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境界のすず  作者: 夕菜
15/31

第3話(5)


 柚季はふと目を覚ました。

 寝すぎたと思い、弾かれたように飛び起きる。

「──・・・」

 すると、部屋の隅にある小さな本棚の前に、アルトが座り込んでいるのが分かった。

 彼はその中に並べてあるマンガ本を興味ありげな様子で、観察しているようだ。

 するとアルトは、こちらに気付き立ち上がった。

「あ、柚季さん・・・ゆっくり休めましたか?」

「うん・・・」

 アルトの背景にある窓の景色は、うっすらと明るい。

 どうやらもう朝がきたようだ。

 少し寝ようとしただけなのに、ずいぶんと寝てしまったらしい。

「アルトは・・・大丈夫?」

「すみません・・・柚季さんの部屋で居眠りしてしまうなんて・・でも、そのお蔭でゆっくり休めました!」

 アルトはにっこりと笑う。

「そうか!よかった!」

 アルトは、ついさっきまで寝ていたのだろうか・・それとも、大分前に起きて柚季が起きるのを待っていてくれたのだろうか・・柚季はそんなことを思う。

「では・・僕は天界に戻りますね」

「あ、ちょっと待って!わたしもミオに制服返しにいかないと」

「・・・なら、僕が返しておきますよ?

 借りたのは僕なわけですしっ・・・」

 柚季はそれに首を左右にふる。

「大丈夫!お礼も言っておきたいからさー」

 アルトは柚季の言葉に、柔らかい笑みを浮かべると

「では、一緒に行きましょうか!」

「うん」


 一通りの用を済ませて家をでると(母には学校に行くと伝えた)、家の前ではアルトが待っていた。

 天界で目立ってしまわないよう、白いコートに身を包んだ柚季は彼の方に歩み寄る。

「おまたせー」

「あ、では行きましょうか」

 アルトはその言葉と同時、上空に向かい手を伸ばし、指をパチンと鳴らした。

「!・・」

 目を凝らしてよく見てみると、はるか上空に透明なトビラが浮かんでいるのが見えた。



 柚季はアルトとともに、一度境界にでてから、そこにある天界へのトビラを通りぬけた。

 夜の中にいるような不気味な道を進むと、天界に入れる大きなトビラの前にたどり着く。

「やっと着きました」

 アルトはそう呟くと、トビラを押し開け中へと入る。

 柚季もアルトの後に続き、中へ歩みを進めた。

 そこは広々とした建物の中で、多くのヒトビトが行ききしている。

「ミオってどこにいるか・・」

 アルトに問いかけようとしたとき、「やっときたねー待ちくたびれたよー」と後方から声がした。

 振り返ると、そこにはミオがいた。

 と同時に、彼女のお周囲に立つ、天界の制服を着た数人の男性が目にとまった。

(誰だろう)

 と思いつつも、柚季は手に持つミオの制服の入った彼女に手渡す。

「これ、制服・・!ありがと」

「はーい♪」

 ミオはそれを受けとると、手に持つ何か、を柚季の額に近付けた。

「!?」

 一瞬、何かと思ったが、すぐに理解できた。

 銃、だ。

 全身が真っ白で丸みをおびた、あまりそれらしくないデザインだが・・・──間違いなく。

「・・・少し前に決まったことなんだけど・・やっぱり、柚季みたいなイレギュラーは世界にいてはいけないんだよね」

「・・・──は?」

 ミオは静かな笑みを浮かべ、柚季を見る。

 今までのミオでは考えられないような、不気味な笑み。

 ミオが「お願い」と呟くと、周囲にいる男性たちは、柚季の腕を両方から力強く掴んで、この場から身動きがとれないようにする。

「!!ちょっとっ離してよ!」

「ミ・・ミオ先輩!お願いですっ・・止めてください!

 柚季さんは何も悪くないんです!!」

 アルトはミオに駆け寄り、必死な様子でそう言った。

「うん、そうだよね。柚季は何も悪くない・・・でも、こーいう状況になった以上、仕方ないんだって」

「─・・」

「地上人が境界や天界の存在を知るなんて、あってはいけないんだよ?

