第四話 複数の解決策
闇色の髪が眼前を撫で、温かい手が俺の体躯を這い回る。
献身的かつ従順な天使は、不甲斐ない俺を責めることも無く、取り乱して半狂乱になりながら理由や原因を問いただすことも無く。
その繊細で華奢な体躯をいっぱいに使って、俺が立ち直れるように努力を重ねてくれた。
耳元で甘い吐息を囁かれたり、舌をいっぱいに使って唇を重ねてみたり。
フェリアが今までに培ったご奉仕術を存分に使用して、どうにか打開策を考察してくれていたのだが――。
「……キンジ君、やっぱりダメなの?」
燦然とした朝日を浴びながら、フェリアは俺の膝の上にて言葉を紡ぐ。
闇色のメイドさんを膝枕しながら、俺は静かに首を横に振る。
ダメじゃない。
今こうしている間も、俺の胸中はフェリアとの甘い妄想でとろけそうなのだ。
外観的には無反応に見えるかもしれないが、実際は気を失いそうなほどに興奮している。
愛くるしいメイドさんの上目遣いを堪能しながら、その上膝枕。
これこそが最高! イェイ! ……はぁ。
一体何が原因なのだろう。
とは言っても、何かしらの原因があるとすれば、一つしか思いつかないのだが。
「やっぱり、私が原因、」
「いや、フェリアのせいじゃない。……これは俺が原因だと、思う」
言ってから、俺は顔を背ける。
はっきりとしたことは分からない。
だが、ここ最近俺が体験したことで、身体や精神に影響を与えたであろう事象。
気怠さの波に引きずり込み、意識を引きずり出された昨日の感覚。
何故こんなことをしたのか、それによって“彼女”にどういう得があるのか、そういった事を理解することは出来ないが、原因はきっと――。
「キンジ君は悪くないよ。……全部、私が、」
ズボン越しの膝がじんわりと温まる。
透き通るような双眸からこぼれ落ちる光の雫は、淡い桜色を保つ頬を伝わり、頭を支える俺の膝へと降り注ぐ。
涙に濡れた瞳と目が合い、フェリアの表情が一瞬だけ崩れる。
その一瞬、その一瞬の崩れが、辛うじて保っていた彼女の心の壁を決壊させた。
ギリギリのラインで平静を保っていたフェリアは、滂沱の如く頬を濡らし、両手で顔を覆うと、恐怖から逃亡するかのように、リビングから駆け出していった。
温もりも重みも消失し、寂寥感に苛まれる俺の膝。
闇色に煌く髪が空間を流れ、聞くだけで心を抉るような悲痛の嗚咽が奏でられる。
心ここにあらず、といった俺だったが、流石にそこまでの動揺はしていない。
フェリアが駆け出した背中を茫然と静かに見守る、なんてことはせず、咄嗟に俺も立ち上がり、フェリアを追いかけた。
フェリアの足は速い。
それはもう、常人では適わないほどの脚力と瞬発力を持っており、よほどのことがなければ追いつけるとは思えない。
だが、何もせずにボサッと座っているわけにもいかない。
フェリアを護りたい、と思っていたのに、逆にフェリアを悲しませてどうするんだ。
未だに若干気怠い体躯を庇いながら、開け放たれたままの扉から躍り出る。
木板が敷き詰められた廊下に出ると、足裏に若干の冷たさを感じる。
日差しの篭ったリビングと違い、日陰だったためか多少外気の温度が低いのだ。
フェリアに追いつけるだろうか――。
喩え追いついたとして、何と声をかければ良いか、全くもって思いつかない。
だが、ここで追うのをやめたら、絶対後で後悔する――。
短いはずの廊下が、長く終わりのない回廊のように感じる。
このまま永遠に走り続けても、フェリアの背中を拝むことはできないのでは無いか。
またしても負のスパイラルに飲み込まれかけたところで、俺は不意に我に帰った。
いたのだ。
処女雪のように純白なフリルに、吸い込まれそうなほどに深い漆黒の布地。
空間を踊る魅力的な闇色の髪。
そして、頭の上にちょこんと蓄えられた、ホイップクリームのようなホワイトブリム。
