第十六話 金髪、碧眼、幼女、頬、唇、額、帽子、魔女、膝小僧、指先、肩。
闇のように幻想的な雰囲気を醸し出す、漆黒の三角帽子。
先端に星のアクセがついた、純白のロッド。
つるぺたな肢体に纏うのは、誰を惑わすためだと聞きたくなるほどに、ロリ体系には不釣合いな妖艶な下着とマントのみ。
ついでに言うと、身に着けているのは下半身のみなため、風を受けてマントがはためく度に桃の蕾がぷくりと出現する。
踵や背中に負った裂傷は治癒され、乱れた金髪も手櫛で整えられた。
端正な顔立ちをした少女は可愛らしく首を傾け、うっとりとした表情で俺を見つめていた。
時折パチクリと瞳が瞬き、愛らしく双眸が細められる。
その顔を見ながら、俺は心の中で盛大に苦笑いをする。
先日出会った紫紺のローブ姿ではなかったためか、彼女が探し人であるということに気が付かなかった。
気にしてはいたのだ。
俺をこんな目に遭わせた張本人であり、乗りたくもない船に乗せられたのも、間接的には彼女のせいだ。
フェリアがギルドを破壊しかけたのも、リリウスが発情して俺をおもちゃにしたのも。
直接的では無いが、全体的に彼女が原因だといっても過言ではない。
だが――ちょっとだけ、遅すぎたんだ。
思い返せば、彼女と出会ったのは結構前のことだったような気がする。
フェリアのご奉仕を拒み始めて、もう何日が経っただろう。
まあ、この際期間はどうでも良いのだが。
「わ、でもおにーさんから私に会いに来てくれるなんて、すっごく嬉しい!」
全く悪気を感じる様子も無く、俺の腰回りをすりすりと撫でてくる。
金髪碧眼な幼女に擦り寄られるなど夢のシチュエーションと表現しても大仰では無いが、はっきり言って、今の俺にはこの状況に嫌悪感しか湧かない。
先ほどまでは健気で可愛らしい少女だと思っていたが、彼女のせいで青少年の淡い楽しみを消滅させられたと思うと――。
苛立った心を落ち着かせるよう、口端を舐めて湿らせる。
落ち着かなければ。フェリアもリリウスも言っていた。
できる限り安全な策を狙う。それが全てダメだった場合は仕方がない、彼女と剣を交わすことになるかもしれない――と。
幸い今のところ、金髪幼女――もといウィッチは俺たちに敵対心のようなものを抱いていないようだ。
むしろ、懐かれている。
服に顔を埋めたり、腰の辺りを撫でてみたり。
身体が反応しないこともあって、物理的な心地よさを感じることはできないが。
ともかく。
警戒されていないのであれば、ここは好都合だ。
騙す――という表現はあまり好まないが、うまく言いくるめて俺の心身を治してもらわなければ。
俺たちはそのために、わざわざここまでやってきたのだ。
「なあ、ウィッチさん?」
「何ですかー、お兄さん?」
よし、掴みは問題ない。あとは、なるべく彼女を刺激しないように、と。
「前に――いや、俺と初めて会ったときのことなんだけど」
「ああ! “封印”のとき? えへへ……、お兄さんから来てくれて、しかもご用件がそれだなんて」
頬を染め、にへりと照れ笑い。
ちょっと待て、封印って何だよ。
こんなところで新用語が出てくるとか、聞いてないぞ。
「……封印?」
「そ、封印。私がいた世界で伝えられる魔術の一種なんだけどね、心とか、本能とか理性とか、何か一つの感情を私だけのものにできるんだ」
にぱっと笑い、俺の顔を見つめる。
表情こそ年相応の可愛らしいものだが、言っていることは不気味である。
精神でも何でも一つだけ奪えるということは、もしかして。
「視界とか、摩擦とかも奪えるのか……?」
ウィチリオン。何となくそんな言葉が頭を過った。
「んんー……。視覚とか嗅覚とか、触覚とかなら奪えるよ。でもあまり意味ないから、滅多にしないけど」
冗談で聞いたのだが、できるのか。
まあいい。自身の能力を暴露すると言うことは、それだけ俺を信頼しているということだ。
――もしくは、考えたくないが、自身の能力を知られてとしても負けないという自信があるのかもしれないが。
ふと隣を見ると、リリウスは右手を腰に差した剣へ伸ばしていた。
何か妙な真似をすれば、刹那両断するような勢いだ。
「キンジからは、何を奪ったんだ?」
背中に氷を突き立てられたような、嫌な寒気。
鋭く冷たい言葉がリリウスの口から放たれ、魔女っ娘姿の金髪幼女をグサリと突き刺す。
ウィッチは一瞬だけ戸惑いの表情を露わにすると、うーんと考えるようにほっぺたに人差し指を当て、首をコテンと傾けた。
「キンジ――ってお兄さんのこと、だよね? お兄さんからは、何を奪ったんだっけ」