 今までずっとその決め事は破られたことなんてなかった」

「・・・」

「だから、柚季も”こっちのこと”は忘れて。

 境界の魔女のお遊び、に付き合うのはそれからにしてほしんだよね!」

「・・・お遊び何かじゃない!!」

 ミオの言葉に柚季は思わず声を張り上げた。

 ・・・少なくとも、自分にとっては、だが。

 ・・・そう信じてやらないと、全て失ってしまう。まだ希望はある。柚季はそう信じていたかった。

「それに、忘れるなんてこと、ごめんだからっ」

 きっと境界や天界のことを忘れてしまったら、自分は何もせずにすずに体を乗っ取られることになる。

 今までアルトと頑張ってきたことや、優歌のことも、なかったことになってしまう。

 そんなこと、絶対に嫌だ。

「ミオ先輩、お願いです!考え直してください」

 アルトが不安げな声でそう言うと、

「無理ムリ。上が決めたことだから」

「でもっ・・」

「アルト!少しは自分の立場をわきまえてほしいな」

 ミオはため息交じりにそう言って、柚季の額に銃口を押し当てる。

「・・大丈夫!どうにかするから」

 柚季はそう言葉をアルトに投げると、必死に男性の手から逃れようともがくが・・・やはり、自分の力ではどうにかできそうにもない。

「うーん・・どう考えても無理だなぁ。

 大丈夫だよ!このタマは記憶だけを正確に抜き取ってくれるから、痛くもかゆくもないしね」

 ミオはそう言いつつ、引き金に指を置く。

「!・・」

 もうダメだ・・と思ったその時、左目に鈍い痛みが走った。

 あの時と同じ、意識が遠くに行く感覚。

「これ以上、ゆずに触れないで!汚らわしい!!」

 柚季は無意識のうちに、そう叫んだ。

 それと同時に、柚季の体にパチリと静電気のようなものが走り、柚季を捕えている男性、ミオ、近くにいるアルトは、反発する強い力ようなもので後方へ吹っ飛ばされた。

「一体っ何なの!?」

 体を起こしそう叫んだミオに、アルトが、

「柚季さんの体の中に・・魔女さんが入っているんです」

「魔女って・・あの境界の魔女?」

 アルトはそれに頷く。

 ・・・悪い事態のはずなのに、何故だかアルトは少しだけ安心してしまう。

(きっと・・もうこれで・・)

「天界人!よくききなさい!!」

 すずは柚季の声を使ってそう言い放った。

「私とゆずはとても大事な約束をしているのよ。

 そのケリがつくまでは、ゆずに危害を加えるなんて許さないから・・」

「・・・」

「もし、また今日みたいなことがあったらぁ・・次はただでは済ませないわ」

 柚季は口元に笑みを浮かべると同時に、手の中にバチバチと電気の塊を発生させる。

「!・・・」

 次の瞬間には、その電撃の塊は手の上で空気に溶けるように消えてしまった。

 そして、柚季は再び意識が遠のく感覚におそわれ・・・思わず床にしりもちをついた。

「柚季さん、大丈夫ですか?」

 アルトが心配そうに駆け寄ってくる。

「うん・・大丈夫っ」

 すずに勝手に体を使われることは不快でならなかったが、危機から逃れられたことには取りあえず安心できた。

 アルトが手を差し出してくれたので、柚季はそれを掴んで立ち上がる。

「魔女との約束って・・魔女の一番望むものを持ってくれば、柚季のことを諦める・・ってやつだよね?」

 ミオが引きつった表情で、柚季を見てそう訊いた。

 柚季はそれに頷く。

 どうやらミオも、そのことについて知っていたらしい。

「柚季、アルト・・・本当に境界の魔女のこと信じてもいいの?」

 ミオは表情に影を落とし、柚季そしてアルトへ視線をおくる。

 柚季はそれに、

「分からないけど、今は信じるしかないから」

「・・・」

「ふーん・・そっか!ま、それはそれでいいと思うよ。

 どっちにしろ、わたしたちからは手出しできないみたいだしね。これじゃーしばらく様子をみる・・・ってことになりそーだね!」

 ミオは小さくため息をつくと微笑んだ。

「じゃ、この件は保留ってことにしとこうか!

 あ、アルトはリツが呼んでいるから、ちゃんと部屋に行ってね・・っていうか、わたしが連れてってあげよーか!」

「大丈夫ですよ!ちゃんと行きますからっ」

 アルトの声にも耳をかさず、ミオはガシリと彼の腕を掴んだ。そして、柚季を見ると

「柚季は、そのトビラから地上に帰ってね」

 その言葉に振り返ると、いつのまにか柚季の背後にはトビラがあった。

 全体的に薄いピンク色で、可愛らしいトビラだ。

 またミオを方に振り向くと、彼女はアルトのことを引っ張るようにして歩き、すでにこの場から離れてしまっていた。

「・・・」

(何かアルトのこと心配だけど・・取りあえず、帰るか・・)



