第4話(5)
*
柚季はソプラノが入院している病院を離れて、地元の駅に戻ってきていた。
すぐ近くに学校があるが、そこに戻る気はさらさらなく、この周辺でソプラノのことを探そうと思った。
「・・・」
そういえばすずは、ソプラノが生きているという事実を知っているのだろうか。
・・・いや、知らないだろう。
すずはソプラノに対しては優しいようだし、知っているのならば「天界に連れてってあげて」なんていう条件にしないはずだ。多分。
(二つ目のヒントは、別の条件にしてもらおう)
すずでも、それぐらいの融通はきいてくれるはずだ。多分。
柚季は駅から離れて、取りあえず通学路の方へ戻ってみようと思った。
学校がある通りに出たところで、柚季の目に通りに立つ2人の姿が映った。
・・・ソプラノとシイカだ。
「!」
(よかった・・会えたっ)
そう思って近付こうとすると、シイカの「どうしてお前泣かないんだ?」という言葉が柚季の耳に届いた。
柚季は思わず歩みを止め、二人の視界に入らない道へ引き返す。
ソプラノが泣かない理由・・柚季も気になっていた。
(いや・・あの時は泣いてたけど・・)
そうだとしても、ソプラノの感情表現の仕方は普通ではない。柚季はそう思っていた。
シイカはソプラノの前にしゃがみ込むと、彼女の顏を覗き込む。
「かなーり久々に地上に来たんだろ?涙の一つでも流したらどうだ?ん?」
「・・・─何?私に泣いてほしいの?」
ソプラノはいつもの無表情で、シイカを見る。
「そうだなぁ、いつもそんな仏教ずらされてもな!
たまには泣くぐらいした方が、可愛げがあるってもんだろ?」
ソプラノはそれに、明後日の方を向いた。
「・・・」
(大丈夫かな・・)
柚季は二人の様子を内心ハラハラしながら、見守っていた。
ソプラノがまた、剣を取り出したらどうしよう・・と考えていたのだが、今のところは何とか大丈夫そうだ。
シイカはそんなソプラノのことは気にする様子なく、言葉を続ける。
「つーか、お前、どうして天界にいかないんだ?やっぱり地上に心残りがあるってことか?」
「・・・──知らない」
ソプラノは明後日の方向を向いたまま、低い声でそう返す。
(って言うか、シイカ、率直に訊きすぎ・・)
柚季はそう思いつつも、引き続き2人の様子を窺がった。
「今までお前みたいなやつは、散々見てきたけど、結果的にロクなことにはならなかったぞ?」
「・・・」
「今のうちに、さっさと天界に行った方がいいんじゃねーのか?その方が身のためだぞ!マジで」
「・・・うるさい」
「オレはお前のためを思って言ってるんだけどな、マジで!」
「・・・」
ソプラノはそれに、シイカのことを睨みつける。
先ほどまであった無表情は、いつの間にか消え去ってしまった。
「あなたに私の何が分かるの!?」
「何も知らねーよ、お前のことは。
ただオレは、今までの経験をもとに言ってるだけだからな!参考にするのもしないのも、お前の自由だぞ~」
「っ──・・・」
シイカは口元に笑みを浮かべ、ソプラノを見据え
「ただ、これだけは覚えておけよ?
・・・お前はとっくの昔にしんでるんだぞ。死んだ人間を想いつづける地上人なんて、絶対にいねぇー・・得にお前は、時間が経ちすぎているから特にそうだな」
「!・・・」
ソプラノはシイカの言葉に、大きく目を見開いた。
・・・唇を噛みしめ、俯く。
「・・・──」
「・・・」
「・・・う・・う``・・」
ソプラノが小さく肩を震わせたかと思うと・・・ポタリポタリと地面に水滴が落ちてきた。
「!ソプラノっ・・」
柚季はとっさにその場から駆け出すと、ソプラノとシイカの方に駆け寄った。
「お、柚季じゃねーか!」
シイカはお気楽そうにそう言ったが、柚季はそれを無視してソプラノとシイカの間に割って入る。
「ソプラノ・・大丈夫?」
柚季はソプラノのまえにしゃがみ込むと、そう言った。
・・・彼女は絶え間なく涙を流し、それを必死に手で拭う。
あのソプラノが、こんなにも感情をむき出しにするなんて柚季は信じられなかった。
「っ・・ソプラノ・・」
言葉がでてこない。
こういう時、何と声をかければいいのだろう。
「お?意外にあっけないなぁ」
シイカがそう呟くのがきこえたので、柚季はすぐに
「サイアク・・何もあんないい方しなくてもいいじゃん!」
「もしかして、怒ってんのかー?
