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境界のすず  作者: 夕菜
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第5話(1)「忘れられてしまった誰かの願い」

 その頃、天界では・・・

 アルトは今日の分の仕事が終わると、課長の部屋に向かっていた。

 あの時からなるべく、一階の掲示板を確認するようにしていたのだが・・・今朝、その成果がでた。

(またリツボシ課長から呼び出しだなんて・・・何かやらかしたんでしょうかっ・・)

 思い当たる節が多すぎる。

(・・・いや、もしかしたらこの前みたく、ただ話をききたいだけかもしれないですしね)

 アルトはそう自分に言い聞かせて、不安な気分を何とか抑え込んだ。

 ・・・そして、課長の部屋の前につくとドギマギしながらドアをノックする。

 中から「どうぞー」と声が聞こえたのを確認すると、アルトは「失礼します」と返して、中に足を踏み入れた。

「わざわざ悪いな、アルト」

 奥のデスクで何か仕事をしていたらしい課長は、アルトが入ってくると立ち上がる。

「実は・・・大事な話があってな」

「何でしょうか・・?」

 ドキリ、とする。

 すると課長はデスクの上に置いてある透明な箱を手に持ち、こちらに歩み寄ってきた。

 よくよく見てみると、その中には小さな小瓶が一つ入っている。

 課長はその箱を一端、棚の上に置くと、ポケットから取り出した小さなカギでそのロックを外す。

 ・・・なんだかとても、重要なもののようだ。

 課長が取り出した小瓶は、きれいな青みがかった液体が入っている。

 それをアルトに見せるように持つと

「・・・アルト、地上で生きていた頃の記憶を取り戻す気はあるか?」

「!!」

「切断係に移動になったわけだしな。

 知っていると思うが、切断係の者は地上で生きていた頃に記憶を持てる権利がある」

 アルトは課長の思わぬ言葉に、動揺する。

 その状態のままアルトは、

「き・・記憶を戻せるんですか?」

「あぁ・・天界では取り除いた記憶を一定期間、保存しておく義務があってな。

 アルトの場合、ギリギリでその期間内だったんだが・・」

「──・・それが僕の・・地上にいた頃の記憶なんですか・・?」

 まだ信じられないと思いつつも、アルトはそうきいてみる。

 課長が手に持つ小瓶に入っている青色の液体・・・まさか、それが?

「あぁ・・きく話によると、これを飲み干せば記憶を戻せるそうだ」

「──・・そう・・なんですか・・」

「・・・」

「・・・」

 アルトが黙りこくっていると、課長は困ったように笑う。

「突然、そんなこと言われても困るよなー・・

 まぁ強制ではないからな。よく考えてから決めたらどうだ?」

 課長はそう言いつつ、小瓶を箱の中へ戻す。

「・・・僕は・・」

 アルトの脳裏によぎるのは、あの時、地上で会った女性の姿。

 もちろん、自分の中に彼女の記憶はない。

 ということは、彼女は地上にいた頃のアルトの関係者・・・。

 他にも気になることはたくさんある。

 どうして天界人の姿が見えるのか。

 関係者なら、アルトがしんだことを知っているはずなのに、どうして「久しぶり」なんて声をかけたのか。

「・・・」

(彼女は・・・一体誰なんでしょうか)

 今まで地上という場所に関心は薄かったのだが・・・──。

 こんな感情、初めてだ。地上にいた頃の自分を知りたいだなんて。

「アルト、どうした?」

「!・・えっと、ですね・・」

 とその時、出入口の扉が勢いよく開く。

「リツ、連れてきたよー!」

 トビラをあけたミオは、自分が入るよりも先に後方に立っている誰かを部屋の中に押し入れた。

 彼・・シイカは、迷惑そうな表情を浮かべながらも部屋の中に歩みを進める。

「お、アルトも来てたんだなー」

 アルトの姿に気付いたシイカは、こちらに笑いかける。

「あ・・はい」

 シイカは課長の方へ目を向けると、

「課長~どうしてオレのことは掲示板で呼び出さないんだー?夕飯、食べ損ねたじゃねーか」

「あぁ、悪い悪い!

 お前がアルトのように真面目な奴だったら、掲示板でもよかったんだけどな。

 どうせそれだけじゃ、こないだろうからミオに頼んだんだよ」

 課長はわざとらしくため息をつく。

「やっぱオレって信用されてねーのか!まぁ、当たり前っちゃ当たり前かー」

 相変わらずお気楽そうなシイカに、アルトは「はは・・」と乾いた笑みをこぼした。

(シイカは相変わらずですねっ・・)