背中が小刻みに痙攣し、何かにしなだれかかるような体勢で、その場に確かに存在している。
「フェリア、どうした。お前が取り乱すなど、珍しい」
健康的な褐色肌の手が、闇色に煌く美麗な髪を優しく撫でる。
逞しく、それでいて女性的な包容力を持つ頼もしい体躯。
フェリアよりも背丈が高く、男である俺よりも体格はガッシリしている。
光を弾くような銀髪が踊り、切れ長な双眸が不意に俺の方を捉えた。
フェリアをその逞しい胸の中に抱きながら、銀髪褐色肌の獣人剣士は、その凛然とした目で俺を貫いた。
「キンジ、何があったのだ」
ナイフを向けているような、怜悧な視線。
声音に怒りや軽蔑の色は混じっていないが、普段の彼女と比べると若干鋭く、重い。
だが、それでいて疑念の心を抱いていないであろう、他者を思いやるような表情。
視線は鋭く、声音は重く、表情は柔らかい。
――どう説明すれば良いか。
リリウスの態度から見る限り、冷静に俺の話を聞いてくれそうだ。
彼女はギルドマスターなど、偉い方々とも面識があり、フェリアと同様顔も広い。
俺に分からない事象でも、彼女なら――彼女の交友関係ならば分かるかもしれない。
「……リリウスさん、実は、俺」
説明するための言葉を選ぶのももどかしく、俺は気がつけば自身のズボンに手をかけていた。
重力に逆らわず落下する衣服。
何とも言えぬ開放感に、心の底からゾクゾクとくる背徳的な感情。
身体の芯から冷えるような錯覚を味わい、次いで自身が何を行っているのかを把握し、顔が熱くなり、上気する。
「ひゃあ!」
「……俺、今こんな状態になってるんです」
歓声ともとれる小さな悲鳴があがり、あからさまに視線の向きが下へ向いたリリウスの顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。
リリウスの鼻から赤いものが垂れてきたところで、精神がふわふわとしていた俺はやっと我に返り、下ろしたものをさりげなく穿き直した。
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柔らかい日差しに包まれ、簡素なテーブルにて、俺とフェリアはリリウスと向かい合って腰を下ろしている。
二度目のリビングだ。
漆黒のハンカチを鼻に宛てがい、リリウスは気まずそうに俺から目を逸らす。
フェリアは純白のハンカチで涙を拭いながら、落ち着かせるように深呼吸をする。
俺はタオル生地のハンカチで、ぶわっと吹き出した汗を拭っていた。
行った当初は焦っていたせいもあって全く気づかなかったが、俺は先ほど男の子の大切な部分を来客である方に堂々と見せてしまったのだ。
いやもう、思い出す度に顔から火が出そうだ。
リリウスは満更でもないような表情でこちらにチラチラと視線を送っているし――とりあえず、フェリアが背中を向けていたことが不幸中の幸いだろうか。
「……えっと、突然すみません」
「いや、素晴らしいものを見せていただき、誠に光栄だ。……あ、ありがとう」
褒められただけで無く、お礼まで言われた。
この背徳的な行動と、喜ばれたという感覚に俺のM心が刺激されて治る――なんてことは無く、身体は全くもって動かない。
またしても、つらたん、だ。
「しかし、見せてもらったことで現状を深く把握できたことは良かった。そのことに関しての意見を二人に聞こうと思って、私は今日ここに来たんだ」
恍惚とした表情を崩し、リリウスは堂々とした態度で艶かしく脚を組む。
フェリアが入れた琥珀色の茶を口に含むと、リリウスは切れ長な双眸を凛々しく細め、俺とフェリアを交互に見据え――俺の顔を凝視した後、コクンと喉を鳴らして顔を赤らめる。
またしてもあの痴態を思い出しているらしい、流石に恥ずかしくなってきた。
「待ってリリウス。その言い方だと、キンジ君と会うよりも先に、こうなっていることを知っていたってこと?」