つーか、こいつを天界に行く気にさせるなら、ある程度言葉を選ぶことも必要だぞ」
「!そのことはもう・・」
「そうだ、そうだ、そんなに地上での思い出?が大事なら、天界で働けばいいんじゃねーのか?切断係なら、記憶を抜かれなくて済むぞ」
「シイカっ・・もう何も言わないで!!ソプラノはっ・・」
その時、まだ泣き止みそうにないソプラノの手が服のポケットに伸びた。
そこから取り出されたのは、錠剤の入ったビン。
「!・・・」
柚季はそれが何なのかすぐに分かった。
すずの薬だ。
・・・──もしかして、ソプラノは・・・。
ソプラノはビンのフタを開け、中の薬を取り出そうとする。
「!」
その前に、柚季はそのビンを掴みソプラノの手から奪い取ろうとした・・が、ソプラノはそれを許してくれない。
「ソプラノっダメだよ!そんな薬飲んでちゃっ・・そんなの飲んでたらっ・・ソプラノのこと、何も分からなくなっちゃうし・・!!」
それと同時に、柚季はソプラノの手から薬ビンを奪い取る。
が、その衝撃で薬ビンは手からこぼれ落ち、鈍い音と共に地面に落ちた。
ビンは割れ、中の薬が地面に散らばる。
「──・・・」
ソプラノはそれを拾うこともしなければ、叫ぶこともせず、ただ立ち尽くしていた。
・・・みるみるうちにソプラノの目の淵に、涙がたまっていく。
「とっくにしんでる、なんて言われなくても分かってる!!
泣くのも笑うのも怒るのも、生きている証でしょう?生きているから、出来るんでしょう?
だから、勘違いしないために飲んでたのにっ・・頑張ってたのにっ・・どうして・・?諦めてたはずなのにっ・・どうして?」
「・・・」
「っ・・──もう一度、会いにいきたい・・会いたい!」
ソプラノは手に顏をうずめて、泣きじゃくる。
・・柚季の手は、自然とソプラノの方へ伸びていた。そして、その手は彼女のことを包み込み抱きしめる。
柚季は自分のその行為に驚く。
知り合って間もない自分が、ソプラノのことを抱きしめたって、きっと彼女は安心なんてしてくれないと心のどこかで思っているのに、柚季の手はそんなこと関係なしだった。
強く強くソプラノのことを抱きしめる。
(もしかして・・すずが?)
分からない。けれど・・・
「ソプラノはちゃんと生きてるよ」
柚季はソプラノのことを抱きしめたままそう言った。
*
柚季はソプラノと共に、自室に戻ってきていた(シイカは天界に帰った)。
ここにくるまでに、柚季が今日、桜川病院で会った”ソプラノ”のことを彼女に全て話した。
「ソプラノ、ほんとに今日行かなくていいの?」
柚季はソプラノの隣に腰を下ろしつつ、そう訊いた。
「・・・うん。明日で大丈夫。どっちにしろ、今からじゃ病院入れないでしょ・・・そんなに焦らなくてもいい」
「そっか」
柚季が事実をソプラノに打ち明けたとき、彼女はそれが信じられない様子だった。
・・・きっと、今もなのかもしれない。
今のソプラノの表情は、少しだけ引きつっているように見える。
「柚季・・・本当?私、生きてるって」
「・・・本当だよ!ソプラノ、ちゃんと大人の姿になってたし」
「あの天界人は、そんなことありえないって」
ソプラノは眉を寄せる。
「シイカのことは何か信用できないしっ・・・それにわたし、この目で見たんだから!」
「・・・確かにあの天界人は信用できない」
ソプラノあポツリとそう言うと、唇を固く結んだ。
「でしょ!」
「──・・」
「じゃ、明日・・」
「もう寝る」
ソプラノはそう言うと、その場に横になった。
・・・すぐに目を閉じる。
「え、もう寝るの?って言うか、何かかぶんないと寒いよ?」
「私、寒さとか感じないから」
「・・そーか、じゃ電気消すね?」
柚季はそう言いつつ、電気にぶら下がっているヒモに手を伸ばす。
「消さなくていい。柚季が寝るときに消して」
「え・・大丈夫?」
「・・・」
それっきり、ソプラノから返事がくることはなかった。
もしかしたら、ソプラノは疲れているのかもしれない。
もしかしたら、今日知ることになった事実について考えを巡らせたいのかもしれない。
柚季はそんなことを思った。
「──・・・」
(明日、大丈夫だよね・・・?)
