表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者のご主人様  作者: 山科碧葵
第三章
32/45

第七話 「――嘘つき」

 これは流石にいかん。


 穏やかな気候を心と身体でたっぷり味わいながら、フェリア直々の膝枕アンド耳かきコースを堪能しているときに、不意にそんなことを思った。


 ――怠惰。


 次に俺の頭を過ったのは、そんな言葉だ。

 病気の人間や、精神に何らかの不調を訴えている人間が、心身の安泰を保つために自宅療養するのは怠惰などではない。

 それはその人に必要なことであり、無駄なことでもなく怠けでもない。


 だが、今の俺はどうだろうか。

 窓を開けて清らかな風を楽しみながら、エプロンドレスに身を包んだフェリアと一日中べったりしてイチャイチャする。

 時折頭の中で桃色煩悩が爆発すると、フェリアに覆い被さっては体躯をいっぱいに使ってフェリアで遊ぶ。


 闇色のメイドさんはそんな俺の行動を拒まず、家事をしながらもずっと俺の傍で笑顔を振りまいてくれている。


 ここ数日間――いや、下手すると数週間以上俺は外出していない。

 ギルドに張られている依頼はもちろん、庭先での素振りを行う回数も最近減ってきている。


 鮮やかな色彩を携えた絨毯の上をゴロゴロと転がっては、仕事に一段落ついたフェリアにたっぷり甘えさせてもらう。

 肉体的なあれは無いが、膝枕に耳かき、子守唄から頭を撫でてもらったりと、「ああ、これが新婚生活っていうやつなのかな」なんて口走りそうになるような、甘く幸せな二人の時間を楽しんでいた。


 フェリア自身も、俺が彼女を求めることが嬉しいらしく、床に転がった俺がニャンニャン甘えると、満更でもないような様子で俺のもとへとすり寄ってくる。

 フェリアから漂う彼女自身の香りは精神に安らぎを与え、荒んだ心が修復されて元気になる。


 毎日毎日大好きなメイドさんと二人っきりでいられるのは、確かに至福の時ではあるのだが――。


「これは流石にまずい」


 再度その言葉が脳内をかすめたとき、さしもの俺でも口からその言葉をぼやいていた。


 フェリアの行う心地よい耳かきが終了したところで、俺は弾力ある柔らかい太ももから顔を放し、その場にてペタリと女の子座りをかます。

 右頬に感じていた幸せな温もりが消失して一瞬だけ何ともいえぬ寂寥感を覚えたが――これがいけないのだ。

 大好きな女の子の温もりや感触は、良い意味で男の子をだめにする。

 心から身体まで全ての感覚を奪われ、その相手に依存してしまう。

 俺の場合メイドさんコンプレックス――略してメイコンとか言えばいいか。


 ――自分で言っておいてなんだが、ネイティブな発音をしたマイコンみたいだな。


「どうかなさいましたか?」


 耳かきを片手に、きょとんとした顔をしたフェリアが正座をしたまま俺を見据える。

 膝枕をしていたためにスカートが太ももより高く捲れており、フェリアのスラリとした脚が顔を覗かせていた。


 俺はその太もも辺りからフェリアの顔までを視線を泳がし、眼前にて居住まいを正すエプロンドレス姿の天使を視界いっぱいに入れる。

 どこをとっても可愛らしく、魅力的だ。これでは確かに、俺はこの魅力に依存してしまうだろう。


 一人の女の子に心を奪われる。

 それはそれで楽しそうにも思えるのだが、十代後半の一応健康な男の子が、こんな定年後の老人みたいな日常を送っていて心身に良いわけがない。


 毎朝――お日様も高く昇った昼過ぎにフェリアに起こされ、彼女が家事をしている間に朝ごはんを食し、午後はだらだらと何となく過ごしたりフェリアを手伝ったりして、夕暮れになるとフェリアに甘える。

