第十一話 権力という名の壁
暖かい日差しに包み込まれながら、俺は庭先にて木刀で素振りをしていた。
今日はフェリアも学園がお休みらしく。
縁側で嬉しそうに顔を綻ばせながら、半ば眠たそうな表情で俺が剣を振る様子を見つめている。
結果から言うと、俺が毎日コソコソと出かけて秘密の特訓をしていることは、数日前にフェリアにバレた。
毎日毎日疲弊して帰宅するのだから、いつかは知られることだろうと、途中から隠すつもりは無くなっていたのだが。
帰宅した際に、犬耳を付けたフェリアに頬を舐められながら、『お稽古お疲れ様ですワン』と言われた時は、二重の意味で鳥肌がたった。
頬を舐めるというご奉仕の心地よさより先に、『ジッパーだらけの服を着たおかっぱ頭』が浮かんだ俺は、精一杯ペロペロしてくれるフェリアに申し訳なさを感じた。
何かもう、嘘をついても汗の量でバレるような雰囲気だったからな。
ザフィラスさんに剣術を教示されているということは黙っているが、いつかはそれもバレてしまうのだろうな。
何でも、訓練されたメイドや執事とは、ご主人様の胸中を言葉に出すよりも先に読み取り、二手三手先の行動をすることができるらしい。
漫画とかアニメでよくある、『こちらですね、ご主人様』とか言う会話ができるようになるのだ。
ちょっと羨ましい。
普段よりかは少ないが、ぶっ続けで素振りを繰り返していると些か疲弊が溜まってきたので、俺は木刀を壁に立てかけ、フェリアが腰掛ける縁側へと歩み寄って彼女の隣に腰を下ろす。
汗臭いであろう俺が隣に座っても、フェリアは嫌悪の表情を見せず、身体を離すことも無く静かに肩を並べてくれる。
日本で女の子の隣に腰を下ろすと、あからさまに嫌そうな顔をして身体を背けられた経験がある俺としては、それだけで何となく嬉しさを感じるのだ。
暫しの間肩を並べ、吸い込まれてしまいそうなほど清々しい蒼穹を眺めていたが。
フェリアはスカートを叩いて姿勢良く立ち上がると、俺に向かって天使のように愛くるしい微笑みを見せた。
日光に照らされ、輝かしいほどに魅力的な笑顔に一瞬だけ見とれると、フェリアは俺に手を差し伸べ、頬を淡い桜色に染める。
「ご主人様。今日はお仕事も早く終わりました。それに、今日はそこまで眠たくありません。……えっと、学校も今日明日お休みです」
あの膨大な量の家事を午前中だけで終了させた。
毎日フェリアが一人で行っていることに耐え切れず、フェリアの反対を押し切ってでも、学校がある日は多少手伝いをしているのだが。
そういえば、今日は手伝おうと足を伸ばした先の家事は全て終わっていた。
まさか全部終わらせていたとは。
「凄い、頑張ったな、フェリア」
「ご主人様ぁ……」
立ち上がって頭を撫でてやると、くすぐったそうにはにかみ、嬉しそうに喉を鳴らす。
褒めただけでこんなに可愛い反応をしてくれるなんて、もう毎日褒め続けていても飽きないかもしれない。
などと考えながら闇色の髪に触れていると、フェリアは上目遣いをして俺の顔をじっと見据えた。
「ですから、今日は多少疲れても問題ないのです。その、えっと……ご主人様と行きたいところがあるのですけど」
「行きたいところ?」
珍しい。
フェリアが休日に一番多く行うこととは、日当たりの良い場所で微睡んだり、趣味の読書を一人で静かにすることだ。
毎日多忙であり心身の疲労もバカにならないのか、少しでも時間ができたらゆっくりと身体や頭を休めている。
初めて見たときは、お人形さんのように愛らしくうたた寝をするフェリアを思わず見つめてしまったが。
視線を感じると休息にならないと言われてしまったので、フェリアの休憩時間は俺も寝ていたり、乾いた洗濯物を取り込んだりする。
だが、前に気を利かせてフェリアの下着を取り込んだことがあったのだが。