*
目をつぶってじっとしていても、この困惑を拭い去ることはできなかった。
まさか自分が生きてるなんて。
実感なんてできないが、きっと明日になれば何かが変わるはずだ。
嬉しくて仕方ない・・・けれど、困惑していた。
・・・一刻も早く、その感情とはおさらばしたかった。
*
そして次の日
柚季は学校に行くフリをして、ソプラノと共に桜川病院へ向かった。
道中、二人の間には会話はなくただ沈黙が支配していた。
柚季はそれが気になって仕方なかったが、目的地に着く頃にはさすがに慣れてきた。
「ここだよー」
柚季はドギマギしながら言うと、多くの人々に混ざり病院内へ歩みを進めていく。
「・・・ソプラノが目を覚ませば、家族の人とか友だちとか・・・喜んでくれるね?」
柚季は気を紛らわすために、隣を歩くソプラノにそんなことを言ってみる。
「私に家族も友だちもいない」
ソプラノは呟くような声でそう返した。
「え、でもヒビキっていう兄弟がいるんだよね?」
「・・・──どうして知ってるの?」
ソプラノは眉を寄せる。
柚季はドキリとすると
「ちょっと・・ね!あと、ソプラノとヒビキって歌うたい、っていう歌手だったんでしょ?
ほんと、びっくりしたよっソプラノ歌上手いんだねー!」
「・・・」
「・・・」
「──・・・私とヒビキは、たった2人の家族だから・・きっとヒビキは喜んでくれると・・思う」
ソプラノは表情を緩め、少しだけ笑う。
柚季はそんなソプラノを見て、ほっとすると「うん」と返した。
そんなことを話しているうちに、ソプラノ、がいる病室の前までやってきた。
「ここの部屋だよ」
「・・・」
そして、柚季は緊張気味に出入口の扉を開き、中へ歩みを進めていく。
そこにあるベッドには、大人のソプラノが昨日と同じように静かに眠っていた。
「この人が・・──私?」
ソプラノは柚季の隣に立ち、”ソプラノ”のことを食い入るように見下ろしていた。
「私・・・こんなに大人になってたの・・?」
ソプラノは口元に手を当て、とても驚いている様子だった。
・・・そうか。ソプラノが事故にあってから、もう10年以上はたつんだ。
ソプラノが手放していた時間は、とても大きい。柚季はそのことを実感した。
ソプラノはそれ以上、何も言葉にしないまま、ただ静かに”ソプラノ”のことを見下ろしている。
「・・・──ソプラノ?」
「・・・信じられない」
「!・・」
「でも、分かる。この人は私」
ソプラノはその小さな白い掌で、ベッドに力なく置かれているソプラノの手を取った。
「可哀そう・・・こんな姿になるまで、ベッドの上にいたなんて」
ソプラノは震える声で言うと、苦しげに目をつぶった。
「っ・・・でも、もう大丈夫・・私、ちゃんと戻ってきたから・・」
・・・うっすらと目の淵に涙をため、彼女はより強くその手を握りしめる。
その時、出入口の扉が開いた。
ソプラノは手を離し、柚季はトビラから入ってきた人物が誰なのか窺がう。
背が高い、30代前半ぐらいの優しげな雰囲気を持つ男性。
「ヒビキ・・・」
ソプラノが小さく呟くのが聞こえた。
「!・・・」
(この人が・・・)
彼・・ヒビキは、こちらまで歩み寄ると荷物を床に置きつつ、
「めずらしいね。姉ちゃんにお客さんなんて」
そう言って微笑んだ。
「はいっ・・ソプラノ・・さんとは、ちょっと知り合いなので」
柚季は怪しまれないように、適当にそう返す。
「そうだったんだ。姉ちゃん、よかったね・・久々にお客さん、来てくれたよ」
ヒビキは眠っているソプラノに顏を近付け、にっこりと笑った。
「・・・」
「やっぱ今日もダメか・・・せっかく来てもらったのに、ごめんな。
姉ちゃん、もう10年ぐらいこの状態なんだよ・・」
「・・そうなんですか」
柚季がそう返すと、ヒビキは困ったように笑う。
「もうあれから10年以上、たつんだもんな・・ほんと早いよ。あの時はオレ、泣いてばかりいたよな・・」
ヒビキはそう言いつつ、持ってきたカバンを開け、中から缶ジュースを取り出した。
そして、それを柚季に手渡す。
「今日、来てくれてありがとな。こんなものしかなくて、悪いけど」