 そして夜は洗体を頼んで、頭をなでなでされながらの添い寝。


 どこから見てもよろしくない一日だ。

 運動不足なうえ日光にも当たっていない、ましてや身体も動かさずに毎日絨毯の上をごろごろとしている。

 中学の時の夏休みも確かに前半はだらだらと過ごしてそうめんを啜っていたが、今の生活は当時のそれと比べても破格のだらけレベルである。


 これは良くない。何かしなければ。

 せめて庭先で素振りでもしなければ――でも面倒だなあ。


 視線を流すと、目の前には突然抱きしめても文句も言わない拒まない可愛らしいメイドさんがいる。

 これがいけない。こうやって手の届く場所に、何でもしてくれる理想の相手がいるからよくないんだ。


 『疲れたー。フェリえもーん』『もう、ご主人様ったら甘えん坊ですね』


 だらけを絵に描いたような理想的な異世界生活だが、こればっかりだとよくないな。

 よし。


「フェリア、ちょっとギルドに行って依頼でもこなしてくるよ」


 まず、俺はその場にて立ち上がり天井に向かって伸びをした。

 まずは動くことだ。後で後でとずるずる引き延ばすと、結局やらずに一日が終了する。


 夏休みの宿題とかそれが顕著だ。この幸せな日常が永遠に続くような錯覚に苛まれ、気が付けば地獄の九月一日が迫ってきている。


 何度同じ過ちを繰り返したことか。


「……ギルドに依頼、ですか? 少々お待ちください、冒険者服を持って参ります」


 そう言って立ち上がりかけたフェリアを、俺は片手で制す。

 肩に手をおいて、首を横に振る。冒険活劇ものに出てくる熱血漢を諭す隊長みたいに。

 うわ、格好いい、俺。


「自分の服くらい、自分でとってくるさ」


 フェリアは俺の顔を見据え、きょとんとした表情をその顔に浮かばせていた。

 何だろう、この格好良くない――むしろださいセリフ。



 発する言葉を間違ったかななどと悩み惑いながらも、俺は自室に戻って普段着から冒険者へと着替えなおす。

 丁寧に乾かしており、汚れの一つ視認することができない。

 いつ着るかも分からないのに、フェリアはちゃんと俺の服を洗濯してくれてたんだなあ。


 久々に腕を通した冒険者服を見渡し、姿見の前で自分の姿に少し酔いしれてから部屋から退出する。

 意気揚々と廊下を歩み、玄関までたどり着くと、


「いってらっしゃいませ、ご主人様」


 可愛らしく唇を尖らせたフェリアから甘い贈り物を施され、俺は愛剣を携えて玄関から出た。

 久しぶりに体感する日光や外気が心地よい。

 口の端に何とも言えぬ柔らかい感触を覚えながら、俺はギルドへの道を歩んでいった。



 ---



 冒険者ギルドは相変わらず閑散としていた。


 入り口の扉を軋ませながらギルド内へ闖入すると、暇そうに天井を見つめる受付嬢や談笑し合っているギルドナイトが一瞬だけ俺に視線を送る。


 そしてまたすぐ、各々今まで行っていたことに戻り、唯一受付に腰を下ろしていたエルフ受付嬢のみが、来客である俺に向かって優しげな笑顔を見せてくれた。


「いらっしゃいキンジ・ニノミヤ・アリーデヴェルさん。お久しぶり、今日は何の用かしら?」


 艶やかな笑みに色っぽい仕草。どこからどう見ても二十代前半程度の風体を魅せるエルフ受付嬢は、半瞬間逡巡することもなく的確に俺の名前を当てた。

 俺ってそんなに目立つのだろうか。


 気になって自身の体躯を見渡すが、どこもおかしい箇所はない。

 可愛いメイドさんがチクチク縫い合わせた“主としての勲章”はところどころ刻まれているが、その程度だ。

 まあいい、


「運動不足を解消できるような依頼ありませんか? あまり生命の危険に晒されない類のものが良いのですが」


 俺が目立つかどうかはこの際関係ない。運動感覚で手軽に受注できるような依頼があれば、それを行いたいだけだ。


 実際ここ数日間のだらけた生活のために、俺の身体は老人のようにガタガタだ。

 少し動かせば関節がキリキリと音をたてて軋み、痛いほどの鼓動と血流が全身を支配する。


 こんな状態で粉骨砕身全力でこなすような依頼を受ければ、たちまち俺は翌日全身筋肉痛の刑に苛まれるだろう。

 そうなれば思う存分フェリアに甘えられるが、そんなことになったら今日の行動が全くの無意味なものとなってしまう。

 だらけた生活を元通りにするために、俺はここに来たんだから。


 エルフなお姉さんは尖った耳の先っぽを突っつきながら、数枚の書類をペラペラと捲っていた。

 紙の端に小さく『初心者用』と書かれているため、安全かつ簡単な依頼を探してくれているのだろう。

 お手数かけます。


「そうですねえ。これなんかどうでしょう?」


 そう言って俺の前に紙を広げたが――ダメだ、全然読めない。


「すみません、何て書いてあるのでしょうか?」

「バグズ森林の入り口から、キノコを採ってくる依頼です。病気のおばあさんからのものですね」


 キノコ狩りか。確かに楽そうだが、それをこんな一応の戦い慣れをしている魔法剣士が横取りしてよいだろうか。

 確かに簡単な依頼をとは言ったが、これは少し――何となく妙な罪悪感を覚えるな。


 ふと脳裏に、少年冒険者たちが楽しそうにキノコを採取し、病気のおばあさんへ届けるシーンが浮かび上がった。

 それを齢十八程度の俺が行ったらどうだろうか。

 おばあさんが喜ぶかどうかは別として、どうにもその情景を想像できない。


 薄桃色のベールをかけた小さなバスケットを手首にかけて、新緑の絨毯にてしゃがみ込んでキノコ狩り。


 レジャーであれば楽しそうだが、それで報酬をいただくとなると――何というか、いい歳した兄ちゃんが、“おかあさんのおてつだい”をして金を巻き上げているように思えてしまう。