涙の跡を拭いながら、平静を取り戻したフェリアがか細い声音で問いかける。
言われてみればそうだ。
何の疑問も持たずに聞き流していたが、リリウスの言い方だと、俺がズボンを下ろすより先に、俺がこのことで悩んでいる、ということを知っていたように聞こえる。
だとすれば、余計に俺の間抜けさが際立つな、辛い。
今度はつらたんではなく、辛い。
羞恥心はじわじわと侵食する。
その視線に気づいたか、リリウスは俺をその瞳で捉えると、蠱惑的に口元で弧を描き、嬉しそうに頬を染めた。
「はっきりとした症状は分からなかったし、キンジがそれに犯されているとも、私は知らなかった」
琥珀色の液体を飲み干すと、リリウスは両手で頬を包み込み「まあ、そのおかげで良いものが見れた」と呟き、刹那真剣な面持ちで俺とフェリアに視線を送った。
どうやらここからは、本当に真面目な話らしい。
心して聞こう。
「二人は、この間開かれた会合での内容を覚えているか?」
この間――と言うと、レトナお嬢様に呼ばれて傍聴した会合のことか。
二人揃って赴いたのは、あれが最後だ。もっとも、俺はそれより先にも後にも他の堅苦しい会合に出たことこそ無いが。
あの時の話を出すということは、異世界から張られた魔法陣と、異邦人とか呼んでる異世界人の話か。
魔法陣が裂け目だったり、人目の付かない箇所へ正確に発現させたり、どことなく元居た世界の魔法陣に近いな、とは思っていたのだが。
まさか、研究者たちの手によって何か分かったのだろうか――。
「魔法陣から、異邦人がこの世界へと闖入してきたのだ。無警戒で近寄ると、高度な精神魔法をかけられ、身体や精神を破壊したりできるらしい」
そう言って、リリウスは俺の下腹部へと視線を泳がす。
咄嗟に思わず手で隠そうとしたが、リリウスの双眸が真摯なそれだったため、俺は出来るだけ見やすいように、多少股座を開いて見せた。
劣情を込めない瞳で俺の股座を捉えたリリウスは、怜悧な視線を向けたまま立ち上がり、俺とフェリアの傍まで歩み寄る。
暫し躊躇った後。
リリウスはおもむろに俺のズボンに手をかけた。
「ちょっと!」
「何やってんのよリリウス!」
パカン、と良い音が木霊し、フェリアがスリッパでリリウスの後頭部をひっぱたいた。
あのスリッパ、この間台所で虫潰してたやつだけど――いいのかな?
リリウスは叩かれた箇所を撫でながら、至って真剣な目つきのままフェリアを見やる。
だが真剣なのは目だけだ。口元は気持ち悪いくらい緩んでいる。
「い、一応もう一度この目で確認を、だな」
欲望に忠実な少年漫画の主人公のような面持ちで、リリウスはフェリアを見やる。
どうにも彼女の対応を見ていると、あまり危機感を覚えないのだが。
「――仕方ない、それでは真面目に話そうではないか」
残念そうにイヌミミを垂れ、リリウスは「コホン」と小さく咳払いをすると、俺とフェリアの顔を見やり、艶かしく口元を開いた。
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金髪の童女――はっきり言って幼女の姿をした異邦人ウィッチ。
端正な顔立ちに、プニっとした頬が特徴的であり、見るものを惑わす能力があるらしい。
使用できる魔法はまだ解析できていないが、精神や心を操作するという、難解な魔法を使うことができるのだとか。
独占欲が強く、異性間の交友も深い種族で、男女問わず相手が気にいると襲いかかってしまうらしい。
その間、身体を重ね合わせたり交じ合わせるのでは無く、『相手の心が自分にしか向かないように矯正する』らしい。
なんともはた迷惑な話だが、そこだけを聞いた限りだと、どうやら俺はあの金髪幼女に惚れられたらしい。
そして金髪幼女ウィッチは、俺の身体が彼女でしか反応しないようにさせ、溢れる欲求に耐え切れなくなった俺から、自身を求めに参るのを待っているのだとか。