忘れているのか。
俺はお前の顔を忘れても、自分の症状に関しては忘れたことは無かったぞ。
欲求に関して忠実的な青少年にとって、甘い青春を謳歌するために必要なものであって、その存在をひと時も忘れることのない、三大欲求の一つ。
完全に取り払われていたわけではないが、男性の象徴として垂れる可愛らしいモノが、完全なる無意味として存在していたことに関して、俺は言葉にし難いほどの寂寥を感じていた。
自分が自分で無いような感覚。
フェリアやリリウス、プリミルのあられもない姿を見ても、そうして浮上する感情の全てが、自身のものでないような錯覚。
高鳴る胸も、奪われる視線も、全てが虚偽の反応。
下腹部に募る違和感は徐々に強まっていき、最近になってやっとこの変な感覚にも慣れてきたのだが。
やはり、辛いことには違いない。
なのに、この女は。
「憶えて、いないのか?」
「う、ううーん。私が使う封印は、自分で奪うのを決めるんじゃなくて、その時私が潜在的に一番欲しいと願っているものに関する感情を奪うから――お兄さんの場合だと、」
じっと見つめ、頬を染めて目を逸らす。
「ココロ、かな? だってお兄さん、私がもといた世界でお慕いしていた方と、瓜二つなんだもん」
頬を両手で包み込み、キャッと歓喜の声を漏らした。
次いで、顔を覆ったままそっと俺の顔を見つめると、上目遣いをしてコテンと首を傾ける。
身に着けている下着を見たときから薄々感じてはいたが――行動の一つ一つがあざとい。
頬を指でなぞり、桜色の唇をすぼめてみせる。
その単純かつ行動の意味が明快な動作に、若干ほんわかとした感覚を味わい――。
「ね、ちゅーして、ここに。んちゅーって、ほら」
案の定予期した通りの言葉が投げかけられた。
まあ相手は子供だし、普通にお願いされたらどうにかごまかそう、なんて感情が湧かないでもないのだが。
「慎ましく、辞退させていただこう」
きっぱりと断った。
いくら可愛かろうと、フェリアとのお楽しみの時間を奪いやがったやつと、そんな接触をするなどごめんだ。
確かに、魔女っ娘装束も相まって、すごーく可愛いんだがな。
俺の言葉を聞いてパチクリと瞳を瞬かせたウィッチは、その口端に人差し指を突き立て、首を傾げる。
「あれぇ……? でもでも、お兄さんが私の封印を受けたんだったら、私の虜になってるはずだよね? ……それとも、ココロは奪えてても理性を奪えてないのかな……。ん、お兄さん、我慢しなくていいんだよ。ほら、叫んだり騒いだりしないから、私のこと、好きにして?」
両腕を広げ、唇を突き出して見せる。
会話が連結しない事実に若干の苛立ちを覚えるが、グッと堪える。
どうやらマジに、彼女は俺から奪ったモノが何なのか知らないらしい。
あざとく瞑目し、徐々に顔が近づいてくる。
もしこれが俺を油断させるための罠なのだとしたら、魔術に自身があるさしものウィッチでも、目をつむるなどという愚行に走ることはないだろう。
それにもし、この場でさらにココロだかを奪われたとしても、背後にリリウスが構えているから無問題だ。
さてと、
「んもぅー! お兄さんの意気地なし! 減るものでも無いんだから、少しくらいいいじゃない、ケチ!」
ケチって。何だか久しぶりに聞いたよ、そんな言葉。
駄々っ子ウィッチはポカポカと俺のへそ辺りを叩き、遠慮なく顔を押し付けてくる。
そういうことに関する知識があるプリミルと違い、マジに遠慮が無い。
吐息とか鼻の頭が容赦なく接触し――ああ、つらたん。
ウィッチにしがみつかれながら何の気なしに横を見ると、肩をプルプルと痙攣させるリリウスの姿が目に入った。
銀髪が目にかかり、口の端から「うふふふふふ……」と奇怪な嗤い声が吐息とともに共鳴する。
「ウィッチィィィィ――――!!!!」
とうとう我慢の糸が切れたリリウスは、ウィッチのマントを掴み、持ち上げ、その矮躯を宙吊りにさせた。
漆黒のマントが全体的に引き上げられ、真っ白な素肌が惜しげも無く眼前に露出する。
先ほどのように捲れ上がったそれでは無く、完全に晒された成熟前の肢体。
瑞々しい肩から、ペタつく足裏までが外気に触れ、本能的に思わず視線を奪われる。
何が起こったのか理解不能と言った様子で、ウィッチは暫しの間目をシロクロさせていたが、不意に自身の置かれている状況を把握したのか、ボッと顔を上気させ、桃の蕾を両腕で隠した。
そんな情けない格好で、
「い、いきなり何するのよ! びっくりするじゃない!」
引っ張り上げられ、ウィッチはリリウスと顔の位置が同じ高さになった。