「……えっと、」

「ふふっ……冗談ですよ。迷宮四階層に咲く、青紫色をした花を摘んできてくれという依頼です」


 頬を染めてにへりと照れ笑い。

 うむ、可愛らしいな。見た目が二十歳前半――ということは、エルフなら数百歳は超えているのだろうが。


「青紫色の花ですか」

「ええ、ギリギリ一般人の方々は足を踏み入れることができない場所ですので。それに、暗いので炎か雷系統の魔法を使用できる方でないと」


 似た色の花と間違えるってわけか。

 なるほど、確かに簡単だが限られた冒険者しか受注できない依頼だ。

 流石この道のプロだな。俺が欲していたレベルの依頼を、手品のようにポンと出してくるとは。


「流石ですね」

「えへへ、若い男の子に褒められるなんて、嬉しくなっちゃいますね」


 そんな若干おばさんくさい言葉に見送られながら、俺は冒険者ギルドを後にした。


 さて、久しぶりの依頼だぜ。



 ---



 鼠色にくすんだ石造りの回廊に身を溶かし、ぼんやりと揺れる炎の光に見送られるようにコツコツと足音を木霊させる。


 向かう先は地下。生ぬるい吐息のような微風が流れ、運動不足な魔法剣士の頬をまるで歓迎するように舐めまわす。

 その度にゾクリとする不快感を覚えて足が竦むが、怯えた心を叱咤して先へと進む。


 ぬるま湯に肩までどっぷりと浸かるようなだらけた日常を続けていたためか、久しぶりに赴いた迷宮が、まるで初めて来た場所のようにおどろおどろしく感じるのだ。


 魔物の叫び声、突如現れる褐色肌のエルフ。

 リリウスに習ったように剣を振りぬき、バッサリと両断しては刹那の間に消し炭と言う名の無に帰す。

 第一階層にて現れる魔物のほとんどは、危険のない安全な生物だ。


 視線を泳がすと、健康的な太ももが眩しい少女たちがしゃがみ込んで何やら採取をしていたり、スコップのようなもので壁を掘ったりしている。


 まるで公園の砂場のような光景。ここが危険な場所だという事実を全くもって実感させない。

 否、それが現実なのだろう。


 魔物も魔法も何も無い世界――日本と比べればそれはそれは危険な場所だ。

 ただ歩いているだけで生命を狙われる空間など、当時の俺からしてみれば恐怖を感じる以上の何者でもない。


 だが、この世界で生まれ、この世界で育った人たちはどうだろうか。

 魔物が出るのは当たり前、炎や雷、水や斬撃が出現するのは日常茶飯事。

 冒険者がいて剣士がいて、魔術師やエルフまで存在する。

 それが普通である世界にて生活している人々が、迷宮一階層の魔物に恐怖の念を抱くであろうか。


 答えは否。現に、子連れの夫婦が今さっき二階層から姿を現していた。

 レジャー感覚――下手すると近所の公園にでも行くような感覚で、この世界の住人は迷宮に潜るのだ。  

 そのように安全な場所で足が竦むなど、冒険者として恥ずかしいことである。


 俺は仮にも魔王討伐の旅から凱旋した魔法剣士なのだ。

 こんなところで、這いつくばっていてたまるか――。



 とは言ってみたものの、特に行く手を阻む者も無くあっさりと三階層の端までたどり着くことができた。

 フェリアの愛情籠った冒険者服は、生ぬるい血糊やむせ返るような悪臭を放つ脳漿によってグッショリと濡れている。


 勇気の加護を付加されし愛剣は、生物の穢れや返り血を寄せ付けぬため綺麗なものだが、やはり衣服が汚れていると、せっかく掻き立てられたやる気や戦意を削いでしまう。


「……うぇ、臭いし気持ち悪い」


 布地を通して素肌に感じるねっとりした粘液。最近になってようやく生えてきた脚の毛に容赦なく絡みつき、何とも表現しがたい不快感を重ねてくる。


 天を仰――げぬので、仄暗い石造りの天井に首を向ける。

 フェリアと一緒だったらあんなに楽しかったのに、一人で潜る迷宮というのは、こんなにも心細く暗いものだったのか。