その事に気がついたフェリアは、熟れたトマトのように顔を真っ赤に染め上げ、涙目になりながら我を忘れる程に怒ったので、それ以来自分の分しか取り込んでいない。
下着と何ら変わらぬ水着姿で毎晩一緒に入浴しているのに、やはり素手で触られるのは嫌らしい。
真っ赤になりながら下着を握りしめているフェリアも、ちょっと可愛かったけど。
――っと、話が逸れた。
頬を染め、フェリアは人差し指同士を突っ付き合いながら、俺の顔をじっと見つめる。
そんな顔で見つめられたら、喩え行く先が落とし穴だったとしても、喜んで向かいますよ。
「ご主人様と一緒に、行きたいところがあるのです」
ん。もしかしてこれって、いわゆるデートのお誘いでしょうか。
女の子が照れながら、一緒に行きたいところがある、なんて。
フェリアは普段着を買うことも無いし、俺に許可をとるべき品もとくに無い。
いや、待て待て。確かに二ヶ月近く一緒に暮らしてはいるが、フェリアが俺にそんな感情を見せてきたことがあるか?
答えはNO。そんな覚えは無い。
お仕事としてご奉仕をしてくれたり、脚を絡めながらギュッと抱きしめてくれたりはするけど、それ以上の感情は無いはずだ。
「分かった。それじゃ、着替えてきたら一緒に行こうか」
俺とフェリアは各々の自室に戻り、外出着に着替えてから、玄関へと向かった。
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肌色を見せない、ヴィクトリアンメイド的な大人しいエプロンドレスに身を包んだフェリアと肩を並べ、俺たちは緑豊かな草原に足を伸ばした。
時折吹く微風が背丈の高い草を撫で、植物の香りがいっぱいに広がる。
暖かいそよ風を感じ、とても心地良い。
時偶吹く強い風を受けると、フェリアの闇色の髪が煙り、視界を妖艶に彩る。
人工物では無い甘い香りも漂い、俺は思わずフェリアの手を握った。
「いい景色だな」
「はい。ご主人様に一度で良いから見せたくて」
風を受けて舞い踊る髪を押さえながら、フェリアは玲瓏な笑みを浮かべて振り返った。
「ところで、ご主人様は何故毎日、剣術の稽古をなさっているのですか?」
「んん。……強く、なりたいからかな」
俺が剣術と魔術を訓練しているのは、万が一のことがあったときに、フェリアを守れるくらいに強くなりたいからだ。
ザフィラスさんに初めて剣術を習った時、確かそんな話をしたな。
メイドや執事というものは、生命をかけてでも、身を挺してご主人様やお嬢様を護る職業だ、と。
だから、俺がフェリアを護る必要性は全く無い。男の子だから女の子を守るのでは無く、メイドや執事だから主を護る、ここはそういう世界だ、と。
だけど俺は、フェリアを護りたかった。
フェリアは可愛いし、強くて格好よくて、寝顔とかもう無防備で、見ているだけで理性が吹き飛びそうだ。
でも、フェリアが俺に向ける愛情は従順な忠誠心からくるものであって、大好きな人に向ける情熱的な愛念とは違う。
護りたいのだ。
ちと動機が不純に感じるが、俺が頑張っている理由とは、それだけ。
フェリアに、心から俺のことを好きになって欲しい。
好きで好きで堪らないフェリアのことを、生命をかけてでも護りたい。
それだけだ。
感情的になりすぎて、興奮してザフィラスさんにそのようなことを全部ぶちまけてしまったが。
彼は笑うことも無く、静かに耳に入れて咀嚼し、力強く頷いてくれた。
それほどまでに、主に好かれているフェリアは幸せ者だ、と。
きっとフェリアがいなければ、俺はもう自暴自棄になって、できもしない召喚陣を研究して日本へ帰ることばかりを考えていただろうな。
だから俺は、フェリアを手放したくない。
稽古中、時折ギルドから呼ばれた弱小依頼を積み重ねた結果、多少は資金が貯まってきている。