「・・い、いえっありがとうございます・・」
柚季はドギマギしながら、缶ジュースを握った。
今まで会話をすることに精一杯で、ソプラノの反応を窺がう余裕がなかったのだが・・・──。
柚季はソプラノの方へ目を向ける。
・・・ヒビキは、ソプラノの前にしゃがみ込み彼女と目を合わせた。
「はい、君にも」
「・・・」
ソプラノは、ただ困惑した様子でヒビキのことを見据えている。
「ほんとに・・・あのヒビキなの・・・?」
ソプラノの声は、今にも消えてしまいそうだ。
「?・・どうしてオレの名前・・」
「っ・・──どうして・・笑ってるの・・・?」
「?・・・」
「あれ、君、どこかで・・」
ヒビキは今気付いたようにそう言って、今にも泣いてしまいそうなソプラノを見た。
とその時、部屋のドアが開かれる音がしたかと思うと、パタパタと幼稚園児ぐらいの男の子と女の子がヒビキに駆け寄ってくる。
「パパ~まだぁ?」
「早く行こうよぉパパ」
ヒビキはそれに「今行くから、ママのところで待ってろ」と困ったように言いながら、子供たちの背中を出入口に向かって押す。
「ママが、早くしないと電車の時間におくれるって言ってたよ~」
「うん、言ってたー」
「分かった分かった、今すぐ行くってママに伝えてきてくれっ」
ヒビキはそう言いつつ、カバンの中の荷物を棚の中に手際よく移動させていく。
「「分かったー」」
こどもたちはそう返すと、手を繋いで部屋から出て行った。
ヒビキは手を動かしつつ「ごめんなー騒々しくて」と言い苦笑する。
「・・・──たった2人の家族じゃなかったの?」
「!・・・」
柚季は思わず、息をのむ。
・・・ソプラノは静かに、涙を流していた。
そして、踵を返すと彼女は早足で部屋から出て行ってしまった。
「っ・・ソプラノ!待って!」
柚季は、追いかけようと足を踏み出す。
それと同時に、後悔していた。
(傷つかないはずないのにっ・・・)
ソプラノが地上から離れていた時間は、とても長い。
それは柚季も・・・きっとソプラノの十分分かっている。
そして、その時間が地上のあらゆるものも変えていくことも、きっとソプラノは知っていたはずだ。
わざわざ口にしなくても、ソプラノはその事実をちゃんと理解している・・柚季は、心の隅でそう思っている節があった。だから、訊くことができなかった。
・・・いくら理解はしていても、心の奥から湧き上がる感情はどうにもできない。
「ソプラノ?姉ちゃんと同じ名前だ」
ヒビキの言葉がきこえたので、柚季は立ち止まり
「っ・・あの子は・・本当にソプラノなんです!」
気付いたらそう言っていた。
「!・・」
「ソプラノは、死んじゃった後も、ヒビキのことをずっと・・ずっと・・待ってた・・それなのにっ・・やっと地上に戻れる、ヒビキに会えるって・・それなのにっ」
ヒビキは何も悪くない。そう分かってはいたものの、言わずにはいられなかった。
「やっぱり、信じてくれないですよね・・?」
「──・・・」
ヒビキはただただ困惑している様子だった。
そして、黙ったままこちらに歩いてくると、隣で立ち止まる。
「・・・ごめん。待たせているから行かないと」
「!・・・」
ヒビキは困ったように笑うと、病室内からでていってしまった。
「っ・・」
(せっかく生きてるって分かったのに・・このままじゃダメだ)
ここで動かないと、絶対に後悔する。
柚季も病室からでると、ヒビキの背中に向かって叫んだ。
「待って!」
「!」
ヒビキは柚季の言葉に立ち止まると、こちらへ振り返った。
柚季は無視されなかったことに、一安心すると
「もう一度、わたしたちと会ってくれませんか?いろいろ話したいことがあるんです!」
少しの間。そして・・・
「いいよ」
ヒビキは少しだけ微笑んで、そう返した。
「・・・」
「・・・」
「じゃぁ、この病院の向かい側にファミレスありましたよね・・?そこに明日の夜九時に待ってますからっ・・・」
「うん、必ず行くよ」
ヒビキはそう言って、柚季に向かい手を振る。
柚季は軽く頭を下げると、彼の後ろ姿を見送った。
(ちゃんと来てくれるよね・・?)