 だがこれでも三階層だ。生まれたての赤子でも、足を踏み入れることを拒まれない、始まったばかりの場所。

 こんなところで怖気づいていて、先に進めるだろうか。


「――おや、フェリアさんのご主人様ではありませんか」


 意を決して四階層へと躍り込もうとした刹那、三階層の端で警備に勤しむギルドナイトが、薄汚れたベージュに塗られた帽子をとり、小さく会釈を見せた。


 そしてそのまま彼はそろりと瞳を揺らし、俺の背後や後方に視線を泳がすと、事実を確認したのか残念そうな表情で小さく溜息をこぼした。

 すまないね、今日はフェリアと一緒じゃ無いんだ。


「フェリアさんは、」

「うちのメイドなら、今頃俺のパンツでも干してるんじゃないかな」


 実際はもう取り込んでいるであろう時間だが、別にどうでもいい。


 まだ若いギルドナイトは困惑に瞳を揺らし、ポカンと口を半開きにしたまま唖然とした様子をさらけ出した。

 あ、ちょっと悪ふざけが過ぎたかな。失敬。


 純情な青少年(俺より年上っぽいけど)の心を刺激するのはよくないと思い、俺はそれ以上何かを言うことは無く、軽く会釈を返してから四階層へと続く階段を下りた。


 思えばフェリアは、その美貌と性格からアイドル的な人気もあったんだよな。


 日本におけるアイドルや声優は、恋人がいるというだけで放れていくファンもいるときく。それだけ信者ファンも本気だということだろう。

 そういった偶像崇拝に関しての立ち位置は、この世界でもとくに変わらないだろう。


 突如現れて、可愛い可愛い元勇者様を奪っていった異世界人。

 異世界スキャンダルまっしぐらだし、下手したら謂れも無い非難や恨みを買う恐れもある。

 逆上されて刺されないようにしなければ。




 ――なんて言う間に四階層である。


 三階層よりかは若干薄暗くなっており、ギルド受付嬢の言うとおり青い花と青紫の花の区別がパッと見肉眼ではつきにくい。

 さらには赤紫に濡れた花卉や赤黒く変色した枯れた草までが存在しており、ここから目的の花だけを摘むのは骨が折れそうだ。


 面倒だから全部引っこ抜いてやれ、というのは邪道だ。植物だって生きている、生き物は大切にしましょうは日本人である俺にとって身近な言葉でもある。

 え、魔物も生物だって? ふっふっふ。


 ――とまあ冗談は置いておいて、早速依頼という名の草むしりを始めよう。


 炎魔術を発動し、真紅の煌めきをもつ球体を生成し、シャボン玉のように浮遊させておく。

 ちと熱いが、それぐらいの我慢は必要だ。

 髪とか衣服が焦げなければ問題ない。焦げ臭くなったら水魔術を被ればよい。

 まあ、なるべくそうなってはほしくないが。



 しゃがみ込み、途中で茎が千切れないよう丁寧に引っこ抜く。

 陰に咲く茎を引っこ抜くなんて若干いやらしい風味を感じる言葉だが、そこは気にしない。


 青紫色をした花だけでも三種類ほどあるので、それを三本程度ずつ採って布袋に詰める。

 腰が少し痛くなるが、息切れなどもなく疲れない依頼だ。


 鼻歌など歌いながらせっせと四階層をしゃがみながら進み、石壁にへばりつくように生える植物を丁寧に摘み取る。

 そういえば草むしりなんてするの何年ぶりだろう。



「これぐらいで十分かな」


 四階層の端から端までを巡り、採れるだけの花卉は採取した。

 何に使用する花なのかは知らないが、俺には関係のないことだ。

 さて、依頼も完了したし戻りますか。


 立ちあがって腰を伸ばし、仄暗い天井に向かって両手を向ける。

 首を回して指先をわしゃわしゃと動かし、腰をコキコキ鳴らしながら深呼吸。

 ずっとかがんでいたからか、全身を伸ばすと身体の節々が心地よい悲鳴を上げる。

 若干の運動不足は解消されたとみてよさそうだな。