お互いに相手を睨みつけているが、その表情は天と地ほどの違いがある。
完全に相手を軽蔑し、今にも刺し殺しそうな目をしているのがリリウス。睨む瞳の動きにもあざとさや幼さが残っているのは、ウィッチだ。
怒りに燃えたリリウスの表情を見て、俺はフッと心に罪悪感が湧く。
そうだ、リリウスの行動が普通なのだ。
幼気な仕草や可愛げのある言葉のせいで、俺はまたしてもウィッチに惑わされていた。
そんな不甲斐ない俺をこうして目覚めさせるために、彼女は自ら悪役を買って出てくれたのか――、
「いつまでもキンジとベタベタしてるんじゃあない! 二回しか会ってないというのに、少し馴れ馴れしいぞ!」
違った。単なる嫉妬だったようです。
リリウスが俺に嫉妬。
違うな。俺がどうこう云々では無く、単に自身の目の前で男女が入り乱れようとしていたことが気に食わなかったのだろう。
俺だっていい気はしない。
フェリアはあまり、そういうことに関しては気にしそうに無いが。
あれ、そういえばフェリアが戻ってこない。
気になって思わずリリウスへ顔を向けたが、彼女は俺の視線に気が付くことは無く、若干変な意味を込めた視線でウィッチの体躯を凝視していた。
リリウスさん、確かにつるぺたですが、ウィッチは女ですよ。
「お取込み中悪いが、リリウス、フェリアが見当たらないから、探してきてくれないか?」
俺が直々に探しに行ってもいいのだが、別れ際、俺はフェリアに「来ないで!」と言われた。
非常事態につきそんな口約束を律儀に守る必要はないと思われるが、フェリアは意外とあれで子供っぽいところがある。
下手に刺激して拗ねられても困るので、一応言葉には従っておこう。
それに、普段は従わせる立場であるご主人様がメイドに束縛されるというのも、なんか新鮮味があって良い。
いとをかし、だ。
そういったわけでリリウスに頼もうとしたのだが、
「ダメ、絶対。この異邦人とキンジを二人にするとか、絶対ダメだから」
マントを掴んだままの姿勢で、首だけ向けて、俺の言葉を一蹴する。
的確な発言に反論の余地もない。
「それと、フェリアは呼ぶな」
リリウスはウィッチに視線を向け、言葉を続けた。
「フェリアとこいつを会わせるのは、なんだか非常にマズい気がするんだ」
「…………」
否定の言葉が見つからない。
言われてみれば、リリウスの言うとおりだ。
話を聞いただけでギルドを半壊させかけたうちのメイドさんが、本人を目の前にして冷静でいられるとは思えない。
仕方ない。フェリアを呼ばなかった理由を、後で考えておかなければな。
「……ねえ、フェリアって誰?」
きょとんとした様子で、ウィッチはそんなことをぼやいた。
しかし、よくそんなこと聞けるな。
マントを掴まれて、文字通り身動きが取れない状況。そのうえリリウスの腰には小太刀のような剣がぶら下がっており、今この瞬間にでも引き抜くことが可能だ。
リリウスほどの腕ならば、魔術などで防ぐより先に身体と顔を切り離すことができるだろう。
俺がもしこんな状況に置かれていれば、恐怖のあまり言葉を発することはできないと思われる。
映画とかでも大抵、何か言えばすぐ逆上されて斬られるからな。
そんな問いかけに、リリウスは訝しげな眼を向け、
「この世界で一番強いメイドだ。そしてキンジの大切な恋人で、フェリアもまた、キンジをこの世で一番愛している」
真面目な顔で淡々と言われるから――ヤバい、めちゃくちゃ照れる。
だが、この場にいる三人の中で、そんな風に冗談めかして照れているのは俺だけだった。
空気が凍結されたような一瞬の静寂の後、唖然とした表情のウィッチが凍りついた目をリリウスに向ける。
何かを言いたそうに口端をパクパクと震わせ、桜色に染まった舌が唇を舐めると、
「え? それ誰? お兄さんの何!?」
宙吊りにされたまの状態で、ウィッチは俺とリリウスの顔を交互に見やる。
裏切られた! とでも言うように瞳をしろくろさせ、すごい勢いで首を左右に振って見せた。
その反応を面白がるように、リリウスは嗜虐的に口元に弧を描き、
「キンジのメイド――いや、想いを伝えあった恋人と言えば良いか? もうあーんなことも、こーんなこともした仲だ。二人の関係を裂くなど、この世の誰にも行うことはできないだろう」
「あんなこと、こんなこと? ……それって、どういう」
うろたえるウィッチは、動揺しきった表情で俺の目を見て助けを求める。
難しい言葉で幼い少女を煙に巻くのは若干心が痛むが、俺はこいつにそれ以上のことをされた。
無理な同情はいらないだろう。
