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元勇者のご主人様  作者: 山科碧葵
第三章
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エピローグ 結婚式

 地を駆ける微風が花卉を揺らし、眩い乱反射が清々しいほどの青空を美麗に彩る。

 大通りから若干外れた緑豊かな大地。その一角に建設された一軒家の庭先にて、エプロンドレスを身に纏った黒髪の少女が、腰に手を宛がいながら玄関に向かって何やら文句のような言葉を放っている。


 少女の黒髪は風を受けては妖艶に煙り、日を受けては宝石のように煌めいていた。

 顔つきは驚くほど端正で、全身を構成するプロポーションは、露出のほとんどないヴィクトリアンメイド調なエプロンドレス越しにも、その中身が魅力的であることを知らしめる。

 肩幅に足を開き、腰に手を当てて前のめりのポーズ。

 お尻を突出して玄関へ顔を覗き込ませると、鳶色に煌めく瞳をキラキラと輝かせながら、またしても、代わり映えのしない言葉を投げかけた。 


「ごっ主人様ー、まだですかー!」

「もう少し、もう少しだけだからちょっと待ってくれ!」


 蒼天の下にて佇むフェリアの急かす声が木霊し、俺はそれに対して先ほどから全くもって変わらぬ返事をフェリアに告げる。

 この返答も、これで五度目だ。

 女の子の支度は時間がかかると言ったのは誰だったか、もし分かったら、俺は今すぐにでもそいつに会って正面から問い質したい。

 本当に女の子という生き物は、揃いも揃って出かける準備に時間がかかると、本当に言い切れるのか、と。


「ご主人様ー!」


 またしてもフェリアの呼び声が響き、俺は頭を掻き毟りながら壁に寄りかかった。

 さっき返答の回数は五回目だと言ったが、こんな調子だ。

 俺が返事をしなくとも、フェリアはめげずに問いかけの言葉を投げかけてくる。

 故に、俺が返事をしていない、フェリアが同じ問いかけをした回数は、とうに十回を越えている。


「リリウス、まだか?」


 壁に寄りかかり、俺は目の前に設置された扉へ声をかける。

 俺の寝室とリビングの間に用意された、この家では一番新しい部屋だ。


 外装に個性は見られないが、それは上辺だけ。

 扉を開けると、リリウスの趣味を表現した家具や小物がこれでもかと並べられている。

 獣人の少年を象ったぬいぐるみや、ピンク色をしたウサギの小物。

 デフォルメされたライオンのぬいぐるみまでが、部屋の内周をぐるりと囲うように置かれているのだ。


 リリウスは意外とファンシーな趣味なのか、と思えばまたそれも間違いだ。

 ぬいぐるみの脇には血糊のついた剣が刺さっており、鞘を失い刃を外気に晒したままの荒々しい武具たちが、天井や壁に吊るされている。

 リリウス曰く、昔使っていたぬいぐるみも武器も、愛着があってみんな捨てられないのだとか。


 俺も経験が無いわけではないのでリリウスを責めることはできないが、三人での同棲が決まった翌日、リリウスが荷車を持って現れたときは流石の俺でも開いた口が塞がらなかった。

 しかもこの量で、家にあるそれの半分以下だというから驚きだ。

 一度でいいから、リリウスの家に行ってみたいとさえ思ったね。


「待ってくれ、もう少――。……キンジ、やっぱこれ、着なきゃダメか?」


 扉が若干開き、頬を染めたリリウスが顔を覗かせ、小さく手招きをみせる。

 刹那的にフェリアを呼ぼうとしたが、外ではしゃいでいるフェリアは、今玄関の前にはいない。

 庭の方にでも行ったのかもしれないが。


「フェリアがいないから、俺が行こう」

「別に、キンジとはもう何度も風呂に入ったし一緒に寝たから、今更遠慮したりしなくていいんだぞ?」


 確かにその言葉に否定する余地は無い。

 リリウスとは何度も入浴し、その度に発情した獣に身体をまさぐられた。一緒に寝れば一晩中背中に顔を埋めて匂いを嗅いでくるし――、まあ言ってしまえば、リリウスと二人きりの状況で、何も起きないということが想像できないのだ。