 地上に戻ってくると、まだ午前中だった。

(学校行くか・・)

 トビラを通ると丁度自宅の前だったので、今から準備すれば、午後の授業が始まる前に余裕で教室に入れるだろう。

 柚季は自室で学校の制服に着替えて、バッグに必要なものをつめこんでいく。

 念のため、白い本、も中に入れておいた。

「あ・・」

 その時、眼帯をしていないことに気付いた。

 今までこの左の赤い瞳には、視力がなかったのだが、何故だか少し前から見えるようになっている。

「・・・」

 だから今は眼帯をしていると、視界が悪くなるだけなので、出来れば外しておきたいのだが・・・。

(でも、学校ではしておかないとねー目立つし)

 見えるようになったことは嬉しいが・・・何故だがあまりいい予感がしない柚季だった。


 柚季が教室に入り、自分の席へつくと早速琴音がこちらに歩みよってきた(今は休み時間のようだ)。

「柚季―おはよー」

「おはよ」

「よかった、今日はちゃんときたんだね!昨日、休みだったから心配しちゃったよ~」

「うん・・ちょっと急用できちゃって」

「そうだったんだ」

「・・・」

 柚季は琴音の表情を注意深く観察してみる。

 少し前の琴音よりは、大分表情が明るくなったみたいで安心した。

「あのねっ・・あたし、本当に優歌にもう一度会えちゃった」

 琴音は静かな声でそう言うと、微笑んだ。

「・・──マジで?」

 柚季は何も知らないように見えるよう、そう返す。

「柚季の言ったこと、本当になったね!すごいなぁ」

「?わたし、何か言ったっけ?」

「もう一度優歌に会えるよって言ってくれたよねぇ?」

「・・そう言えば言ったかも」

 あの時は、正直どうなるか不安だったが・・・アルトが一緒に無理してくれたお蔭で、どうにかすること、ができたんだ。

「やっぱ柚季はすごいなぁ何でも出来ちゃうんだね!」

「いやっわたし何もしてないから!」

「・・・えへへ」

「・・・」

 すると、授業開始のチャイムが鳴り響く。

「えーっと、次の授業何だっけ・・」

 柚季は、時間割表がはさんであるファイルをカバンから取り出そうとする。その時、琴音は言った。

「・・・あたし、優歌の分も頑張るよ。せっかく生きているんだしね」



 その頃天界では・・・

 アルトはミオに引っ張られて、リツボシの部屋までやってきた。

 ミオはほんとんど間を置くことなく、ドアをノックすると

「リツ、入るよ?アルトのこと連れてきたから!」

 すると中から「どうぞー」と声が返ってくる。

 アルトはどんなことを言われるのか想像しながら、部屋の中にはいったミオの後に続いた。

 リツボシは、デスクに座ったままミオとアルトの方へ視線を動かす。

「・・・あ、その前に報告しておきたいことがあるんだよね。いい?」

 ミオがリツボシにそう問いかけると、彼は微笑みを浮かべながら頷いた。

「・・・やっぱり、柚季の記憶を消すことは難しいみたい。

 彼女には境界の魔女の監視がついてる」

「・・そうか。本当にやっかいだな・・境界の魔女は」

 アルトは二人の会話に思わず

「柚季さんの記憶を消すように言ったのは、課長だったんですか・・・?」

「?・・あぁ」

「そ・・そうですか・・」

 アルトはその事実が少なからずショックだった。

 課長は・・──いくら仕事であっても、こんな残酷なことができてしまうのだろうか。

 ・・・その考えが顏にでたのだろう。

 リツボシは口を開く。

「アルト・・分かっているとは思うが、本来ならば地上人が境界や天界の存在を知ってはならないんだ。何故だか分かるか?」

「”死”を誘発するものになる可能性が、あるからですよね・・」

「・・そうだ。さすがアルトだな、分かってるじゃないか」

 リツボシは口元に笑みを浮かべた。

 ・・地上人は、死の世界を知らないからこそ、生きるということにこだわる。まだ、ここにいたいと思える。

 けれど、死の先、を知ってしまったら・・・──その常識は、もろくも崩れ落ちてしまうだろう。