「――と、まあそんなところだ。キンジの持つ剣には、呪いを寄せ付けない“勇気の加護”が纏っているから、呪術的なものでは無いだろう」
リリウスは手に持ったメモに視線を泳がせながら、時折自身も「なるほど」などと頷きながら、俺とフェリアに解説を施してくれた。
「まったく、信じらんない!」
話し始めこそ静かに座っていたフェリアだったが、途中から総身を戦慄かせ、悪鬼羅刹の表情を見せながら、怒りのためか、闇色の髪を舞い上がらせていた。
愛する女の子が見せるそんな表情など、俺としては見たくないものだったが。
その怒りが、自分を気遣ってくれたことによるものだと思うと、自然とそんな嫌悪感は薄れていく。
自分勝手だな、とは思うが。
そんな反応に、若干の嬉しさを感じてしまう。
抗っていた重力と和解するかのように、逆だっていたフェリアの玲瓏な髪が普段通りに煙る。
業火のようにメラメラと燃え上がっていた表情も、優しく包容力のある温かみのある面持ちへと回帰した。
フェリアはそっと俺に近寄ると、抱きしめただけで折れてしまいそうなほどに繊細かつ華奢な体躯でギュッと抱きしめ、四肢を絡みつけてきた。
スベスベした太ももに、女性らしい起伏と肉付きの良い二の腕が俺の全身を愛撫する。
闇色に煌く髪が舞い踊り、ふんわりとした甘美な香りが鼻腔をくすぐる。
安心感を呼び寄せる、心地良い香り。
思わず身体の力が抜け、フェリアの感触を体躯の前面で味わった。
「ご主人様、ごめんなさい、ごめんなさい。私、昨日からずっと、心のどこかでご主人様のことを疑っていました。他の女と関係を持ったのではないか、私がいない間に、誰かと身体を重ねてしまったのではないか。メイドという立場でそんな感情を持つなど、身の程知らずだとお思いでしょうが、私は一人の男性として、ご主人様――キンジくんのことが大好きなのです。ですから――」
眼前に、上気したフェリアの顔が現れる。
反応こそせずとも、心の中ではいつでもフェリアを求めているのだ。
このまま抱きしめて、キスして、一日中抱きしめたまま布団の中で添い寝してもらいたい。
抱きたい? 数ヶ月前の俺は、女気の無いパーティで楽しく過ごせていたじゃないか。
人間という生き物は、一度基準点より高い生活をしてしまうと、元に戻れないと聞いた事がある。
だが、可愛らしいメイドさんに添い寝してもらえる、など、最高に贅沢な状況ではないか。
何の不具合も無い、手を出せない相手だと思えば、何も我慢することは無いのだ。
このまま、フェリアを心から愛しながら、ずっと一緒に――。
糸のように繊細な髪に、指を通す。
ふわりとした良い香りと、素晴らしい触り心地。
優しく髪を梳かすと、フェリアはネコのようにうっとりと瞳を細める。
期待するかのように瞳を薄く閉じ、尖らせられた口元がクイと突き出される。
耳にかかった髪を流し、頬に手を滑らす。
もうこのまま、今日は二人きりの時間を楽しむのもいいかもしれな。
「……とりあえず、話を戻していいか?」
甘い吐息が混ざりあった刹那、リリウスが放つ無慈悲な言葉に、二人の行動がピタリと静止された。
頬をポリポリと掻き、何とも気まずそうに目を逸らす褐色獣人剣士は、またしても小さく「コホン」と咳払いをする。
お互いに身体を預け合っていた二人は、静電気でも感じたかのようにパッと離れると、姿勢良く背筋を伸ばして正座の格好で腰を下ろし、居住まいを正す。
リリウスは二人を視界に入れ、吐息を漏らすと、テーブルの上へ身を乗り出して顔を近づけた。
「呪術的な事象ではないということは、除霊的なものをしたり、専門的な呪術者を呼ぶ必要が無いということだ。もちろん、呪術では無い分、そう簡単に治るものとは思えないのだが」
「…………」
「そう神妙な顔をするな、私だって、何も考えずにここに来たわけでは無い」