「いいけど、変なことするなよ? 出発前にそんな気分になったら、もう歯止めが効かなくなるからな」

「だったら……キンジも服を脱いだりして、私を誘惑したりしないでくれよ?」

「そんなこと自分からはしないよ!」


 実際まだ関係をもっていない頃、来訪したリリウスに男の子の全てを完全にさらけだしたことがあるので、あまりこの言葉に信頼性はない。

 だが別に、それはリリウスに股座を見せたかったからしたわけじゃない。

 単なる事故と、偶然と、色々な弊害が重なって起きてしまったことなのだ。


「この前だって、フェリアが買い物に行ってることをいいことに、突然あんなものを私に見せつけて……」

「勝手に押し倒して脱がしたの、誰だったっけ!?」


 記憶に新しい思い出を掘り起こされ、思わず乾いた笑いが出る。

 フェリアがいないことをいいことに、その筋肉質な腕で俺の自由を奪い、足を器用に使ってズボンを脱がされたのだが――、まあ長くなりそうなので回想するのはやめておく。

 ともかく、


「入るぞ」


 扉を開け、リリウスの部屋へと闖入。

 途端に甘ったるい女の子の香りが漂い、一瞬だけイケナイ妄想に取りつかれる。

 いけない。普段ならこのまま行ってもいいが、今日は忙しいからそんなことにかまけていてはいけない。


 大好きな異性の香りという強敵を打ち倒し、さてと顔を上げたところで、またしても。


 ――ったくリリウス、下着くらいちゃんと見えないところに置いておいてくれよ。


 さも当然といった様子でベッドの上に広げられた桜色のそれは、リリウスお気に入りの逸品だ。

 刺激的ではないが、リリウスが迫ってくるとき、大抵彼女はそれを穿いている。

 一度それしか無いんじゃないかとからかったところ、後日部屋に連れ込まれ、仲間たちがいっぱい詰め込まれたタンスをこれでもかと見せつけられた。


 あれは何度思い出しても素晴らしいひと時だったと今でも思う。

 あ、あの部屋の端にあるタンスの、確か二段目に俺の正義がいっぱい――。


「キンジ、こっちを見ろ」


 カラフルな楽園に奪われた視界を剥がし、姿見の前で佇むリリウスへと瞳を向ける。


「どう……だ?」


 褐色の肉体を包むは、漆黒のエプロンドレス。

 フェリアのと比べると若干肌の露出箇所が多いが、それはあくまでフェリアと比べて、である。

 普段リリウスが好んで身に着ける衣装と比較すると、逆に布面積が非常に多い。

 獣人――とくにイヌ系は発汗機能が少々発達しておらず、身体を締め付けるような衣服は好まないのだとか。


 俺も最初は、リリウスの意を汲んで普段通りの格好で連れて行こうと思ったのだが、その旨をレトナお嬢様に伝えたところ『式典にふさわしくない格好での参列は、礼儀的にもよくありませんことよ』とお嬢様口調で言われ、結果、お嬢様の屋敷にあるパーティ用の衣装を貸してもらうこととなったのだが。

 パーティ用のドレスを嫌がり、スーツのような衣服は見ただけで拒否反応。

 あれこれ色々といちゃもんをつけ、リリウスは頑なに自身の服装を変えることを拒んだのだが。


『リリウスさん。あなたがそうやってわがままを通せば、キンジさんが恥ずかしい思いをすることになるんですよ』


 と、今度は聖母のように穏やかな口調で諭し、その言葉にリリウスも何か思うことがあったのか、多少真面目に服装を考えるようになったのだが。

 結局ドレスやスーツを我慢することはできず、俺のメイドという立場なら身に着けていても問題無い、という理由で最終的にエプロンドレスで決まった。

 同じドレスでも、こちらはまだマシなのだとか。

 俺にはよく分からないが。


 兎にも角にもそんなわけで、リリウスは現在その鍛え上げられた肢体に慎ましやかなエプロンドレスを纏い、乱雑に並べられた千切りキャベツのような髪を、ホイップクリームのように柔らかなホワイトブリムでまとめている。