 踵を返し、先ほど下りてきた三階層へと伸びる階段へと足をのばす。

 一歩、二歩目を踏みしめた刹那。


「――――ゅ」

 妙な声音が回廊を彩り、突如背後に何者かの気配を感じ取った。


「ゆゆぅぅぅ――――!」

「――がはっ」


 突如襲いかかった背後からの衝撃。背中が陥没したような錯覚を味わい、肺の空気が根こそぎ吐き出される。


 無理やり酸素を追い出した喉笛は声にならない絶叫を絞り出し、ふらついた足は地面を捉えることもなく、うつ伏せのまま俺の体躯を容赦なく地面へと叩きつけた。


 堅く冷たい感覚が顔面を襲い、頬の端にツンとした痛みが走る。

 どうやら衝撃で切ったらしい。だが幸い顎や鼻面を砕くことにはならなかった。

 治癒魔術を使用できない俺にとって、戦意を削ぐような傷はそのまま致命傷へと変貌するのだ。


「誰だ!」


 右頬に覚えた擦過傷の痛みを隠匿するように、声を張り上げて無理やりに戦意を掻き立てる。

 興奮と畏怖の感情のために総身が戦慄き、呼吸と相まって肩が痙攣する。


 腰に差した愛剣を即座に振りぬき、仄暗い空間を一刀両断する。

 先日庭先にてリリウスに教わった、先手をとるための方法だ。

 そしてそのまま臨戦態勢へと入り、左手に魔力を込めて前方へと突き出した。


「――あああ!」


 左腕を血潮が駆け抜け、手のひらから火炎球が発弾される。

 仄暗い回廊を刹那的に照らしながら、空を裂きながら暗黒世界へと消失した。


「……手応えが無い」


 数秒の後、石壁と火炎がぶつかった音が木霊した。

 途中で何かにエネルギーを相殺されることもなく、四階層の最奥部まで飛んで行ったらしい。


 ――何だったんだ。


「ゆゅぅぅぅぅ――――!!!」


 吐息をこぼした刹那、またしても背後からその耳に付くような声音が奏でられた。

 俺は振り向きざまに、迷わず愛剣を横薙ぎに振り抜く。


 一閃、空気をも切断するように鋭利な刃がキラリと輝き、空振りの感覚を握り締めた拳に伝達させる。

 またしても当たらなかった。


「く、何なんだよ」


 気にせず三階層に戻りたいが、どうにも嫌な予感が頭を離れずその思いを行動に移すことができない。


 昔日本で読んだ漫画にも、背中に張り付いて何もしない敵が出てきた。

 あれは確か、背後をとられると問答無用で殺害されたはず。そういった魔物が、この世界に存在しないとも限らない。

 ましてやここは、一般人が侵入することのできない階層なのだ。

 生命を奪うような魔物がいても、何らおかしいことはない。


 ――背中を刺すか。


 脳裏に過った暴挙に出ようと剣の柄を逆手に持ったが、その考えは改める。


 フェリアやザフィラスさんがいればまだしも、治癒魔術も使用できない魔法剣士がそんなことをしてどうするのか。

 もしこの予感が杞憂だとしたら。背中を刺したことで、万が一急所を捉えてしまったら。

 そんな畏怖の感情に締め付けられ、冷静な判断能力を鈍らせる。

 無理だ。俺にはそんなことはできない。



 イチかバチか。俺は剣を鞘に戻すと、一発深呼吸をして壁に背を向けた。

 花卉を詰めた布袋を腹に抱え、俺は反対側の壁に両手を着く。


 そして、壁を思いっきり押したと同時に、おもむろに地面を蹴った。


「うぐ、」

「ゆゅぅぅぅ――ギャアアァ!」


 スピードを緩めず後方へと倒れこみ、背後の壁へと背中ごと突進する。

 激突。背骨に鋭い痛みが走り、再度肺の空気が若干喉から追い出される。


 刹那気味の悪い声音が途切れるとともに、熟れたトマトを地面に叩きつけたような音が響き――。


「おごふ」


 ドサリと何かが落下した音が木霊すと同時、俺の背中にじんわりと生温かいものが広がった。

 ゆっくりと全体に広がり、ポタポタと水滴が床に向かって吸い込まれていく。

 見たくない。絶対に見たくない。

 