そう言って、懐からメモを取り出し、紙上に視線を走らせる。
「ギルドマスターの爺さんが言うには、本体を見つけて叩くのが一番確実だとのことだ」
本体を叩く、か。
確かに確実そうだが、その本人――異邦人ウィッチが今どこにいるのか俺は知らない。
この中で、彼女の姿を見たことがあるのは、多分俺だけだろう。
そうなると、今から本人を見つけて、しかも得体の知れない能力を使う相手を、倒すなんてことができるのだろうか。
他の人たちを巻き込むことはできない――むしろ、巻き込みたくない。
俺が今、どういう状況なのか。
身体の一部が反応しないなんて、他の冒険者やらギルドナイトなんかに知られたくない。
できるだけ隠密に、ひっそりとこの事実は片付けたいのだが。
どうしよう。
懇願するような、縋るような俺の視線を察したか、リリウスは切れ長な双眸を力強く瞑り、胸の前で腕を組み、傲然とした態度で頷いた。
存在感のある胸がボヨンと鈍い音をあげて揺れたが、今はそんなもの、目に入らない。
逞しい肢体、健康的な褐色肌。
ちと忘れっぽく色欲的な部分もあるが、彼女はフェリアとともに魔王討伐の旅から帰還した勇者の一人だ。
それだけで、実に頼もしい。
羨望の眼差し。
だがリリウスは何を勘違いしたのか、両腕を頭の後ろへと向け、艶かしく腋を見せながら堂々と股座を開いて見せた。
違う。今のは劣情とか官能的な視線じゃあない。
俺はリリウスの鍛え上げられた体躯から視線を剥がし、隣にて腰を下ろすフェリアへと視線を向ける。
多少眠たそうだが、真剣な表情でリリウスを見据えていた。
世界を橙色に塗りつぶせるほどの力を持つ、元勇者様。
そして、剣術の達人である獣人剣士。
一応俺だって、魔王討伐の旅から生きて帰還した魔法剣士だ。
当時はほぼ活躍できなかったものの、ザフィラスさんに剣術教示された今の俺なら、戦力になるかどうかは置いておいて、足でまといになることは無いだろう。
突如戦意が湧き出し、俺は拳を擡げ、立ち上がった。
見上げるような二人の視線を感じ、何とも言えぬ優越感を覚える。
急に闘士が湧いてきたぜ。
俺は二人を交互に見下ろし、緩む口元を必死に締め、真面目な表情を作る。
今から俺たちの、俺たちによる、俺たちのための冒険譚が、今から音を立てて始まるんだろ?
剣士、魔術師、魔法剣士。
魔術師メイドさんは治癒魔法も使えるし、何の問題も無い。
怪我してないけど、出発前に癒されたいぜ。
と、男の子的な心情をくすぐられ、若干ハイになっていた俺を見据えると、剣士リリウスは諭すような声音で穏やかに言い放った。
「……いや、真っ先に危険な橋を渡るのは些か賛同しかねる。ここはまず、安全な活路を見出すことが先決だ。それが全て駄目だったら、異邦人と剣を交わすことになるやもしれないが」
その言葉を聞き入れ、フェリアもコクンと首を倒す。
死地を彷徨ってきた経験があるからか、案外彼女たちは平和主義者らしい。
俺みたいに突然、「戦いだ、ヒャハー!」とはならないようだ。
何か一人だけはしゃいじゃったみたいで、少し恥ずかしい。
立ち上がったその身を巻き戻すように、俺は小さくなってその場に体育座りをかます。
もう、正座なんかして対等に顔を見せ会えられない。
そうですよね、いきなり飛び出したら危ないですもんね。
心の中で反省の念を色濃く出していると、不意にリリウスが立ち上がった。
反動で微風が漂い、妖艶な香りが鼻先に届く。
うむ、やはり女の子の匂いだ。
「さて、と。とりあえず、キンジの身体を治すことから始めよう。フェリア、キンジ、二人とも支度しろ」
そう言ってジーンス生地のコートを身に纏うと、唖然とした様子でリリウスを見つめる二人に、彼女は艶然とした笑みを見せ、軽くウィンクする。
「媚薬を買いに行く。ついてこい」
リリウスは清々しいほどの良い笑顔で、気持ちよさそうにそう言い放った。