「こらっ少しは反省しなさいっ」

 ミオが後ろからシイカの頭をバシリと叩くと、シイカは後ろへ振り返り、

「こー見えても、少しは反省してるぞー?」

 と言って微笑む。

「・・・早速、シイカにも大事な話があるんだが」

「ん?何だ?」

 シイカは笑うのを止めると、課長の方を見る。

「シイカは切断係だったわけだから、地上のキオクは持ってるよな?」

「・・・そうだなー」

 ・・・アルトは課長の言いたいことが理解できた。

 きっと・・・

「切断係から移動になったお前は、地上のキオクを持つ権利がなくなったんだよ。だから、そのキオクを抜き取らせてもらう」

 アルトがそれにはっとして、シイカの方を見ると、彼は何のためらいもない様子で

「んなこと嫌に決まってんだろー?」

「!・・ちょっ・・シイカっ・・」

 シイカの思わぬ発言にアルトは焦った。

「・・悪いが、これは強制なんだよ」

 課長は優しげに微笑む。

「・・・」

「・・・」

「・・・オレも課長に言いたいことあるんだよなぁ」

「──・・オレは今の仕事、もう絶対やらねぇ。性に合わねぇ仕事を、だらだら続けるのはお断りだからな」

 課長はシイカの発言に、やれやれという風にため息をつく。

「・・・ったくお前は。どこまで勝手なんだ?」

「課長、天界人にとっても仕事の合う合わないはあると思うんだよなー。

 合わない仕事をだらだら続けるより、合う仕事をテキパキとやった方が効率はいいぞ」

「・・・」

(シイカ、柚季さんと何かあったのでしょうか)

 アルトが思うに、シイカは器用なタイプなので、仕事が移動になっても上手くやると思っていたのだが。

 ・・・ちょっと意外だった。

 シイカはにかっと笑うと

「つーことで、オレは切断係に戻るってことでよろしくな!リツボシ課長!」

 課長は不服そうに眉を寄せると言った。

「あのな、お前がそれでよかったとしても、今の仕事は誰がやるんだ?」

「!・・・僕がやります!」

 アルトは反射的にそう言っていた。

 結果がだせなかったから移動させられたことは、十分承知している。

 ・・・けれど、言ってみなくちゃ分からない。

 もしかしたら、また頑張るチャンスが貰えるかもしれない。

 ・・・アルトが今、気になって仕方ないことは、たくさんお世話になった柚季のこれからのこと。

「・・・だってよ、課長!」

 シイカはそう言いつつ、アルトの肩に腕をまわす。

 アルトはそれを振り払いながら、課長の返事を待った。

「・・・アルト・・ちゃんと仕事をこなす自信はあるのか?」

「!・・はいっ前回の経験をもとに、精一杯頑張りますので、どうかよろしくお願いします・・・!」

 アルトは必死になって頭を下げる。

 ・・・正直、自信はなかったが、こう言うしか方法はなかった。

「・・・──しかし・・な・・」

「──・・・」

「リツ、お願いしてみてもいいんじゃない?」

 そう言ったのは、ミオだった。

「・・ミオ先輩」

 ミオはアルトの隣に立つと、言葉を続ける。

「確かにアルト、不器用なところあるけどさ!

 そこまで言えるほど、柚季のことを助けたい気持ちがあるみたいだしね。

 柚季に無関心な子たちに頼むより、上手くいくかもしれないよ?」

「・・・」

「・・・」

「確かに、そういう考えかたもあるな」

 課長は、少しだけ微笑んだ。

「!・・」

「分かったよ。アルトとシイカ、はそれぞれまえの仕事に戻ってくれ。

 アルトの場合は、少しの間、様子を見るという形になると思うが・・・」

「はいっありがとうございます!」

 アルトはほっと胸をなでおろした。

 でしゃばった発言をしてしまったと思ったが、言ってみてよかったと心の底から感じた。

「よかったね♪アルト」

「ミオ先輩もありがとうございますっ・・」

 アルトはミオに対してもそう言って、頭を下げる。

「おーよかった、よかった!んじゃオレは、腹減ったし行くからな」

 そしてシイカは、そそくさと部屋からでていってしまった。

 アルトはもう一度、お礼を言おうとするが、その前に課長は

「アルトももう行っていいぞ」

「あ、はい・・」

 アルトは軽く頭を下げると、課長に背を向ける。

 それと同時に「ミオ、ちょっといいか?」と課長は言って・・・二人で何かを話し始めた。

 早く部屋からでようと思ったアルトだが、ある物に目がとまってしまう。

 ・・・そこに置かれてあるのは、きれいな青色の液体のはいったビン。

 アルトが地上にいたころのキオク。

「──・・・」

 自分はもとの仕事に戻れることになったのだから、このキオクを持ち帰る権利なんてない、ないのだけれど・・・──。

 アルトの脳裏に焼き付いて離れないのは、あの時の女性の姿。

 何故だろう。あの女性は、自分が忘れてしまったキオクに関わる、大切な何かを持っている・・・そう感じるところがあった。

 もしかしたら、今が自分のキオクを手に入れることのできる、最期のチャンスかもしれない。

 こんなこといけないことだということは、十分理解している。

 けれど、アルトの手は自然とキオクの入ったビンの方へ伸びていた。

 ・・・課長とミオは話をしていて、こちらのことを気にしていない。

「っ・・・」

 アルトは素早くキオクのビンを手に取ると、それをポケットにしまいこむ。そして、「失礼しました」と言って、何事もなかったように部屋を後にした。



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