俺――カネが溜まったら、フェリアを正式に雇って毎日慎ましく幸せに暮らすんだ――。
「……ご主人様?」
「ごめん、少しトリップしてた」
心配そうに顔を覗き込まれ、思わず鼓動が速まってしまう。
柔らかそうなほっぺたに、プルッとした愛らしい唇。
静かにそよ風が吹くだけの、二人だけの世界。
陰で頑張っているだけでは、想いは伝わらない――。
「フェリア、ちょっと話がある」
「何でしょうか」
畏まった様子で佇み、真剣な双眸で俺を捉える。
いや、待って。そんなに視線を向けられると、ちょっと恥ずかしい。
もっとこう、砕けた感じで良いです。
その旨を伝えると、フェリアは傍から大石を転がしてきて、その上に人形のようにちょこんと腰を下ろす。
膝の上に手を乗せ、足を綺麗に揃えるという真面目な姿を見ていると、こんなくだらないことを言っていいものか、と若干の不安に苛まれる。
東から西へ通り抜ける風の音が耳を塞ぎ、緊張のために喉笛から心臓が飛び出しそうな錯覚を味わう。
自分でも恥ずかしくなるくらい顔が熱を持ち、足が竦んで真っ直ぐ立てない。
俺は地面を踏みしめ、戦慄する足を必死に硬直させると、上気する顔を真っ直ぐに向けながらフェリアの鳶色の双眸を視界に入れた。
「フェリア、俺はずっと、フェリアを――」
「ん、んんん? んぉぉぉ! あれはもしかして、フェリアではないでヤンスか?」
勇気を込めて、精一杯の想いを詰めた言葉を発しようとした刹那、鼻が詰まったような汚らしい声音に大切な言葉を遮られた。
上気していた顔も一瞬で冷め、緊張によって震えていた全身が、今度は怒りのために戦慄する。
誰だ。俺の大切なフェリアへの愛の告白を、そんな汚らわしい声音で踏み潰したのは誰だ。
怒りによる業火を焦がした瞳を向け、俺は凛然とした双眸で声の主を睨みつける。
フェリアの前でこんな顔見せたくなかったけど、そうでもしないと腹の底から湧き上がる怒気が抑えきれねぇ。
「フェリアたぁん! オイラを忘れてしまったでヤンスか?」
カマキリのような顔をした、ちっこい小男。
リスのように前歯が二本上唇から露出しており、裂傷のように細い双眸をキョロキョロと挙動不審に動かしている。
背後には、白髪交じりの紳士的な男性が恭しく穏やかな様子で佇んでいる。
パッと見ただけでこのカマキリ野郎の執事だということは分かる。
だが、何故連れているのがメイドでは無いのか。
「うぁ……。この間実地教育の時来てた根暗貴族」
頭上に浮かび上がる様々によって、俺の頭は疑問符に苛まれていたが、フェリアの口から発せられた言葉で、浮かんでいた疑問を大体理解することができた。
「え、あいつって、まさか」
「フェリアたんは、オイラのメイドになるはずだったんでヤンス。だけど、隣にいたカエルのような貴族が何か失礼を致して、フェリアたんはその場から逃げ出してしまっただけでヤンスよね? オイラに非はないでヤンス」
「……そのカマキリ顔も妙な語尾も嫌いなのよ。あぁ……腹立つなぁ、もう」
大石から腰を上げたフェリアは、まるで悪寒でも感じたかのように身震いし、俺の傍へとその身を寄せる。
温厚かつ優しいフェリアがここまで嫌悪感を顕にしているというのだから、彼女は相当このカマキリ貴族が嫌いなのだろう、可哀想に。
フェリアは身体を震わせながら俺の背後へ隠れると、ギュッと服の裾を握り締める。
背中から首筋に吐息を感じ、思わぬ快感に背筋がゾクリと震える。
こんなこと言っている場合では無いのだろうけど、可愛い。
「何でヤンスか? オイラと顔を合わせることに照れているでヤンスか」
小動物のように小さく震えるフェリアを心の中で愛でていると、またしても前方から外気を汚すような声音が邪魔をする。
何なんだこの貴族。
――というより、本当にこいつ貴族なのか?