 せっかく倒した魔物の素材を捨てていくのも残念な話だが、そんなことを言っている場合ではない。

 俺は背中にこの上ない不快感を塗りたくられながら、なるべく急いで迷宮の出口へと向かう。


 背後から漂ってくるむせ返るような悪臭は、依然消失する気配はない。


「……悪夢だ」


 迷宮を出てからも、行きずりの人々から白い目で見られた。

 ああ、後でフェリアにあれの倒し方を聞いておこう。



 ---



 なんとかかんとか無事ギルドにたどり着くと、ギルドナイトのおじさんに水浴び場へと案内された。

 普通こんなことまではしないのだが、ギルド職員も暇なので今回は特別ということだ。

 幸い汚れたのは上半身のみであったため、受付嬢三人の手によって服を洗ってもらい、俺は水桶の中でひたすら背中を洗浄した。


 背中を洗浄とは妙な表現だが、あれは洗浄という表現が正しいであろう。

 まるで車を洗っているような激しさだった。



 水浴びが終了し、ギルドにて報酬をいただくと、俺はそそくさと冒険者ギルドをあとにした。

 水浴び中も、洗っている受付嬢さんたちの咳き込む声が聞こえており、申し訳なくて早くこの場から退散したかったのだ。

 はあ、つらた――辛い。




 自宅への道中、蒼天を眺めたように心がスカッと晴れることはなかった。

 肉体が訴えていた重量感や運動不足は多少解消されたにせよ、俺の心にはまた大きな溝ができてしまった。


「帰ったらフェリアに甘えよう」


 メイドさんの笑顔と温もりはプライスレス。どんな疲弊も心労も瞬く間に消失する魔法の感覚だ。

 膝枕して頭なでなでしてもらって――ついでに甘い言葉でも耳元で囁いてもらおうかな。


 フェリアのことを考えていると、思わず頬が緩み幸せな気分になれる。

 どんなに辛くても、想いを寄せる可愛らしい女の子が待っててくれると思うと、自然と気力が湧いてくるものだ。

 ずっと俺が求めていたものって、こんな日常だったのかもしれないな。


 優しいメイドさんと慎ましげに暮らし、エロいことはしない。

 毎日ずっとくっついて暮らして、時折俺が外に働きに出る。

 日本ではありえない話だが、この世界であれば冒険者とはそんなものだ。「今日は気分が乗らないから休む」が平気で通じる世界――なまけものが好みそうなこれが実状だ。


「このまま、身体が戻らなくても、日本に帰れなくてもいいかもな……」


 そんな気弱な言葉を吐くほどに、俺はフェリアに依存していた。



 ---



 夕暮れの帰路を歩み、ようやく自宅へとたどり着いた。

 かんぬきを開けて玄関まで到達すると、妙な場所から灯が漏れていた。


「……あれ、俺の部屋だよな?」


 カーテン越しだが、確かに淡い光がぼんやりと映っている。

 今の時間、フェリアは夕食の準備をしているはずだ。リリウスか誰かでも来ているのであれば話は別だが、彼女たち二人が俺の部屋に用事があるなんてこと――あるのか?