 羞恥から来る拗ねたような表情も相まって、ケモミミ+不機嫌+褐色メイドという物凄い萌要素を詰め込んだ剣士が出来上がった。

 当の本人は、その姿をジロジロ見られることに拒否反応を起こしているようだが。


「似合ってるよ、リリウス。サイズも合ってるし、凄く可愛い」

「サイズに関しては余計だ。……でも、まあ褒めてもらえたのは、嬉しい」


 余計と言われたが、サイズに関しては少し気にしていたのだ。

 身体つきは勿論女性的だが、腕や足などは太く堅牢だ。

 それでいて、二つの膨らみ――所謂胸の話だが、それは平均以上、すなわちデカい。

 よくもまあ、そんな体格にピタリと合うメイド服があったと感嘆した。


 テレテレと頬をかく動作に暫し見とれていると、不意にリリウスはしょんぼりとした様子でイヌミミを丸めてみせた。

 何か言いたげな様子でチラとこちらに視線を送り、身体を撫でながら小さく溜息。


「しかし、まあ。私にふんわりした女性的な服飾が似合わないのは、昔から自覚していたことだ」

「そんなこと無い」


 思わず出た言葉だが、事実これは俺の本心だ。

 四肢の堅さは確かにリリウスの申す通りだったが、代わり――と言っては失礼だが、胸や腰回りの柔らかさといったら。

 顔を埋めた時の至福は、とうていフェリアなどでは味わえ――とまで言うと、フェリアに失礼か。

 ともかく、


「リリウスが女らしくないなんて、絶対にない」


 肩を掴み、顔を近づける。吐息のかかる距離。

 そのまま唇を奪ってしまいたい衝動に駆られるが、グッと堪える。


「ありがとう、キンジ」


 リリウスはそう言ってはにかむと、さりげなさを装って啄むようなキス。

 不意を突かれたのもあって、思わず胸が高鳴る。

 出発前だから出来る限り欲求は仕舞い込んでおきたかったのに、まったくリリウスはいけない子だ。


 ふざけたことを考えながらリリウスの肩に手を回そうとしたところで、リリウスは俺の身体を放し、色っぽく口元を指先でなぞり、


「さあ、もう行かなくてはならないぞ。もっとキンジと触れ合っていたいが、これ以上独り占めすると、外で待っているフェリアに悪いからな」


 言い終わってから、軽く耳朶を甘噛みするのがリリウスの心憎いところだ。

 あ、ダメ。甘噛みだけでもヤバいのに、舌、舌遣いが!