俺が元居た世界の貴族はもっと良い人ばかりだったぞ。
俺に剣を捧げたのも王族の方だったし、旅費やら何やらを工面してくれたのも、有名な貴族の旦那様だった。
凱旋時の宴を開いたのも、王族や貴族だったらしいし、俺の印象としては貴族というのは、もっと煌びやかで華々しい人なのだと思っていたが――。
「どこにでも変なのはいるんだな」
「何でヤンスか? お前の邪魔な身体のせいでフェリアが見えないでヤンスよ。さっさとフェリアの前から退くでヤンス」
「この方は私のご主人様よ!」
若干震えの混じった、耳障りの良い愛らしい声音。
闇色の髪を外気に流し、幻想的な色彩で空間を彩る。
俺の肩をキュッと掴みながら、フェリアは前方にて悠々と胸を張るカマキリ貴族に向かって、俺が言うべきことだった言葉を、堂々と言い放った。
カマキリ貴族の眉がピクリと動く。
足腰が戦慄き、軽く舌打ちをして俺を見据える。
裂傷のように細く刻まれた双眸が汚らしく俺を捉え、顔がゆでダコのようにどんどん真っ赤になっていく。
それとは裏腹に、背後に佇む執事さんの表情は涼やかであるが。
「フェリアたん、よく聞こえなかったでヤンス。誰が誰のご主人様だと言ったでヤンスか?」
「何度でも言うわ。私はここで身体を張って護ってくれている、ニノミヤ・キンジ様のメイドよ。ご主人様に『退け』だなんて、メイドとして私が絶対に許さないんだから!」
カマキリ顔が徐々に烈火の如く赤々と染め上げられ、耳や鼻から蒸気でも噴出しそうな勢いで憤怒している。
フェリアは正しいことを直接的に言っているだけだろうが、これ以上相手を刺激すると双方にとって良くないことが起こるであろう。
禍根や恨みの種は残したくない。
相手はあれでも貴族だと言っていた。
この世界に法定やら裁判があるかどうか知らないが、大抵法の下で衝突すると、勝利するのは貴族など身分の高い人間だ。
いくら正しいからと言って、真正面からぶつかって良い時と悪い時がある。
今は悪い時だ。
一時の感情に任せて己の意思をぶつけると、大抵後でロクな目に合わない。
俺だって辛いが、ここは耐えなければ。
ここで俺までも逆上したりすれば、止めに入る人がいなくなってしまう。
――と、心の中で思いを巡らせていると、カマキリ貴族の隣に佇んでいた執事さんが、穏やかな口調でその場に割って入った。
「ご主人様。あの方は、ニノミヤ・キンジなる方の専属メイドのようでございます。ここは貴族のお坊ちゃまらしく、慎ましく下がるというのも美麗なものでございますよ」
提案をするような口調で、さりげなく俺たちに主の無礼を謝罪する。
流石だな、あの執事さん。
もしかすると、こういう状況にあの人は何度も連れ回されているのだろうか。
だとしたら、人生経験の賜物だな。心から尊敬する。
これで大丈夫だろう。
貴族だと言っていたし、顔はアレだが、きっと学業の方は御伽噺に出てくるような家庭教師や執事さんによって鍛えられているはずだ。
人のメイドに余計なことを言う、という悪いことをしたら、どうすれば良いかなどの姿勢は習っているだろう。
まさかこの状況で、泣き喚いたり逆上したりなんて子供みたいな反応を見せるなんて――。
「何故でヤンスかぁ! オイラがせっかくフェリアたんを雇ってやると言っているのに、何故ここで尻尾を丸めて逃げろと申すのだ!」
……バカなの? いや、流石にそんなことは無いか。
俺は何て失礼なことを考えているんだ。