まだ、心臓がバクバクと強く波打っている。
不安がないわけではないけれど、ここはヒビキを信じなければ。
*
柚季は、病院を出ると辺りを注意深く見渡した。
「ソプラノっどこ?」
部屋からでていってしまったソプラノの行方を、柚季は外に出るまでの間も探していたのだが、結局は見つけることはできなかった。
「──・・・」
嫌な考えが頭をよぎる。
(もしかして、もう天界に行っちゃったとか・・)
せっかくヒビキに会えたのに、そんなこと絶対にダメだ。
柚季はそう自分に言い聞かせて、病院の出入口周辺でも彼女の姿を探しまわる。
ヒビキがソプラノのことを、想っていないなんてことないと柚季はそう信じていた。
そう、そんなこと絶対にない。
母がすずの絵本を残していたように、大切な家族のことは何年たっても、大切なことには変わりないと、柚季はそう信じていた。
「!・・」
病院の敷地をでたところで、柚季は立ち止まる。
街路樹の根本でうずくまるようにして座っている女の子は、ソプラノだった。
「ソプラノっ・・」
柚季は駆け寄ると、ソプラノの隣にしゃがみ込む。
「うぅ・・」
ソプラノは、腕に顏を埋めて泣いていた。
柚季は、彼女の背中に腕をまわすと
「ねぇっ・・もう一回、ヒビキとよく話してみよう?」
「・・・っ・・生きてるって分かっても、全然嬉しくない・・」
ソプラノは、嗚咽を漏らしながら苦しげに言葉を並べる。
柚季はその言葉が、ショックだった。
「どうしてっ・・せっかく・・」
「私が会いたいのは、あのヒビキじゃない!!」
ソプラノは、涙で頬を濡らしたまま立ち上がると、そう叫ぶ。
「待って!」
ソプラノが立ち去ろうとしたので、柚季はとっさに彼女の手を掴みそれをさえぎった。
「柚季に私の何が分かるの!?」
「!」
・・が、力強く振り払われてしまった。
「っ──・・・」
そして、ソプラノの後ろ姿は柚季の視界に入らない方へ消えてしまう。
(確かにわたし、ソプラノのことあまり知らないけどっ・・)
そうだとしても、ソプラノを助けたい、その感情をおさえることは難しかった。
(だって、ソプラノはまだ生きてるのに・・・──)
その事実は、柚季にとって嬉しいことだった。
・・・けれど、ソプラノの言葉・・「全然嬉しくない」。
そんなこと言われたら、怖くなる。
助けたい、その気持ちが少なからず揺らいでしまう。
もしかしたら、すずはこの事実を知った上で、ソプラノのことを天界に連れてって、という条件にしたのだろうか。
・・・すずは、ソプラノのこと柚季よりもよく知っているから・・ソプラノの幸せ、をよく知っているか・・・もしかして・・・。
「っ─・・でも」
(すず、わたしどうしたらいいの・・!?)