 強烈な置き土産を耳元に残され、俺はリリウスを追ってこの場から退室する。

 右耳はキュンキュン疼くし、口元はなんか甘いし。


「リ、リリウス……」

「おっと、これはいけない()()()()だ。出発前に、そういうことをするのはよくないんじゃなかったのか?」


 エプロンドレス姿のリリウスに、誘うような視線でそんなことを言われた。

 なんとかその煩悩に抗おうと、俺は首を左右に振る。

 ダメだ。人様の結婚式に参るというのに、そんなことしてはならない。

 するなら帰ってからだ。帰宅したらもう、真っ先にリリウスで遊んでやる。


 リリウスを蹂躙する妄想が炸裂したところで、不意にリリウスの真面目な声音が中耳腔を刺激した。


「なあ、キンジ。そういえば、私はお前に、リリシアという名前の話をちゃんとしていなかったよな」


 リリシア? ――って、誰だっけ。


「なんだその顔は。私はずっと、言う機会を窺っていたというのに、当の本人は忘れていたのか」


 リリシア――、あ、思い出した。

 リリウスを初めて会ったとき、リリウスのことをザフィラスさんがそう呼んで、確か。


「聞くも涙、語るも涙な一人の少女による悲しい逸話があるんだったっけ」

「覚えてるじゃないか」


 リリウスはふふんと腕を組み、胸を寄せ上げる。


「私が生まれた村――というか、獣人全般に言えることなのだが、獣人という種族の住む集落には、村長――というか、長老のような方がいるんだ」

「あ、なんか想像できるかも」


 ファンタジックな世界でのお約束だ。

 天気とか占いとか災害とか、何でもかんでもとりあえず長老に聞けばどうにかなる。そんな感じの村なら、前の世界でも何度か通ったことがある。


「うむ、話が早い。それでだな、うちの村も同様、誰かの家に赤子が生まれた時、真っ先に名前を長老に告げなければならない、というしきたりがあったんだ」

「リリウスも、そうやってつけられた名前なの?」


 何となく出た言葉だったのだが、リリウスは悲壮とも歓喜ともとれる妙な顔をして、


「ああ、男ならリリウス、女ならリリシアと私が生まれるより先に、両親同意のもとでそう決められたらしい」

「へえ――――、ん?」

「その反応が、欲しかった」


 え、だとすると、リリウスってもしかしておと――。いやいや、それはありえない。

 確かに名前は男性的だなとか思ったし、肉付きの良さもちょっとアレかな、とか思ったのは確かだけど。

 リリウスの生まれたままの姿は、ここ数日の内に数え切れないほど見た。

 寝室で見て、お着替え中に見て、入浴時に見て、また寝室で見て。

 だがリリウスの身体は、正真正銘女の子のものだ。

 まさか、生まれた当初だけ、男の子的なモノが生えてたとかそんな。


「ふふっ……、そううろたえるな。種明かしをしよう。簡単に言うとな、私の父親はすごくそそっかしくて、慌てん坊だったんだ」

「あの、リリウス? 言ってる意味があまり……」

「腹の中から引きずり出された私を見てな、父は真っ先に私の股座を覗き込んだらしいのだが――――どうしたキンジ、顔が赤いぞ?」


 言われて気がつき、思わず顔を手で包む。

 幼い頃のリリウス――ヤバい、想像しただけでドキドキする。


「大丈夫、続けてくれ」

「うむ、分かった。そして父は、私の股座にキンジと同じものがあることを確認して、『我が子の名前はリリウスに決まった!』と、長老に進言してしまったわけだ。そそっかしいだろう?」