ちょっとプライドが高くて、幼少時から何でも買い与えられてきたから、自分を中心に世界が回ってるとか思っっちゃってるだけだよな。
「あんなどこの馬の骨かも分からない野郎に、フェリアたんを任せるわけにはいかないでヤンスー!」
「――あ?」
「何ですって?」
思わず逆上しかかった俺の前へ飛び出し、フェリアが腰に手を当てて立ちふさがる。
風になびき煙る髪を見ていると、一瞬頭に血が上った俺も、徐々に心が落ち着いていく。
助かった。フェリアがいなかったら、俺は今、カマキリ貴族を殴ってしまうところだった。
「私ならともかく、ご主人様を侮辱するなんて許せない!」
「うるさいうるさいうるさーい!」
シ○ナかよ。
しかしどうするかな。
常識が通じる人だったら、このまま別れれば良いんだろうけど。あの様子では、『逃げた!』とか言って執念深く追いかけてきそうだし。
できるだけ穏便に終幕を迎えたいなぁ。
このままでは埒があかない。
互いに睨み合うフェリアとカマキリを見やり、俺は前方に佇む執事さんの下へと駆け寄り、一つの提案をすることにした。
「あの、執事さん」
「はい、何でございましょうか」
飄々とした面持ちで返されてしまい、俺は一瞬だけムッときたが、深呼吸をして心を落ち着かせてから、再度言葉を紡ぐ。
「どうにか穏便に事を終わらせたいのですが、どうにかできませんか?」
「……そうですな。一番良いのは、力と力でぶつかり合ってもらえれば、後腐れなく収拾できそうなものですが」
「今まではそうしてたんですか?」
「はい。うちの主は、真正面から力で叩きのめされると途端に静かになられますので。……こういうのも何ですが、今回の件は全面的にこちらが悪く……申し訳ございません」
深々と謝られ、俺は逆に居た堪れなくなってしまい。別に大丈夫だ、と伝えたが――。
さて、真正面からぶつかり合いか。
今のフェリアにやらせたら、草原ごと火の海にして壊滅してしまいそうだしな。
実際、カマキリ貴族が感じている怒りの矛先は紛れもなく俺の方を向いている。
フェリアとカマキリ貴族が正々堂々戦っても何も生まれない。
むしろ、それでフェリアの繊細な体躯に傷がつくようなことがあれば、その時俺が冷静でいられるかどうかも分からない。
ここは――俺が行くしかない。
---
「さぁ、そこを退くでヤンスよ」
「誰がどきますか!」
「フェリア、下がっててくれ」
計り知れない怒りの感情を纏いながら対峙する二人の間に割って入り、俺はフェリアの頭を撫でる。
「フェリア、大丈夫。ここからは俺が片付けるから」
睨み合いを中断されたことに一瞬戸惑いを感じていたようだが、可愛らしく口を尖らせていたフェリアは、大人しく吐息を漏らして俺の背後へと身を隠した。
良かった。フェリアは聡明なメイドさんだから、多分俺が意図したことを読み取
ってくれたのだろう。
「何のつもりでヤンスか?」
問題はこっちだが、こちらにはこの方を丸め込むスペシャリストがいる。
「ご主人様。ここは一つ、ニノミヤ・キンジ様と正々堂々ぶつかり合ってみてはいかがでしょう。卑怯な手や卑劣な技を使わず、己の力と力をぶつけ合えば、後腐れなく物事が片付くと思いますが」
「……む」
納得したらしい。
何とかなるだろう。見た感じひ弱な体躯をしているし、穏便に済ませたいと言ったのだ。
俺は腰に差した愛剣を左手に構え、臨戦体勢に入る。
一人の女の子を賭けた、主と主の真剣勝負だ。