だ――

「……だが、な。園城」

 自分の名前を呼ばれて、はっと顔を上げた。そこにはしっかりと決意の光に満ちた瞳で園城を見つめる五味がいる。その目は潤んでいて真っ赤ではあったが、涙はもう止まっている。

「ここで終わるわけにはいかない。『ゴルディアス』のためにも、めぐ姉のためにも、ヒメさんのためにも、チーハさんのためにも、ここで終わるわけにはいかないんだ。それに、え」

 そこで急に五味は口ごもった。それでも何かを話そうと、もごもごと口の中で呟いているのだが、それは全く言葉として体裁をなしていなかった。

「なんだ?」

「……いや、なんでもない」

 五味はあわてて視線を逸らすと、そう言った。園城は何か釈然としないものを感じながらも、とりあえず五味が自力で立ち直ろうとしていることに小さな感動を覚えていた。

 相当に恥ずかしい想いをしたことは想像に難くない。こうして悔し涙を流していたことでもそれは理解出来る。だが、そんな目に遭いながらも五味は『逃げる』『辞める』という選択肢を選んでいない。そしてそれらに対して真正面から挑もうとしている。

 園城はそんな五味に対して心が震えていた。いつの間にか身体に力が入っていた。

 園城はがばりといきなり立ち上がった。

「よし、分かったあああ! 五味!」

「な、なんだ突然!」

「このメイドカフェマスターの意地に掛けて、コンテストの間、今まで以上にお前をバックアップしてやる。だから、ほれ!」

 園城はそう言ってポケットから携帯電話を取りだした。

「お前の携番とメアド教えろ」

「え? ああ……別に構わないが」

 五味もポケットから携帯電話を出してぎこちなく操作をする。

「だが、ウチは父親が堅い仕事をしているせいか、とても厳しくてな。男の名前からの着信が見つかるだけでも異常にうるさいんだ」

「親父が携帯をチェックするのか!」

 こんな可愛くもない娘に、それは余計な心配ではないのか。 

 園城は見たこともない五味の父親にそう突っ込みたかったが、それは口に出すことも出来ず、心の中で留めておく。

「まあ、忙しい人で、いつも仕事で家に帰って来ないから、たまにだけどな」

「なら、大丈夫だろ。それでも心配だって言うのなら、『園城さとみ』とでも登録しておけ」

「さとみ? 園城が? なんだ、それ。あはははは」

 五味は園城が女装している光景でも想像したのか、大口を開けて笑い出した。

「おい、笑いすぎだ」

 少しムっとして五味をたしなめたが、意外にツボに入ったらしく、五味は腹を押さえて笑い続けている。でもその姿を見て、すっかりさっきのショックからは立ち直ったことを知って、まあ、いいか、と思った。いかに五味とはいえ、泣いている姿より笑っている方が数段良い。

 ひとしきり笑った後、五味は笑いすぎたせいでこぼれた涙を指で拭うと、園城にしっかりと向き直った。

「園城」

「なんだよ」

 怪訝な表情で五味の顔を見返す。五味は何か決意に満ちた光をその瞳に湛え、園城をしっかりと見据えた。そしてゆっくりとその唇を開く。

「私は今まできっと逃げていたんだと思う。『萌え』という事に対して、気恥ずかしさから斜に構えていた。あなどっていた。……いや、自分の興味のない全てのことに対して私は逃げていたんだと思う。だが、彼女ら――コンテストのメイドたちはその『萌え』に対して真正面から向き合っている。そして誇りを持って働いている。それと比べて自分はなんだ。まるで部屋をかたづけるのを嫌がって駄々をこねている子供のようではないか。そう思えたんだ」

 そして、何か憑きものでも落ちたような表情で五味は言った。


「私は生まれて初めて本気になろうと思うんだ」


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