 消し忘れかもしれないと思い、特別気に留めることなく扉を開けた。

 自宅の香りを体躯の全面に感じ、俺は普段通りよろめいた振りをして玄関に倒れこむ。

 こうしていると、フェリアがぴょこぴょこと来てくれるんだよね。


「フェリアー、ナデナデシテー」


 ごろにゃんと甘え、リビングへと伸びる廊下へと視線を向ける。

 だが、愛しの闇色メイドさんは、そんな俺の意思とは裏腹に一向に姿を現さない。

 どうしたのだろう。普段なら、すぐにでも飛びついてくれるのに。


 予感。――それも悪い予感だ。

 俺の部屋に灯が点いている時点で色々なことが得てして妙だったが、さらにフェリアがお出迎えに出てこないとなると――。


「まさか、な」


 一瞬だけ脳裏にサスペンスものの定石が過ったが、そんな悪い予感はすぐに捨て去る。

 まさか部屋に入ったら、血みどろのメイドさんが横たわってるなんてことなど――。





 ないよな。



 総身の肌を駆け抜ける、畏怖の感情。

 昔から俺の嫌な予感とは当たるのだ。前に兄が交通事故に逢ったとき、当時七歳だった俺は何故か明け方悪い夢を見て大泣きしたらしい。

 五歳の時曾爺さんが亡くなったときも、前日の夜突然高熱を出したのだとか。


「おいおい、嘘だろ」


 わざと明るい声音を出して、俺はそっと自身の部屋へと足を運ぶ。

 足が竦み、全身が気持ち悪いほど痙攣する。

 今にも胃の中身をぶちまけたい衝動に駆られながらも、俺はドクドクと早鐘を打つ鼓動を押さえながら、部屋のドアノブに手をかけた。


「――あ、……はぁ、ぅく」


 室内から、聞きなれた声音が弱々しく漏れる。

 艶やかな風味を携えてはいるが、苦しみから逃れるような声が喉笛から絞り出されている。


 その声が中耳腔を震わせ、視界がグルリと回転する。

 舌は砂漠のようにピリピリするほど渇き、運動をしたわけでもないのに息が荒い。

 ドアノブを掴む俺の手も凄まじいほどに痙攣しており、足はガタガタと音をたてながらやっと立っていられるという状態だ。


 だが、このまま膠着状態を続けているわけにもいかない。

 俺は己の心の弱さを叱咤し、頬を手のひらで叩いて精神を落ち着かせる。

 刹那、


「フェリア!」


 叫び、室内に飛び込んでいた。


「あ、あぁぁ、んくぅ……はぁ」

「……フェリア?」


 俺の目に飛び込んできたのは、俺のベッドに噛り付きながら身を震わせる肌色の塊だった。

 うつ伏せに顔をシーツへと埋め、地面の匂いを嗅いでいる犬のように腰回りが突き出されている。


 苦痛に歪んだ吐息を漏らしながらも、ある一点にてフェリアの指先は小刻みに絶賛痙攣中だ。

 だがそれは、苦痛からなるものではなくて――、


「あ、はん! ご主人様ご主人様ご主人様、キンジくんキンジくんキンジくんキンジくんキンジくぅん!」

「…………」


 音をたてないよう気を遣いながら、俺は扉を閉めた。

 いつまでも見ているのはよくない。フェリアだって女の子だ、ここ数日間構ってあげられなかったから色々と溜まっていたのだろう。

 でも、あんなに乱れてしまうなんて、またフェリアの違う側面を見ることができたなあ。


 などと不謹慎にもちょっとだけ嬉しい感情を抱き、そっとしておこうと自室を離れようと踵を返した刹那。


「おうキンジ、帰ったのか」

「…………」


 リリウスがいた。

 男からも見とれてしまうような立派な筋肉を携え、褐色肌のイヌミミさんは串焼き片手に廊下にて佇んでいた。


「リリウス、」

「ああ、フェリアのことなのだが――」


 リリウスが羞恥心も罪悪感も覚えさせない声音で続きを申そうとしたため、俺はリリウスの口に手を当てて黙らせる。

 生物として仕方がないことなのだ。そっとしてあげたい。


「……その反応からして、見たのか」


 一瞬答えるかどうか逡巡したが、俺は正直にコクンと頷く。

 別に嘘をつくほどのことではないだろう。リリウスも今、遠慮なく言葉として発そうとしたことなのだから。


「そうか。どうだった?」


 いじわるく口元を緩め、切れ長な双眸で俺の瞳を捉えてきた。


「どうって、」

「興奮したか?」


 的確かつ分かりやすいことを平気で訊きにいらっしゃる。

 獣人って皆さんこういう人なのですか? ええ、性に関して寛大で開けっぴろげというか。


「…………」

「まあ答えたくなければそれはそれで良い。実はな、私は今日キンジに用があってわざわざ赴いたのだ」


「俺に?」

「ああ、そうだ」


 そう言うとリリウスはピチピチと弾けるような胸元に手を突っ込み、何やら粉末状のものが入った薬包紙を取り出した。

 汗のためか、薬包紙の外側が若干湿っている。

 怪訝そうな視線を送っていると、リリウスはニンマリと口元を緩め、


「媚薬だ」

「媚薬、ですか」

「これが結構効くやつでな。手に入れるのにはかなり苦労したが」


 さりげなく言っているが、楽天的なリリウスが「苦労した」などと言うのだから、その代償は計り知れないものだったに違いないだろう。

 そういえば確かにここ最近リリウスの姿を見ていなかった。

 まさか俺のために、この薬剤を探すためにわざわざ……。


「ありがとうリリウス」

「い、いやぁ……。そんな、それほどでもないんだからな?」


 心から感謝の意を示し真摯に腰を折ると、リリウスは照れ臭そうに照れ笑い。

 今にも笑い出しそうなほど頬を緩め、嬉しそうに俺を見つめている。


「しかし、よく効くってどのくらい効くんですかね」


 それは後学のためにも知っておきたい。この世界には拷問用の媚薬もあるくらいだから、見知らぬ薬剤の取り扱いは慎重にならなければならない。

 そう思って何の気なしに呟いたのだが、


「ああ、さっきフェリアを見ただろう?」


 リリウスは突然フェリアの話をし始めた。


「へ、フェリア?」

「ああ、普段は清純で大人しいあのフェリアが、あんなに乱れてしまうほどの効き目だ」


 その言葉を聞いてから、さっき見た光景を頭に思い浮かべてみる。

 一心不乱にシーツを噛みしめるフェリア。

 ――もしかして、ちょっと!


「フェリアに飲ませたんですか!?」

「うむ、一応安全な部類に入るということは知っていたが、どの程度効き目があるのか気になってな。かなり苦労したぞ、フェリアは警戒心が強いから、どうやって飲ませようかって色々試行錯誤してだな――」