「でも、課長。柚季さんの場合はおおめに見てもらえないでしょうか。

 境界や天界いまで行動範囲を広げないと、魔女さんのだしてくる条件を満たすのは難しいと思うんです」

 アルトが必死に言葉を並べると、リツボシは困ったような笑顔を浮かべる。

「本当か?アルトが柚季の代わりに、境界や天界に行くようにすれば事足りたんじゃないのか?」

「!・・・」

「そういう方面でも、手助けができたらと、アルトには柚季のところまで仕事に行ってもらったんだが・・・──」

「それはっ・・」

 アルトは思わず口ごもる。

 ・・・確かにそうだ。

 始めは、自分ひとりで全てこなすつもりだった。けれど柚季の「一緒にいきたい」という言葉を断れなくて・・・こういう状況になってしまった。

「・・アルト。柚季が”死んだ方が楽になる”・・と考えだしたらどうするんだ?上手く否定する言葉は考えてあるのか・・・──?」

 リツボシが、難しい表情でアルトを見据える。

「っ──すみませんでした。僕の考えが甘かったことが原因です」

 アルトは深々と頭を下げる。

「いいや、分かってくれればいいんだよ。

 それと・・柚季に境界や天界のことを他の地上人に話さないよう、伝えてくれないか?」

「はい、分かりました」

「・・ってことは、リツ!柚季が記憶を持ったまま生きることを許すんだね?」

 ミオがそう訊くと、リツボシは頷く。

「・・あぁ。どちらにしろ、魔女の監視がある時点で、余計な手出しはできないだろうしな」

「うん。そうなんだよねー・・アルト!こんなこと異例中の異例なんだからねっ?これから気を付けるよーに!」

 ミオはアルトの顏を覗き込む。

「・・ですよね」

 アルトは弱々しい返事をすることで、精一杯だった。

 すると、リツボシは・・・

「じゃぁ、早速本題だが・・・」



 その頃、柚季は・・・

 いつものように、自室で学校へ行く準備をしていた。

「・・・」

 机の上に置いてある白い本が目に留まり、それを手に取る。

(何かあるかもしれないし、持っていこう・・)

 場所とるんだよな・・と思いつつ、カバンの中に押し込んだ。

 その時、

「ゆず」

「!!」

 聞き覚えのある声に柚季は息をのんだ。

 この大人びた声は・・間違いなく、すずだ。

 どこからきこえてくるのだろうと思っていると、カバンの中の白い本のページから淡い光が漏れ始めた。

「!・・きたっ」

 一つめの条件をクリアーしたにも関わらず、すずからの反応はなかったが・・それが今、きたのだと確信する。

 柚季は白い本を手に取ると、それを開いた。

 その途端、その光は紙面一杯に広がり、再び声が聞こえてくる。

「琴音ちゃんと、なくなったお友達を無事、会わせてあげることができたみたいね」

 柚季はそれに「そーだよ!頑張ったし」と返す。

「えらいわぁゆず。約束通り、一つ目のヒントをあげる」

 するとその時、本の紙面の中からするすると何かが出てきた。

 柚季は思わずビクリとする。

 それは・・ヒトの手だ。

 マネキンのような白い肌に、その爪には紅色のマニキュアがきれいに塗ってある。

「ゆず。これが一つ目のヒントよ」

「!」

 その言葉と同時に、その手の中に何かが現れた。

 一錠の薬。

「・・これを飲めって言うの?」

 柚季は思わず眉を寄せる。

 赤と白のそのカプセルは、何だか怪しげだ。

 それに、すずの薬を自ら飲むなんてこと気が進まない。

「そうよ?ヒントを得たかったら、素直に飲むことね」

「・・・」

 柚季は恐る恐るその薬をつまみ上げると、

「本当に?大丈夫っ?」

「ははっそんなに警戒しないで、ゆず。

 あたしは、可愛い妹のゆずに嘘なんてつかないわ」

 すずの声はそう言うと、紙面からでている手はゆっくり中に吸い込まれるように消えていった。

 ・・・ただの真っ白に戻る紙面。

 柚季は本を閉じると、その薬を掌に置きじっと眺めた。

 すずが言うには・・この薬を飲めば、一つ目のヒントが得られるらしい。

(・・──大丈夫だよね?)