穢れを知らない生娘のような反応が面白いのか、リリウスは自身の腕から吊るしたウィッチを眼前で揺らし、その色っぽい唇でウィッチの耳朶を甘噛みした。
「んぅ」とか「あぅ」などといった声が漏れ、思わず変な気分になる。
呼気が荒くなったウィッチを見据え、リリウスは幼女の耳をしっかりと口で塞ぎ、舐めるように口の中で言葉を紡いだ。
その度にウィッチの身体がビクンと跳ね、口端から甘ったるい声と涎が垂れる。
どうやらリリウスはウィッチで遊んでいるらしい。
まあ、こんな幼気な少女を痛めつけるだけの精神は俺には無いし、リリウスが喜んでウィッチが困ることなら、目一杯してくれてかまわないのだが。
耳から糸を引き、リリウスの舌がウィッチから離れる。
ドサリという音とともに宙吊りになっていたウィッチは地面へと落下し、脱力した彼女はペタコンとその場に女の子座りをかました。
ついでに腰がビクンと跳ね、敷かれた大地がじんわりと湿った。
どうやら今日の俺は、聖水に恵まれているらしい。
別に嬉しくもなんともないが。
荒い呼吸をするウィッチは露出した白い腕を地面に伸ばし、肩で息をしながらとろんとした目を俺に向けた。
瞳には涙が浮かんでおり、露出度の高い格好も相まってどうにも加虐心を煽られる。
ウィッチは俺の目を捉えると、そのまま視線を下ろしていった。
肩、肋、へそ、と徐々に下りて行き、股座の辺りで視線下降が止まり、頬が染まる。
そしてもう一度、潤んだ瞳で俺を見やると。
「エッチなのはいけないと思います!」
どの口がそんなこと言うんだ。と言いたくなるような言葉を、思いっきり叫ばれた。
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「フェリアとかいう人と、そんな、そんなこと! お兄さんが、お兄さんがぁぁぁ――――!!」
俺が他の女性と身体を重ねていたという事実が、よっぽど信じられなかったのか。
ウィッチはだだをこねるように、両手拳で地面をポカスカと殴っていた。
それを見て、リリウスは清々しいほどのしたり顔。
プリミルに説明したときにも聞きそびれたが、あなた淑女になんて説明したんですか。
そんな俺の心を理解したのかしていないのか、リリウスは「えへへ」と照れ笑い。
女の子らしいそんな行動に、思わずドキリとする。
まあそれはそれとして。
「……でも、封印でお兄さんのココロは私に向いていて、それで、そのフェリアさんとかいう人は、まだお兄さんとそういう仲で、」
「あんたの封印で奪われたのはココロとかじゃなくて、もっと物理的なものだ」
遮るようにリリウスの言葉が走り、ウィッチはきょとんとした顔でその内容を咀嚼する。
そして、不意に頬をボッと紅潮させた。
「わ、わわわわわ、私がお兄さんのソレを、ソレを奪っ――!? そんな、きゃぁぁ!」
両手で頬を包み込み、首を左右に振り回す。
顔だけでなく耳まで真っ赤になった金髪幼女ウィッチは、歓喜とも驚きともとれぬ叫び声をあげて視線を逸らす。
「だから、返してやってくれないか? キンジの心はどうやってもあんたに向かないし、このまま放置しておくと、万一あんたとキンジが結ばれても、嬉し恥ずかしな初めての夜も巡ってこないぞ、永遠に」
「やめて! そんな生々しい話はやめてください!」
白く小さな手を耳に当て、ギュッと目をつむる。
暫しの間そうして丸まっていたが。
やがてリリウスの言葉が終わったと理解したのか、そっと手を放し、くりくりした瞳を俺に向けて、
「えっと、お兄さん?」
「なんだ」
悪いことをしたと自覚したと思われる表情。
叱られることを覚悟するかのように上目遣いをして、人差し指同士をチョイチョイと突っつきあう。
「……その、えっと。全部私が悪かったです。だから、嫌いにならないでください」
もともと好きでも何でも無かったがなと、ぶちまけたい気分だったが、拳を握りしめてグッと堪える。
ここで彼女の機嫌を損ねず、穏便に“アレ”を返して貰えばいいだけなのだ。
ここで変に刺激して、妙な精神魔術だとかを使われたら元も子も無い。
だけど――、こう下手に出るってのも、腑に落ちない部分もあるわけで。
「あー、そうだなー。俺今アレが無くてすっごーく辛いから、それを返してくれたりしたら、嫌いにならないかもなー」
自分でも演技は苦手な方だと自覚していたが、思ったよりひどかった。
棒読みで、しかも目は泳ぎきっていて、恥ずかしいほどに心拍が速い。
リリウスなど、こんな俺の様子を見てクスクス笑っている。
そんなに酷いか、俺の演技?