 この場に鏡が無いのが悔やまれるが、きっと今俺は情けないほど唖然とした表情をしているのだろう。


 そう思わざるを得ない。だってさ、魔法の力で機能しない人間を立ち直らせようとして使用するための薬剤を、まごうことなく健康な体で試してみようとか思うかフツー。


 だが別段怒りや呆れの感情が湧き出ることはなかった。

 それはきっと、リリウスは俺以上にフェリアのことをよく知っており、それでいて彼女を裏切るような真似はしないであろうという一種の信頼があるからだ。


 確かにどこか抜けてるところはあるが、心身に害を与えるような失態を犯すような人物ではないだろう。


 ――そう信じたい。


「とりあえず人体に害は無いのだ。それによく効く。――ほら、お前もっ!」


 堅牢な二の腕や太ももを絡め、俺の身体をガッチリと固定する。


 女の子に身体の自由を奪われるなど屈辱以外の何者でもないように感じるが、リリウスは特別だ。

 本人に面と向かって言ったら失礼だが、身体だけ見れば彼女は正真正銘鍛え上げられた獣の肉体だ。

 見よう見まねでちょっと鍛えただけの少年に、振りほどく術はない。

 まあもっとも、抵抗しようなどとははなから思っていないが。


「どうだ? こう、私を見て何か湧き上がるような気分を感じないか?」


 そう言ってリリウスは、胸元を包むチューブトップをずらして見せた。

 漆黒の布越しに誘惑的な膨らみがボヨンと動いたが――、


「身体は火照ってきて……、はぁ……。鼓動も心拍数もかなり速まってますけどっ、下半身は、全く……」


 リリウスの視線が若干下がり、俺も同じように視線を下腹部へと向ける。

 そこには何の反応も無い、薄汚れたズボンがあるだけだ。

 暫しの間顎に手をやっていたが、リリウスは残念そうな面持ちで、


「ふむ、そうか……。しかし、どんなものなのか――」


 ぼやきながら、薬包紙に残った粉末をペロリと舐めた。


 ――ペロっ、これは……媚薬! 


 薬剤を服用したリリウスは訝しげな眼差しで暫し薬包紙を見つめていたが、だんだんその視線がいかがわしい感じに変化していき、さらにはその危なっかしい双眸がゆっくりと俺の方へと向いてきた。


「――嘘つき」


 刹那、胸板に喩えようもない衝撃が降りかかった。

 さっき迷宮で体感したのと同じように、肺から空気が容赦なく吐き出される。


 壁に背中を打ちつけられ、甘い吐息が鼻先に広がる。

 眼前に広がるは、息が荒く瞳が虚ろな褐色獣人リリウス――もとい、発情した獣だ。


「えっと、リリウス? いったい何を」

「みなまで言わせるな、察しの悪いやつめ」


 恥ずかしいほどに紅潮し、上気した頬。たった今全力疾走してきたかのように息が弾み、舌先はねっとりと唾液にまみれている。


 口端からあふれる吐息は熱く、甘美な香りを漂わせる。

 字面だけ見れば美しいシチュエーションに見えるかもしれないが、はっきり言おう、それを目の当たりにしている俺は生命の危機すらありありと感じている。


 現に俺の腕は、今すぐにでも挽肉のようにグチャリと潰されそうだ。


 発情して本能のみになったイヌミミさんは、眼前にて怯えるひ弱なウサギさんこと俺を、逃がさないとばかりにしっかりと掴んでいる。

 さらにはその爆発寸前の胸を押し付け、若干湿った太ももを小刻みに痙攣させている。


 喩えるなら、餓鬼道に落とされた獰猛な肉食獣の、数か月ぶりの晩御飯になったような状況だ。

 間違っても、お色気たっぷりなお姉さんが欲情して迫っているような図では無い。

 下手すれば生命をも奪われるであろう危険な事態だ。


「た、助け」

「キンジ、助けて欲しいのは私の方だ。お前もその媚薬を服用したのだろう? ならば身体は十分準備万端かつ絶好調なはずだ。頼む、キンジ!」


 何を頼まれているのか、そんなこと重々承知だ。俺だって媚薬を服用したのだ、したくないかと言われたら嘘になる。


 だが――俺の高ぶった精神とリリウスの過剰な誘惑をもってしても、異世界人の魔女っ娘が施した色々な意味で“せいなるまほう”に抗うことはできなかった。


「フェリアには言わない、形だけでいい。――そうだ形だけでいいのだ。私が押し倒すからキンジは動かなくていいィィ!」

「わっぷ!」


 瞳を危ない色気に輝かせ半狂乱になりながら、筋肉質なイヌミミさんは俺の体躯を壁へとぐいぐい押しつける。


 苦しい、助けてくれ――る人がいないのだ。フェリアはさっきから俺の部屋に閉じこもっているし、そんな都合よくザフィラスさんとかリィンが来てくれるはずがない。

 後者に至っては、この状況を打開してくれるかどうかもわからないが。


「キンジ……愛しているぞ」


 そんな薄っぺらくありふれた言葉をのたまい、リリウスは俺の体躯を隅々まで堪能している。


 ……まあいいか。当たり障りのない言葉を必死に選んで御託を並べる余裕もないほどに、リリウスの精神状態は喩えようもなくヤバいのだ。


 俺だって媚薬を服用したから、精神的な理性はとうに吹き飛んでいる。


 ――男の俺が無理なんだから、間違いは起こらないよな。


 俺のためにどこかから薬を調達してくれたリリウス。直接的な理由はどうあれ、恩人である彼女がこうまで求めるものがあるのだ。

 正面から拒絶するのも……野暮だよな。


 俺はそのまま全身の力を抜き、無防備な状態をさらけ出して廊下へと横たわった。


 ああリリウス、好きにしろ。君が求めるほどのことはできないとあらかじめ断っておくが、これで少しでも君が救われるのであれば、俺の身体、喜んで差し出そう。


 獲物を前にした肉食獣のようなギラついた視線を感じ、俺は静かに瞑目する。




 こんな俺でも誰かの役にたつのであれば、それは何よりも、嬉しいから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