 ――――ん。なんか大事な個所をすっ飛ばされたような気がするけど。


「えっと」

「言うのが恥ずかしいから、これだけで察してくれれば良かったのに」


 頬を赤らめ拗ねたようにそう言うが、残念ながら俺にはそこまでの能力はない。

 だがまあ、廊下の真ん中で立ち止まりながらこんな世間話をしていることがフェリアに露見したら、タダでは済みそうにないってことなら、想像できる。


「……見間違えた」


 フェリアが来ないか危惧して玄関から差し込む日光を見ていると、か細く、虚空で粉々に砕け散ってしまいそうな声音が、リリウスの口端からこぼされた。


「え?」

「だから、私の父が、その、イヌのしっぽと、男の子のしっぽを見間違えたっていうか」


 テレテレと俯き、頬が桜色に染め上げられる。

 いやしかし、反応に困る結末だ。どうせ忘れてたんだから、逆にそんな話、蒸し返さなくても良かったのに――。


「――っ呼んで」


 リリウスの手が俺の服の裾を摘まみ、


「リリシアって、呼んで!」


 凛とした雰囲気は消し飛び、そこに存在するのはか弱く可憐な少女の姿。

 怜悧な瞳もパチッと開かれ、艶やかに頬が桜の色を帯びる。

 甘い吐息が口元でかき混ざり、潤んだ眸が俺を捉えた。


「愛する殿方に――世界で一番愛する殿方に、そう呼んでもらうことが夢だったのだ!」


 トクン、と左胸の辺りで心の臓が跳ねた。

 そういえば――思い出してきた。ザフィラスさんがリリウスのことをリリシアと呼んだとき、彼女はすごく嬉しそうに照れ笑いを見せていた。

 名前は忘れたがバーレン氏のご子息がその名の由来を問いたときも、話したくて話したくて、うずうずしているようだった。

 結果的に、それはフェリアの言葉によって遮られてしまっていたのだが。


「……呼んで」

「分かったよ、リリシア」


 音で言えば最後二文字が違うだけなのだが、こう改まって呼び名を変えると、妙に照れ臭い。

 しかも呼ばれた本人が、異常なほど顔を紅潮させているというのも高ポイントだ。

 面と向かって歯の浮くような告白科白を告げたような感覚に陥り、思わず顔を逸らす。

 照れ隠しにリリウス――リリシアの手を握り、目を合わせずに言葉を紡ぐ。


「ほら、行こうぜ。流石のフェリアでも、これ以上待たせたらどうなるか」

「私やキンジのことは大切に思っているみたいだから問題無いだろうけど、フェリアの性格上、下手すると一般市民を巻き込むかもしれないからな」


 繋いだ手を、リリシアに振りほどかれる。

 抜け駆けをしたところを、フェリアに悟られたくなかったのか。


 玄関を抜けて蒼穹の下へ躍り出る。

 眩い日光に素肌を焼かれ、心地よい。


 リリシアと肩を並べて庭先に赴くと、ぷくぅと頬を膨らませながら拗ねるフェリアの姿があった。


 指先から燻ったような煙が上がっており、地面中にここの世界の文字で『遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いキンジくんのバカ』と書かれている。


「遅い、キンジくんのバカ!」


 そっくりそのまま罵倒の言葉をぶつけられ、思わず照れ笑い。

 自分Mだったかと少し思い巡ってから、俺はリリシアを連れてフェリアへ駆け寄り、


「ごめん、遅くなった」


 精一杯の愛念を込めて、熱い抱擁。

 俺がフェリアを全面に抱きしめると、背後から褐色お姉さんが俺の体躯をギューッと包み込む。

 悪くない感覚だ。


 フェリアは俺が現れた当初こそ不機嫌な表情を露わにしていたものの、俺とフェリアの体温が混ざり合うに連れ、フェリアの表情は徐々に柔らかなものへと変化した。


「――まったく、キンジくんったら」


 その言葉を告げる口元は、魅惑的に緩んでおり。


「時間も押してますので、お急ぎください。リリウスもほら、乗って」


 ようやくそこで気づいたが、綺麗に整えられた地上には、フェリアの手によって描かれた魔法陣が敷かれている。

 魔力を込めて映し込む魔法アイテムではなく、心を込めて、フェリア本人がその手で描いてくれた、魔法陣。

 異世界に転移する魔法陣というとあまり良い思い出は無いが、フェリアの描いた魔法陣なら――。


「信頼できる。守るべき――大切な女性(ひと)が描いた、魔法陣だもんな」

「うふふ。わたしは天才ですから、失敗なんてありえないんです」


 えへんと胸を張り、満足げな表情を見せる。

 俺はその可愛らしい仕草を目に焼き付けてから、頭を撫でるのと同じような感覚でフェリアの口元に口づけを授ける。

 フェリアが自信満々といった様子を見せた時は、こうやって労をねぎらい、褒めてあげる。

 ついでにリリシアの口元にも贈り物を与え、抱きしめる。


「そうだ。リリウス、向こうに着いたら、キンジくんのことをちゃんとご主人様って呼ぶんだよ」

「そっか、私、キンジのメイドとして……」


 自身の格好を見下ろしてから、リリシアは俺の顔を見つめた。

 口元がモゴモゴと動き、舌先が唇を這い、湿らせる。

 あ、キスするの少し待てば良かった。


「――ご、ご主人様っ!」

「うん、リリシア」


 リリシアを抱き寄せ、湿った唇をまたしても俺の物に。そうすると、リリウスばっかりずるい、といった表情をみせるフェリアとももう一度――あ、これきっと終わらないパターンだ。メビウスの輪だ、これ。


 上手いこと言ったなと心の中で膝を叩き、リリウスとフェリアを胸の中に抱きしめる。

 両手に花とはよく言ったものだ。

 こんなにも可愛らしくて、繊細で、ずっと守りたいと思わせてくれるその存在。

 まさに“花”だ。



 魔法陣に魔力が流し込まれ、三度目の異世界転移エネルギーが俺の全身を包み込む。

 右腕にはリリウス、左手にはフェリア。何があろうとも、絶対二人を放したりはしない。

 放したり、するものか。


 喩え俺の身体が朽ち果てようと、二人を守ることをやめることは絶対にしない。

 この笑顔を守りたい――大切なこの笑顔を、守るために。




 世界を救った元勇者の、ご主人様の名に懸けて。

ここで完結です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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