 すずを信用しても。

 どちらにしろ、すずの渡してきたヒントはこれだけ。捨てることもできない。

 アルトに相談したいが、次、彼にいつ会えるかなんて分からない・・・というか待ちきれない。

「・・よし」

 柚季は覚悟を決めると、その薬を口の中へ投げ込んだ。

 ・・・思い切ってゴクリと飲み込む。

「!・・」

 すると、頭の中がグラリとする感覚におそわれた。

 次にやってきたのは、今まで経験したことのないような強い眠気。

(や・・ば・い・・)

 柚季はベッドの方まで何とか歩み寄ると、そこに倒れ込み意識を手放した。



 次に柚季が目を開けると、そこに広がっているのは真っ白の空間だった。

 ここは一体どこだろう。

 自分は・・・夢でもみているのだろうか。

「・・・」

 音も目に映る景色も何もない。

 柚季はそれに、恐怖に似た感情を覚える。

「──・・なんだろ。あれ」

 目を凝らすと、遠くの方に何かが見えた。

 柚季は迷わず走り出すと、それに歩み寄る。

 それは・・白色のベッドだった。

 その上には、たくさんの絵本が散らかるようにして置いてある。

(どうしてこんなところに絵本が・・)

 そのうちの一冊を手に取ろうとした時、突然声がした。

「お姉ちゃん!この絵本読んで!」

「!!」

 弾かれたようにそちらを見ると、そのベッドの上には幼い女の子が寝そべっていた。

「びっくりしたっ・・誰!?」

 でも、どこかで見たことのある顔立ち。

「はじめまして。私は、すずだよ!お姉ちゃん」

 女の子・・すずは、可愛らしい笑顔を浮かべた。

「すずって・・──あの!?」

 いや、まさか。

 柚季は心の中ですぐ否定する。

 だって目の前にいる女の子は、小学校1年生ぐらいの歳だ。

 けれど・・・似ている。まるで、あのすずを幼くしたような。

 すずは何も言わずに、ベッドの上のから柚季の手を引くと

「ねぇねぇ絵本読んで?」

「・・・は?」

 ベッドの上に散らかっている絵本のうちの一冊を手に取り、それを柚季に押し付けてきた。

 柚季はとっさにそれを受け取ってしまう。

「悪いけど・・わたしそれどころじゃ・・」

「うー・・読んでぇ読んでぇ~」

 すず、は表情を大きく歪ませ、今にも泣き出しそうだ。

「・・・はいはい」

(こんなことしてるだけで、本当にヒントにたどり着くの?)

 柚季はそう思いつつも、また絵本を開いた。

 ・・・それを繰り返すこと数回・・・。

「次はこれ読んでー」

「あーはいはい」

(さすがに・・そろそろ限界)

 柚季はまたすずから絵本を受け取る。

「!」

 その瞬間、今まであったダルさが一気に吹き飛んだ。

 今、すずが手渡してきた本・・はただの絵本ではない。

 白い本、だった。

 そう、柚季が境界のすずから、ヒントに繋がるものとして受け取ったあの白い本・・・と全く同じもののように思える。

「・・・」

「はやくはやく~」

 女の子のすずは、今までと同様、早く読んでと柚季を急かす。

(そんなこと言われても、この本、中も真っ白なんじゃ・・)

 柚季はそう思いつつも、本を開いた。

「!」

 その瞬間、柚季の目に飛び込んできたのは、ゆったりとした文字の列。

(うそっ・・文字がっ・・!!)

 柚季がそれをすぐに目で追おうとすると、すずが柚季の腕を掴んだ。

「・・──早く読んで?」

「!・・─」

 見ると、真剣みのある目と視線があう。

「・・・分かったから」

 柚季は何とかそう返すと、文字の列に視線を落とした。

「昔むかしあるところに・・・  ・・ ・・


「!・・」

 柚季は気付くと、自室のベッドに横になっていた。

(戻って・・これたんだ)

 体を起こして、安堵の溜息をつく。そして、立ち上がると机の上に置いたままになっている白い本を手にとった。

(夢の中?では、ここに文字が・・・)

 ドギマギしながら、ページを開いてみるが・・そこはただの白いページのままだ。

「─・・・」

 けれど、思った通りだと感じる。

 あの夢で、すずに読み聞かせた文章をなぜだか柚季はしっかりと覚えていた。

 この不思議な感覚・・やはりあの夢は、すずの薬によるものだと実感した。

(何も書いてないなら、自分でかけばいいんだ・・)

 柚季はカバンの中の筆箱から、ペンを取りだすとペン先を白い本の紙面へ近づける。

「・・・」

 そして、柚季は夢にみたままの文章をそこに並べていった。

(昔むかし、あるところに・・・・)

 しかし柚季は数ページ文章をかいただけで、ペンをとめることになった。

 ・・・─この先は分からない。

 だって、途中で目を覚ましてしまったから。

 夢の中では確かに続きがしっかりとかいてあった。

 ・・一体この先は、どんな物語がかかれていたのだろう。

(でも、もしかしたら・・・)

 また次があるかもしれない。

 そして、この白い本、を夢の中の白い本と同じように、全て文章で埋めることができたら・・・──・・きっと・・。

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