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アクト・ファミリア  作者: カミハル
契機と勃発
9/50

戦争の契機

@ 三年後。

 アクトに対する人間の対応はなにも変わらぬまま、時間だけが過ぎた。

「整列!」

 ガンマの号令と共に三十の部下が敬礼する。

 その中には、三年前に大切な家族を殺されたアクト、マリムの姿もあった。

「本日のシミュレーション訓練は終了だ。これよりレイ副隊長の部隊と合流しメンテナンスを受けておけ。二時間後に模擬戦を行う。当番の者はシミュレーターの準備を済ませておけ」

『了解!』

 三十の声が大気を震わせる。

 ガンマは散開していく部下を眺めながら、小さく息を吐いた。

 ガンマやレイが自分の部隊を動かすのは、人間の救助や、大量のギアを殲滅する時だが、前者はともかく、後者のような事件は滅多に起きない。

「不毛な訓練だな、どれだけ続ければあいつらにも平穏な日常を与えてやれるのか……」

「なんや? 柄にも無く感傷に浸って」

 呟くガンマの背後から茶化すケミネ、ガンマは本日何度目かのため息を吐いた。

「こう見えてもロマンチストかつ詩人なんでね、万年機械を開発していれば満足のお前とは住む世界が違うんだ」

 背後にケミネがいるのはわかっているが、振り向くことはしない。これといった理由はないが、敢えて言うならば面倒くさい。

「ずいぶんな言い草やな、兄貴のためにええ話を持ってきたんやで?」

「なんだ? お前に機械以外の恋人ができたのか? お兄ちゃんとしては嬉しい限りだが正直そんなカミングアウトをされても困る、レイにでも話して来い、淡々と祝いの言葉を吐き捨ててくれるだろうぜ」

 言い終わると同時、背中に衝撃。衝撃の面積から推測するに、蹴られたのだろう。

 思わずよろけ、振り向いてしまった。

「……………………なんだ、それ?」

 ケミネの姿を視界に収め、たっぷり数秒ほど黙考した後に尋ねる。それほどまでに理解できない格好の妹がいた。

「任務や、こんなかわいい妹をエスコートできるんやから、幸せ者やで兄貴」

 頭にピンクのリボン、服装は作業着ではなく黒のドレスと真っ白なハイソックス、ガンマが返答に困るのも無理はない格好だった。

「任務? どんなニーズのどんな要望に応えればそんな怪現象が起こるんだ? ああ、説明はいらない、シャイン姉さんに言ってAIを検査してもらう、動作不良による幻覚かもしれないからな」

「エンペラーズホテルで行われるパーティーの護衛や。レイは部隊を引き連れてビル周辺を警護するさかい、うちと兄貴で内部を警護する、さすがに作業着やと浮いてまうやろ」

 なるほど、それでこんな面白可笑しい格好をしているのだと理解し、思考を巡らせる。

「シャイン姉さんや母さんは? お前みたいなチンチクリンを連れて行くのも浮くと思うんだが?」

「母ちゃんは施設内で待機、姉ちゃんは面倒くさいからパスやって」

「…………で、消去法でお前が選ばれたわけだ……仕方がねぇな」

 どうにか納得する。

 とは言え、これが最善にも思えた。母さんと行けば、会場内のアルコールを飲み干してしまいかねないし、姉さんを連れて行けば人間を解剖しかねない。

「なんでだろうな……お前って言うだけで凄く安心してきたよ」

 今度、家族というものについて本気で考えてみよう、そう思った。

「やろ? てなわけではよ準備して行くで」

「まだ二時だぞ?」

「善は急げやで、兄貴」

 妙に張り切る妹を見て、眉間に指を当てる。

 何事も無く過ぎればいいが、そうもいかないだろう。何しろ酷く気が向かない。

 人間を護るために出向くのは、組織を維持するためには必要な任務なのだろう。それでも出来るならば行きたくないが、単純にパーティーを楽しみにしているであろうケミネを見ていると、そんなことを言って水を差すのも可愛そうな気がする。

 結局、準備を終えたのが三時、会場に到着したのが四時半と、ちょうどいい時間になってしまった。

「兄貴……なんぼなんでも時間かかりすぎやで……つか、そこまでスーツの似合わん男も珍しいんちゃうかな?」

「動きにくいったらありゃしねぇ……ガンブレードは大丈夫だろうな……」

 まだ人が疎らな会場で、チラリと壁を見る。

 飾り物を装った大剣、ガンブレードの存在を確認し、ため息。AI搭載型の武器を衆人観衆に晒す形で待機させるのは非常に気が引ける。

「あんなもん背中にぶら下げてパーティー会場うろつくつもりやないやろ? どう控えめに見ても兄貴が不審者になってまうで」

「……気になっていたんだが、俺たちに任務が回ってくるってことはギア絡みだよな?

そろそろ任務内容を話せ」

 ふざけた気配はどこへやら、真面目な眼差しで周囲を見回す。先ほどよりも人間が増えてきた。中にはアクトを同行させている人間もいる、パーティーが始まってから詳しい内容を聞いても対応が遅れるだけだ。

「さすが、するどいなあ。この国の代表に犯行声明が届いたらしいんや、こんなご時勢やからな、人間に叛旗を翻すテロリストもおるって言うことや」

「自分の意思でテロ……第二世代に扇動された現行第三世代の集団か――」

「第二世代の集団。いずれにしても完全規制前の第二世代が五体以上おれば面倒なことになる、そやから戦力を分散させたんや」

「外にはレイと一個中隊、中には俺と解体屋のお前か、妥当な戦力配分だ」

 会場の隅、窓際で話しているうちにパーティーが開始された。

 ステージでは音楽団がクラッシックを奏で、それを肴に料理や酒に舌鼓を打つ人間たち。

 ガンマはそれを眺めながら小さく舌打ちした。この場の人間全てが、欲にまみれて――

「欲に塗れて肥えた豚共を狩るタイミングの予測はついてるん?」

 ガンマが胸のうちで毒づいた内容をピンポイントで代弁し、尚且つ尋ねてくる。さすがは無規制のプロトタイプアクト、思考能力は第二世代や現行型よりも遙かに上だろう。もしくはそれだけガンマのことを理解しているかのどちらかだ。

 胸中で嘆息し、その上で問いかけに答える。

「俺なら宴もたけなわ、祭のクライマックスにしかけるな。ベタだが理由は二つ、一つはアルコールが回り、判断能力や行動力に制限がかかった人間を楽に制圧するため。もう一つは……」

 談笑する人間、ワインを浴びるように呑む人間、ペコペコ頭を下げる人間と、優越感に浸り、嫌らしい笑みを浮かべる人間――その全てを視界に収め愉悦に歪んだ口元が二つ目の理由を――

「幸せや楽しみの絶頂から不幸の奈落へ叩き落すためさ」

 ――述べたと同時、ケミネを抱き寄せ横に飛ぶ。

 背後の大きなガラスが砕け、首にわっかの刺青を入れた人間――の姿を模した者たち――が会場に乱入してきた。

「騒ぐな! 大人しくしていれば楽に殺してやる」

 混乱する人間を鎮めるには不釣合いな言葉、いずれにせよ命を奪われるという結末には変わらないようだ。


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