これではウィッチにも効かないのではないか――と恐れてみたものの、純真純粋な金髪少女ウィッチは、サーッと顔を青ざめさせ、口をパクパクさせていた。
あ、どうやら騙せたらしい。
「お兄さんがそんなに……そんなに不自由していたなんて。ちょっと待ってて、すぐにお兄さんに施した封印を解くから。えっと、じゃあ、いくよ?」
星型のアクセが付いた、可愛らしい魔女っ娘用ロッド。
透明質なそれに魔力が灯り、少しずつ白い輝きが注がれていく。
微風が辺りを彩り、木の葉が大地を駆ける音のみがこの空間にて奏でられる。
薄く瞑目し、ウィッチはそのロッドの先に優しく口づけをした。
刹那、弾き飛ばされそうなほどに豪快かつ乱雑な反動が下腹部に襲い掛かり、比喩では無く実際に、俺の股座が金ぴかに輝いた。
次いで、何かを流し込まれるような不快感。
普段は何かしらを出す器官であるため、それが物理的な物質で無いとしても、逆流の感覚が生じるのは言葉にし難いほど気持ち悪い。
へその辺りが温まり、少しずつ身体の気怠さが減少していく。
気力、活力、やる気、その他諸々のエネルギーが流し込まれ、俺の全身を支配していた無気力の渦が少しずつ消失する。
やがてロッドの先端から輝きが薄れ、ウィッチがロッドから唇を放したところで、風も止まり、輝きも完全に消失した。
「……終わった、のか?」
「お兄さん、私のこと、嫌い?」
ロッドをギュッと握り締めたウィッチは、恐る恐るといった様子で俺の顔を覗き込む。
ああ、何だか身体が軽くなったような、それで、凄くすごーく身体が熱いような――。
熱い。
おかしい。熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い。
身体が火照るだとか、燃え上がるような恋をしたとか、そんなもんじゃない。
焼き箸を身体の中に埋め込まれたような、胃を直接焼かれているような、へそで茶を沸かしているような――いや、最後のは違うな。
「ぐふ、」
「お兄、さん?」
金髪、碧眼、幼女。柔らかそうな頬、甘い香りのしそうな唇、傷痕も無い綺麗な額。トンガリ帽子、漆黒のマント、ロッド、魔女っ娘。おへそ、太もも、膝小僧、ふくらはぎ、くるぶし。小さくて白い指先、滑らかな二の腕、瑞々しい肩。
「――ぁぁぁあああぐ!!!」
「ふぇっ……。ちょっと、お兄さん!?」
目に入った全てのもの、それらに魅力を感じざるを得ない。
柔らかくて、甘い香りがして、瑞々しくて、温かい。
全身に包み込んだ少女の体躯は、閉じ込められた俺の肢体から逃れようと必死にもがくが、そうして触れる全ての感覚が俺に劣情をもたらせる。
「お兄さ、だ、だめっ! 嘘、ウソウソウソウソウソウソウソ! ま、まだ心の準備がっ」
「放さない。この熱さが無くなるまで、絶対に放さない」
暴走した俺の感情は、誰にも止められない。
リリウスが放った「これはまた、派手にやったなぁ……」という言葉を最後に、俺の意識は暗闇の中へと、深く深く沈んでいった。




